2025/5/25_13:05:42
「それで、クライアントは納得してくれたの?二人早々に帰ってきてたけど?」
会社のエントランスで新しいクライアントを見送りに来ていた悠香チーフに捕まった。二人で椅子に座り込んで話しをすることにした。
「はい。二人はプレゼン資料置いて帰れって現場から追い出したので。プレゼンは喧嘩に発展しそうだった二人にクライアントからの提案だったようですし、ちゃんとまとめられていて納得して頂いたようでした。ただ、思いが強すぎたので、私から折衷案を提示して落ち着きました。」
「全くクライアントの前で喧嘩……」
「熱意はわかるんだけどねって、笑ってらしたから良かったですけど」
不安でしかない……。
「心配だろうけど反省はしてたわよ。特に三鷹君。嫌われたって青い顔してた」
いっそ嫌いになってくれればいいのに。
「悠香チーフありがとうございました。話しが出来て落ち着きました。さあ、決まった追加設備も発注しなくちゃ」
「戻りますか困ったヤツらの顔が楽しみだ」
事務所に着くと二人が飛んできて頭を下げてきた。
「すみませんでした!」
周りはすっかり面白がって見物している。おおかた大里チーフにでもそそのかされたのだろう。
「追加設備の件は無事決定しました。発注しといてくれる?図面も作り直しね」
「はい」
変わらず静かなトーンで話をして終了する。みんな呆気なく終わってキョトンとしている。
「え?それだけ?あんなに謝ったのに」
案の定大里チーフがつまらん、と言わんばかりだ。
「もう終わった事ですから。普通に仕事してもらえればそれで十分です」
「でもだな、こういう時はこうして、とか、あるだろ?指導が」
「私は社会人にそんな指導必要だとは思いません。もう十分わかっているはずです」
周りもそれを聞いて、そりゃそうだ、と仕事に戻っていく。
「しっかりしてよね、大里チーフ」
トドメに悠香チーフに肩を叩かれて終了である。
そこへまた部長が駆け込んできてチーフを呼び出した。
「すまん、チーフ三人上の会議室!」
言い終えてそのままどこかへ消えて行く。会議室とは逆方向へ。
「あれどこ行くんだろね?」
「まあ、とりあえず私達は会議室ね」
「そうですね」
それぞれチームに伝言を残して会議室へ向かった。
会議室に着くと、また チーフ以上が全員招集されているようだ。
「こんなに頻繁に招集あったら鈍い社員でも不安になるんじゃないの?」
あちこちであきれた声が上がっていた。
「すみません、とりあえずドアを閉めて前方へ来て頂けますか?」
山下さんが大声で集まるように指示を出している。
「取り急ぎ、役員及び部長会議で決定した事をお伝えします。どこからか情報が漏れたようでして、確定情報として社内に伝わっているようです」
そこここで誰だよ、おいおい、といった声が漏れる。ちょう佐奈を見つけて合流する。
「情報そんなに漏れてるの?」
「私も噂が少し流れて来てるの聞いたから、そうだと思う」
「静かに!外に聞こえますから!」
もう良くね?などと、静まる気配が無い。
「取り急ぎ社長からの指示書をお渡ししますのでお読みください」
見越して慌てて作ったであろうA4ペーパーが配布された。
「そんなすぐ無理だって……」
手元に指示書が届いた人達があきれている。やっと手にした指示書には、今月内に異動完了、今週末異動辞令書交付の文字が……。
「早いな……現場さすがに終わらない」
「keywordいつ引渡し予定なの?」佐奈が確認してくる。
「シルバーウィークにオープン目指して鋭意奮闘中です」
「まだ一ヶ月半あるわね……」
タイミングも悪い。このぎくしゃくした状態で異動の話しをするのは……。
「引越しは着るものさえ持っていけば私は困らないんだけどね」
東京へ戻って仕事があることを見越して部屋はそのまま確保しておく。会社からの補助も申請が通りそうだ。
「クライアントも今日の事もあって不安にさせるよな。タイミングの悪い」
大里チーフもさすがに頭を抱える。
「また何かあったの?」
佐奈もさすがに知らなかったらしい。
「ちょっとチームの二人が設備で譲れないところがあったらしくて、私の出張中に揉めてたのよ」
「なるほどね。今日対処したところってことね」
みなまで言わずとも大体伝わったようだ。
「現場はほぼこちらに出張の形で残れば大丈夫だと思うけど。やっぱりチームを上手く育てられてないのが一番不安……」
「まだ三鷹君配属されて一ヶ月半?どう考えても無理よ。よくここまで馴染んだと思うけど?」
悠香チーフがそう言ってくれる。
「まだ一ヶ月半なのか。随分前な気がするけどな。ちょっと色々あり過ぎてさ」
思わずため息をつきながらみんなで頷く。何だかカップル三つも出来上がってるし……口に出しかけて辞めておいた。ん佐奈は少し感づいてそうだけど、私が言うことでもない。
「確かに関西の現場いくつかは早めに動かしたいみたいなんですよね」
「そうだよね。人員確保も早目に動くように言われてる。本社から出張でしばらく対応することになるけど、手が足りないから。旅費もかかるしね」
「俺達が助けに行ければいいけど、多分無理だしなあ。Kチームから派遣か?」
また揉めそうだ……。
「やっぱり早まったかなぁ」
「今更そんな事言うなよ〜」
慌てる大里チーフが何とも可愛い。
「悠香チーフと離れたくなくて可愛いこと言ってますよ?」
「これのどこが可愛いの?情けないの間違いでしょ」
容赦無いな……。でも。そうだった。私が泣き言言う訳にはいかない。
「なるようになれ、でいくしかないですね。大里チーフ、Kチームは任せますね」
「keywordどうすんだよ」
「keywordだけやっていきますよ」
「まあ、間違いなく現Dチームを佐伯君、現Kチームを大里よね」
大里チーフが一人驚いている。
「えーと。とりあえず優秀な中途採用者、優先的に内装チームに回すように言っておきますね」
佐奈の心強い言葉に三人で礼を言う。人事に状況が伝わるのがこの際一番手っ取り早そうだ。
「で、部長はどうしたんだろうな?」
そう言えば、と三人で首を傾げていると、佐奈が答えてくれる。
「聞いてませんか?まだ部長会議継続中なんですよ。呼び出しに来ただけで。しかも多分部長異動かと」
「はあ?!」
今日頭抱えるの一体何度目だろう……。
就業後、今後の作戦会議という名目で部長を以前同期に連れていかれた個室のある居酒屋に呼び出した。ついでに、奥様も呼び出す。
「伊織?今日部長とチーフ三人で飲み会なの。来ない?……」
「どうですか?」
「うん、事情知ってそうだった。来てくれるって」
やっぱり家で色々相談してるんだろうな、部長。
店員がお冷を持って、注文を聞きに来たが、せめて部長が来てからにしようと、少し待って貰うことにした。
そして、ふと思った事を聞いてみる。
「ところで部長夫人にはお二人のこともう報告したんですか?」
神妙な面持ちで水を口にしていた大里チーフが咳き込む。
「ちょっと、吹き出さないでよ」
通りで緊張しているはずだ。と、そこへやっと部長が到着した。
「Dチーフどうした?」
慌てて拭き掃除して水をまた飲んでいる大里チーフをみて部長が何事かと驚いている。
「伊織も呼んだって?さっき連絡があったよ。二人の報告か?」
さすが部長。感づいてたか。大里チーフはフリーズしている。
「ん?違うのか?異動の話だけなら呼ばないだろ?」
「異動の話ですよ。部長の!」
「何で言ってくれ無かったんですか」
女子二人に詰め寄られて、待て待て待て……と逃げ腰になる。
「まだ決定じゃないんだ。今必死に掛け合ってる。俺は残留希望」
「でも専門じゃないのがネックで異動させられそうなんじゃ……」
「専門の人間他の部署にもいないんだよ。いないのに、営業帰りたいだろ?ときたもんだから。前の。チーフ達が言ってたのと同じだよ。俺はここがいいんだって言ってんのに」
あぁ、あれ本気だったんだ。
「本気だよ。ここが俺の居場所」
「あれ、心の声漏れてました?」
怪訝な顔をさせてしまった。
「私も思った。聞こえたかしら?って」
「二人共さぁ。見くびりすぎって言ってんだろ?」
「はいはい」
悠香チーフがさらっと流すと、大里チーフが何か言いたそうにしながらも、悠香チーフから視線を逸らしていた。
「それでも相談くらいしてくれても良かったのになぁ」
友人からさらっと聞かされる身にもなって欲しい。
「マル秘の多い部長会議の内容そうそう言えないだろうが。しかも残る気しかないんだぞ?いらん心配かけてどうするんだ」
部長なりに気を利かせたつもりだったという事だろう。そこへ、ちょうど奥様―伊織さんが到着した。
「一言何を聞いても心配無いって言っとけって言ったんだけどねー」
どうやら少し外から話しを聞いて入るタイミングをうかがっていたようだ。
「チーフ達がそれ聞いて、はいわかりましたって言って終わると思うか?」
「あー無理ですね……問い詰めます」
あっさり自分で認める。絶対それだけで終わらせない自信がある。
「あ、それと。オーダー外で適当にしといた」
立ち聞きしてたら店員さん来たから、とさらっと言う。
「伊織みんなの好み把握してるから問題ナシ」
「それにしても懐かしいですね、このメンバーで集まるの」
「悠香が誰かさん避けてたからねー」
これは間違いなく感づいている。二人から話し始めるのを促している。
「バレてそうなので、どうぞ」
私からも大里チーフを見て促す。さすがに観念して喋り出した。
「えーと。悠香が俺避けるの辞めてくれた」
全員のそうじゃないだろ、という顔に睨まれて、改めて
「悠香がまた付き合ってくれるって、また付き合いだした」
「七十点」
「五十点」
「悠香チーフ厳しい」
女三人で大笑いする。
「Dチーフ、この際言っとけ」
部長が『なにか』を促す。
「それは!この後で、も、いいですか、ね?」
しどろもどろになっている大里チーフがもう可哀想になって悠香チーフが笑って許した。
「ここじゃない所にしてください」
幸せそうな二人がいてとにかく嬉しい。
ちょうどそこへドリンクが届き、乾杯となった。もちろん二人を祝して。
「カンパーイ!」
食事も続々運ばれて、食べながら今日の会議の事を伊織さんに伝える。
「無理言うわね、社長。部署ちょっと変わるのとは訳が違うじゃない。関西支部って神戸でしょ?」
「そうです。私は実家が神戸なので、着替えさえ持っていけば生活出来るので、気楽なんですが」
「でも仕事が残ってるから無理じゃない?」
「そうなんですよね。チームも揉め事があったばかりで。異動の発表なんかあったら不安煽らないか心配で」
「Dチーフ、上手くフォローしてやれよ」
部長も私が居なくなった後は大里チーフに任せるつもりのようだ。
「三鷹君がやる気なくさなきゃいいけどね」
「後発で数名は支部へ異動あるだろうから頑張ってそれ目指すだろ」
部長がさらりとそんなことを言う。
「それ、言っていいんですか?」
さっき部長会議の内容は話せないとか言ってたばかりなのに。
「中途採用ばかりで回せるわけがないんだから、言わなくてもみんなわかってんだろ」
「そりゃそうだ」
「でも新入社員を支部に回さないんじゃない?いくら優秀でも」
「わたしもそう思うなぁ。まあ、何年かかったって追いかけそう」
伊織さんという味方を手にして、悠香チーフが楽しそうにからかってくる。
「やめてくださいよ。離れたらすぐ冷めますよ。優秀な先輩いっぱいいるんだし」
「それもそうね。学生の頃と違うものね」
「だからー、君達男を見くびりすぎだって。そうじゃないんだって。俺は三鷹応援するぜ?」
「もう酔ってます?やめてくださいよ、変に煽るの」
「そうよ、三鷹君も可哀想よ」
「俺も三鷹応援するぞ。新入社員でもチーフ候補だぞ。可能性はあるだろ」
部長まで……。ここまで男と女の感覚は違うものなのだろうか?
「煽られたら忘れるものも忘れられなくなるでしょ。やめなさいよ」
部長は伊織さんに窘められたが、食いさがる。
「忘れられるならここに入社して無いだろうよ。それだけ本気だと思うぞ」
「自分より優秀な先輩見たらすぐに気のせいだったって気付きますよ」
「そうよね。話を聞く限りじゃ才能に惚れたっぽいもんね」
「そうよね。離れて落ち着けば若かったなぁ、になりそうよね」
女三人で畳み掛けたが、男性陣も黙っていない。
「最初は憧れのお姉さんかもしんないけどな、今は絶対違う。じゃなきゃ勢いでもキスなんてしないだろ!」
「……誰が?誰に?」
大里チーフの不用意な発言に部長夫婦が驚いて、何事かと言う目で大里チーフと私を交互に見遣り、残り二人は大里チーフをキツく睨みつけた。
「大里チーフ。それアウトな発言です」
言われてやっと状況を飲み込んだらしい。
「もしかして俺やっちゃった?」
「もしかしてじゃなくてやらかしたの」
悠香チーフと二人で大袈裟にため息をつく。
「またあの説明ですか?……まぁいいですけど」
またアノ説明が始まる。しかも何故か事務所で起きていた騒動も、沈静方法も知らなかったらしい。
「待てよ、それだとセクハラ案件になってないか?」
部長が渋い顔をしている。
「優秀な同期が動いたので、そんなヘマはしてないと思います」
事実を伝えるべく所には伝えて、若手を守ったと言っているだろう。でも、待てよ……もしかして使える?
「セクハラ案件心配して異動することになったって、噂流そうかな」
「そんなことしたら三鷹君萎縮しちゃわない?」
悠香チーフが心配する。でも……。
「キャリア積みたいのに毎回そんな対応してたらさすがにセクハラ案件になって困る。栄転なら尚更行かせてください!みたいな。それなら迷惑かけないようにこっちで頑張るしかないなーとか思って貰えないかなあ?」
うーん、とみんな唸っている。
「上層部が真実を察してセクハラ案件になりそうなのを沈めようとして、もちろんキャリアも積んで欲しいからって異動を打診したとかは?」
外から冷静に分析した伊織さんが提案してくれた。
「ああ、その方が説得力ありそうですね。それとなく上手く噂流してくださいね、部長も大里チーフも」
何故俺ら?と言わんばかりに驚いて凄いシンクロ率でこっちに同時に振り向いた。
「この二人に頼むのはやめた方がいいと思うよー。弥生ちゃんとユミちゃんに上手く立ち回って貰う方がいいんじゃない?」
悠香チーフがそう言うと、伊織さんも続けて男性陣に向かって言う。
「そうよ。二人は聞かれても言えないから、でいいわよ」
男二人は噂を流す重役から解放されたと思ったのか、それで了承してくれた。
「ではそういう手筈でよろしくお願いします。で、部長の話に戻しませんか」
「あー!そうだよ」
大里チーフは本気で忘れていたようだ。今日のメインテーマはこっちだ。
「伊織も聞いてるよね?異動の話」
伊織さんもコクコクと烏龍茶を飲みながら頷く。飲み干すと、備え付けのタブレットから烏龍茶の追加注文をしてから話し出した。
「びっくりよねー。誰かできる人が入って来たならわかるんだけど。だから私からも絶対承諾しちゃダメよって言ってるの」
部長が残留希望して掛け合っているのはホントのようだ。
「どこまで聞き入れてくれるかだよなぁ」
「人事部の同期に後押しお願いしておきます」
「大体ウロウロといつも営業部に行くからこんな事になるんですよ!」
悠香チーフがそう言うと、部長はさすがに反省したのか、すまん、と頭をかいた。
「営業から回って来る仕事を調整しに行ってたんだよ。藤本が上手く回してるだろ?進捗状況と新規獲得状況を情報交換してたんだ。俺はそのくらいしか出来んからな」
藤本…恭弥がそんな事を?いや、上手く調整するなとは思っていたけども……聞いてない!アイツそう言う情報を何故流さない!
「Kチーフ、藤本に怒るなよ。アイツなりに思うところあって言わなかったんだろうよ。それこそ俺が未練がましく見えたのかもしれん」
一理ある。あの飲み会の時まで部長は本音を言っていない。恭弥も計り知れなかったのでないか?だから佐奈が部長の情報を流して確認を取らせた……。
「すみません、同期二人にしてやられたのかも。きっと部長の本音を聞き出したかったんだと思います」
「なるほど。やるなぁ、あの二人!」
みんな大里チーフに同意する。
「あなたもあなたの同期も本当に優秀ね。お礼言っといて」
伊織さんが異動は無いと確信したのか、安心した顔でそう言った。
「はい。自慢の同期を褒めて頂きありがとうございます」
「でもなー、あの二人がくっつくとはなぁ。藤本君ずっと未練がましくしてたのに」
「なに?マジで?あの二人って付き合ってんの?」
「Dチーフ知らなかったのか?」
恋愛事情に一番疎いのが大里チーフだと証明された……。
週末。とうとう関西支部発足と、それに伴う異動が発表された。
「どおりで関西に出張が多いわけだよ」
「まあ、この部署からならKチーフが行くの妥当だとは思うけど……」
チーフ陣の事情をそれとなく把握しているユミちゃんがそう言うと、よくわかっていない三鷹君が反論する。
「それでもまだチーフに昇進したばかりだって聞きましたよ?それなのに」
「肩書きが無かっただけで、チーフの仕事何年前からやってるよ?知ってるだろ、三鷹も」
中村君もKチーフが新米だと言わんばかりの三鷹君発言にはさすがに反発する。
「とにかく、また週明けまではチーフ出張だから。来たらちゃんと聞こうよ。もしかしたらチーフも今日初めて聞くのかもしれないし」
ありえない事じゃない、と自分に言い聞かせるように言う。
「ユミちゃん、弥生ちゃん、ちょっといい?」
悠香チーフに呼ばれて、揉めないでね、と釘をさしてユミちゃんはその場を離れた。
「悠香チーフ、Kチーフ異動って……」
「うん、まぁ、落ち着いて。自販機前行って話そうか」
「はい……」
事務所を出て、自販機で飲み物をそれぞれ手にして、テーブルに着いた。
「異動の事なんだけど」
悠香チーフが話し始める。
「色々あったでしょ?上層部も彼女の事を思って打診したみたい。事実上昇進になるし、彼女も喜んで行きますって。これ以上部下を庇ってパワハラやセクハラ案件になると困るし、チーフ三人の内一人ってなると、気を遣われちゃったのかもしれないけど。だから皆には、ちゃんと受け入れて欲しいのよね」
「Kチーフが私達が嫌になって見捨てて行くとか、思わないですよ。三鷹君が変に騒がないようにって事ですよね?」
ユミちゃんはわかっている。そして弥生ちゃんも。
「それは、ホントに?三鷹君を黙らせる建て前?」
「両方かな?」
そう言って悠香チーフは笑う。
「三鷹君若いからなー。考え方がもう熱くて。だから、チーフ達が心配するのもよくわかります」
「私達を使って三鷹君が駄々こねないように上手くもって行けばって事ですよね?」
人選に間違い無かったようだ。話しが早い。
「うん、それと、今のこの時間はKチーフの送別会の相談って事で」
「あぁ、そうですね。チーフのスケジュール確認してそれも根回ししておきます。弥生、手伝ってよね」
「もちろん。それじゃ、明日から私は情報集めて来たって噂流します」
「よろしく。私先に戻るから」
二人で色々話したい事もあるだろうと見越したのか、悠香チーフはそう言って戻って行った。
「三人の内一人なら仕方ないよね。あ、それでか。あの二人ヨリ戻したの」
「納得。三鷹君そんな事知らないもんねぇ」
「そうなんだよね。さっきも新米チーフが行くのはおかしいみたいな言い方して中村に怒られてた」
二人でKチーム男子をネタに笑う。
「でも寂しくなるよね。色々間に入ってやってくれてたから、すっかり頼っちゃってたし」
「私と中村はずっとチーフの下で守られてたからね。三鷹君に至っては熱すぎる思いがほとばしってるし?」
「あー……ね。抑えきれるかなぁ」
こればかりはわかりかねる、と二人で意見が一致した。
「Kチーフに迷惑かけちゃダメだってしっかり周りから固めないとだね」
「よし、頑張ろう」
「さすがに関西と行き来は疲れるわ」
アパートに着いて、チューハイ片手に座り込む。実家では両親共に大喜びで毎回至れり尽くせりだ。それもそうか、中学生以来の同居だ、と親孝行しなくちゃな、と思ったりもした。
「ここもさすがに長くて半年で引き払わなくちゃかな」
随分と長く住んで居心地いい空間になっていただけに、少し寂しさが湧き上がってきた。
「色々あったなぁ。また明日会社行ったら行ったで色々あるんだよなー!」
床に大の字になって寝転んで、気持ちを落ち着ける。なるようにしかならないのだけど。