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第七話 レイピアが出せない

 月門の中庭は、太陽神殿の中庭の様に色彩豊かな庭ではない。だだっ広い芝生の運動場である。

 その芝生の上で、一般聖女(ミレース)達と候補生達が、指導役(オプティオ)の聖女達から訓練を受けている。


 私は、支給された真新しい鎧を身につつみ、髪色と同じ水色のマントをなびかせながら、ずっと利き手である右手を前に突き出している。


 もうこの動きだけで一週間も経過していた……。


「あちゃー……まだレイピア出せへんのかぁ」


 レイピアを出せず苦戦している私の周りを、ジョーがちょこまかと動き回る。


「どんなに手こずっても、二日目にはレイピアは出せるんやけどなあ。記録更新やな」


「ジョー……集中したいから黙って」


 だが、ジョーは私の言葉などまったく聞いておらず、更に顔を近づけてきた。


「なあなあ、ガートルード、その年まで初潮がこなかったん?」


「え?」


「もしかして、とっくに初潮がきてたのに、そのこと隠して月門に入る日を先延ばしてたんかなあーって思ってな」


「ああ、まあ、そんなとこかな……」


 本当は、そもそも私は儀式を経て産まれた魔法種ではないから、月門に入る予定なんてなく、イヴの言いつけ通り魔力があること自体を隠してたのだけど……説明する必要もないだろう。


「じゃあ、やっぱり初潮はとっくにきとったんやな。んなら原因はそこかもしれへんで」

「え?」


 私は思わず伸ばしていた腕を軽く曲げてしまった。


「あのな、初潮が来たら月門に入るっちゅうしきたりにも意味があるんやで。レイピアは魔法種の女にしかだせへんのやけどな、出せるタイミングっちゅうのもあって、初潮開始からわずかな数年らしいんやわ。その期間に一度でもレイピアを出しとかんと、身体が完全に女性になってしもうたら、もう出せへんのやて。でもその期間に一度でもレイピア出し取ったら、純潔の誓いを破らん限りはずっと出せるっちゅう話やわ」


「え……もしその期間にレイピア出さなかったらどうなるの?」


「そりゃ、女の魔法種なら、レイピアがなけりゃまともな魔法なんか使えんやろうし、特に攻撃魔法は絶対無理やろな。つまり、候補生で終了や」


 ガーン!! 


 ……ってな声が本当に頭の中で響いてしまった。


「終了!」


 え!? わたしのこと? っと振り返ったら、どうやら今日の訓練終了を告げる指導役(オプティオ)の声だった。


「それでは、解散!!」


「はいっ!!」と、勇ましい若い女性達の声が、中庭の運動場に響き渡った。その余韻が残る中、続々と聖女達は寮へと戻って行く。


 私もとぼとぼと、肩を落として歩き出す。


「じゃま、どいて」


 ドンッと肩を弾かれ、少しよろけると、私を押した聖女やその仲間たちが小気味いいといった表情でチラチラこちらを見ながら帰って行く。


「なんや、あいつら。気にせんときよ。ガートルードを連れて来たのが大神官って聞いて嫉妬しとるんや」


「嫉妬?」


「そや。前大聖女(ニンバス)の姪っ子ってのも気に食わないかもしれへんが、それ以上に大神官が直々に月門への手続きを全部おこなったってのが気に食わんのやろなぁ」


「権力者に媚びを売ってると思われてるとか?」


「ちゃうちゃう。神官の中でも大神官は超人気なんや。思春期の女達が恋愛を禁止されてるんやで? なのに、ウチらのもっとも接触する頻度が高い男達が、あの揃いも揃ってイケメン揃いの神官達や。あいつらは魔法で怪我や病気を癒すだけやのおて、顔面見せるだけでも癒し効果があんねん。歩くマイナスイオンや」


「歩くマイナスイオンって……」


「んでな、その中でも一番人気は大神官シンクレア様や。あのずば抜けた容姿もさることながら、魔力もとんでもなくてなあ、なんと十八歳の時に神官にならず、飛び越えていきなり大神官の地位についたんやで! えぐいやろ」


「え? あの人そんなに魔力凄いの?」


「歴代の大神官の中でダントツ一位や! 顔もな!!」


「でも性格は悪そうだけどねぇ……」


「そこがまた乙女心をくすぐんねん! とにかく、恋に飢えた聖女達のアイドルが手取り足取り面倒みた女なんて、やっかみの対象になりやすいやろ? でも理由はそんなくだらんとこや。だから、気にせんでええで」


「はあ。まあ、そうしとく」


 ジョーと話しながら歩いていたら、もう裏門近くまで来ていた。

 私達は中庭から三日月形の建物左側に入り、右側にある自分たちの部屋へと向かっていた。最初に建物に入った時すぐに階段を上ってから右側部分に向かえばよかったのだが、話に夢中になりすぎてうっかりそのまま一階を歩いてしまっていたのだ。なので、一階部分から部屋に戻るには、三日月の真ん中にある裏門の前を通る必要があった。


 裏門は、三日月形の建物中央一階にあり、三日月の対角線上にまっすぐ渡り廊下が通されている。太陽神殿から裏門を通り抜け、そのまままっすぐに城郭の正門に向かう渡り廊下を進む分には、裏門があるくらいで他は何も障害なく進めるが、この対角線の交わる部分の月門建物側は壁に見せかけた扉になっており、魔法を解除しないと進めない仕組みになっている。


 私はまだレイピアを出せないので、こうしてジョーに行動を共にしてもらって、魔法解除の必要な場所などで助けてもらっている。


 ジョーが壁にレイピアをあてると、壁に穴が開き通り抜け出来るようになる。二人でそこを通り抜けて、向かいにある建物右側部分の壁にジョーがまたレイピアをあてようとした時、ゴンゴンッと扉を叩く音が聴こえ、壁が開く前に裏門が開き出した。


「え、この時間に一般人の通行あるとか聞いてへんし」


 ジョーは大急ぎで壁にレイピアをあてるが、開いた壁に私達が入る前に、裏門から入って来た人物に私は後ろから腕を掴まれてしまった。

 私の前で振り返るジョーを見れば、彼女の視線は私の頭を通り越えて、私の腕を後ろから掴む人物に向いており、その頬は赤く染まって身体は固まっている。


 私はジョーの様子を見てピンときた。


 これは一般人ではなく、聖女のアイドル、乙女心をくすぐる歩くマイナスイオン。

 シンクレア様だろう!!


 そう安心して振り返り、腕を掴む人物の顔を見て驚いた。


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