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├ あれから【 小説家になろう商店 】で ┤  作者: 塩谷 文庫歌


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3/7

カルペ・ディエム

 偉そうに腕組みして、「手詰まりだ!」とPタンは言い放った。

 人望が厚く、実績もあるが、人との関わりを避ける傾向が強い。


 その頭上に赤い文字が点灯。

 先程購入していた短編作者様から感想返信が届いたらしく、ぞんざいに開いた。長い。なんなら、短編そのものより感想返信が長い。それをス――ッとスクロールしていって「ふむ」と頷き、閉じた。



「すまん、なんの話だった?」


「スランプを脱出する方法ですけど」


「あぁそれな? 手詰まりだ」



 1人目の旧友に袖にされた。

 『ありません』、すぐ投了。

 それじゃわたしは困るのだ。


 先々困るのは、Pタン自身じゃなかろうか?



「創作仲間や、参加してるコミュニティとか」


「半分ライバルだろ? そういうのは苦手だ」


「Pタンくらい世話好きなら、相談相手の1人や2人」


「好きでもなんでもない。たまのお節介を良く言うな」



 半分ライバルは、いつもの嘘っぱち。

 右も左もわからなかった最初のころ。

 その後も行き詰ったら相談してきた。

 なんだかんだで、最後はやさしい……


 ただ。


 怪しい敬語、お世辞のひとつも無し。

 ぶっきらぼうで歯に衣着せぬ言い方。

 何人も、作家さんにお会いしたけど。

 こんな調子で活動してる人はいない。


 いたかも? ……もう1人いた!



「いました、相談相手がっ!」


「そうか、ねこみうろん氏か」



 2区画ほど先。



 同じ書体で作られた『カルペ』と『ディエム』の立体看板が並ぶ2つのスペースで、ちっとも拘束されていない拘束衣の青年・早弓くんと、日曜朝のアニメ枠から飛び出した魔法少女ねこみうろん氏が、仲良く店番をしている。


 こちらも、代表作を元にPタンが作成したアバター。

 なにがどうしてそうなった、取り換えっこで使用中。


 元々本家『文筆家になろう』に連載作品を投稿していた2人は、AI生成画像で大失敗してしまった。扉絵の有償依頼を目標に据えて、【小説家になろう商店】に登録した学生さんだ。


 肝心の『投げ銭システム』が未実装と知らなかった。

 放心状態で、しばらく動かなかった。



「スキル・言霊の移植、まだですかー?」


「こっちはサイドストーリー主体なのよ」


「 「 なんで喧嘩腰? 」 」



 ねこみうろん氏とPタンは口論が多い。

 お互い『小説は面白い』と認めている。

 その言い方が気に喰わないだけらしい。



「相談があって来たんだが」


「珍しい……どうしたのよ」


「長年、定期更新をしてきて、どうやっても続きが書けないこともあったはずだ。どうすればいい、猫昆布茶さんにアドバイスしてくれ」


「ねこんぶちゃん?」



 わたしは、大きく頷いた。



「こんなの書きたい、面白いって自信はあるんです。でも。いざ書きはじめると、すぐに止まってしまって。どうしたらいいのか……」



 ねこみさんは「むむむっ」と考えた。

 ちょっと長すぎる時間が流れていく。


 そして、不意に。



「……プロット?」


「書いてないです」


「うん、私もよ?」


「 「 おい! 」 」



 ねこみさんは「ちょい待ち」と言ったきり30秒ほど動かなくなって、それから「ほい」と1枚の画像を手渡してきた。



「この謎の古文書ができた時点で頭のなかで整理されてて。こうしたら書けるって見せられないのよ。 ……ごめんね?」



 スマホで撮影したらしき、ノートの画像。

 ペンで書き殴った文字、矢印や謎の記号。

 創作ノートの1ページ。



「私はね。敵はこんなことした悪者、コイツは誰がやっつける、そんなステップを書いてるだけ。それに沿って書き進めてるのよ」


「さすが、ねこみ氏!」


「参考にならないな?」


「創作ノート……かぁ」



 こんなふうに下準備してなかった。

 長く書いてる人気作家さんは違う。



「やってみようかな?」


「難点は黒歴史ができあがることよ」



 ねこみさんは「とほほっ」と力なく笑った。

 黒歴史の中身、見せたくないに決まってる。

 それを、画像にしてくれた。



「お店に持ってくよ。明後日でもいい?」


「明後日ならオレも行けます」



 行方(なめかた)さんと早弓(はやみ)くんとは、現実世界でもお付き合いがある。


 誰もいない喫茶店で、店番してたら暇だった。

 ちょ~っとだけ、ヘッドマウントディスプレイを装着した。

 お客さんに、カパッと外されて。

 なろう作家・猫昆布茶という正体が、バレてしまったのだ。


 そんなオッチョコチョイは少ないと思うから。

 たぶんだけど【 小説家になろう商店 】では珍しいケース。



 ……不意に疑問がよぎった。



「ねぇ」


「ん?」


「Pタン、どうやってるの?」


「俺か? 情熱で書いている」


「それこそ参考にならないよ」


「だから、こうして。天敵ねこみうろん氏に、下げたくもない頭を下げてるだろ。認知バイアスに左右されず、最適な意思決定を戦略的にするためにな」


「それ、どういう意味よ?」



 拘束衣の青年が、困り顔になった。



「悪い例を聞きに来た、という意味ですね」


「なんですってぇ?! ペンタルファ~!」

 早弓と行方はそれぞれの自宅で、無料通話アプリを起動。

 行方さん……ねこみうろん氏は、更新情報を眺めている。

 お気に入りユーザの、止まったままの日付けが並ぶ画面。


「大丈夫ですかね……あの2人」

「鈍感2人組が? 大丈夫なわけないでしょ!」

「行方さん、オレに怒っても、解決しないから」

「じゃあ、ぶつかってみるしかないよ。直接ね」


 うなるような声で呟いた――

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― 新着の感想 ―
ここまで読ませていただきました。テンポ良く交わされていく主人公たちの会話がとても興味深いです。 アバターで一人だけ頭身が違ったり、ちっとも拘束されていない拘束衣の青年や、日曜朝のアニメ枠から飛び出し…
 カルペ・ディエムの二人も参戦!  これは本格的に『なろう商店』シリーズのオールスター!?  本物のもっさん(と言う言い方も変)は電子メモ帳に設定集とプロットは書き留めてあるし、  情熱はもちろん、…
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