第五章 鏡うらのメモ
第五章 鏡うらのメモ
ミーナの部屋の鏡は、少し古い。
木のフレームに小さなキズがいくつもあって、角には色あせた花の彫刻がほどこされている。
ある日、学校から帰ったミーナは、ふとその鏡の向こう側に目がとまった。
ふだんは何気なく使っている鏡。でも今日は、なんとなく――「そのうら側」が気になった。
「……この鏡って、うしろどうなってたっけ?」
ミーナは鏡をそっと持ち上げて、裏返してみた。
すると、うすい紙が一枚、裏板のすきまに挟まっていた。
まるでそこに、最初から隠されていたみたいに。
紙をそっと引っぱると、そこには短いメモが書いてあった。
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> 「ほんとうのきみは、どっちにいるの?」
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ミーナは一瞬、言葉の意味がつかめずに、じっとその文字を見つめた。
誰が書いたんだろう。
前にこの鏡を使ってた人? それとも、ずっと前の……。
胸の奥に、ふわっと風が吹いたような気がした。
次の日の放課後、ミーナは図書室で鏡のことを調べていた。
ユイも一緒だった。図書委員の仕事が終わったあと、いつものように静かに隣に座ってくれる。
「鏡のうらにメモ?」と、ユイは少し首をかしげた。
「うん、なんか、ふしぎな言葉でさ。……“ほんとうのきみは、どっちにいるの?”って。」
「……夢みたいな話。でも、ちょっとわかる気もする。」
ユイはそう言って、静かに本を閉じた。
「たまに、自分が二人いる気がするとき、ない? 本当の自分と、外に見せてる自分。」
ミーナは、思わずユイの横顔を見た。
その目はまっすぐで、どこか自分を見透かしているような気がした。
「……あるかも。」
その夜、ミーナは鏡の前にすわって、じっと映った自分を見つめた。
そこには、知っている自分がいる。けれど、どこか少しだけちがう気もする。
ミーナは観察ノートを開いて、そっと書きはじめた。
《鏡の中のわたしは、本当にわたし?》