表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

シスコン兄、妹を追って異世界へ行く。

作者: 色葉みと

 俺にはたった一人の家族である妹がいる。


 まあ、父さんの再婚相手の子どもだから、妹といっても血のつながりはない。

 その父さんも新しい母さんも、交通事故でいなくなってしまったけど。

 それから俺たちは、父さんたちが遺してくれた財産でなんとか生活をしている。




「——ふんふんふーん」


 俺は今、朝ご飯を作っている。

 今日のメニューは、ご飯、大根とにんじんの味噌汁、だし巻き卵だ。

 鼻歌を歌うくらいには出来が良い。特にだし巻き卵が……!


「……よし、できた」


 きっと美味しそうに食べてくれるんだろうな。……うん、楽しみ。

 我ながら弾んでいると思う足取りで妹、紗奈(さな)を呼びに行く。


 ()()が起こったのは、部屋のドアをノックしようとした時。

 突然、ドアの隙間から白い光が溢れ出た。


 な、なにが!?


「——にぃちゃん!」


「っ! 紗奈!?」


 慌ててドアを開けたが、そこに紗奈の姿はない。

 ど、どういうことだ……? 紗奈、は……?


 ふと、ひらひらと舞う紙が目に入ってきた。

 その紙には日本語で何か書かれている。

 これ、紗奈の文字だよね……?


伊織(いおり)兄ちゃんへ

 どうやら私は異世界に召喚されたらしいです。

 あれから、というかそっちの世界ではさっきかな? ……まあ、こっちの世界では一年が経ちました。

 やっと色々落ち着いてきて兄ちゃんに手紙を出せるようになったんだけどさ。なったんだけど……。

 兄ちゃん、私、そっちに帰れないっぽい。

 ……この一年、帰れるかもっていう理由で頑張ってきたんだよ。ずっと、ずっと頑張ってきたんだよ。

 でもさ、詳しく聞いてみたら、帰れないって……。

 そっちの世界からこっちの世界に来ることはできるけど、その逆は無理だって……。

 手紙を送るのも、これ以上は無理だって……。

 だから、これが最後になると思う。

 何も返せなくてごめんね。今までありがとう。

 ……兄ちゃんの作ったご飯、また食べたかったな。

 紗奈より』


「……え」


 静かな部屋に俺の間抜けな声が響く。

 何も考えられなかった。考えたくなかった。


 ……でも、考えないと。紗奈が悲しんでいる。


 だけど、だけどどうすればいいんだ? 普通に考えても考えられないようなことだよね?

 ……うん? 待てよ。『そっちの世界からこっちの世界に来ることはできる』?

 つまり、一方通行だけど紗奈がいる世界には行けるってこと?


 そう考えついた時、また別の紙がひらひらと落ちてきた。

 それには、見たこともない文字が書かれている。でも不思議と内容は頭に入ってきた。


 ノエルと名乗る差出人は、紗奈のために異世界に来ないか、と提案してきていた。

 もちろん、注意事項も書き連ねてある。

 その中でも一際目を引くのは、一度異世界に行ったら二度とこちらには戻って来られないということ。


 紗奈がいる世界で生きるのか、紗奈がいない世界で生きるのか。

 そう考えたら結論はすぐに出た。


 俺は異世界へ、紗奈のいる世界へ行く。


「……〈異世界転移〉」


 ノエルさんの手紙に書いてある通り、文字をなぞりながら呟く。すると周囲が光出した。

 眩しさに思わず目を瞑った瞬間、少しの浮遊感を感じる。


 もしかして、異世界に着いた……?

 おそるおそる目を開けてみると、驚いた顔をした紗奈と目があった。


「……いおりにぃちゃん?」

「……うん、兄ちゃんだよ。紗奈。妹を悲しませたままなんて、兄ちゃん失格だろ?」


 俺はにこりと笑って言った。




 まさか、妹を追って異世界に行くとは思わなかった。

 人生は何が起こるのか分からないとはまさにこのこと。

 ……それにしても、我ながらシスコンだな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 題名で結末が判っていても予想していなかった物語が展開していてとても面白かったです。 二千文字にも満たないショートショートながら、伊織と紗奈の過去や手紙の内容等の物語中に散りばめられている情…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ