87話 外伝『あなたの腕の中で25』アデルの真実
エドワードは、今後の計画を話し始めた。
「最初に、レオとフィオナ嬢の婚約を発表するんだ。世間は、俺のことをフィオナ嬢に振られた可哀そうな王子と噂するだろう。ほとぼりが冷めた頃を見計らって、アデルと俺の婚約を発表する。けがをした俺を治療してくれたアデルに一目ぼれしたという情報も流そう。世間はアデルのことを、ケガを治しただけでなく、可哀そうな王子の心も救ってくれた令嬢なのだと思うだろう。こうすれば、あなたのことを悪く言う者は誰もいない。」
「本当にそれで上手くいくのかしら・・・?」
「大丈夫だ。俺を信じてくれ。俺がアデルを守るから。」
何度も自分の心の弱さゆえに、別れようと決心した。
その度に、エドワードに引き止められた。
だが今度こそ、アデルはエドワードを信じようと思った。
それほど、エドワードの言葉は力強く、すべてのものから自分を守ってくれるように感じたのだった。
エドワードに屋敷まで送ってもらい、中に入ってからも、しばらくアデルは夢心地の中にいた。
きっと、しまりのない顔をしているだろう・・・
そう思うと、これから母と面と向かって話をすることが、少し恥ずかしいとも思う。
でも、今まで黙っていた真実を、今日こそは母に話すのだと、アデルは少し意気込んでいた。
「アデル、お帰りなさい。」
優しい母の声がした。
いつもアデルに寄り添い、心配してくれる母。
今回も随分と気苦労をかけてしまった。
そんな母に、今までどれほど感謝したことか・・・。
これから話す真実を聞くと、おそらく飛び上がるほど驚くだろうけれど、きっと母のことだから、手放しで応援してくれるだろう。
「お母様、聞いてほしいことがあるの。今、よろしいですか?」
「まあ、改まってどうしたの? アデルの話なら、いつだって聞くわよ。」
マーゴットは優しい微笑みを浮かべて、アデルが話しやすい雰囲気を作り出す。
二人はテーブルを挟んで座った。
「アデル、話したいことって何かしら?」
「私の婚約のことです。」
「まあ、エドから正式にプロポーズでもされたのかしら?」
マーゴットは嬉しそうに弾んだ声を出す。
「ええ、そうなの。ただ・・・、お母様に紹介したときとは事情が違っていて・・・。」
「事情って?」
「子爵の次男で騎士だと紹介したけれど・・・、実は・・・。」
アデルは最後の一言を口にする前に、そっと息を飲んだ。
「子爵ではなくて、王太子だったの。彼は王家の長男だったのです。」
「えっ?」
マーゴットの顔色が、急に変わった。
「お・う・た・い・し・・・?」
「そうなの。王太子なの。だから・・・、私は未来の王妃になるんです。」
「ちょ、ちょっと、待って・・・。」
マーゴットの声は震え、顔は青ざめ、手がブルブルと震えだした。
「お母様、身分が違い過ぎることは重々承知しています。私も何度も諦めようとしました。でも、エドがその度に、私のことを引き止めてくれたのです。」
「お、王太子なら、こ、婚約者がいたはずよ?」
「婚約者のフィオナ様は、弟君のレオナルド様と婚約することになったのです。だから、エドとの婚約は解消されるのです。」
「そ、そう・・・。」
弱々しい返事をするマーゴットの顔色は青いままで、身体全身の力が抜けているようだった。
「アデル、私を一人にしてくれる? それから、お父様が帰ってきたら、もう一度話をしましょう。」
そう言って、マーゴットは寝室へと去って行った。
アデルはマーゴットの態度に違和感を覚えた。
王太子だと聞いて驚くことは予想していたが、思っていたのとは違っていた。
何があってもあなたの味方よと、手放しで応援してくれると思っていたのに・・・。
しばらくすると、病院から父親のランドンが帰って来た。
「お父様、お帰りなさい。」
アデルは明るく父親を迎えたのだが、マーゴットは何か思いつめたような表情で、ランドンを迎えた。
「あなた、お話があります。」
マーゴットはランドンを引っ張るようにして寝室へ連れて行った。
お母様・・・、いったいどうしたの・・・?
アデルの心に、意味の分からぬ不安が湧き上がった。
しばらくすると、ランドンとマーゴットが寝室から出てきたが、二人の顔は暗く青ざめている。
歩く姿も、まるで重い足かせでもつけられたかのような足取りである。
「アデル、話がある。」
ランドンが、重い口調でアデルに応接室に来るように言う。
アデルはランドンに言われるまま部屋に入り、二人と向かい合って座った。
ランドンの横に座っているマーゴットの表情は硬く、俯いてアデルと目を合わそうとしない。
「お父様、お話とは何でしょう?」
アデルは緊張した面持ちで尋ねた。
ランドンは、ふうとため息をついてから口を開く。
「いったいどこから話して良いのやら・・・。だが、まずは、結論から言おう。」
「結論?」
いかにも医師らしい言葉選びであるが、いったい何に対する結論なのか、アデルは首を傾げた。
「アデル、お前はエド、つまり王太子殿下に結婚を申し込まれたのだね。」
「はい。そうですが・・・。」
ランドンの重い口調に、アデルの心に不安が過ぎる。
「早急にお断りしなさい。お前は王太子妃には、なれない。」
「えっ?」
一瞬、アデルの目の前が、真っ暗になったような気がした。
―王太子妃には、なれないー
ランドンの言葉が、アデルの頭の中をぐるぐると旋回する。
しばらく呆然としていたが、やっと我にかえってランドンに理由を尋ねた。
「お、お、お父様、いったい・・・なぜ・・・?」
「アデル・・・、このことは、一生隠しておくつもりだった。だが、お前が王太子妃になるというのなら、話は別だ。私は、本当のことをお前に告げなければならない。」
「ほ、本当のことって?」
アデルの心臓が、バクバクと激しく鼓動する。
「お前は、・・・私たちの、子どもではないのだ。」
「えっ? ウ、ウソ・・・、そんな・・・」
アデルは耳を疑った。
今まで、両親のことを他人だと考えたことは、これっぽっちもなかった。
いつも慈しみ、愛情を注いで育ててくれた父と母。
それがいきなり子どもではないと言われて、アデルは激しく動揺した。
「信じられない気持ちはわかる。だが、これが真実なのだ。」
「で、でも・・・、私とお母さまは同じ髪色をしているわ。ピンクブロンドの髪色はこの国では珍しいって・・・。」
ランドンの隣でずっと俯いて話を聞いていたマーゴットが、やっと顔を上げた。
その顔は、今にも泣きそうになっている。
「アデル、今まで隠していてごめんなさい。あなたのためだと思ってずっと隠してきたのよ。」
マーゴットは自分の髪の毛を一本抜いて、アデルに手渡した。
マーゴットのピンクブロンドの髪の毛を、アデルは恐る恐る受け取り、目を凝らしてじっと見つめた。
「か、髪の色が・・・、ち、違う・・・」
ピンクブロンドの髪なのに、根元は明らかに金髪だった・・・。
「でも、どうして・・・?」
「それは、私から話そう。」
ランドンが、重い口調で話し始めた。




