第13話 一人前
賑やかな町の通り。
真ん中には馬車が行き交い、両端には様々な人々がどこかへ向かって歩いていた。
「…………珍しいのはわかるけど、あんまりキョロキョロしない方がいいぞ?」
「え? あ、うん……」
「ーーー……」
ついつい、愉しげな方によそ見をしながら歩いていたら、アロに「田舎者だとバレるぞ?」と呆れられてしまって現在に至る。
別に自分たちが田舎者で恥ずかしい……というより、防犯対策のために態度には気を付けろと言っているようだ。こんな人混みでは、田舎からのお上りさんを狙ってくる犯罪者も多い。
メインストリートを通り、町のあちこちを見て歩く。
やはり、一番喜んで見ているのはチェリで、アロやボウガを引っ張っては楽しげに歩いている。
「悪いけど、今日はチェリに付き合ってくれ」
「それは別に構わないけど……」
「……助かる」
何故かアロがそう言ってきたことに首を傾げたが、ボウガは黙って二人について行った。
――――外部って言うけど、二人は王族なんだよな。
一応は二人の護衛役なので、はしゃぐチェリを見失わないように努め、変な輩が近付かないよう注意を払う。
だが、ギルドでの騒動以外、町は至って平和であると思えた。
「ーーー?」
「うん。オレも楽しいよ」
途中でチェリに二人が楽しめているのか? と質問されたが、ボウガはチェリを見ているだけでも楽しめた。
露店を見付けては、うっとりとアクセサリーを眺めている様子に和んでしまう。結局、買うのは諦めたようだが、それでも楽しそうに通りを進んでいった。
「ーーーっ!」
次にチェリがキラキラした目をして指差した先は、ちょっとした広場になっていた。
噴水の前では何人かの【獣人族】が身体を張って芸を見せている。いわゆる、大道芸というものだ。
「ーー……?」
「う〜ん……じゃ、少しだけな……」
「ーーー♪」
基本的に、アロはチェリにお願いされると弱いらしい。
兄妹は人混みの後ろへと歩いていく。ボウガも二人に続いて広場へと移動した。
――――……けっこう面白いなぁ。
いざ観に来てみると楽しげな音楽に乗せて、ウサギ耳の女の子が大きなボールの上で跳ねたり、犬顔の男性が何個ものお手玉を操ったりと目まぐるしく動いている。
ボウガがちょっと感動して観ていると、隣りでチェリがぴょこぴょことジャンプをしていた。
「…………見えねぇな……」
アロも不機嫌そうに呟く。
そうなのだ。群衆の後ろで、背の高いボウガは簡単に観られるが、背の低い兄妹はすっかり埋もれてしまっている。
「ーー〜……」
一番観たがっているチェリが涙目になっている。正直、可愛いが少しかわいそう。
――――せっかくなら、観せてあげたいな。
「チェリ、ちょっとごめん」
「ーーっ!?」
ひょいっ。
ボウガはチェリを抱えて、自分の肩近くへと座らせる。
「ほら、これなら見えるだろ?」
「ーーーーっ!?」
「全然、重くないよ。軽いくらい」
先ほど、ボウガは兄貴オークを頭上に持ち上げたのだ。チェリなど子猫を抱っこするくらいのものだろう。
《あ、ありがとう……》
「あぁ、うん」
ほんの少し頬を赤らめて、チェリがお礼を言って前方を見た。
チェリが嬉しそうに観ているので、自分の腕力が強いと気付けたことだけ、オークたちにほんの少し感謝する。
「お。良かったな、チェリ」
アロが下からチェリを見上げて言う。それを見て、ボウガは少し考えていた。
「…………アロも乗る?」
「やめろ、こっち見んな。俺まで担ごうとするんじゃない。恥ずかしいわ」
「二人くらい、いけそうだけど……」
「いらん。俺はこっちがあるし」
アロが白い杖を出現させる。そして、それを横にして腰掛けると、杖はふわりと浮いてボウガの身長よりも高く上がった。
「飛べるんだ……それ」
「少しだけな」
「へぇ、魔法って凄いなぁ」
どうやら、アロの白い杖は短い間だけ低空飛行ができるようだ。魔法というものは便利であると感心する。
三人はしばらく、町の人々と一緒に大道芸を楽しんでいた。
…………………………
………………
「チェリ、そろそろ休もうか。店、ここで良いか?」
「ーーー!」
そこは、いかにも女の子が好きそうなカフェだった。
「ーー、ーーーっ!」
「そうそう。チェリが前に来たがってた所……」
そうとう嬉しかったのか、チェリはアロにぎゅーっと抱きついてお礼を言っている。しかし、自分で言っておきながら、アロの方は何故か遠い目をしていた。
…………………………
………………
「…………なぁ、アロ?」
「なんだ?」
「オレたち……浮いてないか?」
「……言うな」
そんなに大きくない、可愛らしい装飾の店内。丸いテーブル席に座った男二人は、先ほどから極端に口数が少なくなっていく。
思った通り、店内は若い女の子の客でいっぱいで、男はボウガとアロの二人だけである。
まだ、エルフのアロは中性的な顔立ちなのでそれほどでもないが、腰にガチャガチャと武器を携帯した旅人のような風貌のボウガは異質感極まりない。
「ーーー……?」
目の前で絶望したように静かになった二人に、メニューを見ていたチェリは首を傾げながら心配をしてきた。
「え……あーあー、気にすんな。ほら、好きなもん頼んで良いぞ。チェリの“誕生日祝い”なんだから」
「誕生日? チェリの?」
「実際は三日前だけどな。当日、祝ってやれなかったんだよ」
「三日前………………あっ」
あることに気付いて、ボウガは二人の顔を交互に見る。
「もしかして……オレが寝込んでたから、チェリの誕生日を祝えなかった……?」
三日前といえば、アロたちの家には倒れたボウガが寝込んでいた時だ。そんな奴がいる時に、自宅で誕生日パーティーなどできるはずもない。
しかし、その言葉をアロが鼻で笑う。
「バーカ。お前がいなかったら、チェリは誕生日もできなかったかもしれないんだぞ?」
「ーー、ーーー」
魔物に襲われたチェリも、うんうんと大きく頷いた。
「でも……」
「少し遅れただけだし。それに…………ここや村で誕生日を祝うのも、簡単にできなくなるかもしれないからな」
「ーーー……」
「あ、すいませーん! 注文お願いしまーす!」
店員を呼んで、チェリの好きな物を頼んでいる。
これから村を離れなければならないし、たまには町で楽しんでもいいと思っていたらしい。
…………………………
………………
「お待たせ致しました」
少し待つと、スラリとしたエルフのウェイトレスが、テーブルに飲み物とケーキを次々に並べる。
紅茶とシンプルなイチゴの乗った真っ白なケーキ。そのセットが三組だ。
「え? オレも?」
「チェリに付き合ってくれって言ったろ。誕生日祝いなんだから」
「ーー、ーー……」
誕生日祝いと言う割には、兄妹の顔が曇ったように見えた。
特に、アロは無理やり付き合っているように思える。フォークでケーキをつついては、ちょっと苦笑いしているからだ。きっと、本来は甘いものが苦手なのだろう。
「ーーー♡」
チェリは嬉しそうに食べている。
「お前…………甘いの平気か?」
「んー、どうだろう……」
記憶が無いせいか、あまり自分の好みについては考えることはなかった。だがケーキを目の前にして、物凄く食べたいとか、逆に嫌いだとかは浮かんでこない。
ただ、チェリが笑顔になっているので、一緒に食べてみたくはなっている。
――――あ……けっこう美味い……
ひとくち食べて、意外に自分もいける口だと思った。
「うん、美味しい。誕生日おめでとう。チェリ」
「ーーー……♪」
チェリはちょっと照れくさそうにしながらも、祝いの言葉にニコニコと喜んだ。
しかしここで、ボウガにはある疑問が浮かんだ。
「……えっと、そういえばチェリは何歳になったんだ?」
「ーーー」
「………………え?」
――――今、聞き違いじゃなければ『14才』って……
返事を聞いて固まったボウガに、アロが怪訝な顔をして尋ねる。
「ボウガ、怒らないから言ってみろ。お前…………俺たちのこと、何才くらいに見てた?」
「……………………」
額から嫌な汗が少し出た。
「えっと…………チェリが10才くらいで、アロが12才くらいかな……って」
「あ゛?」
“怒らない”と言ったのに、アロが露骨に不機嫌な顔になった。チェリも驚いて目を見開いている。
「昨日から、なんとなーく……お前に子供扱いされてる気はしてたよ。さっき、大道芸の時に簡単にチェリを抱き上げてきたから、そうなんだろうなとは思ってた。ついでに、俺は今年で『15才』な?」
「15っ……!?」
「はっきり驚くな! なんか腹立つ! まぁ…………お前は【クリア】だし、他の【種族】の年齢なんて、よく分からないもんか……」
アロは大きくため息をついた。
「特に【精霊族】は人種によって見掛けもだいぶ違うから、仕方ないとしといてやる」
エルフでは14、15才になると一人前と扱われることが多いという。
「だから今回、王都へ呼ばれたのも一人前の王族になった証拠でもある。実際に五年前の【盟友の祭典】には、正式な王族として呼ばれてないからな」
「そういえば、その【盟友の祭典】ってどんな感じなんだ?」
先ほど、ギルドでは詳しく聞けなかった旅の目的である。
「五年に一度、都で行われる大々的な『お祭り』と思ってくれ。今回は兄妹そろって、主催者側で参加するようにお達しが来ちまった……」
一人前と認められた二人は、今回はその祭典とやらに王族の義務として参加しなければならない。
「【盟友の祭典】には【精霊族】や【獣人族】の要人だけじゃなく、【魔神族】の王族や貴族も参加しに来る。国際交流の大事な行事だ……」
ますます、兄妹の顔色が悪くなった。本当は参加したくない……というのが丸わかりである。
「でも、お前に護衛は頼むんだし、道中は快適になるのだけが救いだな。ほら、とりあえずケーキ食え!」
話題を変えようと、アロが無理に笑って言う。ついでに、やっぱり甘いものが苦手で、食べられないからとケーキを二人に押し付けてきた。
ケーキを食べながら、ボウガはチェリの方をチラリと伺う。
――――やっぱり、子供扱い……してしまっていたなぁ。
最初に見た時、ボウガはチェリのことをキレイな子だと思ったが、それには“子供”だという気持ちも入っていたと思う。どこか、保護者のような目線でいたのだ。
――――さっき抱えたのも、チェリたちが子供だと思ったからやったことで……
もしも、さっきの行動を今やれるかというと……そう考えたら、気恥ずかしさが込み上げてくる。
「ん? どした?」
「ーーー?」
黙り込んだボウガに、チェリが小首を傾げている。その仕草が今までにないくらい可愛く見えた。
「な、なんでもない……お茶が熱かっただけ……」
やってしまったことを思い出し、カァッと顔が熱くなってきた。




