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keyword  作者: 藤華 紫希
14/16

タイトル未定2025/08/17 00:39

 「チーフ!良かったあ。ちゃんと戻ってきた!」

 午後から関西支部のオンライン打ち合わせに呼び出され、席を外していた間、随分とユミちゃんはやきもきしていたようだ。

 「今日は絶対定時って言ったでしょう?信用無いなあ」

 「チーフの事は信用してます!でも関西支部が呼び出すと読めなくて……」

 「関西支部も同じ会社の人よ。だから午後一の打ち合わせに調整してくれたんじゃないの」

 「ですよね。すみません。今までと違って予定が見えていないのが不安で」

 「ごめんね、チームなのにね」

 気丈に頑張ってくれていたユミちゃんもこんなに不安にさせていたのかと、申し訳なさでいっぱいになる。

 「いえ。ちゃんと仕事しますね。こっちも定時までに終わらせなくちゃ!」

 「おう、俺らも男子会があるからな。三鷹、仕事終わらせるぞ」

 「はい」

 「手伝うわ。今日はこれ以上関西支部の仕事はしないから」

 チームのみんなの顔が綻んだ。

 「あ!じゃあこれ、頼んでいいっすか?」

 「それよりこっちお願いした方が良くないですか?」

 「そうだよ。中村君しっかりしてよ」

 良いチームになってきたな。三鷹君もすっかり馴染んだみたいだ。

 「どれ?うーん、今からなら両方いけるかな」

 「さすがチーフ。できる所まででいいので、お願いします」

 「了解」


 それぞれの進捗報告が終わると、早々に男子参加メンバーが事務所から出て行った。

 「珍しいよね。あんなにぞろぞろと。男だけで!」

 「見事にみんな行ったわね」

 比較的女性が多い部署と言っても、大半が男性なので、事務所の中ががらんとした。

 「さて、私達も一度帰宅して一品持ち寄りね」

 「M駅でしたよね?」

 「そう。そこからすぐだから。連絡くれたら迎えに出るよ」

 「一応住所教えてください。行けそうならそのまま行っちゃいます」

 地図アプリを見せながら、どこですか?とやっている。

 「そうね。えーと……このアパート」

 普段から仕事で使い慣れているだけに、あっさり共有までされて行く。

 「分からなかったら連絡ね。食べ物傷んじゃうし」

 「遠慮しないでね。佐奈が迎えに行くから」

 ちょうど嬉しそうにやって来た佐奈をしっかり巻き込む。

 「ん?お迎え?」

 「道案内。それとも料理する?」

 「あ、お迎え行きまぁーす」

 手を挙げてしっかりアピールしている。

 「人懐っこいと言うか、なんと言うか……いい性格してるわね」

 「さすがKチーフの友人って言うのが一番しっくりくるんじゃないですか?」

 悠香チーフと弥生ちゃんの掛け合いも大したものだと思う。多分わかってないんだろうな。

 そんな事を思いながら笑っていると、ユミちゃんが深く頷いて、

 「チーフの言わんとする事が分かる気がします。現場で私も言われたんで」

 という。苦笑するしかない。

 「言われたんだ。しょうがないよね、手本にするんだからさ」

 どうしたって上に付く人に影響もされるし、やり方が似てくる。

 「なに?……あ、似てるとか言いたいんでしょ?」

 「ええ〜。悠香チーフと似てるって……」

 「あ、こら。嫌がったな!」

 弥生ちゃんは怒られる前にカバンを持って、「お先!」と逃げた。

 「逃げられた!後で覚えとけよぉ」

 「そういうところはKチーフと悠香チーフも似てるのかな?」

 真弓ちゃんが二人の顔を見比べながら言う。

 「これはお互い元からかな。Kチーフは我が道を行くタイプだし、気は合うけど似ては無いかも」

 「ほら、話は後でうちに来てから!みんな帰るよ!」



 「えー、ずるい!」

 先に帰った弥生ちゃんはウチに来るなり、キッチンに立つ悠香チーフに怒っている。料理を“持ち寄る”はずが、一緒に帰ってきてここで作っているのだから、当然と言えば当然なのだが。

 「ここで作っちゃダメってルールは無かったからね。作りたてが1番でしょ?」

 年長者やりたい放題だ。

 「一日置いた方が美味しいモノもあります!私は宣言通りスイーツを」

 丁寧にラッピングされていても漂ってくる甘い香り。

 「いい匂い〜。フルーツケーキ?」

 「一日置くと、焼きたてよりも味が馴染んでしっとりするんですよ」

 お菓子作りが趣味の域を超えているとは聞いていたが、ここまでとは。

 「早く食べたぁーい!」

 もう待てないとばかりに佐奈はフルーツケーキに釘付けだ。

 「まだみんな揃って無いんだからダメよ」

 「揃ってもデザートは食後よね」

 悠香チーフにまでダメ出しを食らって、うぐっと言いながらリビングのテーブルの上に突っ伏している。

 と、ちょうどそこへ、残りメンバーが駅までたどり着いたと連絡が入った。

 「うん、そうそう。その道まっすぐだから。こっちからも佐奈に迎えに行かせるね。はーい、じゃ後でね」

 「という事で佐奈さん、一緒にお迎え行きましょうか」

 弥生ちゃんが笑いながら佐奈を誘ってくれる。

 「弥生ちゃん優しいぃ。行く。一緒に行く!」

 「では先輩方、佐奈さんとお迎え行ってきますね」

 「ありがとう。よろしく」

 二人が出かけると、悠香チーフが

 「どっちが年上なんだか……弥生ちゃんしっかりし過ぎね」

 と、弥生ちゃんを心配している。

 「佐奈がプライベートだとあんなですからねー。でも、似てるって言われるのわかるでしょ?」

 「わかった。気をつけるわ。今のウチの部署なら大丈夫だと思うけど」

 「部長と大里チーフとも共有しておいてくだいね」

 しっかりし過ぎて、悠香チーフはあの時潰れてしまった。無理をしないように気をつけるに越したことはない。

 「よーし、できた!」

 「うわー、美味しそう。あ、お皿これ使ってください」

 あの会社の近くの喫茶店のマスターに、美味しすぎてレシピを無理矢理聞き出したという、見た目もキレイな生春巻き。タレまで手作りしている。

 「これホント美味しいですよね。私悠香チーフに作って貰うの二度目」

 「喫茶店では食べたこと無かったっけ?」

 「無いんですよー。いつも違うメニューなんですよね。春巻きの時に当たらない」

 「当然なんだけど、マスターの方がもっと美味しいわよ。同じように作ってるはずなのになぁ」

 ちょっと悔しそうなのが悠香チーフらしいと言うかなんと言うか。

 「プロの厨房で作るのと一般家庭のキッチンで作るのは違って当然ですよ」

 「うん、そういう事にしておこう」

 盛り付けにもちゃんとこだわって、リビングへ運ぶ。私の作った唐揚げとフライドポテトと並べる。ちょうど佐奈分として作ったピラフも炊き上がったようだ。

 「佐奈は会社で、できる女過ぎる上にあの性格で。敵ばっかり作って。本人気にしてないからいいんですけどね。しかもやたら狙われてた恭弥とくっついて、あっさり関西支部に逃亡」

 「片棒担いでるのが元カノだったから、周りは誰も何も言えなかったみたいだけどね?」

 陰ではきっと色々言われてるのだろうな。私に対するモノも含めて。

 「恭弥は佐奈くらいのはっきりしたのがついている方がいいと思って。つい世話を焼いちゃって」

 「あなたらしいんじゃない?」

 「同じくらい、わたしはチーフ二人に世話を焼きたいと思ってるんですけど」

 「いらないわよ。自分達でできるから。大里なりに、ちゃんと考えがあるみたいだし。私もへんなわだかまりはないわよ」

 「それなら良かったです」

 大里チーフも今度こそは大丈夫なはず。

 「その節は散々やさぐれて各所気まずくして申し訳なかったわね」

 「いえいえ。怖かったですけど。まあ、大丈夫です。でも、どうやって立ち直ったんですか?ピタッと収まりませんでした」

 周りが原因で職場も大変で、同じ部署の彼とケンカして別れて、こちらから見ていてもかなりピリピリしていた。それが急に落ち着いたら、それはそれで大里チーフとしばらく心配していた。

 「手当り次第占い行ってあまりに当たらないから文句言いまくってそこでも八つ当たりして、行き着いた若い占い師に諭されて我に返った」

 「えっ?!悠香チーフが占い?」

 思った以上に驚いて声が大きくなってしまった。すると、ちょうど帰って来た佐奈が耳敏く聞きつけて隣に座り込んでシッポを振っている。

 「聞きたい♪聞きたい♪」

 「今じゃ無くて、結構前よ?」

 「あー、例の時ですか」

 「そう。落ち着いたきっかけが占い師だったって話」

 例の時を何となく知っているみんなは何も言わないけれどちゃんと聞く体勢だ。

 「何かあったら行くといいわ。教えてあげるから、言ってね」

 「えー!詳細教えてくれないんですかー!Kチーフだけずるい!」

 弥生ちゃんが食らいついても、まずは食べる準備!と、こちらも譲らない。

 「私も詳しく聞いてないわよ。後でじっくり聞くことにして、準備しよう」

 それなら仕方ないと、ブツブツ言いながら、みんな食べる準備を始めた。


 「それでは〜カンパーイ!」

 “カンパーイ!”

 「あ〜うまい!」

 「あはは、Kチーフおじさん」

 「何とでも言え!うまいのはうまいでいいの!」

 ユミちゃんのいつものツッコミで場が笑いに包まれる。

 「派遣の人達も来てくれたら良かったのにね」

 悠香チーフがそう言うと、佐奈が多少肩身を狭そうにしているのが面白い。

 「まあ、送別会は皆さんいらっしゃいますから。無理に誘えないですし」

 真弓ちゃんが申し訳なさそうに佐奈に説明している。

 「ウチだったからさすがに遠慮しちゃったのかもね。佐奈も真弓ちゃんもそんなに気にしないで」

 「社員の愚痴なんて聞きたくないからかもよ。じゃなきゃ真っ先に今回正社員に切り替えてる。まあ、ウチは派遣大事にしてるから、そのままがお子さんいたりすると働きやすいし」

 「なるほどね。うちの部署みんな切り替えなかったものね」

 「勉強になります、人事様」

 ユミちゃんがそう言うと、佐奈は若い三人に拝まれている。

 「人事目線は面白いよね。あ、ねえ、三鷹君の採用試験の話って本当なの?」

 悠香チーフも噂には知っていたらしい。

 「ホントですよ。随分熱く語ったみたいで、私にすぐ教えてくれましたから」

 「ん?そんな前から知ってたのに教えたの直前ってどうなの」

 「本気で配属するとは思わなかったから?」

 はぐらかしている。

 「あー、なるほどね。私というより恭弥の反応が怖かったんだ?」

 ……図星だな。お酒を煽って笑って誤魔化している。

 「私達はちゃんと結婚したし、そんな事はもうどうでもいいの!あんたこそ三鷹君とどうなのよ」

 仕返しですか……。

 「どうもこうも可愛い後輩、部下ですよ?」

 「でも大里にチャンスがあればって言われてはいって言ったわよね?」

 「まあ、もちろんチャンスがあれば。三鷹君に限らず良い出会いがあれば。でもその時にも言いましたけど、本当に今楽しくて恋愛に割く時間無いんですよね。仕事にトキメキすぎて」

 「え〜っ!ヤダヤダ絶対ヤダ。周りくっつき過ぎて焦りまくるんですけど」

 弥生ちゃんがそう言うと、真弓ちゃんがとぼけた事を言い出した。

 「そんなに周りカップルいましたっけ?」

 「ウソでしょ?!わからないことある?!」

 これにはさすがに私が反応してしまった。

 「こことここ!」

 「悠香チーフとユミさん?お付き合いしてるんですか?」

 天然もここまでくると笑うしかない。

 「違うって。私は大里と。ユミちゃんは中村君と付き合ってるの!」

 「えぇぇえ〜!」

 本気で驚いている。疎すぎる。

 「素晴らしいリアクションありがとう。真弓ちゃん、これからは時々ランチ一緒にしよう。色々情報流してあげるわ」

 ユミちゃんが隣の真弓ちゃんの肩に手を回してついでとばかりにあれこれ吹き込んでいる。

 「余計なことまで言わないのよ?」

 悠香チーフが言いたい放題のユミちゃんに釘をさして笑っている。

 「そんな事するとユミの事も色々と……」

 私が止めるまでも無く、色々聞いているであろう弥生ちゃんがそう言うと、さすがに真っ赤になって立ち上がり、弥生ちゃんを止めにかかった。

 「わかったから、暴れないで」

 あまり止める気が無さそうに、大笑いしながら悠香チーフが言うと、さすがにアパートの一室だった事に気づいて二人とも反省モードになる。

 「すみません、チーフ」

 「防音割としっかりしてるから大丈夫よ。両隣には先に断っといたし、今下の階は空いてるし」

 「あんたさすがよね。そこまで手を回してたとは」

 佐奈がいつの間に?と驚いている。

 「ちょっと前にお隣さん達とちょうど一緒になって、引越しする事とか、話したからついでにね。これでも近所付き合いもちゃんとしてるのよ?」

 一番古株になってしまっているのもあって、大家さんも彼女に聞けばいいよ、なんて紹介されるようになってしまっていた。

 「尚更離れるの辛くないですか?」

 「居心地良かったからね。最近多少ナーバス」

 「やっぱり行かないで欲しかったな……」

 ユミちゃんが寂しそうに言うと、悠香チーフが困った顔をして謝り出した。

 「ごめんね、私達が気を使わせちゃったから」

 「違いますよ?私は実家にそろそろ戻ってあげなくちゃって思っただけです。勘違いして寄り戻してくれたのはホント棚ボタ」

 「ああ、それで大里チーフと佐伯さんが失敗は許せないとか言って送別会の相談してたんですね」

 「真弓ちゃん、もしかして男子会の最重要テーマのこと?」

 「あ、そうみたいです。それでかあ。それぞれ彼女と好きな人に色々したいわけですね」

 「詳しく教えて」

 みんなで身を乗り出して真弓ちゃんに迫ったのは言うまでもない。


 「それじゃ、気をつけて帰ってね」

 「はい、ありがとうございました。お邪魔しましたぁ」

 デザートまでしっかり平らげて、弥生ちゃんと真弓ちゃんは帰宅して行った。悠香チーフとユミちゃんは、真弓ちゃんから色々聞き出した事を基に対策を!と言って、結局そのまま泊まる事になった。

 「でもユミちゃんいいの?中村君に迎え頼んでたんじゃないの?」

 「あんな話を聞いたらそれどころじゃないですよ。逆にやってやらないと」

 いい方向の反発のようで少し安心する。

 「ちなみに、連絡したらあっちはあっちで話が尽きないみたいですよ。お酒も呑まずに会議ですって」

 「うちの部署、男の方がお酒弱いからなぁ」

 「待って。あなたが強すぎるだけじゃない?一緒にしないでよ」

 「同感です。コイツはほんとに強すぎ」

 ユミちゃんも首を縦に深く振っている。

 「わかりました」

 この三人に責められるとさすがに怖いので、ここは素直に引いておく。

 「それで、どうします?どこまで計画に乗って、どこからこちら側優位に進めるか」

 「ふふふ。楽しみね」

 「先に計画されてるのを乗っ取るって手もあるんじゃない?」

 唯一の部外者の佐奈がそう言って、ただただ楽しんでいる。

 「敢えて不穏な空気にしてみるとか……はさすがに三鷹君が可哀想か」

 「私は計画があろうがなかろうが、バッサリ切るだけなんだけどね」

 そう言うとみんなに、さすがに冷た過ぎだと、また責められた。

 「はっきり言わないとわかってないのかもしれないでしょ?それなら、言うべきじゃない?先に進めないのはかえって可哀想だと思うんだけど」

 「そういう考えもあるか。そうよね。期待させるのは良くないかも」

 さすが佐奈はわかってくれる。

 「もう離れるんだからそこまでしなくても……可哀想だけど、三鷹君の計画だけ潰して傷つかないように持って行ってあげるのがベストじゃない?」

 「私も悠香チーフに賛成です。こっち二組が派手にして三鷹君どころじゃ無い状況に持ち込むのが良いと思います」

 一般的な考えはきっとこの二人の意見なんだろうな。私達がサバサバし過ぎているのは自覚している。

 「当事者二人がそうしろって言ってるんだから、甘えちゃっていいんじゃない?」

 「そうね。私も傷つけるつもりは無いから」

 「知ってる」

 悠香チーフと佐奈が同時にそう言って笑う。

 「やっぱり海外の血ですよね。かっこいいとは思うんですけど!三鷹君みたいな真っ直ぐ過ぎる子がそれ聞いて大丈夫なのかなって心配の方が勝っちゃうんですよね」

 ユミちゃんはチームで一緒にいるだけに、余計守りたくなるのだろう。

 「そうね。うまく切り抜けられるように真弓ちゃんの情報収集に期待ね」

 まさか情報が筒抜けになっているなんて思っても無いんだろうな。わざとやっているとしたら、驚きだけど。

 「そうね。ホントにあの二人迂闊よね。ワザとってことは無いと思うけど」

 「じゃあ、ワザとだった場合も考えちゃいますか?」

 「裏の裏までかいちゃう?うわー、楽しい。絶対どうなったか教えてよね」

 佐奈がその場に行けないことを悔しがって楽しんでいる。

 「一人自分が関係ないからって、気楽に参加してる人がいるわね」

 「私も関係ないと言いたいところだけど」

 逃げられないよねぇ……。

 「関係者だから無理ですよ?」

 「はい」

 「まずは、フォレストの高山さんをこっち側に付けないと」

 「そうですね。ランチタイムならネット予約ができるはずなので、明日にでもどうですか?」

 さすがユミちゃん。手馴れている。

 「私はいいけど、悠香チーフデートなんじゃ……」

 しかも大里チーフに“チャンス”をあげた、大事なデートだったのでは?

 「ここに泊まるって話になってすぐに会うのは夜ってことになってるからお気遣いなく」

 「ん?なになに、悠香チーフと大里チーフ、進展ありそうな感じなんですか?」

 デートになった経緯を知らないユミちゃんが興味津々で身を乗り出した。

 「悠香チーフが大里チーフに今週末チャンスをあげるって言ったの」

 「え〜っ!それって……ん?それじゃあの計画は既に狂ってる?」

 確かに。プロポーズ的な意味合いのある計画っぽかった。

 「やっぱり明日フォレスト絶対ですね」

 「あいつ明日どうするつもりなんだか……ああ、それで男子会だったんじゃないの?」

 「真弓ちゃんが話を聞いたの、少し前みたいですしね」

 さて、どこまで計画したものか……。

 「とりあえず乗せられたフリをして計画を乗っ取るという事で、臨機応変にってことよね」

 「そうですね。後は明日高山さんに詳しく聞いてからですね」

 「教えてくれるかなぁ」

 当事者はどうしても気弱になるようだ。

 「逆に相談って事でどう?煮え切らない男二人どうにかしたいとか。ほら、前の三鷹君の歓迎会みたいに」

 「あんたがピアノ弾いてってヤツ?」

 なぜかそこにいなかった佐奈が一番覚えていた。

 「なるほど。話の流れで持って行って相談すれば自然」

 「チーフさすが。手の空きそうな時間なら高山さん呼ばなくても絶対話し掛けて来ますもんね」

 「異動が決まってからフォレスト行けてないしね。ご挨拶がてら食事に来ました、手が空いたら高山さんも、とでも始めに言っておけば確実」

 送別会の話にも持っていきやすいはず。

 「じゃあ、それでうまく聞き出すって事で」

 「うん、もう考えたくない……」

 「二人ともお疲れ様。飲み直しましょ!」

 佐奈がいてある意味良かったのかもしれない。

 「そうね。お酒出して来る。おつまみはまだあった?」

 「十分よ。あまりこの時間からつまみたくないから、お酒だけでいい」

 「了解です」

 「手伝います」

 そう言って立ち上がろうとしたユミちゃんを抑えて、佐奈が立ち上がる。

 「ユミちゃんは座ってて。私が手伝うから」

 「ありがとうございます」

 佐奈も先輩風を吹かせたいようだ。

 「後輩可愛いー!」

 と、喜んでいる。

 「はい、先輩これ運んで下さい」

 「おっけー♪」

 かなりご機嫌だ。そこそこお酒が回っているのかもしれない。

 残りのお酒とグラスを手にリビングに戻ると、関西支部の社宅の話題で盛り上がっていた。

 「ウソでしょ?それマズイんじゃないの」

 「どうしたの?」

 「自宅が会社直結だから、余計に飲み会なんて無くなりそうって話になって……」

 「かえって気軽にみんなで家飲みしてるみたいで、ロビー階でオープンに呑んでるのも見たって話を」

 さすがにそれは初耳だ。

 「ロビー階って管理人さんがいて、郵便受けとか宅配ボックスのあるところよね?」

 会社と社宅の間にロビー階を設けてワンクッション置いている。そこに、簡単に接客できるような椅子とテーブルが確かに置いてあった。

 「関西支部異動組はなんだかんだほぼ顔見知りだったりするから、ロビー階来たヤツ巻き込んで呑もうって、入れ代わり立ち代わり……」

 「……子供も通るよね?」

 悠香チーフも怪訝な顔をしている。

 「お菓子もらって喜んでるらしいよ?奥さんも参加しててびっくりした」

 住民仲が良いなら、それでいいか……。

 「できれば集会部屋の方が来客があった時に困らないんじゃないかなぁ」

 中には誰かに大事な話をしに来る人だっている。そんな社員を見て不安になったら大変だ。

 「来客があるなんて考えてなかったのか、気軽に部屋を使うのに抵抗があったのかもね」

 「なんにせよ、きっと仲間が欲しかったんでしょうね。各グループ1人とか、かなり鬼畜な異動の提案だったものね」

 「同期いるし、実家に帰っただけなあんたはレアケースだもんね」

 「新婚生活始めちゃうレアケースに言われたくないわよ 」

 確かに二人ともレアケースー!と、悠香チーフとユミちゃんに大笑いされた。

 「もう少しそういう人もいるかと思ったのに、関西弁喋る人すらほぼいないっていうね」

 「それじゃ頼りにされるわけだ。こっちにいてもすぐに関西支部関係で呼ばれてますもんね、毎回」

 かなり不服そうにユミちゃんが絡んでくる。こっちも結構酔ってるな……。

 「ごめんね、ユミちゃん。この子、私と大里に気を回してくれちゃって、同期の二人が行くのを聞いて即決しちゃったの」

 「やっぱりそういう経緯だったんですね。それじゃあ、お二人責任重大!幸せにならないと私も許しません!佐奈さんもですよ!」

 「わかったわかった。珍しいわね、そんなに呑んだ?」

 手元を見ると、結構度数の高いお酒を呑んでいた。

 「言いたいことがあるので!ちょっと酔わないと、と思って」

 「私に、だよね?」

 「もちろん。まだまだチーフにはいっぱい教えて貰いたかったのに、なんで相談もしないで決めちゃったのとか……あ、今経緯聞いたけど」

 「そうだね。ごめん」

 「私、中村君置いて関西支部に次行くので」

 爆弾発言である。

 「ちょっと待った!それはダメでしょ。中村君にそれこそ相談したの?」

 「ん?あっそうか。さすがにそれは相談しないと……」

 そう言いながら、テーブルに突っ伏してしまう。

 「あら、今度は寝ちゃった」

 「こんなユミちゃん初めて見た。よっぽどあなたが行くの嫌だったのね」

 「チーフ候補しっかり育てて、中村君も来れるように体勢整えて下さいね、悠香チーフ」

 「わかった。そうなると三鷹君ますます関西支部に行くの遠のくわね」

 「確かに。三人異動はさすがに難しいだろうなぁ」

 人事の佐奈が言うのだから間違いないだろう。順番から言っても希望が通るのはユミちゃんと中村君が妥当だ。

 「そもそもなんで三鷹君の名前がそこで出るの」

 「三鷹君があんたを追いかけるって言ったからじゃない?それで、ホントーにどうなの?」

 「またぶり返すの?どうもこうも前に言った通りよ。強がっても無いし、そもそも恋愛感情は無いもの」

 「キスされても全然そういう風に思わなかったの?」

 いつの話だ。

 「思わない。日本はキスに特別な感情を持ちすぎなのよ」

 「そうかもしれない」

 「っていうか、あんたが文化違いすぎるだけなんじゃない?」

 「そうとも言う。けど!無理矢理キスされて嬉しい?」

 「うーん」

 二人ともやっぱり考え込んでいる。

 「でも、好きって言われてて、若くて仕事も出来る子で、顔も悪くないよね。そこそこ人気あるし」

 「人気あるんだ」

 悠香チーフはそこが気になったらしい。

 「あるある。人事は色々聞かれるから。恭弥派の女には嫌われてるから避けられてたけどー」

 「それは藤本君が悪いわよね。ハッキリしなかったと思ったら元カノの親友かよ!みたいな、ね」

 一般的にはそういう感じに見えるんだろうな。うん、このまま話を逸らそう。

 「そうね。恭弥が悪い」

 「話逸らそうとしてるでしょ?」

 バレた。まだそこまで酔ってなかったか。

 「彼氏もいなくて、若くて優秀で可愛い後輩にキスなんかされたら、少なくとも意識すると思う。私ならね?」

 既婚者のセリフじゃないな……。

 「私は多少意識するかも。でも、好きになるかって言われたら、違うかな。無理矢理はやっぱり反則って思う」

 「可愛い部下、後輩なのは間違いないから傷つけたくないし、嫌いにもなれない。今は誰も恋愛対象にならない」

 「逆に言うと、今じゃなかったらチャンスがあるんだ」

 「いつかはわからないけどね?」

 「きっかけ次第なのね、きっと」

 この二人は、きっかけがあって動きだしたから、わかってくれるはず。

 「そうかもしれないですね。さあ、このままじゃユミちゃん風邪ひいちゃう。片付けて寝る準備しましょう」

 「そうね。明日もまだまだ大変だものね」


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