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keyword  作者: 藤華 紫希
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タイトル未定2025/06/11 00:49

 搬入日に現場に来た奈良井さんに出てきたアイデアを提案した。

 「奈良井さんすみません。ギリギリで色々と提案する事になってしまいまして……」

 「いえ、店を思っての提案は大変助かります」

 見守ってくださっていた、“揉めた二人”が仲良く提案したこともあり、奈良井さんも快く受け入れてくださった。

 「ホールの床や壁もギリギリまで悩んで悔いのないお店にしてください」

 「ありがとうございます。そういえば、現場監督からチーフが異動されると聞きましたが?」

 自分から言うつもりだったのに。……口止めを忘れていた。

 「もうお聞きになられていましたか。このお店を最後に、新しくできる関西支部へ異動する事になりまして」

 「部署異動ではなく関西支部へ異動ですか。またそりゃ大変ですね」

 「実は実家が関西支部の近くでして。実家住まいになるので、異動する他の社員と違って、気楽なんです」

 「チーフも関西ご出身だったんですか!訛りが出ないですね。三鷹君は時々関西弁なので知ってましたが」

 訛っている自覚が無かったらしく、三鷹君が驚いている。

 「もうこちらの方が長いので。関西にいると出ますけどね。先日もあちらで打ち合わせだったんですが、社員で一人だけ関西弁で、同席した社員に随分驚かれました」

 「そりゃ、これだけ訛りが無いと驚きますよ。でも、ご実家に戻られるなら、ご両親もお喜びなんじゃない?」

 「はい。久しぶりに同居するので喜んでおりました。親孝行だと思って存分に甘えるつもりです」

 奈良井さんは異動に関して不安は無いようだ。チームの皆の方が不安(不服?)そうに見える。

 「チームの皆さんはせっかくチーフに教わる機会だったのに残念でしょうね」

 奈良井さんはそんなチームの雰囲気を察してくださったようだ。

 「これから全く関わらないわけではありませんし、もっとしっかりしたチーフに付きますから。新しいことは不安かもしれませんが、糧になるのは間違いないと思っています」

 奈良井さんにはもちろん、私自身にも、チームのみんなにも向けて話していた。きっと、いい経験になると。

 「さすがチーフだ。皆さんに期待してらっしゃるんですね」

 「もちろんです」

 みんなの顔も少し和らぐ。

 「チーフに期待されちゃ、頑張るしかないよなっ、三鷹」

 「はい。頑張ります」

 「よーし、私も中村君より先に昇進できるように頑張らなくちゃ!」

 「えぇー、そんなぁ」

 情けない中村君の声に周りの職人さん達までもが笑った。


 無事に奈良井さんとの今後の打ち合わせも、設備の搬入も終わり、Kチームで以前配属祝と言って食べに行ったお店で遅いお昼を取った。

 「もう懐かしいですね、ここ」

 「そんなに経ってないのにな。Kチームって何年目でしたっけ?」

 中村君がふざけて言った言葉は、でも、いかにも的を得ていたように思えた。

 「何年も経ってたら良かったのに。そしたら関西支部異動願い出すのに」

 まだ諦めきれていないのか……。

 「三鷹、いい加減現実を受け入れろよ」

 「さっきチーフも言ってたでしょ?不安なのはみんな一緒なの!何事も経験。きっと糧になるんだって」

 中村君とユミちゃんは私以上に三鷹の事を気にかけている。

 「そんなにみんなに嫌われたい?」

 「ち……!ちが」

 「違うよね?学生時代なら仲間が機嫌を取ってくれるかもしれない。でも、甘えた事を言ってたら使えないって切られるのが社会。コイツダメだわって嫌われる。さっき現場で中村君も言ったけど、もう少し空気を読みなさい。大人になりなさい」

 「すみません……」

 「私も学校の先生じゃないから、悪いけど、まだ続くなら今後は切り捨てる。そのつもりでいて」

 今までさすがにキツイかと思って口にしていなかったけど、これくらい言わないと三鷹君には通じない。さすがにキツイと思ったのか、本人以外は驚いてじっとこちらを見ている。

 「さぁ、注文。早く決めよう。お店に迷惑」

 「はい。ほら、三鷹君きりかえる!」

 メニューをユミちゃんに突きつけられて、顔は晴れないままメニューを捲る。隣で中村君はメニューと三鷹君を交互に眺めながら、俺これ!と途中でメニューを指差す。ボーッと見てたらしい三鷹が驚いて、あ、じゃあ俺も、と言ってみんなに笑われる。

 「三鷹君、お子様ランチだよ?」

 ぽかん、として一緒に笑い出す。

 「中村さん、いくらなんでもそれは無いでしょ!」

 「訛ってる訛ってるー」

 「そう言うチーフもつられてます!」

 「わかってて言うてるわ!」

 関西弁の応酬にユミちゃんが驚いて、

 「これが関西弁のスピードか……」

 とキョトンとしている。

 「オモロ!……このランチ4種類全部頼んで、来た順に年功序列で食べる!でどう?」

 勢いで料理を決めてみた。

 「……あ、オーダーお願いします!」

 素早く近くにいた店員を呼び止めて 中村君が有無を言わさずオーダーを伝える。

 「俺これキライやのに」

 「文句は受け付けへんよ。ホンマにお子様やな。お子様ランチのが良かったん?好き嫌いせんと食べや」

 「あのーチーフ?関西弁全開……」

 ユミちゃんがまだ戸惑っている。

 「ごめんごめん。楽しくなっちゃった。怒ってる時に関西弁出なくて良かった。ユミちゃんドン引きしちゃうよね、きっと」

 「怒ってるバージョン聞いてみたい気もするけど。どんな感じになるんですか?」

 「ガラ悪いよね、きっと。少し言い合いするだけでケンカしてるの?とか言われちゃうくらいだから」

 「関西支部出張の時は心して行かなくちゃ……」

 真顔でそんな事を言っている。

 「そんな怖いところじゃないわよ。だいたい関西支部に関西出身者ほとんどいないし」

 「さっき奈良井さんにも言ってたっすね。打ち合わせで関西弁で驚かれたとかって」

 「イメージパース見せて説明して受け答えしてたら、ドン引きされててこっちがびっくりよ」

 「皆さん驚くのわかる。さっきびっくりしましたもん。そして関西来たんだからって対応しちゃうチーフさすがって思っちゃう。チーフらしい!」

 「らしいって……いったい私はどんなイメージなんだか」

 このまま!と隣で手をひらひらさせている。中村君もうんうん、このまま、と同じようにしている。三鷹君だけが色んな顔があってわからない、とボソッと言っている。

 「そりゃお客様に見せる顔もあれば、会社で見せる顔もあって、友達や家族に見せる顔もある。色んな面があるのが普通でしょ?」

 「三鷹はチーフに対しては変にイメージ固め過ぎてたんじゃねぇの?」

 何か言い返そうとして、ちょうど食事が運ばれて来たのもあって、また黙りこんだ。そして、ちゃんとキライ、食べられないと言った料理が三鷹君に当たる。見かねて中村君が料理を入れ替えた。

 「こっちなら食べられるだろ?アレルギーとかあると困るしな。無理強いはしないから。ほらほらー楽しく食べようぜ」

 「でもこういう時何故か当たるの面白いよね」

 「いいモノが当たるなら嬉しいのになぁ」

 楽しそうな二人にこちらもつられて嬉しくなる。

 「みんな仲良くしててね。大里チーフ困らせちゃダメよ?」

 「チーフも関西支部で寂しいって泣いちゃダメですよ?」

 「楽しい同期も激甘な両親もいるからそれは無いな」

 「えぇー、そこは可愛い部下置いてくんですから、ウソでも寂しいって言いましょうよ」

 「あ、ごめん。うんうん、寂しい」

 「俺は、本気で寂しいですよ」

 「はいはい。三鷹もそんな事言ってらんないくらい大変になるから、覚悟しとけよ」

 結局三鷹君は、食事中も不貞腐れたままだった。


 食後に現場をもう一度確認して、意見を出し合った後、スケジュールもその場で確認して、三人で進めるところ、私が立ち会うところを明確にし、チームも現場も安心出来るようにした。

 「私はこの予定に合わせて関西と行き来するように調整します。監督、いない間チームの皆をガンガンやっちゃってください」

 「チーフと違って大人しいからなあ、この子達」

 監督の言葉に、ユミちゃんが反応する。

 「チーフってホントにそんな暴れてたんですか?」

 「ハッキリしてんだよ、この人。やりたい事はとにかくぶつけてくる。だからこっちも出来ないもんは出来ないとハッキリさせないとダメだろ?まあ、めんどくさい」

 現場監督もチームを育てようとしてくれている。どうしなきゃいけないかを伝えてくれている。

 「俺らも見習わないとだよなぁ。机上の空論じゃ意味ないもんなぁ。職人さんにまず出来るか相談しないと」

 「三人ともここにいる皆さんもチームだってことを忘れてない?しっかり相談して、一緒に作っていくのよ?」

 「俺ら敵じゃねえぞ?若い頃のチーフみたいに食ってかからない」

 「だから、そういうの言わなくていいです!」

 そう言うと後ろからも野次が飛んでくる。

 「あれは反抗期だったんだよね?」

 「わかりました!そういうことにしておきましょう!」

 皆が笑って場を和ませてくれる。

 「ま、そういう事だ。遠慮すんな」

 「はい!ありがとうございます」

 なんだかんだ一番にその場に馴染んですぐ反応するのが中村君だ。ユミちゃんもすぐに続く。

 「お手柔らかによろしくお願いします」

 その後を受けて、三鷹君も。

 「よろしくお願いします。さっき、チーフ達に言われたんですけど……空気読めて無かったら思いっきり叱ってください」

 「その発言がもう何か違う」

 ユミちゃんが頭を抱える。

 「また難しそうな坊ちゃんだな。新入社員だっけ?まぁ、長い目で見るか」

 「私に劣らず癖の強いメンバーですが、改めて、どうかよろしくお願いします」

 「関西行っても頑張れよ!後は任せとけ」

 「ちょーっと待ってください。この現場は最後までいますから!追い出さないでください!」

 「なんだ、まだ居るのか。しょうがねえな。来てもいいよ」

 監督が可愛く言うので、全員で笑う。打ち解け易い空気を職人さん達が作ってくれる。

 「ほらね、怖いおじさんじゃないから」

 三人も職人さん達に絡まれて、いい雰囲気のまま、今日は現場を後にできた。


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