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keyword  作者: 藤華 紫希
12/16

タイトル未定2025/07/10 16:49

 翌朝、しっかり二日酔いになった佐奈を叩き起して、出勤するまで一苦労だった。

 「調子に乗ってあんなに呑むから」

 「言うほど呑んだつもりないのになあ」

 見事なくらいに(へこ)んでいる。

 「歳だよ、トシ!」

 「じゃあなんで同い年のあんたは平気なのよ!」

 「元々のポテンシャルが違うでしょ」

 佐奈は私の半分ぐらいしか呑めない。いや、私が普通の人の倍呑むと言った方が誤謬が無いか。

 通勤の間、ずっとお喋りしながら騒いでいた。会社のエントランスで、悠香チーフが見ていたようで、事務所に着いて顔を見るなり、

 「そんなに喋る事良くあるわね。学生でも迷い込んでるのかと思ったらあなた達でびっくりしたわよ」

 「あはは。すみません。佐奈に合わせてると、見事なくらいずっとお喋りしちゃうんですよ」

 「これは今週Kチーフ、佐奈さんに独占されそうですね」

 弥生ちゃんが来て寂しそうにそんなことを言う。

 「あら、気にしないでいいわよ?合鍵も渡してるから勝手に帰るし」

 「とんでもない!先輩にそんな失礼なこと……」

 「うーん、じゃあ宅飲みどう?最後の自炊楽しもうと思ってるし?」

 「え?いいんですか?」

 「はい!行きたいです」

 中村君に手を上げさせられ、かつアテレコをされても、三鷹君は反論しないらしい。そろそろ中村君のイジりに慣れた?諦めた?

 「中村君、女子会の話に割り込まないでくれる?」

 弥生ちゃんが明らかに嫌な顔をする。

 「俺は三鷹の事を思ってだなぁ……」

 さすがにこの発言には三鷹君が焦り出す。

 「え、いや、俺は……!」

 「はいはい、もめない。Kチームは来週でしょ?グループで追い出す会もしてくれるんじゃ無かったっけ?」

 「追い出しませんよ、送別会でもないです」

 怒ったような、かなり真剣な表情でそんなことを三鷹君が言い出す。

 「ちょっと待った。三鷹落ち着け、な?」

 と、中村君が三鷹君を抑え込んだ。大里チーフも加勢している。

 「あははー。Kチーフすみません。ネタバレしそうなヤツ強制退去させます」

 言ってるやん、とツッコミを入れたいところだが、そこは堪えて、

 「どうぞ。女子会の話だから。君たちはあちらでどうぞ」

 と、遠くへ追いやるだけに留める。

 「悪いな、Kチーフ。あっちで男子会の計画でも立てるわ」

 大里チーフが代表して言葉を残し、その場を離れた。

 「Kチーフ、三鷹君一途で可愛すぎません?よく平気な顔してられますね」

 「可愛い?弥生ちゃんああいうタイプが好みなの?」

 「めちゃくちゃ真っ直ぐでキュン案件でしょ」

 確かに今どきあんな素直な子は稀少なのかもしれない。

 「後先考えない真っ直ぐは私からしたら恐怖案件。現にやらかしがあったでしょ」

 例のアレである。キュンなどと言っていられるのだろうか?

 「今時珍しい行動力だよね。で、女子会は私も入れてくれるのかな?」

 しっかり今までの流れを観察してノッて来る。

 「もちろんですよ、悠香チーフ。佐奈も喜びます」

 「女子メンバー声掛けておきます。今日?明日?」

 弥生ちゃんが段取りに動いてくれるようだ。

 「明日の方がゆっくり出来るんじゃない?」

 まるで自分の家にでも来てもらうような口振りだ。

 「明日で大丈夫ですけど。悠香チーフ泊まる気でいます?」

 「泊めてよ。そこそこ広いじゃない、あなたの部屋。みんな泊まれそう」

 中々な無茶を言う。

 「引越し準備もあって、荷物だらけなんです。全員は無理ですよ」

 「明日最終で帰るか迎えに来て貰う時間まで、と。じゃ、声掛けておきますね。色々お話し期待してます」

 「さすが弥生ちゃん、無駄がない。さて、私も明日の話しに期待して、今日は仕事に集中して終わらせなきゃねー」

 何に期待してるんだ。色々聞きたいのはこっちの方だ。二人が相変わらず過ぎて、どうなっているのだろう?とりあえずは本当に忙しそうに動き出したようなので、コーヒー当番でもする事にする。準備しながら、ちょっとした違和感を覚えて予定表に目をやる。

 「あれ?ユミちゃん……現場、打ち合わせ?」

真っ先に話に加わりそうなユミちゃんが居ない。

 「ユミさん今日クライアントとちょっと打ち合わせなんで、現場直行っす」

 「昼までには会社に来るそうです」

 男子会の打ち合わせ(?)が終了したらしいKチーム二人が、デスクに向かう途中にわざわざ説明して行ってくれる。

 察しちゃ行けない打ち合わせかな。

 「了解」

 男子会に部長も珍しく加わっていたようで、向こうで大里チーフとまだ何やら話し込んでいる。それともまた何かトラブったかな?コーヒーを持って様子を(うかが)おうかと思ったが、何も出来そうにない自分の状況に若干の寂しさを覚えた。来週いっぱいでここを去るのに、何ができる?

 そんなことが頭をよぎって、自分が思っている以上にナーバスになっている事に気づいた。

 「……やだなぁ、もう」

 コーヒーをカップに注ぎながらいつもの自分を呼び戻す。

 「よし、できた。みんなー、コーヒー入ったわよ!」

 振り向いた時に視線を感じたけど、今は気付きたく無かった。優しく応えてくれるみんながいれば、大丈夫。


 仕事が一区切りついた昼前に、ユミちゃんから早くチーフとお喋りしたいのに、まだ帰れそうにないとメールがあった。

 「お喋りって……」

 苦笑していると中村君が気付いて話し掛けてくる。

 「ユミさんこっちにもダダこねてるスタンプ付きで連絡来てたっす。だから俺行くよって言ったんすけどね。まあ、それ言うと怒るんで言わないっすけどね」

 まあ、あっちでもこっちでも惚気(ノロケ)てくれる。

 「あなた達も幸せそうでなにより。昼休み中に帰って来たら、食堂にいるって伝えといて」

 本人は惚気たつもりがなかったらしく、一瞬キョトンとして慌ててわかりました!と返事が返ってきた。

 「それじゃお昼行ってきます」

 ちょうど十二時が過ぎたので、食堂へ移動することにする。

 時間が早いせいか、窓際の特等席がまだ空いていた。日替わりランチを手にして座るとすぐに声がかかる。

 「やっぱりここに居た!」

 「佐奈。早いじゃない」

 「午前中は報告だけで終了したから」

 社長に関西支部の状況と、中途採用の報告でほとんど時間を使ったようだ。

 「採用の調整も大変ね。仕事が捗るかどうかもそこにかかってくるし、責任重大よね」

 「やめてー。社長にも言われた。あ、日替わり美味しそうね、買ってくる」

 ここで食べるのに、買いもせずにただ私を見つけて追いかけて、話し始めたのか……。

 「チ〜フ〜!やっと帰って来ました!あ、日替わりですか?買ってきますから待ってて下さいね!」

 入れ替わりでもう一人、同じような事を言って嵐のように去っていった。

 佐奈とユミちゃんは受け取り口で一緒になって、仲良く話しながらテーブルに帰って来た。

 「あなた達絶対気が合うと思うわ」

 「私もそう思う」

 「ホントですか?嬉しいなぁ」

 さっきいじけていたようなことを中村君から聞いていたけど、大丈夫そうかな。食べ始めたところで、女子会の事を思い出した。

 「ああ、そうそう。佐奈、グループの女子会明日ウチでやってもいい?」

 「え?私も参加していいって事?」

 「もちろん」

 佐奈だけでなく、ユミちゃんがおおいに喜んでいる。

 「ほんとにチーフの家行っていいんですか?佐奈さんもいらっしゃるのに」

 「えー、逆に私は短期間の居候(いそうろう)、しかも別部署なのに、居てもいいのって感じなんだけどー?」

 「女子会だし、みんな顔は知ってるでしょ?てか、佐奈は社員全員把握してそうだけどね」

 「まぁ、そうだけど」

 しれっと凄いことを言ってのけてユミちゃんを驚かせている。

 「まじっすか?」

 「反応が中村君みたいだよ?」

 驚きすぎているようだ。ブンブンと頭を振って改めて言い直す。

 「本当に全員把握してるんですか?」

 「中途採用者も次の新入社員候補者も把握してるわよ」

 「恐るべし。人事」

 「そのせいで昨日からこっちに呼ばれて来たんだけど!」

 「まだ言ってる。文句は部長にって言ったでしょ?」

 「言った!言った!それでも足りない」

 我儘なヤツだ。これだけキレ者なんだから、仕事が回って来ても仕方ないだろう。

 「それだけ全把握してたらしょうがないよ。採用の件なんでしょ?」

 「こっちで面接した分の選考を手伝えって」

 なるほど、課長と佐奈で最終選考するのか。

 「責任重大ね。社長が女性視点大事にするから」

 「そぉなのよー。人の人生左右したくないじゃん」

 「関西は?面接してるんでしょ?」

 「早い段階で私の意見を言うだけだから。今回は完全に採るか採らないか」

 採用予定数に達し無くてもまた募集すればいいと言うスタンスで中途採用を進めている。だからこそ二人がいらないと言えぱ即不合格になるという事か。

 「少なくともさ、上がもう絞ってるそこそこな人達を選り分けるの嫌じゃない?」

 「変なの入って来るよりは断然佐奈さんに阻止しておいて欲しいです」

 お坊ちゃんのこともあって、ユミちゃんは手厳しい。

 「そっかあ〜。よし、ありがとう。そのモチベで行く」

 「みんなの為によろしくね。さあ、仕事の話はこのくらいにして、しっかり食べて楽しい話しようよ」

 「賛成!」


 午後からの作業がようやく一息ついて、Kチームでお互いの進捗を確認していると、Pチームは休憩に入るのか、悠香チーフがコーヒーを作りに向かっていた。

 「それでは引渡しと引き継ぎの資料作成を進めるということで、Kチームもコーヒーブレイクしますか」

 そう言って立ち上がろうとすると、三鷹君が、

 「俺が淹れてきます」

 と言って、先に動かれた。

 「最近、みんなのマグカップを覚えようとして率先してコーヒー係行くんですよ」

 「じゃあしょうがないかぁ」

 「チーフ、後片付けとコーヒー係はやりたい派ですもんね」

 「俺、三鷹にチーフいる時は譲れって後で言っときます」

 「言わなくてもいいわよ。どうせ後一週間……」

 またやってしまったと思って、口元に手を置いたまま二人の顔を窺うと、逆に面白がられていた。

 「チーフ、わかってるようですが」

 「わかってる。ねえ、次そう言うのあったら罰金ってのはどう?」

 「本人がそれ言っちゃっていいんすか?」

 「何にも考え無いからそういうのすぐ口をついて出ちゃうのよね。せめて呑み代にでもしてくれって思って。私がこっち来る度にやってくれていいよ」

 「いいですね。チーフのうっかり楽しみになりました」

 「アイツはこういうのノるのか?」

 「どうだろうねぇ?」

 そう言ってコーヒー係をみんなで眺めると、周りにたくさんのハテナを浮かべて怪訝な顔をしていた。


 「はい、Kチームの分です」

 「ありがとう」

 コーヒーを手渡しながら、若干ムスッとしているような……?

 「ひとの事見て何笑ってたんですか?」

やっぱりそれか。

 「三鷹君はどうなんだろうねって話してみんなで見てたら、不思議そうな顔してるから」

 「やたら可愛かったよね、反応」

 そんな事を二人から言われて、どう反応すべきか困っている。

 「流せ。そこはさらっと流せ。そうやって反応楽しんでるんだ、この人達」

 中村君の助言を受けたのか、話を元に戻す。

 「それで。何が“どうなんだろう”なんですか」

 「あ、罰金をね……」

 説明を始めると、ムッとしてみたり、考え込んだり、ちょっとホッとしたりと、結構表情が忙しい。ホントに全部顔に出ている。

 「それなら、乗ります。チーフが来るの大前提ですから」

 嬉しそうに笑っている。いい顔するじゃないの……。

 「三鷹君は素直過ぎて全部顔に出てる。そんなんじゃこの先、世の中渡って行けないよ?」

 「え〜。この素直さが可愛くて良いけどなぁ」

 「ユミさん!俺も素直で可愛いよ!」

 「……」

 三人に茶化されたと思ったのか、赤い顔をして固まってしまった。

 「私は茶化したい訳じゃないよ。素直なのはいい事だけど、駆け引きが必要な時もあるから。でも、若くて可愛いって言って貰えるのも才能かもね」

 照れつつ、納得のいかない顔をしながら、

 「駆け引きはしたくないなあ」

 と言う。

 「三鷹はいつでもストレート勝負だよな」

 「それがキツく感じる人もいる。上手く誘導されたい人、駆け引きを楽しみたい人もいる。何でもTPOに合わせたやり方が必要だと思わない?」

 今度は少し、納得したようだ。

 「勉強になります。ちなみにチーフは駆け引き得意なんですか?」

 「どうだろうね?想像にお任せする」

 「はぐらかすの上手いなぁ」

 ユミちゃんが何も言えなくなった三鷹君の代わりにそう言う。

 「年の功って事で……コーヒーありがとう。仕事に戻るね」

 そう言ってパソコンに向かい直すと、ブツブツ言いながらもそれぞれのデスクに着いた。


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