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keyword  作者: 藤華 紫希
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タイトル未定2025/06/06 08:09

 午後からはkeywordの準備を三人に任せて、関西の現場をイメージする為の内装パース作りを始めた。実際の店舗のパースも参考として準備して、営業と共にクライアントと打ち合わせする。

 「次は雑貨店ですか?アンティークっぽいの好みだなぁ」

 今から現場の確認に行くらしく、荷物を取りに来たユミちゃんがパソコンを覗き込んで言う。

 「ユミちゃんはこっちよね。もう一つはすっきり系。可愛い系を作るか悩み中」

 「すっきりも高級感あっていいなぁ」

 「まだ詳しくヒアリングしてないから、とりあえずしか作れないのよね。Aチームみたいなのが好みの人もいるし」

 「可愛いはAチームの参考で良さそうな気もしますね」

 「そうね。じゃぁそうしよう。うん、それじゃ久々に現場私も行く」

 急いで片付けて、カバンに色々放り込む。現場はあの追加設備で揉めた件以来だ。慌ただし過ぎてもう何ヶ月もたった気がする。

 「二人も先に行ってますよ?」

 ああ、まだ気にしてるか。

 「もう気にしてないわよ。仲良くしてくれてればそれでいいかな」

 「チームの編成って、どうなりますか?」

 「そのまま大里チーフにお任せだと思う。もし、ユミちゃんから見て、あの二人を離した方が良ければ、誰かとチェンジしてもいいと思うけど」

 「私次第かぁ……。お子様とお調子者で、どうしてもぶつかりやすいのは確かなんですよね」

 さすが、よく見てる。

 「大里チーフが付けばまた変わると思うけどね」

 ああ見えて、大里チーフは人を育てるのが上手い。三鷹君も学生気分ではいられなくなるだろう。

 「よし、行こう」

 準備を終えて、ユミちゃんを促した。

 「keyword到着まで、ゆっくり話そう」

 「そうですね」


 keywordまでの道中、ユミちゃんには関西支部へ異動になった経緯や心配事を、自分の口から説明した。

 「そうだと思ってました。予想通りです。さすがにチームが揉めちゃってるの見ると心配になりますよね」

 「ごめんね、ユミちゃんに丸投げで異動する事になったなぁって……」

 「大里チーフが面倒見てくれるんでしょ?きっと大丈夫です。元々中村君と私は大里チーフ付きだったし」

 「そうね。元々みんな大里チーフに付いてたからね」

 そこから悠香チーフの昇進と新チームが発足して、私も少しずつ現場を任されながら仕事を回していた。

 「始めから三鷹君も大里チーフが育てれば良かったのに」

 「私もそう思った。上の判断ミスよね」

 「神田君といい、三鷹君といい、大里チーフが面倒見ないから」

 大里チーフにしてみればとばっちりもいいところだろうけど。

 「まぁでも、後輩を育てられるようにならないといけないしね。二人は何かしら上が考えてた以上だったってことかな」

 それぞれ何がとは言わないが……。

 「私も頑張ってチーフ達もっと助けられるようにならなくちゃ!」

 Keywordの最寄り駅に着いて電車を降りると、ちょうど中村君からユミちゃんに電話がかかってきた。

 「どうしたの?あ、うん。チーフも一緒に来てる。うん、もうね最寄り駅まで来たから。そっか。それじゃもう着いてから直接チーフに聞きなよ。うん、じゃぁ、後でね」

 「まさかまたトラブル?」

 電話を切ってから、少し不安になって聞いてみた。

 「いえ。現場見てたらチーフに相談したい事ができたらしくて。事務所に電話してみたら二人で出掛けたって聞いたから私に電話してみたって」

 「そう、トラブルじゃないなら喜んで相談に乗るわよ」

 そう言って笑いながら現場へ急いだ。


 「お疲れ様です。監督どうですか?」

 「おう、お疲れ。今んとこ余裕もって行けてんじゃないかな」

 店内をぐるっと見渡して言う。

 「ありがとうございます。明日の搬入もよろしくお願いします」

 「明日の設備搬入も来るの?」

 「はい。現場確認に来ます」

 「それじゃ安心だ。よろしくね」

 そう言うとまた作業に戻って行く。慌てて背中に挨拶をする。

 「はい。よろしくお願いします」

 隣がやけに大人しい。

 「どうしたの?ユミちゃん」

 「私じゃこうはいかないし、現場の職人さん達も不安なのかなあ、と」

 「そんな事ないよ。だいたい私がどれだけ皆さんに迷惑かけまくって来たか知らないでしょ?」

 大里チーフのやりたい放題を真似てかなり無茶を言って怒られた事もあったなぁ、ああ、そういえば搬入日間違えてチーフにも監督にも怒鳴られたっけ、などと羅列しているとユミちゃんにさすがに引かれた。

 「チーフって意外とやんちゃですね。さすがにそれは……でも、そういうのを見せてきたから現場でも気にしないでなんでもバシッと言えるのか」

 「そうかもね。こんなのはどこまで許されるのか、自分の肌で感じないとわからないよ。皆さんベテランだから。胸を借りるつもりでやってかなきゃ」

 「はい!勉強になります!」

 私が離れる事で不安にさせてしまっている。でも、支えているのは私だけじゃない。

 「さて、ウチのチームの連中はどこ?」

 パッと見ホールには居なさそうだ。

 「裏の調理場の方かな?」

 奥まで進み、調理場を覗き込むと、そこでしゃがみ込んで図面を広げ、何やら話し込んでいる。

 「ほら二人とも!チーフ連れてきたよ!」

 電話をしてきた割に全く気付かない二人にユミちゃんが多少苛立っているようだ。

 「うわぁ!ごめん、ユミさん」

 中村君は苛立ちを感じ取って即座に謝る。逆に三鷹君はかなりマイペースに、言う。

 「チーフ!ここなんですけど……」

 もしかして三鷹君ってかなり鈍感と言うか空気を読めないと言うか……。

「三鷹君、その前に少しいいかな?」

 「え?」

 やっと図面から目を離してこちらを見た。

 「三鷹君。もう少し周りを気に掛けた方がいいよ。夢中になって周りが見えてないでしょ?」

 「三鷹、さすがにやばいぞ。もうちょっと気にしろよ?」

 中村君にも言われてやっとこちらの空気に気付いたようだ。

 「すみません。朝も散々だったのに」

 なんでも後先考えずに行動するようだ。

 「夢中になるほど大事なことなら尚更冷静になって動かないと。相手がいるんだから。信頼も失うよ?何回それでチーフに迷惑かけてるの?」

 ユミちゃんは苛立ちがおさまらない。

 「ユミちゃんありがとう。でも落ち着いて。今は仕事優先しよう」

 「……はい」

 肩に手を置いて落ち着かせる。ユミちゃんは私の代わりに怒っている。いや、不安をぶつけてるのかもしれない。

 「相談って?電話で私に相談があるって言ってたんでしょ?」

 と確認すると、中村君が答えた。

 「あ、ここなんすけど。動線を考えるとこっちでもアリかなって」

 棚の位置をずらしてスペースを確保したいようだ。

 「移動したとして、ここのスペースはどう利用する?何も無いならまとまっていた方が便利じゃない?そこまで動線がぶつかるとは思えないけど」

 その質問には三鷹君が答えた。

 「ぶつからないけど、こっちの方がホールスタッフも手伝えるんです。キッチンスタッフはどちらでも動線変わらないんですけど、ホールスタッフも使いやすくする事で効率が良くなるんです。それにここにスペースができて余裕もできる」

 そこへ食い気味に中村君も説明しだす。

 「俺、この辺にちょっとした仮置きスペースっていうか、余裕を持たせたくて。なんとかならないかなって思ってたんすよね」

 なるほど。考えた上での変更。

 「俺、上京してからフォレストで少しの間ホールで働かされてたんですけど、料理が出てくるまで待つこともよくあって。少しでもキッチン手伝えばいいのにって事があって」

 「経験からの提案って事ね。いいんじゃない?そういうことならクライアントも納得してくださると思う」

 「やればできるじゃないの。いつもそうやって協力してやってよね」

 ようやくユミちゃんらしさが戻ってきた。

 「俺もユミさんだけにチーフの代わり押し付けてたなって、さすがに反省したんだってば」

 大丈夫。中村君も、ユミちゃんもちゃんとわかってる。

 「明日奈良井さんに説明できるようにしっかり準備しておいて」

 「了解です!」

 ユミちゃんの機嫌をなんとか取り戻せて、中村君が張り切っている。

 「あとは?どこか気になるところ無かった?」

 「ホールなんですが……」

 全く。ギリギリになって色々と……でもアイデアが出るのはいい事だ。きっと私が忙しくて相談も出来なかったのだろう。もっと自信を持って直接クライアントと話をするように言っておこう。


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