通称・相互さん
別区画へ移動する道すがら、不意に他店の商品を買い求めたPタンがフムフムと読みだしたので、目の前にいた作者様は「ありがおふぁおz0mちう」と、震える声で御礼を伝えた。
短編をスクロールしていき、評価を押し、感想欄に数行入力しながら「低浮上中だけど今日は顔を出すと連絡が来ていた」と、指差した先。
ぺらぺらと、店先で手を振るアバターが見えた。
「ペン太! と、ねこんぶちゃんも。おひさー!」
「ペン太? どちらさん?」
「あだ名だ、昔の。そんなことは後だ」
「スランプ脱出の秘訣! これねー?」
「頼りになるのはお前くらいだからな」
通称・相互さん。
大先輩のPタンと古い付き合いという彼女。
今もわたしとは、相互お気に入りではない。
メッセージでお願いしたら丁寧に断られた。
上限一杯の人数を登録中。
非公開にしているそうだ。
お付き合いは続いている。
「紆余曲折あって経験豊富なのにねー」
「まぁな。こんな性分だ、色々あったのは否定しない」
「でもさー。ペン太、スランプにならないんじゃなーい?」
「なんでお前が知ってんだ。これは猫昆布茶さんの相談だ」
Pタンは、嫌な顔を隠さず話していく。
声のトーンは、とても落ち着いている。
相互さんは、相変わらず終始ニコニコ。
「そりゃーそうよ。自分ちょっとしたもんと思ってたのに。高校に入って、もっと凄い人を発掘したのは、ほかでもない。私なんだからー」
「民俗学専攻のJDと、平凡な会社員。差は開く一方だ」
「同級生だったんですか?」
2人同時に、2度頷いた。
長い黒髪にちょこんとベレー帽をのせて微睡むような表情。深緑のワンピースに象牙色でショート丈のジャケットを羽織った、いかにも文学少女の服装。
これが相互さん(たぶん似てる)。
Pタンはコロコロかわる。
最近、スチームパンク風。
どちらかと言えば、相互さん寄り。
おもに頭身が。
「もしかして。相互さんのアバターも、Pタンが?」
「そうだが」
わたしは、チビで猫ミミ、昆布のマント。
これはお気に入りで、ずっと変えてない。
わたしだけ、アバターの頭身が違ってる。
だから、ちょっと見上げる恰好に。
こ の 差 は な に ?!
相互さんは「ふふ」と鼻で笑った。
「ペン太、スランプ意識する前に違うことするのー」
「ペンタルファだ。今、ペン太を名乗る拠点はない」
「頭こんがらかる前に色々とね? 活動報告とコメントや感想の返信、レビュー、ちょっと前までスマホ1つでやってたからねー」
「それをグルグル1日中?」
「貧乏暇なし、時間が無いからな」
「次から次に息抜きして、書きたくなると小説に戻るだけー」
「つまり、ここのシステムをグルグルする趣味が多かった?」
「ふふっ、そうなるわねー」
相互さんは、また鼻だけで笑った。
「ノートの端っこにサラサラ絵を描きながら即興で話を作った。面白くって夢中になったなぁ。だから一番じゃなくなっても、ペン太の最初のファンは私なのー」
「そんな昔話は後回しだ。スランプ、結局どうすれば治る?」
「ばか! 言ったわよー」
「挙句の馬鹿呼ばわりか」
「あ、用事あったんだ。じゃーねー
相互さんは、回線接続を強制切断してしまったのだろう。
うつむいた表示のままアバターが不自然に静止している。
泣き顔がジリッと揺らぎ――
1秒ほどで、掻き消えた。
とりあえず……
息抜きが必要ということ。
相互お気に入りではない。
(なんなら気に喰わない)
……この2点は理解した。
「なんなんだよ、まったく」
Pタンが溜め息をついた。
「簡潔に表現しろと散々言った奴が一番わけわからん」
「いやいや、無いわ~! 今の感想それですか~?!」
……さて。
私はログイン状態を非表示に切り替えた。
負けを認めるようで、むしゃくしゃするのは本音だけど。
最初のファンとしては見過ごせないのも事実なのだ――
『新しいメッセージの作成』を押す。
件名は、そうだな。こんなとこかー。
「こころによくきく 処方箋、っと」





