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愛しの侯爵様は、究極の尽くし型ロボットでした  作者: 矢間カオル


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80話 外伝『あなたの腕の中で18』レオの思い出

レオナルドの知る兄エドワードは、いつもキリリと引き締めた顔で公務に没頭し、町の視察に出かけても決して遊びに興じることはなく、常に国民のことを考えて真面目に取り組む男であった。


だが、目の前のエドワードは、鼻の下を伸ばして隣にいる女性の手を繋ぎ、浮かれた顔で歩いている。


「あんな兄上を見たことがない・・・。それに、いったいあの女性は誰なのだ? 兄上にはフィオナ嬢がいるではないか?」


レオナルドがエドワードを目撃したのは、馬車が通り過ぎる一瞬であったが、レオナルドがエドワードを見誤ることはない。


それだけに、すっかり暗い気持ちになって王城に到着した。


レオナルドは王城に着き、国王と王妃に帰国の報告をした後、すぐに彼の専属侍従に仕事を頼んだ。


「今日、大通りで実に不愉快な現場を見てしまった。兄上と一緒にいた女性は誰なのか調べて欲しい。」


専属侍従も一緒に国を離れていたが、何度も休日に城を出てデートを重ねるエドワードのことを調べるのは、いとも簡単なことであった。


すぐに報告がもたらされた。


「レオナルド様、エドワード様と一緒におられた方は、ブルクハルト男爵家のアデル嬢でございます。二人は恋仲で、何度も一緒に出掛けているようです。」


「はっ? なんだって? 恋仲? 冗談だろ? 兄上にはフィオナ嬢という立派な婚約者がいるのに・・・、いったい兄上はどうされたのだ? まさか、魔性の女に引っかかったのか?」


普段冷静で、感情を表に出さないオナルドが、珍しく怒りを露わにして声を荒げた。


「あ、あの・・・、そ、そこまでは私にもわかりませんが・・・」


侍従はめったに見ないレオナルドの姿に驚き、ビクビクしながら答えるのだった。




レオナルドは、エドワードが帰ってくるのを今か今かと待っていた。


エドワードが帰って来たことを侍従から聞くと、彼の私室へ飛んで行った。


「兄上!」


レオナルドは、勢い余って声を荒げた。


目を吊り上げて怒りを露わにしているレオナルドとは裏腹に、エドワードは上機嫌で話しかける。


「おお、レオ、帰って来たのだな。お前の無事な姿を見ると嬉しいぞ。」


そんな兄を見て、レオナルドはイラついた。


「兄上、今日はどこへ行かれていたのですか?」


「ん? ずいぶんと機嫌が悪そうだな? 何か嫌なことでもあったのか? 何かあったのなら、俺に話してくれ。何でも聞くぞ!」


ああ、兄上、あなたはいつもこんなに優しい。


それなのに、こんなに優しい兄上を騙す女がいるとは・・・


「兄上、僕のことはどうでも良いのです。兄上のことを聞いているのです。」


「いったい、お前は何を聞きたいのだ?」


レオナルドは、自分の心配をまったく意に関しないエドワードに、ますますイラっとしてしまう。


「兄上、私は今日、兄上が婚約者以外の女性と一緒に歩いているのを見てしまったのです。しかも・・・」


手を繋いでいたと言いかけて、レオナルドは口を閉ざした。


あのような恥ずかしい状態を、口にするのもはばかられる。


「ああ、彼女と一緒にいるところを見たのか。彼女の名前はアデル・ブルクハルト。ブルクハルト男爵家の令嬢だ。俺は、彼女と結婚したいと思っている。」


「け、け、結婚? 本気で言ってるのですか?」


真面目な顔でまったく動じることもなく、結婚したいと言い切るエドワードに、レオナルドは愕然として目の前が真っ暗になった。


「信じられない・・・」


頭を抱えてふらついてしまい、立っているのがやっとである。


「レオ、俺は本気だ。」


「何を言っているのです。兄上にはフィオナ嬢という正式に認められた婚約者がいるではないですか。他の女性との結婚なんて許されるはずがないでしょう?」


しかし、エドワードは余裕の笑みを見せて、レオナルドに諭すように話をする。


「父上にも彼女のことは報告をしている。そして、結婚することを許していただいたのだ。」


「そ、そんな、バカな! 兄上も父上も、どうかしている! あんな女を認めるなんて・・・」


「レオ、俺のことを悪く言うのは許そう。だが、アデルのことを悪く言うのは許さない。それだけは、肝に銘じておけ。」


「あ、兄上・・・」


レオナルドは呆然とエドワードを見ていたが、徐々に激しい怒りが湧き上がって来た。


そして怒りを抑えるかのように、ぎゅっと拳を握りしめて吐き捨てるように言った。


「これ以上、何を言っても無駄のようですね。失礼します。」


エドワードの私室を出たレオナルドは、泣きたくなるのを我慢して自分の部屋に戻った。


そして、机の引き出しの中から宝箱を取り出し、その中にあるハガキサイズの絵を震える手で取り出した。


それはエドワードの八歳の頃の肖像画である。


八歳と言えども、エドワードはきりりとした表情で、眼光はこの頃から鋭い。


何故かエドワードの背後から宗教画のような後光が射しているのだが、この絵は当時王宮に来ていた宮廷画家に、無理に頼んで描いてもらった一枚なのである。


「兄上・・・、僕の兄上はいったいどこに行ってしまわれたのですか・・・?」




レオナルドは、肖像画を見ながら五歳の出来事を思い出していた。


当時からとても可愛らしかったレオナルドは、使用人からも王宮にやってくる貴賓たちからも、可愛い可愛いと誉めそやされていた。


しかし、それを面白くないと考える者もいる。


ある日、王妹が子どもを連れて王宮に来た際に、レオナルドは、兄と従弟と三人で一緒に遊ぶことになった。


十歳の従弟はでっぷりと太った大柄の子どもで、正直言って見た目は可愛くない。


そのことに劣等感を持っているのか、レオナルドとたまたま二人きりになると、レオナルドをからかい始めた。


「レオ、お前の顔は女みたいだな。お前のようなヤツはドレスが似合うぞ。早く着替えてこい!」


レオナルドは、女みたいと言われてとても悔しかったのだが、相手は五歳も年上で、しかも体の大きさは倍以上もある。


何も言い返せず、泣きそうになっていた。


黙っているとますます図に乗って、従弟は「おんな、おんな」とはやし立てた。


そこへ登場したエドワードは、レオナルドを庇うように前に立ち、従弟に怒ってくれたのだ。


「いい加減にしろ! レオの顔が美しいことの何が悪い?」


「はあ?冗談も通じないのか?」


従弟は不機嫌になってエドワードに突っかかったが、エドワードはさらに追い打ちをかけた。


「行き過ぎた言葉は冗談とは言わない。男の嫉妬はみっともないぞ!」


核心を突かれて頭にきたのか、従弟がエドワードに掴みかかり、結局二人は取っ組み合いのけんかになってしまった。


レオナルドはハラハラして見ていたのだが、最後は従弟が「痛い痛い」と泣き出し、エドワードの勝利で終わった。


従弟よりも二歳年下で、しかも体も小さい兄が勝ったのだ。


この瞬間から、レオナルドにとってエドワードは、正義の味方のヒーローになった。


この後、父であり国王でもあるニコラスから「もっと平和的な解決方法だってあっただろう?」と叱られてしまったが、エドワードは悪びれもせず「レオの名誉を守れたのですから、私は後悔なんてしていません。」と毅然と言ってのけた。


その姿を見たときに、レオナルドの目には、エドワードの背中から後光が射しているように見えた。


それはまるで、神々を描く宗教画のようでもあった。


従弟も母親から叱られて、それ以降からかってくることはなくなったが、レオナルドは後光が射すエドワードの姿が忘れられず、その瞬間を永久に手元に置いておきたいと思った。


そこで、当時王宮に来ていた宮廷画家に、エドワードの肖像画を描いてほしいと懇願したのである。


宮廷画家は、レオナルドの可愛らしいお願いにメロメロになり、内緒でハガキサイズの肖像画を描いてくれた。


それ以降、レオナルドはエドワードの肖像画を大切に保管し、時々、こうやって眺めているのである。


「兄上・・・、僕があの女の、化けの皮をはがしてやります・・・。」




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