4年目
老舗小説投稿サイト『文筆家になろう』の系列サービス。
VR文学系フリマ、【小説家になろう商店】で活動して3年すぎた。
わたしは、このバーチャルリアリティーの異空間が気に入っている。
3年前と変わり映えしない景色に安心感すら覚える。
仲良しの相互さんができたし、感想やレビューを頂くことも増えた。
投稿作品が驚くほど評価されてプチヒットを記録したことまである。
そこで、行き詰ってしまった。
父の喫茶店を手伝って、繁忙期は親戚の会社で経理。
学生時代よりも時間的には余裕がある生活になった。
だから。
今も変わらず顔を出している。
だべっているだけの日も多い。
「書けないな~ぁ」
ほとんど自己満足の作品だし。
スランプというほどじゃない。
なのに、書けない・進まない。
正体不明の停滞に、じわっと焦りを感じる。
「浮かない顔だな、猫昆布茶さん」
「あっ! ……ペンタルファさん」
「なんだ。普段通りPタンでいい」
お隣のペンタルファさんは、人気も実績もある大先輩。
ここに初めて来た日から、相談相手といえば、Pタン。
口が悪い、ものすご~く口汚い。
「どうした猫昆布茶さん。珍しく塞ぎこんで」
けど、いつも優しい。
「新作告知見ました期待してます」
「棒読みだな、ハイファンだぞ?」
「ハイファン? 読んだことない」
釣られて言い方が悪かった。
さすがに彼も口を尖らせた。
「そんな浮かない顔のまま、興味ゼロって無表情で、腐った魚の目をして、どこに期待してるんだ? 読んでくれとは言わないが、おためごかしはよせ」
腐った魚、ひどすぎる。
こういう言い方が多い。
日常的に言葉遣いの荒い人だ。
作品の主人公は好青年が多い。
あんな調子で話してくれたら、と思っている。
それは無理か。
Pタンだから。
「だって~」
「なんだよ」
「新作、書けなくて」
「何本か書いてたろ」
「あれは、どれも筆が止まっていて」
「執筆途中で……あれが全部か?!」
驚いた顔のまま、ピタリ静止した。
それがなにか?
「スランプ、か」
「スランプ。どう乗り越えてます?」
「あまり、なったことがないからな」
「そうなの?!」
「構想段階で捨てたシナリオやアイデアなら、それこそ無数にある。よく耳にするスランプ、書けない・進まないという状況に陥ったことは……そうだな」
「何回くらい?」
Pタンは親指、人差し指、中指と順に3本畳む。
小首を傾げて中指を、続いて人差し指も開いた。
全部開いて、パーを見せた。
今度はこちらが首を傾げる。
「今のところ。 ……無い」
「えっ?! ……無いの?」
先日、活動報告に6周年と書いていた。
6年間の精力的な活動で、一度も無し。
秘訣があるんだ。
「どうやってるの?」
「どうって。さすが鈍感系主人公、猫昆布茶さん」
「なにか秘訣があるんでしょ?」
この3年間に漏洩した、現実世界のPタン情報。
特技がスマホ入力、すごく早いって話を聞いた。
イラスト上手、アナログからデジタルへと進化。
模型、作れる。
それだけかな。
少な~っ!!
「構想を練る時間と比べれば、執筆には膨大な時間がかかる。執筆中は別の構想に着手できないから、未消化の構想が山積みなんだ。だから単純に、スランプになる暇が無かった、というのが実情で。これは、やむおえない事情だった」
まさかの、ただの 強 メ ン タ ル ~ ッ !!
なにその未来の永久機関!
この差はどこから来るの?
Pタン、謎の再生可能エネルギーで創作してるだけ?!
「となると。 ……奴に頼るしかないか」
「Pタンの頼れる相棒。相互さんですね」
「よくわかったな、エスパーか?」
「だって、知り合い少ないですし」
Pタン、あんまり変わってない。





