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第三章 筆箱の中の宇宙

第三章 筆箱の中の宇宙


 ミーナは、筆箱を開くとき、少しだけ緊張する。


 その日の朝、ちょっとだけ寝坊して、ランドセルに文房具を入れる時間がいつもより雑になってしまったからだ。

 ちゃんと整ってるといいな、と願いながら、チャックをカチャリと開く。


 中には、ミーナが選びに選んで入れている文房具たちが、静かに並んでいた。

 鉛筆はいつもの2本。先をきちんと削って、キャップをかぶせてある。消しゴムは、角をなるべく残すために、ミーナが自分でカッターで半分に切ったもの。定規は透明で、すこしだけ青みがかっている。

 シャープペンは、今はまだ使っていないけど「そろそろ鉛筆じゃなくなるかな」と思って入れてあるお気に入り。


 それから一番大事なのが、小さく四つ折りにした白い紙。

 「なんか思いついたとき用」のメモ紙だ。今日もいつもの場所にちゃんと収まっていた。


 ――よかった。


 その確認ができて、ミーナはちょっとだけ笑顔になる。


 


 「ミーナの筆箱って、いつもすごいよな。」


 隣の席に座ったミカトが、ひょいっとのぞきこみながら言った。


 「すごいって、なにが?」


 「なんか、並びがきっちりしてる。道具箱みたい。」


 ミカトは自分の筆箱を開けてみせた。中はというと、鉛筆が3本、全部長さが違って、しかも1本は顔が描かれていた。消しゴムにはちょっとした穴があいていて、なぜかビー玉が1個入っている。


 「それはそれで、なんかすごいけど。」


 ミーナが言うと、ミカトは「ははっ」と笑った。


 


 「ミーナのは、“考えてる”って感じする。」


 今度は、後ろの席のユイが話しかけてきた。


 「え?」


 「うちの筆箱は“詰めた”って感じするし。ミーナのは“選んだ”って感じする。」


 ミーナは少しだけ考えてから、ぽつりと答えた。


 「……落ち着くから、かな。整ってると、気持ちが静かになるっていうか。」


 


 その日、授業中にミーナはふと気がついた。

 筆箱の中って、もしかしたら「その人の考え方」が出る場所なのかもしれない。


 ミカトの筆箱は、ちょっと遊び心がある。ビー玉が入ってるのも「音がきれいだから」らしい。ユイの筆箱は、シールが貼ってあるけど、マーカーは3色だけで、ページによって使い分けてる。

 「かわいい」と「ちゃんと」を両立してるのがユイらしいな、とミーナは思う。


 筆箱の中身を思い浮かべるだけで、なんだかその子のことが、少しだけ見える気がした。


 


 帰り道、ミーナは歩きながら、観察ノートをそっと開いた。


 そこには、いろんな筆箱の中身と、その子の顔を小さな丸でつないだ「筆箱宇宙図」が描かれていた。


 それぞれの小さな世界が、静かにまるく光っていた。


 《持ちものは、たぶん、心の形のひとつ》


 そう書き添えて、ミーナはランドセルにノートをしまった。


 明日も、観察してみよう。今度は、消しゴムの使い方とか、芯の減り具合も見てみたい。


ローファンタジー感まだ無いですが、このあと増えていく予定です!

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