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愛しの侯爵様は、究極の尽くし型ロボットでした  作者: 矢間カオル


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75話 外伝『あなたの腕の中で13』アデルの決心

それ以降は、フィオナ側から積極的に会おうという働きかけはなく、エドワードも自分から会うことを望むことはなかった。


それに、エドワードには婚約者のことよりも大事な王太子教育や剣術の稽古があった。


それらに没頭していると、婚約者のことは頭からすっかり抜け落ちてしまう。


だが、それでも良いと思っていた。


結婚するまでまだ先は長い。


無理に会う機会を作らなくても、アカデミーや舞踏会で、自然と会う機会があるのだから、そこでお互いに理解し合えることもあるだろう。


ハウエルズ王国が属する大陸では、全ての国の学校制度は統一しており、貴族の子どもたちは十五歳になる年の1月にアカデミーに入学し、三年間で卒業する。


子どもの頃に二度会っただけの二人であったが、エドワードが三年生の年にフィオナが入学することになっていた。


だから、一年間、同じ学び舎で過ごす予定であったのだが、フィオナは体調不良で一年間休学し、結局、エドワードとアカデミーで会うことはなかった。


フィオナがアカデミーに復学したのは、エドワードが卒業してからのことである。


フィオナは休学中、家庭教師をつけて勉強していたので、編入試験では良い成績を収めて二年生から復学している。




フィオナは休学中であったが、十五歳の誕生日を迎えたので、デビュタントに参加することになった。


この国では、十五歳の誕生日を迎えた令嬢令息は、王室が主催する舞踏会に参加することが恒例となっている。


初めての正式な舞踏会では、最初のダンスを父親や兄などの身内と踊ることが通例だが、すでに婚約者がいる令嬢は、婚約者と一緒に参加しても良いことになっている。


エドワードが十一歳の年のお茶会以降、一度も会っていないフィオナであるが、最初のダンスの相手をするようにと、国王からお達しがあった。


少女だったフィオナも十五歳になり、それはそれは美しく成長したという噂だけはエドワードに届いていた。


ただ、どんなに美しく成長していても、俺を嫌っているのかもしれないと思うと、例え婚約者だとしても、今一つ気乗りはしない。


だが、これも王族の務めだと父親に説得されて、エドワードはフィオナのダンスパートナーになることを、渋々引き受けたのである。


ところが、デビュタントの当日、会場に行ってみるとフィオナはいなかった。


会場の受付担当の者に聞くと、フィオナは会場に来たものの、デビュタントが始まる前に、気分が悪くなって帰ったと言うのだ。


どうやら連絡が行き違いになったようで、せっかく会場に出向いたエドワードであったが、結局フィオナには会えずじまいであった。


そして、この場所にいても意味がないと思ったエドワードは、速やかに自分の仕事に戻ったのである。


それ以降も、王室主催の舞踏会が何度も催されたが、フィオナは体調が良くないという理由で参加することはなく、一度も会っていない状態が続いている。




アデルはエドワードが話す長い話を、ただ黙って聞いていた。


聞いているうちに徐々に冷静になり、いつしか涙は止まっていた。


「フィオナ嬢とアデルは同い年なんだけど、会ったことは?」


「いえ、私はアカデミーに入学しなかったので、お会いしたことはありません。」


この国の貴族の多くが、十五歳になる年にアカデミーに入学するのだが、アデルの場合は医師になることが夢だったので、少し特殊である。


医師になるためには、医師の下で三年以上修行を積む必要があり、その後で医師の推薦状をもらえた者だけが国家試験を受けることができる。


一日でも早く医師になりたかったアデルは、子どもの頃から父の下で修行を積み、国家試験を受けることができる最低年齢の十七歳の誕生日を迎えてすぐに受験した。


一般教養などの幅広い知識は、アカデミーに通わず家庭教師から学んだのである。


「そうか・・・。アデルは会ったことがないのだな。おそらく、フィオナ嬢は、俺のことを嫌っているのだと思う。」


「何か嫌われるようなことをしたのですか?」


「いや、心当たりはないんだ。だって、子どものころに二回しか会っていないし、その当時から嫌われているようだから、理由なんてわからないよ。」


それもそうだとアデルも思う。


こんなに素敵な人なのに、嫌いになる理由なんてありえない・・・。


「お相手は、婚約を解消しようとはしなかったのですか?」


「それは、なかった・・・。俺を嫌っていると思っているのは俺だけで、はっきりと言われたことはないんだ。だから、お互いに婚約を解消する正当な理由がなかった・・・。」


「でしたら、これからも婚約が解消されることはなさそうですね。」


「いや、違う。俺はアデルを愛している。本気で愛せる人に出会えたのだ。だから、婚約を解消する理由ができたんだ。俺は、フィオナ嬢との婚約を解消したいと思っている。そして、アデル、あなたと正式に婚約し、結婚したいのだ。どうか、俺の願いを聞き届けてくれないか。」


切実に訴えてくるエドワードの瞳の中に、嘘が混じっているとは思えなかった。


きっと本気で考えていることなのだろう。


だが、アデルは、エドワードの長い話が終わるころには、既に決心がついていた。


今なら毅然とした態度で、涙も見せずに言えるような気がする。


アデルはすくっと立ち上がり、ベンチに座っているエドワードを正面から見据えた。


「エド、いえ殿下。あなたの言いたいことも、あなたの気持ちもわかりました。」


「ああ、アデル、わかってくれたのか・・・。」


「ですが、私たちの身分の差が決して埋まるわけではありません。婚約は、家門を結びつける政略的なもの。私だって貴族の端くれです。この婚約が簡単に解消できないことぐらい知っています。あなたが私との結婚を望んだとしても、国王陛下が許すはずがございません。ですから・・・」


ここまでは、冷静に言えたアデルであったが、次の言葉を口にしようとすると、急に胸がズキンと痛み、息ができなくなった。


「アデル・・・?」


エドワードは不安の思いに駆られ、立ち上がってアデルと向き合い、アデルの肩に手をかけて、彼女の心を覗き込むように瞳をじっと見つめる。


「ですから・・・」


泣き止んでいたアデルの湖のような瞳から、堰が切れたように涙がぼろぼろと零れだした。


「あ、あれ? な、なんで涙が・・・」


「アデル、もう言わなくていい。それ以上言わないでくれ。」


懇願するエドワードに、涙でぼろぼろの顔をふるふると横に振ったアデルは、次の言葉を苦しみの中から押し出すように告げた。


「わ、私は・・・、あなたと・・・、お別れします。」


「アデル、何を言う。そんなことは俺が許さない。」


エドワードはアデルを夢中で抱きしめた。


このままアデルが、どこかに行って消えてしまいそうな気がする。


「だめだ、アデル。どこにも行かないでくれ。俺はあなたを愛しているんだ。」


アデルは泣きながらエドワードの腕の中から出ようともがいたが、エドワードの力は強くびくともしない。


「アデル、今日、父上に話すよ。アデルのことを話して、フィオナ嬢との婚約を解消してもらう。だから、もう別れるなんて言わないでくれ。」


アデルは頭の上から聞こえてくるエドワードの言葉を、諦めの気持ちで聞いていた。


私との結婚なんて、国王陛下が許すはずがないのに・・・。




しばらく暗い庭の隅でエドワードに抱きしめられていたアデルであったが、遠くの方から人のざわめきが聞こえてくることに気が付いた。


アデルが舞踏会会場を飛び出してから、ずいぶんな時間が経っていることを考えると、とうに舞踏会の終了時刻は過ぎている。


「殿下、舞踏会はもう終わっていますよ。うっかりしていましたが、殿下がこんなに長い時間、会場を留守にしていて良いのですか?」


「ああ、大丈夫だ。きっとビクターが上手い言い訳をしてくれているはずだ。」


言葉を交わしながらも、エドワードはアデルを離そうとはしなかった。


「殿下、もう離してくれませんか?」


「今まで通り、名前で呼んでくれたら離そう。」


なんて子どものようなことを言うのかしら・・・


「エド、離してください。」


「離したら、アデルは消えてしまわないか?」


また、子どものようなことを・・・とアデルは思ったが、それだけ、自分のことを愛してくれているのだと思うと、切なくなる。


「私は消えませんよ。私には大事な仕事がありますから・・・。でも、もうお会いするのは、これが最後かと・・・。」


泣くだけ泣いたアデルには、もう零す涙はなくなってしまったようだった。


自分でも不思議なほど冷静でいられた。


「アデル、父上が許してくれたら、また会ってくれるね。」


「え?・・・ええ。許してくれたら・・・ですが・・・。」


そんなことはあり得ないのにと思いながらも、アデルは承諾した。


見上げるエドワードの顔は、思いのほか明るい。


エドは、陛下が許してくれると本気で思っているの?


根拠なく国王陛下が許してくれると思っているエドワードのことが、アデルにはとても不思議に思えた。




舞踏会が終わる時間になると、手配している馬車がアデルを迎えに来ることになっている。


馬車付き場に行くと、既にその馬車はアデルを待っていた。


なかなか来ない客人に、御者はイライラしながら待っていたのが見て取れる。


「遅くなってごめんなさい。」


謝るアデルの横にいるのが、王族の服装であるのを見て、御者は顔を引き締めた。


文句の一つでも言いたそうだったのに「いえ、お気になさらず。」と一言だけ言うと、正面に向き直る。


すでに客は帰った後だったので、アデルを見送りに来たエドワードの姿を他の者たちに見られることはなかった。


「アデル、良い報告を待っていてくれ。」


エドワードはアデルの手の甲に別れのあいさつのキスをして、名残惜し気に手を振った。


そしてアデルの乗った馬車が見えなくなると、その足で父である国王に会いに行った。


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