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愛しの侯爵様は、究極の尽くし型ロボットでした  作者: 矢間カオル


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67話 外伝『あなたの腕の中で5』アデルの想い

王家の森に薬草を取りに行くことはあらかじめ伝えていたので、誰にも邪魔されることなく馬車は森の中に入ることができた。


森に入ってしばらくすると馬車が止まった。


「エド、アデルさん、着きましたよ。」


カイルが馬車のドアを開けて二人に言う。


「どうもありがとうございます。」


アデルが馬車を降りようとすると、エドワードが慌てて先に降りて、アデルに手を差し伸べた。


「アデル、どうぞ・・・」


アデルは少し驚いたような顔をしたが、「エド、ありがとう。」の言葉と一緒に、にっこりとほほ笑んでエドワードの手をとり、ゆっくりと馬車を降りた。


フレッドは、エドワードの耳が赤くなったことに気づき、小さなため息をついた。


「わー、この森、すごいですね。見たことのない木や草がたくさん生えてます。」


アデルは森を見渡し感動の声を上げる。


王家の森は国中の植物が植えられているのだから、当然のことなのであるが、そんなことを知らないアデルは、ここが王家の森だとはまったくわかっていない。


「あら、このキノコ、おいしそう・・・。」


アデルは木の根元に手のひらほどの大きさの茶色いキノコが生えているのを見つけた。


「持って帰って食べたら?」


このキノコは、食すると高級な肉の味がするとても美味しいキノコなのだ。


だが、町ではめったにお目にかかれず、取引しようとするならば、キノコ一つで真珠1個分の値段だと言われている。


エドワードはアデルに食べることを勧めたが、アデルからは思いもよらぬ答えが返ってきた。


「うーん、見たことのないキノコなんて食べない方が良いわ。毒キノコかもしれないもの・・・。」


さすが医師なだけなことはある・・・。


エドワードは、至極真っ当な答えに感心するのだった。


「あら、こんなところにユキノシタが・・・。」


アデルが歩きながら薬草を見つけては摘んでいる。


「まあ、ここにはヨモギが・・・」


薬草を探すのに夢中なアデルは、もうエドワードのことなど眼中にない。


薬草を見つけては走り出す。


そんなアデルをエドワードは後ろから見守っている。


「アデル、そんなに走ったら危ないですよ。」


「まあ、あの木の下にはきっと解熱作用のあるキノコが生えているはずだわ!」


アデルが急に遠くに見える木を見つけて走りだした。


「まったく・・・、薬草のことしか考えていないんだから・・・。」


エドワードは、つい薬草に嫉妬してしまう。


「しかたがないですよ。薬草を取りに来たのですからね。」


フレッドがエドワードを慰めていると・・・


「キャーッ!!」


アデルの叫び声がした。


「ど、どうした?何があった?」


慌ててエドワード、フレッド、カイルがアデルに向かって走り出す。


見ると、アデルは二匹の猛犬に威嚇され、真っ青になって震えている。


大きな黒い犬がアデルに向かってウー、ウーと今にも噛みつきそうな形相でうなり声をあげていたのだ。


しまった、薬草を採りに行くことは伝えていたが、犬を放すなと一言付け加えることを忘れていた・・・。


この犬たちは王家の森の管理人が世話をしている番犬で、森に忍び込む悪党を見つけるために、時々森に放している。


非常によく訓練されている犬なのだが、この犬に命令できるのは森の管理人と王家の者だけなのだ。


エドワードはアデルの前に立ち、二匹の犬の目を見ながら、右手の人差し指で管理小屋の方角を指し示す。


「戻れ!」


エドワードの声が響くと、それまでウーウーと威嚇していた犬が、くるりと反転して走り去った。


「は~・・・良かった・・・」


ほっとして腰が抜けたのか、アデルが地面にしゃがみ込んだ。


「アデル、大丈夫?」


エドワードが手を差し伸べ、心配して尋ねた。


「あ、ありがとう。」


アデルはその手を取り立ち上がる。


姿勢を正したときには、アデルの顔色は良くなっていて、普段のアデルに戻っていた。


「私は大丈夫よ。それにしても、エドってすごいのね。あんなに怖そうな犬を、一言で追っ払えるなんて・・・」


「い、いや・・・、偶然だよ、偶然。」


エドワードは指で頬をかきながら答えた。


エドワードを見るフレッドとカイルは、少し呆れ顔である。


だがアデルには、あの恐ろしい猛犬の前に飛び出して、身を挺して自分を守ってくれたエドワードのことが、まるで王子様のように見えた。


あなたは王子様のようだとエドに伝えたかったが、口にするのは恥ずかしく、結局そのことは内緒にしておこうとアデルは思うのだった。


この後、薬草をいろいろ摘んで帰路についたが、馬車の中でエドワードは一つの提案をする。


「アデル、カールさんのケガが治るまでは、俺が薬草を届けようか? また犬に襲われたら大変だし・・・」


「えっ?とてもうれしい申し出だけど、本当に良いのかしら?」


「もちろんだよ。今日アデルが薬草を摘んだ場所も覚えたから大丈夫。」


「それなら、カールさんに渡していた金額と同じ額でもよろしいですか?」


「うーん・・・、では、同額で取引しましょう。」


本当はタダで渡したかったが、それではかえってアデルに気を使わせると思い、エドワードはその取引に同意した。


馬車が王都内をぐるぐると遠回りをして走っている間、二人は薬草の話や、王都で流行っている店の話などで盛り上がり、楽しいい時間を過ごした。


とうとう馬車は男爵邸に到着し、アデルと別れる時間になった。


別れるのは名残惜しいが、薬草を摘めば、またすぐに会える・・・そう思うエドワードであった。




その夜、アデルはなかなか寝付けなかった。


犬に襲われて窮地に陥っていたアデルを、颯爽と現れて助けてくれたエドワードの雄姿が忘れられず、何度も何度も目の前に浮かんで来る。


思えば、初対面のときも、素敵な男性だと思った。


平民であるにも関わらず、いけ好かない貴族の腕を掴み、アデルを助けてくれたのだ。


平民である彼が心配になって、つい説教をしてしまったが、本当はとても嬉しかった。


次に会えたのはさびれた裏町。


酔っ払いに絡まれていたところを風のように現れて、あっという間に酔っ払いを追い払って助けてくれた。


薬草で困っていると、すぐに救いの手を差し伸べてくれて、しかも、次からは薬草を運んでくれると言う。


まだほんの数回しか会ってないのに、毎回まるで王子様のように現れてはアデルを救ってくれる・・・。


今日握られた左手を見ていると、心が熱くなる。


アデルはその手を、もう一方の手でそっと撫でた・・・。




アデルがエドワードのことを好きになるのは、至極当然のことであった。


ただ、心に引っかかるのは、エドワードが平民であること。


アデルの思い描いていた未来には、平民と結婚する絵は存在しない。


男爵家の一人娘であるアデルは、似たような爵位の次男坊か三男坊と養子縁組して男爵位を継ぎ、女医をそのまま続けるつもりであった。


貴族女性が働くことを良しとしないこの国では、女医を続けることは風当たりが強い。


だが、アデルは医師の仕事が好きなのだ。


男爵位を継ぐ者は医師を生業とすることが王との約束事であるが、それ以前にアデルはこの仕事が好きで一生の仕事にしたいと思っている。


病気やケガが治って喜んでくれる患者の姿を見る度に、医師としての喜びを感じ、この仕事にやりがいと誇りを持っている。


平民男性と結婚しても、町医者として仕事はできるのだが、そのときは男爵位を継げず、それは公費の援助が打ち切られることを意味する。


そうなっては、今までのような安い医療費で診察や薬の提供ができなくなるのだ。


だからアデルは、町の人のためにも、男爵位を継ぐべきなのだと、エドワードに対する自分の思いにふたをすることにした。




エドワードが薬草を届けに来るのは、週に一度のペースである。


そのたびに不足しそうな薬草を聞き、一週間後には届けることを続けている。


公務と視察で忙しいエドワードは、薬草摘みは森の管理人に頼んでいたのだが、嬉しそうに受け取り、エドワードに礼を言うアデルに本当のことを話すことはできなかった。


アデルに労いの言葉と共に礼を言われると、心がチクリと痛んだが、それよりも、アデルに好かれたい、アデルに幻滅されたくないという思いの方が勝った。


薬草を届けだして一ヶ月が経った頃には、アデルに対する恋慕の思いが増々強くなっていたのだが、アデルの態度はまったく変わらずである。


薬草を届けた後に少し話をするのだが、アデルはとても優しい笑顔で受け答えをする。


だが、それだけなのだ。


仲の良い友人であり、それ以上でも、それ以下でもなかった。


エドワードは心が届かない辛い思いを、日に日に募らせていた。




ある日のこと、いつものようにエドワードが薬草を届けると、アデルは茶髪で身なりの良い貴族らしき男性と楽し気に話をしていた。


「ん?あいつはいったい誰だ?」

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