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7 戦争

   7


 月夜の民たちの斥候を務める者が敵の姿をとらえたのは、予想通り翌日の黄昏時だった。

 あたりが月のない夜の闇に閉ざされる前に、何とかこの狭い谷底を抜けてしまおうと、二千を超える兵たちはそれぞれの顔に疲労感を浮かべながら足早に進んでいる。谷に入る手前でこの日の行軍を終える選択肢もあっただろうが、どうやら彼らは強行する決断をしたようだった。

 月夜の民にとっては願ってもない状況だ。

 すでにいつでも戦闘に入れる状態の彼らは、身を隠して総司令官であるイドラスの合図を待った。

 これまで、月夜の民たちは売られたけんかは買うものの、自分たちからは積極的に攻撃をしかけることはしてこなかったため、今回も石の防壁を備えた王の館で籠城するものと反変異種派の人間たちは思い込んでいるらしく、あまり周囲を警戒しているようには見えない。

 みんなうつむきがちでその足取りは重く、遠目にも数日にわたる遠征の疲労が見て取れる。

 そんな中、馬に乗った斥候が一騎だけ先を走り、前方を見に行ったが、慌てた様子で引き返してきて叫んだ。

「谷が封鎖されています!」

 その声に疑問と動揺、そして不満の入り混じるざわめきが兵たちのあいだからあがる。

 そんな彼らの行く先に突如、金色の髪をなびかせた妖精族の男が現れ、張りのあるよく通る声で言った。

「セント・クロスフィールド公の軍とお見受けするが、その腰に提げた剣をこの先で抜くつもりで来られたなら、今すぐお引き取り願おうか。ここより先は月夜の民の有する地だ。もし刃を掲げたまま進むと言うなら、相応の報いを受けてもらうことになる」

 その気迫のこもる言葉と、数多の兵を前にしてなお堂々たるイドラスの姿に気圧され、セント・クロスフィールド軍の先頭の者たちがあとずさりをする。

 そんな彼らの背後から「射て!」という怒号が飛んだ。

 その声をイドラスが忘れるはずもない。

「最前列、屈め! 二列目まで装填、構え!」

「警告はしたからな、セント・クロスフィールドの領主よ」

 そう呟くイドラスに向かって、号令と同時に何本もの弩の矢が放たれる。

 イドラスはその場から飛び退ると瞬時にその姿を白狼に変え、後ろ向きに宙返りをして地面に四本の足を着けると、一声吠えた。

 その声が渓谷のあいだにこだまする。

 それを合図に、谷の上で待機していた月夜の民たちが敵兵に向かって一斉に矢を放った。

 たちまち悲鳴や叫び声があがり、谷の下は混乱状態になる。

 「慌てるな、盾を持て!」という号令が飛ぶが、彼らが装備しているのは木製の大きな盾であるため、隊列が乱れて人々がぶつかり合う中では、それを構えるのすら一苦労だ。

 そこに再度イドラスの遠吠えが響くと、反変異種派の兵士たちの頭上に赤い夕日をさえぎる影が落ちた。それを見上げた者たちが次々に叫び声をあげる。

「水だ!」

 誰かのその声と同時に、魔術で生み出された大量の水が兵士たちを押し流した。

 兵も馬も馬車も等しく水に飲まれ、来た方へと押し返される。

 そして潮が引くように水が引くと、今度は谷の上の東西からほぼ同時に狼の声が響いた。それに続き、三度、イドラスの声が響き渡る。

 すると、水浸しになって地面に倒れたり這ったりしている兵士たちの頭上に、今度はバチバチと帯電の音がし始めた。空は晴れ、雲などないはずなのに、空中に雷の帯ができあがる。それは細い谷のあいだを通る道なりに延び、やがて雨のように兵たちの上に降り注いだ。

 再び悲鳴がそこら中からあがり、落雷の音が立て続けに何度も響く。

 それから数秒後、雷もまた魔法のように消えてなくなると、谷の上から降りてきた月夜の民たちがそれぞれの武器を抜き、逃げ惑う敵のあとを追っていった。その先頭を走るのはユーニスだ。

 彼女は誰よりも速く空を駆け、幾人もの首をその剣ではねていく。

「ユーニス、あまり深追いはするな!」

 隣でヴァルツが叫ぶ。

「完全に戦意を喪失している人や、降参した人も斬ってはいけないよ」

 横からそう口をはさんだのは、谷の東側にいた妖精族のナルロスだ。穏やかな口調に似合わぬ鋭さで、彼は弩を放とうとしている敵兵の胸を弓矢で射貫いた。空中で止まり、矢をつがえて弓を引き、弦を離すまでの速さが尋常ではない。それで正確に心臓を射貫ける彼はまさしく弓の名手だった。

「お見事」

 エンリェードに抱えられて地上に降りたあと、彼と共に駆けてきたフィンレーが言う。

「追撃は彼らに任せて良さそうだ。僕たちは降参した者や怪我人を集めよう」

 すでにはるか先を行くユーニスたちの後ろ姿を見送り、ナルロスはそう言って背後を振り返った。びしょぬれになった道の上には何人もの人々が倒れ伏し、うめき声をあげている。

「魔術合戦は派手で残酷としたものだが、今まで見た中で一番凄惨な光景だな」

 フィンレーはそう呟いて剣を鞘に納めた。

 敵は月夜の民たちと交戦するのはまだ先だと油断し、対魔術用の防御魔法を使っていなかったことも被害が大きくなった要因だろう。戦いの最初に、お互いにある程度敵の攻撃を予測した防御魔法をかけた上で魔術合戦をする普段の戦いとは違い、一方的かつ魔法防御なしの状態で魔術が直撃したことが敵にとっては大きな打撃となった。

「抵抗しない人は助けるから、大人しくしていてね」

 場違いなほど穏やかな口調でそんな風に声をかけながらナルロスが来た道を戻っていく。彼の眷族たちは目についた人々の生死の確認を始めた。

「敵の武器もできるだけ回収したい。純粋に数を減らせるし、矢に毒が残っているなら、研究にも使える」

 エンリェードの言葉にフィンレーがうなずく。

 彼らも手分けして生存者の救助という名の捕虜の確保や武器の回収など、それぞれの仕事を始めた。


 谷と領地との境界線に作られた簡易防壁の向こう側へ戻ったイドラスは、人の姿に戻るとルクァイヤッドに現在の状況を尋ねた。

「どうなった?」

「報告によると、敵はかなり混乱しているようです。ほとんどの者が来た方に戻る形で退却し、それをレディ・ユーニスたち西側の部隊が追撃をしてくれています。追い払うのは彼女たちだけで充分でしょう。ヴァルツがそばにいますから、やりすぎることもないはず。私たちはこのままここで待機し、東側の部隊の者たちが連れてくる捕虜たちの対応をしつつ、次に備えるのがいいかと思います。もちろん、治癒師たちには怪我人の治療にあたってもらいましょう」

 落ち着いたその言葉にイドラスは力強くうなずく。それから一呼吸ほどの間を置いて、彼は険しい表情で「セント・クロスフィールド公は?」と尋ねた。

 それにルクァイヤッドは首を振ってみせる。

「わかりません。ですがおそらく、逃げおおせたかと。誰よりも先に騎兵が一騎、もう一騎を守るようにしながら退却したそうですから。危険を察知した誰かが先導したと思われます。それを狙って射った矢はすべて落とされるか、かわされるかしたようですよ」

「優秀な人材を見つけたようだな。最初の弩の装填命令をしていた者も冷静だった」

「感心している場合じゃないわ。いつもは捕虜にこれ以上戦いに加わらないことを約束する誓約書を書かせた上で、ある程度治療して帰しているけれど、今回は陛下と交わした契約すら平気で破った相手よ。誓約書なんて書かせたところで、兵士を無事に帰したらまた送り込んでくるかもしれない」

 キナヤトエルは珍しく神経質そうに杖の先で地面を叩きながらイドラスにそう言った。

 しかし、彼はいつもの生真面目な口調で「これが私たちの捕虜に対する礼儀だ」と応える。その言葉には、それを変えるつもりはないという意志が込められていた。

 長い銀色の髪を揺らし、キナヤトエルは聞こえよがしに大きなため息をついてみせる。

「治癒師から言わせてもらえば、また怪我をさせるために治療しているわけじゃないんだけど」

「まあまあ。戻ってくると限ったわけではありませんし」

 ルクァイヤッドがやんわりと言いながら両者のあいだに割って入り、「それに」と簡易防壁の向こうへ顔を向けながら言葉を続けた。

「彼らにそれほどの気力と忠誠心があればの話でしょう」

 彼が視線を送る壁の向こう側からは、先ほどまで聞こえていたような叫び声も悲鳴も、怒鳴るような声も聞こえない。日が沈むのと同時にすべてが眠りについたかのように、あたりは冷ややかな夜気と静寂に包まれていた。


 月夜の民と、彼らを人類の敵とする人間たちとの戦いの一日目は、月夜の民の完全なる勝利であったと言える。谷の東西に約三十名ずつ、正面に約二十名と数人の治癒師たちを配置した月夜の民たちのうち、被害を受けたのは毒矢を食らった二人だけだ。対する反変異種派の人間たちは二百人以上の死者を出し、怪我人を含めると三百人を超える被害が出る結果となった。

 早ければ一日か二日で終わる圧倒的な戦いだと聞かされていた彼らは、谷での急襲を予測していなかった大将のセント・クロスフィールドの領主や司令官たちを非難し、団結力や士気に早くもかげりが見えている。

 だが、大事なのは明日からの戦いだ。

 エンリェードとルクァイヤッドは、必ず翌日から人間たちが谷の上を取ろうと兵を出してくることを予想している。その攻撃にどれほど耐えられるかが、この谷での防衛作戦の鍵と言えた。

 月夜の民の王奪還のための捜索部隊はすでに出立しているが、まだ何の報告も入ってきていない。彼らが王を見つけ出し、せめて安全なところまで連れ出すまでは、敵の目を戦場に引き付けておく必要がある。また、今後の反変異種派の活動を抑えるためにも、この戦いで資金や兵力を消耗させておくことには価値があると月夜の民たちは考えているため、戦いを長引かせたいというのが本音だ。

 彼らがそのために目標にしたのは、秋までの約三か月。人間たちがほんの数日で終わるだろうと考えている戦いを、月夜の民たちは三か月続けるつもりで準備をした。

 その初日としては悪くない結果だったが、未だ吸血鬼狩りと呼ばれる者たちが使う毒の解毒薬は開発されていない。研究を続けているロスレンディルのおかげで、症状を緩和し、死を先延ばしにする程度のことはできるようになったが、死を避けるのは現状では難しかった。

 エンリェードが今回の戦いで使われている毒の入った瓶を戦いの跡地で見つけたため、それで研究が進むと思われるが、時間がかかることが予想されている。

 人間たちが休息と防衛に入る夜に襲撃を行う策についても、初日は効果があったとは言い難いものだった。

 この戦いから手を引くことを誓った誓約書に署名し、自分で動ける程度まで治療を受けた捕虜たちと、二百の遺体を積んだ馬車を率いて、もっとも古き月夜の民の一人である妖精族のフィナルデルがセント・クロスフィールド軍の駐屯地へ赴いた際、敵が彼女に矢を放ったことを皮切りに、イドラス率いるフィナルデルの護衛たちが夜襲を開始したが、彼らは大規模な対魔術用の防御壁を展開し、月夜の民たちの魔術による攻撃をほぼ無効化したのだ。

 火矢はある程度効果があったが、火の明かりで位置がばれるため、そこに毒矢をつがえた弩を掃射されては退却するほかなかった。

 翌日からは予想通り谷の上の争奪戦となったが、先にしかけてきたセント・クロスフィールド軍の、太陽光を空間転移して谷の上に照射する大規模魔術を防げたのは奇跡に近い幸運であったと言える。

 何故敵が盾としては強度も取り回しも今一つの粗雑な木製の大盾を装備していたのかを考えていたエンリェードは、敵が一斉にそれを西側の空に向けて日よけのように掲げたのを見てその思惑に気付き、とっさに西側の自軍を覆うようにして死霊の霧を召喚した。屍術の知識を必要とする召喚術との複合魔術であり、普通の霧よりも光を通さないため、強い太陽光に弱い月夜の民を守ることができる。それによって最小限の被害で抑えることに成功した月夜の民たちは、戦闘開始直後に行うはずであった大規模な攻撃魔法の行使を中止し、再度太陽光の空間転移が行われた際の防御用に魔力を温存することを決定した。

 それもあって前日ほどの大きな損失を敵に与えることは叶わず、しかしすでに谷の上に陣取っている月夜の民の方が有利な状況ではあるため、地図上では大きく戦況が変わることのないまま二日目の日中の戦いは終わった。

 前日あまり成果のなかった夜襲に関しては作戦を変更することとなり、採用されたのがエンリェードの提案した平和的かつ長期的に見れば効果があると思われる策だ。それは、キナヤトエルの演奏する竪琴の音色を魔力で増幅した状態で転送し、一晩中不協和音を敵陣のそばで流し続けるというものだった。

 月夜の民と違い、人間には毎日一定以上の睡眠が必要だ。敵軍は夜をその時間にあてているが、それを妨害し敵に休息をとらせないことでストレスと疲労を与えることを目的としている。

 ふざけた作戦だと言う者もいたが、人間の町に住み、人間たちが多く通う魔術学院で睡眠時間を削りながら研究に励む学生がどんな状態になるかを見て知っていたエンリェードは、効果があると確信していたし、人間の医学の知識があるルクァイヤッドも賛同したため、その策が採用されることとなった。

 結果は、長期的に見れば決して悪くはなかったと言える。日を重ねるごとに敵の動きは悪くなり、ミスが増え、それによって内輪もめも頻発し士気が大きく下がった。そして戦いが一週間を超えたあたりからは兵糧をはじめとする物資が不足し始め、兵たちの不満をさらに増大させている。

 地味だが嫌がらせじみた血の流れない夜襲は、敵が同じように音で相殺するようになるまで続いた。

 音への対策がされたあとも月夜の民たちは光や爆音、また火矢などを使って地道な夜襲を続けたため、敵の中にはノイローゼになる者や命令に逆らって逃げ出す者、また傭兵の一部には違約金を払って立ち去った者もいる。その影響は決して小さくはなく、敵は休戦日を設けて昼間に兵を休ませる事態にまで及んだ。

 一日も欠かすことのない夜襲のおかげで、敵は夜には必ず大規模な防御魔術を張り続けなければならず、それが魔力資源の消費を加速させた。

 それにより、敵は減った分の兵力を傭兵で補い、兵糧を調達し、魔力資源を仕入れなければならず、資金が尽きるか月夜の民を倒すかの勝負を強いられる結果となっている。月夜の民の商人であるラトが手に入れた情報により、敵の物資の補給経路をつかんでそれを襲撃し、物資補給を遅らせることができたことも大きい。

 そんな彼らの戦いが二週間を超え、三週目にもなると、セント・クロスフィールド軍が駐屯している近隣の領地で不満が生じ始めているという話が月夜の民たちの耳に届いた。

 敵軍が駐屯している領地は、以前からずっと月夜の民に対し中立の立場を貫いている。セント・クロスフィールド軍の駐屯については話が一応通っており、黙認している状態だが、何週間も続く睡眠不足と一向に終わる気配のない戦い、そして日に日に悪化する食糧事情などに不満を抱えた傭兵たちが領地内の村に行っては、横暴な振る舞いをすることが問題になりつつあった。

 対する月夜の民たちは夜襲以外で自分たちの領地から外へ出ることはないため、隣の領地では月夜の民よりもセント・クロスフィールド軍に対する心証が悪化している。それに目を付け、軍議に加わるようになっていた人間の商人のルースが隣の領民の人気取りを提案し、敵の休戦日にフィンレーとエンリェードがこの戦いによって迷惑をかけていることに対する謝罪を含めた演説を隣の領地で行うと、さらにセント・クロスフィールド軍の肩身は狭くなった。

 しかし、それでも治すことのできない毒矢による被害で着実に月夜の民の兵力は削られ、徐々に戦況はセント・クロスフィールド軍の方へと傾いているように思われた。それを一気に加速させたのは、敵に加勢している吸血鬼狩りの狩人たちが用意したと思われる聖銀網に、ユーニスを含めた月夜の民の十数人が捕らわれたことによる。

 谷の東西に一つずつ放たれた聖銀糸製の網は、谷の上で戦っていた月夜の民たちの魔力の翼を無効化して地面に引きずり下ろした。その網に捕らわれた者たちは本来なら捕虜となるはずだったが、彼らが二度と戻ることはなく、また谷の上に残っていたユーニスの眷族たちが灰になったことから、全員死亡したとみられている。

 これにより、結果的に二十人近くを一度に失った月夜の民たちは劣勢に立たされた。

 エンリェードとフィンレーが西側に加勢し谷の上の防衛を続けたが、敵が駐屯地を分けて交代制で戦うようになったこともあり、勢いを盛り返し始めている。

 もっとも、駐屯地の増設は隣の領主の反感を買い、領内から兵を引き払うよう、数度にわたり抗議が行われた。

 一方、月夜の民を率いるイドラスはこれ以上の谷での防衛は困難だと判断し、先に領地内に住む人間を含めた領民たちすべてに当面の資金を渡して、館の北側にある海から別の土地へ船を使って避難させた。彼ら避難民の受け入れ先の一つには、エンリェードの故郷である黒狼公の領地も含まれている。

 そして月夜の民の領地に残り共に戦うことを決意した者たちを新たに加えて、館での籠城作戦に移った。

 彼らが谷での防衛を放棄したことにより、セント・クロスフィールド軍は谷と領地とのあいだに築かれた簡易防壁をその日のうちに突破し、月夜の民の領地内へ攻め込んでいる。

 しかし、領内の村の住人はすでに避難したあとで、彼らに略奪や占領といった被害が及ぶことはなかった。

 月夜の民たちの籠城は続いたが、王の捜索隊から伝えられた勅令により、領地を手放して人間の歴史から身を隠すことが決定したのは、それから一週ほど経ったころのことだ。

 捜索隊が王の封印場所を見つけ出し潜入に成功したものの、かろうじて可能になった王との交信で伝えられたのは、現状、封印を解いて王が戻ったところで人間たちとの関係が悪化するだけで、月夜の民にとって大した利がない、というものだった。それでもいいから戻ってほしいという声は大きかったが、王自身は時が来るまで封印されたまま待つ意思を示している。

 そして、王の名代を務めるルクァイヤッドと軍の指揮を担うイドラスは、その言葉に従うことを決めたのだった。

 夏は終わりに近付き、敵であるセント・クロスフィールドの領主も多額の資金と軍を消費した上に、隣の領主からは出ていくよう警告を受けてあとのない状態だ。お互い、これ以上戦いを続ける理由はなくなっていた。

 ルクァイヤッドはセント・クロスフィールドの領主に停戦を求め、彼もそれに応じる姿勢を見せている。翌日の朝に協定を結ぶことになっているが、月夜の民は誰もセント・クロスフィールドの領主がそれを守るとは信じていなかった。

 よって、夜から朝にかけて、戦う力のない者から順に戦場を離れることが決定している。その筆頭は、月夜の民の戦いに資金援助をした人間の商人、ルースだ。そして、彼がこの地で多くの時間を共に過ごしたのは、エンリェードとフィンレーの二人だった。

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