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愛しの侯爵様は、究極の尽くし型ロボットでした  作者: 矢間カオル


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82話 外伝『あなたの腕の中で20』兄と弟

仕事が終わり、王宮に帰ると、エドワードはレオナルドを自分の私室に連れていった。


そして人払いをした後で、厳しい顔で尋問を始めた。


「レオ、いったいお前は、あそこで何をしていたのだ?」


エドワードの厳しく睨んでくる目と表情にドキリとしたが、レオナルドは正直に答えることで、エドワードに目を覚ましてほしいと思った。


「兄上、兄上にとってあの女は百害あって一利なしです。どうせ、王太子妃の座を狙っている悪女なのでしょう。だから、僕があの女の化けの皮を剥がしてやろうと思って会いに行きました。」


「化けの皮を剥がす・・・?」


エドワードは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにふうとため息をついた。


「レオ、お前は大きな勘違いをしている。彼女が王太子妃になりたくて近づいてきたのではない。俺が身分を隠して彼女に近づいたのだ。その後で本当の身分を伝えると、彼女は身を引こうとした。だが、俺が彼女を引き留めたのだ。アデルには、剥がす化けの皮など初めからないのだ。」


「ですが、兄上、フィオナ嬢はどうするつもりなのですか?」


「フィオナ嬢との婚約は解消する。だが、これは、家門同士で取り決めた約束事。俺がどうにかできることではない。すべて父上にお任せしている。」


「そんなに簡単に婚約が解消できると思っているのですか? フィオナ嬢の気持ちを考えたことはあるのですか?」


レオは何故こんなに突っかかってくるのだ?


エドワードは、何か引っかかるものを感じる。


「フィオナ嬢のことはお前も知っているだろう? 子どもの頃に二回しか会っていないのだ。彼女は俺を避けている。おそらく俺は彼女に嫌われているのだと思うぞ。」


「ち、違う! 彼女は兄上を嫌ってなんかいない!」


レオナルドが声を荒げて否定した。


「・・・どうしてお前にそんなことがわかるのだ? 彼女に直接、俺のことをどう思っているのか聞いたのか?」


だが、すぐに自信なさげな返事になる。


「・・・いえ・・・」


「この件は、お前が口を挟むことではないのだ。」


「ですが、兄上、兄上だってフィオナ嬢に直接聞いたわけではないですよね。嫌われていると一人で勝手に思い込んでいるだけですよね。」


「・・・」


レオナルドに指摘されたことは図星であった。


子どもの頃から決められていた政略結婚には、相手の気持ちなど関係ないとエドワードは考えていた。


嫌われていようが好かれていようが、結婚は決まっているのだ。


ならば、無理に相手の気持ちを確かめて、嫌われている事実を暴かなくても良いと考えていた。


「確かめてはいないが、今までのフィオナ嬢の行動がすべてを物語っていると思うぞ。とてもじゃないが、俺個人を好いてくれているとは思えない。」


「ですが、もし、彼女が婚約解消に応じなかったらどうするつもりなのです?」


「もしそうなら・・・、俺個人ではなく、王太子妃になることを望んでいるということだろう?」


このことを、エドワードも考えたことがないわけではない。


もしフィオナ嬢が王太子妃の座を失いたくなくて、婚約解消に同意をしなかったら・・・。


エドワードは何度も考えたことをレオナルドに宣言した。


「フィオナ嬢が王太子妃の座を望むと言うのであれば、その時はレオ、お前が王位を継げば良い。」


「はあ!? 兄上、何を言って・・・」


レオナルドは、エドワードの言葉に激しい衝撃を受けた。


「兄上こそが、この国の継承者です。いつも国民のことを考え行動し、王になるためにどれほど努力してきたか・・・、僕はずっとそんな兄上を見てきたのですよ。それなのに・・・、それなのに・・・王位を僕に譲るだなんて・・・。」


「レオ、俺は王にならなくても国民のために働けるし、この国をより良い国にできると思っている。俺が王になることを望んだのは、手段であって、目的ではないのだ。お前が王位を継いで、俺がお前を補佐する。それのどこがいけないのだ?」


「あ、兄上は、間違っている・・・」


「間違ってなどいないぞ。それにさっきからお前の弁を聞いていると、お前こそ、フィオナ嬢のことを気に入っているのではないか?」


その言葉を聞いた瞬間、レオナルドの顔が真っ赤になった。


火がついたように熱くなった顔を両手で隠しながら、レオナルドは喘ぐように次の言葉を口にする。


「僕は、僕は・・・、兄上だからこそ・・・、フィオナ嬢の相手が兄上だからこそ・・・」


「・・・レオ? お前・・・?」


レオナルドは、はっとして顔を上げる。


「あ、兄上、僕は頭に血が上ったようです。少し頭を冷やしてきます。」


レオナルドは、慌ててドアを開けて出て行った。


「レオ、お前・・・もしかして・・・」


部屋に一人残されたエドワードは、レオナルドが出て行ったドアをしばらく呆然と見つめていた。




レオナルドは、赤く火照ってしまった顔を誰にも見られたくなくて、急いで自室に戻った。


僕は・・・、僕は・・・、兄上だからこそ、この思いに蓋をして来たのに・・・。


それをどうして今さら・・・




レオナルドとフィオナ嬢の関りは、アカデミー時代に遡る。


デビュタントの日、エドワードがフィオナに会えずに帰って来た後に、「俺はフィオナ嬢に嫌われているのかもしれないな・・・」とぼそりと呟いた言葉を、レオナルドは意図せずに聞いてしまった。


エドワードがレオナルドと一緒にいるとき、フィオナを話題にすることはなかったし、ましてやフィオナの悪口など聞いたことはなかった。


だから、レオナルドにはエドワードの言葉が意外な言葉であり、強く印象に残った。


兄上を悩ませている婚約者のフィオナ嬢とは、いったいどのような令嬢なのだろう・・・?


来年アカデミーに入学してフィオナ嬢に会ったら、兄上に相応しい女性なのか、じっくりと観察してやろう・・・


もし、兄上に相応しくないと判断したら、そのときは、いつものように・・・


レオナルドはそう思いながらアカデミー入学を待った。


レオナルドが計画を練っていた頃、本来ならばフィオナはアカデミーの一年生のはずであったのだが、フィオナは、体調不良で一年間の休学申請をしている。


だから一年遅れてレオナルドと同じ学年に入学するものだと思っていた。


しかしフィオナは、休学中であっても家庭教師に一年生が履修する全ての内容を学んでおり、編入試験では好成績を挙げ、すんなり二年生に編入したのである。


レオナルドの当初の目論見は外れてしまったが、学年が違っているとはいえ、フィオナの観察は思いの外、簡単にできた。


フィオナはよくある貴族令嬢たちのように徒党を組まず、いつも単独で行動し、昼休みは昼食の後、図書館で過ごすことが常であった。


レオナルドもフィオナを観察するために必然的に図書館へと足を運び、少し離れた場所から彼女を見ていた。


水色の髪色とピンク色の瞳のフィオナは、よく目立ち、いつの間にか図書室以外でも、彼女を見つけると、自然と目で追うようになっていた。


いつも熱心に読書をしているが、いったい何の本を読んでいるのだろう?


レオナルドは、フィオナが本棚に戻した本の場所を覚えて、後からこっそりとその本を手に取った。


『税の徴収と国民の幸福論』


本の題名を見て、レオナルドは目を瞠った。


「これは・・・、兄上が読んでいた本と同じだ!」


エドワードがアカデミーに入学する前の十四歳の年に熱心に読んでいた本で、レオナルドもエドワードの真似をして読もうとしたが読めなかった本である。


当時十一歳だったレオナルドには、書かれている専門用語も内容も難しすぎて、さっぱり理解ができなかった。


それからというもの、フィオナが読んでいる本に興味を持ち、同じ本を手に取るようになる。


『国の経済を活性化する流通における課題』


『人類の幸福論』


『民の頂点に立つ者の心得』


他にも経済学や地理学に関するものが多かった。


ある日、いつもと違う本棚から一冊の本を手に取ったので、後からこっそり見てみると、『医学の心得』というタイトルであった。


何故このような本を?と思ってパラパラとページをめくっていると、感染症を大規模感染にしないための方策が書かれていた。


―国家レベルの危機を回避するためには、上に立つ者の決断と実行力こそが重要なのである― 


レオナルドは、その一文を読んで愕然とする。


これまで読んでいた本もそうだったが、フィオナ嬢は将来の王妃の立場を見据えて自ら学んでいるのだ・・・。


彼女こそ、王太子妃に相応しいのでは?


とうとう、レオナルドは観察だけでは気持ちが収まらず、フィオナに話かけることにした。


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