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愛しの侯爵様は、究極の尽くし型ロボットでした  作者: 矢間カオル


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92話 外伝『あなたの腕の中で30』再会

道を行くアデルを呼び留めたのは、ディラン・エルボードである。


王都の病院で取引をしていた子爵家の令息で、時々病院にタオルや包帯を届けてくれる若者である。


ほっそりした長身のディランは、服装に気を使い、いつも流行のスーツをおしゃれに着こなしている。


今日は茶髪の髪に合わせたこげ茶の帽子を被り、薄茶色のスーツをおしゃれに着こなし、緑色の瞳を細めて懐かしそうにアデル微笑みかけていた。


アデルは驚き、目を丸くしてディランに話しかける。


「まあ、ディランさんじゃないですか。どうしてこんなところへ?」


「ははっ、驚くのはこちらの方ですよ。王都の病院に荷物を届けたら、あなたがいない。どこへ行ったのか聞いても誰も教えてくれないのですから・・・。まさか、こんなところでお会いできるとは思ってもいませんでした。ああ、私は商用で、この国とも取引があるのです。」


ディランの領地は綿織物業が盛んで、良質の綿製品を多数扱っている。


いろんな国と取引があっても不思議ではない。


「ところでアデル嬢は、どのようなご用事で?」


「私は今から薬草を買いに行くところなんです。」


「こちらでも病院に勤務されているのですか?」


「ええ、そうです。」


「では、今はお忙しそうなので、これで失礼いたしますが、後ほど病院にお伺いいたします。」


ディランはにっこりと微笑み、アデルから離れて行った。


ディランから離れたアデルは、正直に言うと、これは困った・・・と思った。


せっかく王都から離れて新しい人生を歩み始めたばかりなのに、ディランを通じて自分の居所が皆の知るところになってしまうかもしれない。


その情報は、遅かれ早かれエドワードにも届くことになるだろう。


ディランは会いに来ると言っていた。


そのときに、誰にも言わないで欲しいと頼む必要がある・・・


アデルは、薬草を買った後、重い足取りで病院に戻った。




その日の夕方、病院の診察が終わり、帰り支度を始めた頃に、ディランがやって来た。


「久しぶりに会ったのですから、一緒にお食事でもいかがですか?」


「いえ、それは・・・」


アデルは、ディランと深く関わりたくなかったので、用件だけを伝えて別れるつもりでいた。


「あなたがいなくなってからの王都の様子や、あなたのご両親のお話などもお聞かせできますよ。」


「えっ?両親?」


アデルは王都を去る際、ランドンとマーゴットとは今後お互いに連絡を取り合わないことを約束していた。


手紙のやり取りで、アデルの居場所が特定されてしまうかもしれないからだった。


だからこそ、ディランの申し出に、強く心を動かされてしまう。


「あの・・・、お食事だけなら・・・。」


その言葉にディランはにっこり微笑んだ。


「そうと決まればすぐに行きましょう。美味しいお店を見つけたんですよ。」


「アデル様、この方はどちら様すか?」


二人のやり取りをじっと見ていたカノンが、唐突に間に割って入った。


「紹介するわ。王都の病院にいた頃、ガーゼやタオルでお世話になっていた子爵のご令息で、ディラン・エルボード様よ。今日はこちらに商用で来られたのですって。」


「まあ、そうですか。私はカノンと申します。アデル様のもとで医師の修行を積んでおります。」


カノンの言葉は丁寧であるが、何故か冷ややかな視線をディランに向けていた。


「あ、ああ、カノンさんは医師の卵なんですね。では、僕たちは失礼します。行こう、アデル嬢」


ディランはカノンから逃げるように病院を出た。




ディランが連れて行ってくれたレストランは、この町でも一番高級だと言われているレストランである。


田舎町には不似合いの洗練された都会の雰囲気を持つレストランで、アデルはまだ来たことはなかったが、噂だけは聞いていた。


「ここのワインも美味しいのですよ。」


二人はワインで再会の乾杯をし、美味しい料理に舌づつみを打った。


ディランはアデルに請われるままに、ランドンとマーゴットの話を始めた。


病院に来る患者の中には、アデルに恋心を抱いていた男性もいて、アデルがいなくなったことを知ると意気消沈して食欲がなくなり、病気になってしまった者もいたらしい。


ランドンがその患者を慰めるために、とても苦労していた話だとか、ディランがアデルの居場所を知りたくてマーゴットを訪ねたら、言葉は丁寧であったが、しっかり追い出されてしまった話など。


それから王都は第二王子と侯爵令嬢の婚約話で大いに盛り上がっている話も、ディランは面白おかしく語った。


「アカデミーが育んだ世紀のラブロマンスって言う見出しで、新聞にでかでかと書かれていたよ。」


「まあ。うふふっ」


「それから、二人をモデルにした演劇まで上演されているよ。」


「まあ、それはすごいわね。うふふふ・・・」


普段商用で多くの人々と話しをしているからか、ディランの話は分かりやすく面白く、アデルもついつい話に引き込まれていた。


そして久しぶりに、心から笑えたような気がした。


「アデル嬢、僕はしばらくこの国に滞在しているので、また会ってくれますか?」


「えっ? それは・・・」


ふとアデルは、大事なことを言い忘れていたことに気付いた。


「あの・・・、ディランさん、私がここにいることを誰にも言わないで欲しいのです。お約束していただけますか?」


「何か事情があるのですね。もちろんです。誰にも言いません。約束しましょう。では、また会ってくれますね。」


にっこり微笑み約束すると言うディランに、アデルは嫌だとは言えなかった。




その三日後に、再びディランはアデルに会いに来た。


カノンにも挨拶をするのだが、何故か、カノンには睨まれているような気がする。


それだけカノンの視線が妙に痛い。


今回もまた、ディランは逃げるようにしてアデルを病院から連れ去った。


今回の夕食の場所に選んだのは、カジュアルなレストランで、客たちは陽気に酒を飲みながら和気あいあいと盛り上がっている。


ディランとアデルは、うるさい客から離れた一番隅にあるテーブルを選んで座った。


「アデル嬢、何か事情があるのだとは思いますが、女性一人で暮らすのは何かと大変でしょう。」


ディランがアデルのことを心配して、そう言ってくれるのだとわかっているのだが、アデルはこの町に来て、一人暮らしが大変だと思ったことはなかった。


「そんなこと、ありませんよ。この町はとても暮らしやすい町なのです。皆さんとても優しいですし・・・。」


アデルは手を口元で振り、それは違うと意思表示をするのだが、どうもディランにはその気持ちは伝わらない。


「アデル嬢、強がらなくても良いですよ。僕は女性が働くことに否定はしませんが、本来女性とは守られるべき存在だと思っているのです。」


「???」


強がっているように思われたのだろうか?


まったくそんな気持ちはなかったのに・・・


アデルがなんと言い返したら良いのか迷い、宙に浮いた手の行き場を失っていると、ディランはそれを肯定されたと思ったようだ。


アデルの手を、しかと握った。


「アデル嬢、僕があなたのそばにいれば、あなたをこんなところで働かせはしない。屋敷の中で大切に扱って、何不自由ない暮らしをさせてあげることができます。」


ディランがアデルを見つめる瞳は、真剣そのものだった。



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