第二章 ちいさな観察ノート
第二章 ちいさな観察ノート
教室の窓から、まるで誰かが描いたみたいな雲が浮かんでいた。
ミーナは朝のホームルームが始まる前、じっとその雲を見ていた。まるくて、ふちがほわほわしていて、なんだか綿菓子みたいだった。
「なに見てんの、ミーナ。」
後ろからミカトの声。彼はランドセルを椅子の背にかけながら、ミーナの視線を追った。
「雲。なんか、今日の形かわいい。」
「ふーん……あ、あれタヌキじゃない?」
ミカトは指をさして笑う。ミーナは少し考えてから首をふった。
「ううん、どっちかっていうと……おもち?」
「それは……ちょっと無理ない?」
後ろの席で聞いていたユイが笑いながら横から入ってきた。ユイはミーナと図書委員を一緒にやっている女の子で、ミーナがちょっと苦手な“みんなの輪”の中にも自然にいられるタイプだった。
「おもち……まあ、白いしね。でも私は、こう……鳩サブレって感じしたけど。」
「それは斬新。」
三人でそんなやりとりをしているうちにチャイムが鳴って、先生が入ってきた。
ミーナはランドセルの中から、白い無地のスケッチブックをそっと取り出した。まだ誰にも見せていない「観察ノート」だ。そこには、自分が「なんか気になった」ものを自由に書いていた。
今日のページには、雲のスケッチを描いた。横に、「タヌキ」「おもち」「鳩サブレ」と並べて書き込む。
“たった一つの形でも、見る人によってこんなにちがう”
そのことが、なんだかうれしかった。
授業が始まっても、ミーナの頭の中には、さっきの雲がまだふわふわと残っていた。
国語の時間、先生が黒板に書いた文章をノートに写しながらも、どこか心が空の上にあるみたいだった。
“見る人によって、形の見え方が変わる”
そんなことを思いながら、ミーナはふと、観察ノートの余白にこっそり小さなメモを書いた。
《ひとつのものを、いろんな目で見たら、もっとおもしろくなるかも》
お昼後の業間休み、教室の片隅でミーナはノートをひらいて、朝の雲のページを見返した。
すると、ユイがちらりとミーナの肩ごしにのぞきこんできた。
「それ、絵日記? かわいい雲。」
「……ううん。なんか、気になったの描いてるだけ。」
ミーナは少し照れながら言った。
「へえ。いいね、それ。」
ユイはにこっと笑って、自分のお弁当にもどっていった。
“いいね”――そのひとことが、なんだか心に残った。
空想ノート。今後何が描かれていくんでしょうね




