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愛しの侯爵様は、究極の尽くし型ロボットでした  作者: 矢間カオル


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95話 外伝『あなたの腕の中で33』緊急事態

翌日の夕方、仕事を終えたエドワードは、早速ビクターに会いに学生寮に行った。


「ビクター、手紙は来たか?」


「ああ、届いたよ。今、読んだところだ。ほら、受け取れ。」


ビクターが差し出した手紙を、エドワードは奪うように手に取り、その文字を目で追う。


手紙には、カノンがアデルと出会った日から、病院の開業までが、事細かく書かれていた。


町の人々は親切で、準備中にもアデルに気さくに話しかけてくれたこと、受付担当を一人雇ったこと、準備は順調に進み、無事に開業ができたこと、アデルは使用人を雇わずに一人暮らしを始めたこと、一人でも脱ぎ着しやすく、動きやすい方が良いと言って、服装は質素なブラウスとスカートにしていること、アデルの家で、彼女の手料理のオムレツをごちそうになったこと、最後にそれがとても美味しかったと書かれていた。


「アデルは貴族令嬢なのに料理もできるのだな。ああ、俺も食べたい・・・」


カノンの手紙を読んでいると、まるでアデルが目の前に現れたような錯覚を覚える。


ともかく、アデルが無事で毎日元気に過ごしているのだとわかって、エドワードはほっと胸を撫で下ろした。


カノンの手紙は三日毎に届くので、エドワードは手紙読みたさで、三日毎にビクターを訪ねることになった。




二ケ月が過ぎた頃。


「兄上、アデル嬢が王都からいなくなってずいぶん経ちますが、兄上は大丈夫ですか?」


フィオナとの婚約発表が無事に終わってウキウキしているレオナルドが、エドワードに声をかけてきた。


いかにも心配しているような言葉を選んでいるが、口調は、ほれ見たことか・・・と言いたそうな口ぶりである。


「今、アデルは他の場所で働いているだけだから、問題はない。手紙で彼女の様子も知ることができるし、お前に心配されるようなことはないぞ。」


「おや、アデル嬢から手紙が届いているのですか。」


レオナルドは意外そうな顔をする。


王宮にアデルの名前で手紙が届けられたことは聞いていない。


「あ、ああ、そうだ。」


アデルから直接手紙が届いているわけではないが、まあ、そう言うことにしておこう・・・。


「兄上、フィオナを返して欲しいと言ったって、絶対に返しませんからね。」


「絶対に、それはないから安心しろ。」


王都は今、レオナルドとフィオナの婚約発表で大いに盛り上がっている。


新聞に二人の婚約がでかでかと報じられ、『アカデミーが育んだ世紀のラブロマンス』だの『権力よりも愛を選んだ麗しき令嬢』だの、『政略結婚に屈しなかった勇気ある侯爵令嬢の物語』などと、大見出しが踊っていた。


とりわけ民衆には『政略結婚に屈しなかった勇気ある侯爵令嬢の物語』という見出しが大いに受けて、フィオナとレオナルドをモデルにした同名の演劇まで公演されるようになっていた。


かなり現実からかけ離れた内容であったが、ドラマチックに演出された恋物語に、観客は涙を流し喜び感動して拍手喝さいを送るのだった。


演劇については、レオナルドは、一度フィオナに確認したことがある。


「あなたのことをモデルにした演劇が大流行りですが、もし、嫌なら今すぐに公演を中止させますが?」


「なぜそのようなことを?」


「あなたは目立つことを好まず、そしてとても奥ゆかしい女性だ。だから民衆に面白おかしく語られることを嫌がっているのではないかと思ったのです。」


「まあ、私のことを心配してくださったのですね。私は大丈夫ですよ。民が喜んでくれるのならそれで良いと思っています。」


「ああ、あなたは本当に心優しい人なのですね。」


フィオナの答えを聞いて、レオナルドは感動し、ますます彼女のことを愛おしく思うのだった。




「殿下、ビクター様がお越しになられました。」


執務室で仕事中のエドワードに、侍従がビクターの訪問を告げた。


毎回手紙を読むために、エドワードが学生寮に赴くのだが、ビクターが来るのは初めてである。


つい、昨日もビクターを訪ね、アデルが妊婦の出産に立ち会い、無事に元気な男の子を取り上げたことを手紙で読んだばかりだ。


「何か急用かもしれないな。今すぐここに通してくれ。」


執務室に案内されて入って来たビクターは、いつも冷静沈着な彼に似合わず、少し焦っているように見えた。


「ビクター、いったいどうしたんだ。」


「さっき、この手紙が届いた。」


ビクターが手にしている封筒は薄紅色の封筒だった。


普段白色の封筒を使っているが、薄紅色の封筒を使う場合は緊急を要する内容に限られており、早馬を乗り継ぎ、この国には一日で届くようになっている。


この封筒が使われていると、手紙の内容に国家を揺るがす重要機密が含まれることもあるのだ。


「いったい何が起こった?」


エドワードはドキリとしてその封筒を受け取り、急いで手紙を取り出し読み始めた。


「ビクター様、取り急ぎ報告いたします。本日夕方、ディラン・エルボードと名乗る子爵家令息がアデル様を訪ねてきて食事に誘いました。アデル様は断ろうとしたのですが、令息はアデル様のご両親の話を餌に誘い出し、二人は高級レストランで夕食をおとりになりました。話の内容までは聞き取れなかったのですが、アデル様は楽しそうに笑っておられました。スぺロタウンでお会いしてから、あのように笑われたのを初めて見ました。令息は、再度アデル様と会う約束を取り付けた模様です。以上、報告を終わります。 忠臣カノンより」


読み終わって、否、読んでいる最中から、エドワードの手がワナワナと震えだした。


ディラン・エルボード、今でもはっきり覚えている。


まだ平民のフリをしていた頃、病院で会った男だ。


気に食わないのは、エドワードよりも少し背が高く、余裕のある笑みで上から見下ろしてきたことだった。


いかにも、自分の方がアデルに相応しい男だと言わんばかりの態度に、ものすごくイラ立ったことを昨日のように覚えている。


しかもディランは、アデルが理想とする子爵令息なのだ。


今、俺から離れたいと思っているアデルが、ディランに迫られたら・・・?


アイツは危険だ。


すぐにアデルから排除しなければ・・・。


「ビクター、悠長に構えている時間が無くなった。今すぐアデルに会いに行かなくては!

こうしている間も、アデルに魔の手が忍び寄っているかもしれないのだ。ビクター、アデルのいる町まで案内してくれ。」


「そうだな。確かにこの案件は緊急事態だ。しかし、今すぐと言うわけにはいかない。明日、日が昇ると同時に出発しよう。」




翌日の明け方、二人は王都を出発し、本来なら四日はかかる道のりを、三日後の夕方にスぺロタウンに到着した。


「僕は城で待機しているから、アデル嬢との話が終わったら来てくれ。それから、絶対に俺がばらしたことは言わないでくれよ。」


「ああ、もちろんだ。約束だからな。」


次にエドワードは、馬で並走していたフレッド、カイルに視線を向ける。


「フレッド、カイル、ビクターの護衛を頼む。ここは、もっとも治安が良い町だから、俺一人で問題ない。アデルの護衛もそばにいる。俺よりも、ビクターが山賊にでも襲われたら、そっちの方が問題だ。」


「わかりました。ビクター様を送り届けたらすぐに戻ってまいります。」




三人と別れ、一人になったエドワードは、ビクターに書いてもらった地図を片手に病院へと向かった。


町に一軒しかない病院はすぐに見つかった。


木造の古めかしい病院であるが、きれいに手入れが施されている。


この中にアデルがいるのだ。


やっとアデルに会える・・・。


エドワードは病院の前で足を止め、深呼吸をする。


何とか説得して、アデルを王都に連れて帰るのだ。


エドワードは一度ぎゅっと拳を握ると、病院のドアをゆっくりと開けた・・・。


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