語られぬ記憶
これでこの物語自体は終わりですが、元々未完のままこちらに持ってきたので、文章の推敲は充分にできておりません。
また、七話目の「戦争」に関しては内容をかなり省略しており、プロットに書いたメモに近い状態のままとなっております。
本編で少し触れられている演説のエピソードやユーニスが捕まるエピソード、エンリェードが片角を失うエピソードもそこで描かれることになっていますが、作業の手が及んでおりません。
よって、作品自体は「未完」とさせていただいております。
その後、彼らの記録は人間たちの綴る歴史には残されていない。
フィンレーの言った通り、彼は家系図においても一族の歴史を記した書類においても、幼い頃に誘拐されてそのまま死んだことになっている。
一度は母の懇願で領地に戻ることを許されたが、友人の影響か魔術を学び、それによって騎士であった父親や一族の反感を買ったため、結局彼の記録が表立って歴史に残されることは二度となかった。
最後は父親に命じられて赴いた戦場で戦死したとごく一部の者たちのあいだで囁かれたが、実際のところは父親の手の者による暗殺だったのではないかと独自に調査をしたエンリェードは考えている。
彼が分け与えた血をフィンレーがどうしたのかは不明のままだ。何かの魔術に使った痕跡だけは見られたが、その魔術の全貌はエンリェードにも読み解くことができなかった。わかったのは、フィンレーが屍術に傾倒していたということだけである。
そしてエンリェードは戦場で得た親しい二人の友と別れて以降、好んで孤独を友とした。
彼とただ一度きりの召喚契約を結んでいた竜は、死に場所を得て月夜の民の領地跡に伝説を刻んだが、それは常に恐怖と共に語られている。
かつて別の地で人食い竜として恐れられていた憎悪の化身であったことを知る者はなく、他種族とはいえ月夜の民の存続に貢献したという戦果によって浄化されたその魂が、長らく黒狼公の領地を陰ながら守護したことを知る者もない。
召喚門によって生者の世界に這い出た死霊たちは、幸いにも雨のおかげで日光による消滅を免れたが、そのことをエンリェードが知るのはずっと先のことであり、それまでのあいだ彼は他者の魂を砕いたという罪を自ら抱えて生きることとなった。
恋人の死に目には間に合わず、彼のためにわずかに残された遺品を受け取ったことを最後にその足跡は人間の歴史上から消えている。
片角をはじめ、エンリェードがかの戦争で失ったものは多く、得たものは少ない。
だが商魂たくましい人間の友人と、同じく人間でありながらどこか自分と似た境遇を持つ騎士の友人を得られたことはもっとも得難い幸運の一つであり、それらはあの戦争においても彼の人生においても、彼が得た中でもっとも価値あるものの一つであると言えた。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
エンリェードの恋人の話はこちらになります→https://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/2470228/
エンリェードがルースと再会する話は、現状Pixiv小説にて「叶わぬ呪いと持たざる祝福」という題名で公開されております。
この作品を書く前に書いた短編であり、当時はルースの名前が決まっていなかったため名前は出ておりません。
人間の歴史から姿を消したエンリェードがその後どこで何をしていたかという話は、屍師シリーズ本編でお読みいただけます。
一話目はこちら→https://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/2331537/
エンリェードに関しては、この話に関連するエピソードやさまざまな話がネタとして存在しますが(何せ長生きなので)、作品として形になっていないものも多いです。
フィンレーがその後どうなったか、という話についてもプロット未満のものが存在しますが、作品としては書かれていません。
心の赴くままに少しずつ書かれていくかと思いますので、もし興味を持ってくださる方がいらしたらシリーズをチェックしてみたり、Pixiv小説のシリーズの方をご覧いただければと思います。




