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愛しの侯爵様は、究極の尽くし型ロボットでした  作者: 矢間カオル


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72話 外伝『あなたの腕の中で10』ビクターの誘い

「はあ? 何を言って・・・」


いきなりのスカウト発言にエドワードは目を丸くしたが、「アデルが行くわけないだろ!」と否定で締めくくった。


「おやおや・・・」


ビクターは、エドワードとアデルの二人に目をやり、なるほど・・・と納得する。


「エド、私はスカウトされても行きませんよ。だから安心してください。でも、お隣の国なのに、制度がずいぶん違って、ちょっとうらやましいなって思いながら話を聞いていたのです。」


「そうでしょう? 僕の国は女性が働きやすい国ですからね。」


ビクターは自慢げにふふんと鼻をならす。


ノースロップが女性にとって働きやすい国になったのは、その建国以来の歴史に由来する。


かつて、この大陸の北部で覇権争いがあった頃、北部を統一したのは、ノースロップ家の長女であった。


大陸初の女性の国王が誕生したのである。


女王は法律を整える際に、家門の継承者は男女関係なく長子が継承することを定めた。


その後女王は王配を迎え、三人の子を成したが、長子が女性だったため、二代目の女王が誕生する。


その後も不思議なほど、継承者である第一子が女性であることが続き、ノースロップ王国は長い間女王の統治が続いた。


それに伴い、長い年月をかけて、女性に対する社会保障制度が充実していったのである。


各職場では、産休育休制度が採用され、職場において、女性であることで不遇な扱いを受けた場合は訴えることができるのだ。


「アデル嬢、この国の貴族には、女性が職業を持つことに理解がない。その点、我が国は良いですよ。特に女医となれば、まだまだ人数が少なくて、来ていただけたら大歓迎です。衣食住はこちらで完備しますよ。」


「そう言っていただけるのはありがたいのですが・・・」


アデルはちらりとエドワードに視線を送る。


エドワードの思いは、しっかりとその表情に現れていた。


「私はこの国を離れる気はありません。ですから、お断りしいたします。」


「そうですか。でも、来る気になれば、私はアカデミーの学生寮で暮らしているので、いつでもご連絡ください。」


「アデルは断ってるだろ!しつこいぞ。」


イラっとしてエドワードは二人の会話に割って入ったが、ビクターはまったく意に介せず話しを続ける。


「ところで、アデル嬢。あなたの髪色はハウエルズ王国には珍しいピンクゴールドですが、あなたの母上様はノースロップ出身ですか? 先ほど父上様とお会いした際、髪色はこげ茶色だったので、もしかしてと思いまして・・・。」


アデルのピンクゴールドの髪色はこの国では珍しい色なのだが、ノースロップ王国ではよくある髪色なのである。


「いえ、母もピンクゴールドの髪色ですが、ハウエルズの男爵家の生まれです。でも、母の里はこの国の北部にあるので、もしかしたらご先祖様の中にノースロップ出身の方がいるのかもしれません。」


「なるほど、そうでしたか。では、私はそろそろ失礼しましょう。アデルさん、ハウエルズ王国はあなたを歓迎しますので、いつでも来てくださいね。」


「ビクター、しつこいぞ!」


エドワードが嚙みついたが、ビクターは「ハハッ」と余裕の笑みを見せて病院を出て行った。


しばらくビクターの背中を睨んでいたエドワードであったが、くるりとアデルに向き直り、アデルの手をとり切なげな目でアデルを見る。


「アデル・・・、行かないよな。」


「ふふふ、行きませんよ。私はあなたのことを愛しているのですから・・・。あなたから離れるなんて考えられません。」


「ああ、アデル、愛している。」


エドワードは、思わずアデルを抱き締めたい衝動にかられたが、アデルは、まだ真実を知らないのだ、知らずに離れないと言ってくれるのだと思うと、ズキリと胸が痛んだ。


欲望と罪悪感の狭間の中で、エドワードは自分の欲望を我慢することを選んだ。


「エド、どうしたの?何か辛いことでもあったの?」


愛していると言いながら、辛そうな顔をしているエドワードを見て、アデルは心配になる。


ああ、優しいアデルが、俺のことを心配している。


いつまでもこのままではいけない・・・、今がチャンスなのかも・・・


「アデル、実は・・・」


エドワードが話しかけた瞬間、「おはようございます。」と、看護師のミリーが元気よく病院に入って来た。


「あら、エドさん、今日はお早いですね。」


ミリーが茶色い目を大きく開けて、驚いたようにエドワードを見る。


「あ、ああ、良い薬草が手に入ったのでね。届けに来たんだ。」


「まあ、そうですか、ありがとうございます。」


ミリーは二人にお構いなしに、鼻歌を歌いながら仕事の準備を始めた。


とても話の続きができる雰囲気ではなくなった。


「エド、言いかけたことは何?」


アデルが続きを促してくれたが、ミリーがそばにいると思うと、エドワードはとてもじゃないが、続きを口にすることはできなかった。


いつも言葉にしようとすると、邪魔が入る。


もう、こうなったら言葉より実際に見てもらう方が良い。


百聞は一見にしかずというではないか・・・。


「アデル、一週間後に王室主催の舞踏会があるのだが、招待状が届いているだろ? それに参加して欲しい。舞踏会で続きを話すよ。」


「えっ、でも・・・、私は舞踏会にはほとんど参加したことがなくて・・・。」


「お願いだ。次の舞踏会だけで良いから、必ず来てほしい。そして、一緒にダンスを踊ろう。」


結局、アデルは舞踏会に参加することを承諾した。


愛する人と一緒にダンスを踊りたい・・・


それに、エドが他の女性と踊るなんて絶対に嫌だわ・・・


その思いが強くなって、アデルは最後まで抵抗することができなかった。




アデルが舞踏会に行かなくなったのには、彼女なりの理由があった。


十五歳のデビュタント以降、舞踏会に参加したのは、片手の指でも余るほどであるが、初めはちょっとした期待があった。


一人娘の男爵令嬢で婚約者がいないアデルにとって、身分に合った次男や三男に出会う機会は舞踏会ぐらいしかなく、医師の仕事に理解がある男性に出会えたら良いな・・・とそんな思いで参加した。


ところが、アデル目当てに近寄ってくる男性にとって、好ましいのはアデルの可愛らしい見た目だけで、医師になることを目指していると話すと、皆嫌悪感を隠さずに離れて行った。


中には貴族女性が医師になるなんてどうかしていると、馬鹿にしてくる者もいる。


さらに鬱陶しく思えたのは、アデルに声をかけてくる男性の婚約者や思いを寄せている令嬢に、嫌味を言われることだった。


「私の婚約者の身体を触って誘惑したのかしら?」


「あなたって、普段から男に慣れているものね。」


「これだから女医って困るのよね。」


こんなことを言われると、さすがにアデルも気持ちが萎えた。


それ以降、舞踏会には参加していない。


だけど、エドと一緒に舞踏会に参加すれば、他の男性は誘ってこないだろうし、もし誘ってきても、エドが睨みを利かせてくれるはず・・・。


それに、エドが話したかった続きも気になるし・・・。


行くと決めたら、アデルは準備を始めた。


ダンスは最近、全く練習していなかったので、仕事が終わると、一人で練習した。


ドレスは持っているものの中から青いサテンのドレスを選び、イヤリングや髪飾りはエドワードに買ってもらった大粒のサファイヤのネックレスに合わせて選んだ。


一緒にダンスをするエドに、恥をかかせたくない。


その思いで、アデルは一生懸命に舞踏会に間に合うように準備した。


アデルが病院の仕事と舞踏会の準備で慌ただしく過ごしているうちに、瞬く間に舞踏会の日になった。


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