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keyword  作者: 藤華 紫希
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タイトル未定2025/06/27 23:35

 定時に上がると言いながら、同期三人とも何故か会社で顔を突き合わせていた。

「なんでこうなるんだか」

「関西支部組は仕方ないと思って諦めてくれると有り難いかな⋯⋯」

 先日の打ち合わせにも同席した先輩がそう言って佐奈に謝っている。

「すみません!先輩が謝る事じゃないですよ。気にしないでください」

 慌てて恭弥が謝る。良い旦那してる。

「そうですよ。この間の事を思えば、まだ時間早いですし」

「先輩は悪くないです。こっちに来いって言った人事部長に腹が立っただけなので」

 全く……困らせるだけなのに。

「佐奈。ここで文句言わないで、明日直接部長に言いなさいよ」

「そうね。先輩すみません」

 恭弥と顔を見合わせて、ため息をつく。

「さあ、帰りましょ。夕飯遅くなっちゃう」


 帰りの電車の中で、何を作ろうかと佐奈と話していると、恭弥が口を出してきた。

「もうさ、なんか買って帰れば良くね?」

「食材を何か買って帰るわよ?」

「そうじゃなくてさ、できてるヤツ!」

「だめ!今日三人で作るの楽しみにして来たんだから!」

 いつもこんな感じなんだろうな。

「いちゃいちゃはあっちに帰ってからしてもらえる?」

「してない!」

 同時に叫んでいる。

「ほら、仲良し」

と言うと、恭弥が真顔で、

「それを言うなら、お前ら二人だろ。ずっと二人でいちゃいちゃと」

「なんだ、ヤキモチ?」

 佐奈の腕を取ってそう言うと、真っ赤になっている。

「やだー!ヤキモチ?ヤキモチ?」

 佐奈は嬉しそうにはしゃぎだす。

「わかったわかった。恭弥も、話に入ればいいでしょ!何が食べたいか言えばいいじゃない?」

「作るの面倒だろ、この時間からなんて……」

「恭弥も一緒に作ればそんなに手間じゃないわよ?まさか食べるだけだとでも思ってたの?」

「え、いや、そんな事は……」

 焦ってる焦ってる。

「恭弥ってそういうところあるよね」

「そうなのよー。働いてるのは一緒なのにさあ、帰ったら腹減ったーって言うだけ。出てくると思ってるのがびっくりよ」

 さすがの恭弥もタジタジになっている。

「いや、だって、作った事もねーから」

「一人暮らししてたよね?」

「どうやって今まで生きてたの?」

「ほとんど実家暮らしだったし、食いもんはその辺に売ってるし、食べて帰れば良いだけだったしさぁ?」

 まあ、コイツならそんなもんか……。

「そうだ。今日は手のかかる料理にしよう!恭弥に思い知ってもらわないとね」

「いいねぇ。料理覚えて欲しいから私の好きな物作ろう」

「……」


 結局、佐奈の好きな酢豚に合わせて、中華スープと、わざわざ手作りしなくても良さそうな餃子を作るというメニューになった。

「俺結構料理好きかも」

 と言って、まんまと楽しそうに餃子を包んでいる姿に、佐奈が小さくガッツポーズしていた。

「上手いじゃーん!ホットプレートで焼いていってね。並べ終わったら酢豚も作るんだよ!」

「おう、任せろ」

 単純な性格で助かるわ、とリビングの準備をする私に佐奈が耳打ちをして来た。

「ちゃんと佐奈に作り方聞きながらしてよ。変なの食べたくないからね?」

「任せろってー。俺のがセンスあるかもよ?」

「是非そのセンス見せてよね。期待してるからー」

 料理にハマる男と言うのは、もしかしてこうしておだてられたり、のせられたりしてハマるのかな……。少なくともコイツは間違いなくそうなりそうだ。

「まずは〜、これからね」

 キッチンに立つ二人はいつも通りの二人のようで、そうじゃない。なんだか、遠くなったような寂しさを覚えた。

「私お邪魔だったりする?」

 思わず口をついて出た言葉に、自分がびっくりした。

「なんか言ったー?」

 良かった、聞こえてない。

「美味しいの作ってって言っただけよ」

「待ってろ、絶対美味いの食わせてやる」

 周りがナーバスすぎて、私までマイナス思考になっているみたいだ。この二人は誰よりもきっと私の味方で、最強の友人だ。

「恭弥意外と手つきいいじゃないの」

 キッチンを覗き込んで、この際邪魔してやろうと声をかける。

「恭弥、褒められたからって適当にしないで!丁寧にやってよ!」

「佐奈の好きな料理は得意料理でもあるからねー。厳しいよ?私は先にお酒のんじゃおー」

 冷蔵庫からいつものチューハイを取り出して缶を開ける。

「え!ずるい!ずるい!ずるい!」

 調理している恭弥から目を離せない佐奈が地団駄を踏んでいる。

「ビールだよね?」

「俺も!」

「恭弥は手が離せないから後で」

「はい佐奈。ビールどうぞ」

 冷えたビールをうやうやしく受け取り、プシュッと早速音をたてる。

「美味いー!」

 至福の表情だ。

「どうせいつも逆の事してんでしょ?」

「そうなの!でも、まぁ、可哀想だし。ほれ、ひと口」

 お優しいことで。

「うまいー!今までのは大反省したんで、代わって!」

「それは無理。後少しなんだから頑張りなさい」

 まぁ、いちゃいちゃと……。

「はいはい。見てらんないわ。餃子見てくるね」



「気をつけて帰りなよ」

「おう、佐奈の事よろしくな」

「はいはい。大事な奥様お預かりいたします」

 終電には間に合いそうにもなく、夜行バスで帰ることにした恭弥を見送りに、バスターミナルまで繰り出してきていた。

 夜は、昼間と違って、随分と涼しく、秋めいていた。酔って火照った顔に当たる風が心地よかった。

「じゃあ、また関西支部で!」

「またね、おやすみ」

「おう、またな!」

 手を振って、ちょっと今までとは違う別れを楽しむ。

「面白いね、今までこんな見送りなんて無かったからさ」

「私も思ってた。ちょっと恭弥から解放された感もあったり無かったり?」

「いいねぇ。お酒追加で買って帰っちゃう?」

「賛成!追加しちゃう!」

 夜はまだまだこれからだ。


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