表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/31

第24話 善行はバレずに

「………………ーー」


 河原で倒れた人たちの治療を始めて数十分が経つ頃、チェリの顔色が悪くなってきた。


「大丈夫か? 少し休んだら……」

「ーーー」

「……でも」


 ボウガの言葉にチェリは首を振って、次の治療に取り掛かり始める。


 夢中で人を運んできたが、チェリの近くにはあっという間に三十人以上の患者が集まった。

 ここにいる人間から探しても、チェリ以外には『解毒の魔法』を使える者がいなかった(いても名乗り出なかったのかもしれない)ので、この人数の治療は全てチェリがやらなければならない。


 ――――義務ではないから、無理をする必要はないんだけど……。


「おい、早くしてくれっ……さっきから待っているんだっ……!」


 治療を待つ者の中に、治すのが遅いと文句を言ってくるのが出てくる。そういう人間はほとんどの場合が軽症である。


 ボウガは必死に治療しているチェリに代わって、その人間の方を向いて口を開いた。


「……少し待っててくれ。この子は、あんたより重篤な人から治療してる」

「へ……あ、は、はい……すみません」


 善意で治しているチェリに対しての心無い言葉だ。ボウガの苛立ちが表に出ていたのだろう。言われた人間は一言で静かになった。


 ――――結局、オレよりも二人への負担が多くなってしまった。


 無意識ではあるが、最初に飛び出そうとしたのはボウガである。そこにチェリとアロも加わり、三人で河原にいた旅人たちを救援に行った。

 だが現在はチェリが治療をして、アロが複数を引き連れて川を調べている。ボウガがやれることは、チェリの手伝いとして病人を運ぶだけ。


 先ほどから、明らかにチェリの顔からは疲労の色が現れている。ボウガが休憩を提案しても、意地でも魔法を掛け続けた。


 《みんな助けると、兄様にも言いました。だから、すぐに私が倒れたら笑われてしまいます》


 そう言って強気に笑う。


 正直、ボウガから見て、チェリは大人しくて幼くか弱い印象があった。だが、チェリの行動を見ていると、魔物から逃げずに結界を張ったり、貴族が求婚しに来てもはっきりと拒絶もできている。


 ――――子供扱いしてしまったけど、他よりもずっとしっかりしてる。


 彼女に対する評価を改めなければならないと思った。将来は本当に『女王陛下』と呼ばれるかもしれないのだ。


 チェリが女王になれば、きっと【精霊族(スプライト)】はもっと良くなる。そう思えてならない。



 ――――でも、その時には……オレはもう『婚約者』じゃなくなるんだなぁ。


 一方、ボウガは【祭典】が無事に終われば御役御免だ。記憶を取り戻して元居た場所に帰ることになる。


 おそらく庶民である自分は、女王となるチェリとは気軽に会える仲ではなくなるはずだ。それが本来の形であるのだ。


「っ…………」


 そこまで考えた時、胸に何とも気持ち悪い感覚が湧いてくる。何故か、目の前にいるチェリを直視できない。


 変な気分にふいっと下を向くと、チェリが手を止めて覗き込んできた。急に俯いたので心配したようだ。


「ーーー……?」

「え? いや、なんでもない……大丈―――」

「大丈夫ですか?」


 掛けられた声に顔を上げると、他の旅人らしき人たちが立っている。


「あの、良かったら……これ。水とドライフルーツ。水は元から持っていたものだから、飲んでも大丈夫よ」

「町から毒消しの薬草を分けてもらってきた。顔が真っ青だ。魔力不足になる前に、お嬢さんは少し休みなさい」

「そうそう。僕たちにもできることは言って欲しい」


 チェリが一人で頑張っている姿に、感化された者が出てきたのだ。


 申し出に少し困ったようにチェリがこちらを見てくるので、ボウガは笑って頷いた。


「ーーー……?」

「うん。少し休ませてもらってから再開した方がいい。オレはアロの方を手伝ってくるから」

「ーー……」

「すぐ、戻ってくる」


 他人の目が多くあるなら大丈夫だろうと、アロがいる川辺へと駆けていった。




 …………………………

 ………………




 滝つぼの近くでは数人の大人のエルフが、各々の杖を構えて川の水を操作するところだった。


「やっぱり何かあるけど……魔法が弾かれるな……」

「数人で()()()()()()いけるんじゃないか?」


 大人エルフたちは杖を重ねるように併せ、滝つぼへ向けて光を発する。川の水は流れとは別にバシャバシャと水を跳ねされるが、すぐに滝の勢いに消されてしまう。


 その大人エルフの少し離れた場所で、アロがその様子をじっと見詰めて立っていた。


「アロ……!」

「あぁ、遅かったな。チェリの方はどうした?」

「数人の手伝いが出てきてくれた」

「ふん。やっとか……」


 アロは面白くなさそうに返事をする。

 ボウガが来た様子にも、目の前の光景にも不満そうにしているようだ。


「もう少し、できると思ったんだがな……」

「なんか……手こずってる?」

「そ。見ての通り、魔力で水を持ち上げるのも一苦労してる」


 滝つぼの中の『原因』を取り出そうとしているが、水圧と『原因』が放つ何かのせいで苦戦しているそうだ。


「滝の中に何かあるってわかった途端に、自分たちがやるっていうから見守ってたけど……ボウガ、お前はそこにいろよ」

「うん……」


 はぁぁ〜……と深いため息をついて、アロはボウガをおいて大人たちの方へと歩く。


「あっ! 危ないぞ!」

「坊ちゃんは下がって……」


 アロを見た大人エルフたちは口々に危ないと警告するが、アロはそれを無視して川の縁に立った。


「いいよ、おじさんたちはそのまま、杖構えて魔力を送ってて。俺は()()()()()にする」


 片手を振り、アロが白い杖を出現させた。

 ボウガは何度か見ているので、すっかり馴染みになっていたが…………


「「「うぉおおおっ!?」」」


 これを見ていた周りの人間から、驚きや興奮が入り交じった歓声があがる。


「すげぇ。あの子、『ソウルアーム』持ちだよ……」

「……初めて見た」


 ――――『ソウルアーム』……?


 アロの持つ『白い杖』をそう呼んでいる。


 ヒュッとアロが杖を川へ向けると、滝つぼで少しだけ盛り上がっていた水がザバァッと大きな音を立てて水柱になった。


「ふっ……」


 アロはそこから目を離さずに静かに息を吐く。


 同時に周りの温度が急に冷たくなり、持ち上がった水がてっぺんからパキパキと凍り始めた。

 段々と氷面は川の方へと広がり、滝つぼの周辺と川の一部を完全に凍りつかせた。


「川が凍った……!?」

「ねぇ、『水のエルフ』ってこんなことできるの?」

「いいや……『氷点下』の魔法は、エルフとは別の魔力だよ」

「どこで覚えたんだ?」

「へぇ、若いのに大したもんだな」


 周りの人間がヒソヒソと話す声が聞こえ、ボウガは思わず聞き耳を立ててしまう。


 ――――魔法のことはわからないけど、他の大人たちよりは凄いのか。でも…………


 ボウガは静かに他の人間を見回した。

 周りの反応を見ると、驚いている者の中に明らかにアロに不審な目を向けている者がいる。その人間に注意をしながら、ボウガはアロの方へと近付いた。


「これを、どうにかする?」

「あぁ。()()()()()()を取り出す。よいしょ……」


 アロは縁から川へ降り、完全に凍った部分を歩いて氷柱を杖の先で軽く叩く。


 パキパキパキパキ…………


 氷の柱に細かい亀裂が走り、シャララ……と砂が崩れるように細かく砕け散った。


 カツン。コロコロ……


 砕けた柱から何かが落ちて転がった。


 それはリンゴくらいの大きさで、黒に近い赤色の水晶玉のようなもの。


 たぷん。

 液体なのだろうか、球体の中で赤黒いものが動く。


「なんだコレ……?」


 杖の先で球体を転がして川から河原へと引き上げ、アロも凍った川から岸へあがった。


「川、戻すから…………よっ、と」


 杖を振ると、ザバッと氷が一瞬にして水へと変わる。そして、滝と川は再びいつものように流れ始めた。滝つぼをしばらく観察したが、今度はおかしな色は出ていないように見えた。


「凄いな、アロ……」

「褒めるなら後でな。とりあえず……俺たちは少しずつ下がる。チェリが一段落ついてたら、みんなでここから離れるぞ」

「わかった」


 どうやら、これ以上は関わらないことにしたいらしい。解決した時にすぐに離れるつもりだ。



 アロは白い杖を仕舞うと、フードを目深に被り直す。前に出ていく大人たちとは逆に、球体から離れるように後退りをした。

 ボウガもアロに習って下がろうとしたが、ふと、嫌な予感がして思わず球体の方に目を向けた。


 球体の中の赤黒い液体が妙に気持ち悪い。


「あんまり、近付かない方が…………」


 注意をしようとしたが、みんなは珍しいものへと集まっていく。気付けば、地面に転がる赤黒い球体を大勢が囲んでいた。


「なんだろ、コレ……」

「嫌な感じがする」

「……自然のものじゃないな」

「触っちゃダメだぞ!」


 球体から毒が出ていたのなら、触ってはいけないのは当たり前だろう。だから、これがどういうものかが全然分からず、文字通り手も足も出ない。


「とりあえず、町の責任者に……」


 誰かがそう言った時だ。


 パキャンッ!


 突然、球体が真っ二つに割れて、中の液体が地面に広がった。


「うわぁっ!!」

「きゃああっ!!」


 見ていた群衆から悲鳴があがる。広がった液体が、爆発したかのように膨らんだのだ。


「な、なんだアレ!?」


 液体が広がったまま、黒い塊になってゴソゴソと動く。ズシン! と、太い爪のついた脚が地面についた。


『グルルルルッ……』


 唸り声が聞こえ、全員がそれが大きな『黒い魔物』であると理解するのに数秒掛かった。


「ま、魔物だーーー!?」

「うわぁあああっ!!」


 認識した途端、集まっていた人間たちは逃げ出すか、その場にへたり込んでしまう。

 一瞬で、河原は再びパニックに陥ってしまった。



「…………これ……」


 逃げる人たちの中、ボウガはその魔物を見上げて呆然とする。

 それは恐怖からではなく、その『黒い魔物』に見覚えがあったからだ。


「……チェリと会った時にいた奴だ」


 狼のような、真っ黒で大きな『魔物』。

 あの時は三体いた。


「で、『デスハウンド』だっ!!」


 誰かが叫んだ時には、ボウガは腰から剣を引き抜いて『魔物』に斬りかかっていた。

 反射的に、この魔物は倒すべきものだと身体が動いたのだ。


 ズシャアッ!! ドスッ!!


 魔物が動き出す前に、その首は簡単に切り落とされる。たった一撃で、魔物は動き出す前に仕留められた。



「……『デスハウンド』?」


 呟きながら、ボウガの手は勝手に剣の血振りをして鞘に収めていた。



 “これは『デスハウンド』という人工の魔物だ。こいつを一人で仕留められなければ、一人前とは言えないな”



 いつかのように、また誰かの声が頭の中で再生される。

 その憶えのない台詞に、ボウガの全身から血の気が引いた。


 ――――オレは、この魔物の倒し方を知ってた。何回も倒したことがある気がする。


 目眩がしてふらつきそうになった。


 倒した時の手応えを知っている。

 それも何度も……何度も……何度も。



「……おい、ボウガ!」

「っ……!?」


 バシンッと背中を叩かれて我に返った。


「行くぞ。あとは河原にいる奴らに任せる!」

「あ、うん……」


 アロに引っ張られて、二人揃って慌てて駆け出す。


「ちょっと、あんたたち……」

「ごめん! 俺たち急いでるからーっ!!」


 引き留めようとする人たちを振り切り、チェリがいる方へと向かって走った。



 …………………………

 ………………



 チェリは治療が終わっていたようで、誰にも魔法を掛けていない。


「ーーー!」


 走ってくる二人に気付いて手を振っている。顔色も先ほどよりもずっと良い。


「治療は?」

「ーー!」


 大きく頷くチェリの顔は晴れ晴れとしていて、横になっている者たちも安心したように眠っている。


「じゃ、あっちに戻るぞ。ボウガ!」

「うん。ちょっと、ごめん」

「ーっ!」


 ボウガはチェリを抱き上げ、アロと一緒にその場から離れた。

 引き止めようとする声が聞こえたが、三人はすぐに森の中から滝の上へと登っていった。



「…………今日は休む。出発は明日で、下が落ち着いていたら!」

「うん」

「ーー」


 まるで悪いことをしたかのように、彼らはもう一日、崖上での野営を強いられてしまった。



 …………………………

 ………………



「あれー? あの子どこいったよ?」

「魔物倒した兄さんもいないよ」

「あの女の子にお礼してない!」


 河原では急に消えた三人を探したが、誰も見付けることはできない。


 その日、キャンプ場と町は日が落ちるまで騒がしかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ