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愛しの侯爵様は、究極の尽くし型ロボットでした  作者: 矢間カオル


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62話最終話 エピローグ

エピローグ


ローズとジェフの結婚式の一年後、アーサーとスザンヌの結婚式が大神殿で行われた。


王太子の結婚式なだけあって、各国の王侯貴族も列席し、とても盛大で華やかな結婚式となった。


スザンヌとエレノアが進めていた福祉事業である平民のための学校は、無事に開校し、多くの子どもたちが読み書き計算を学ぶことができるようになった。


この学力の向上は、国の発展に大いに役立つことになる。


アーサーとスザンヌは子宝に恵まれ、二人の王子と一人の王女の父と母になった。


愛する妻と子を励みに、アーサーは王太子時代から国民のために数々の法案を立ち上げ、大いに国の発展に尽くした。


アーサーが王位を継ぎ、スザンヌが王妃となってからは、二人で学校の義務化法案を推し進め、領主たちの協力のもと、各地に学校を広げている。


初めは金の無駄だと反対していた貴族たちも、結果的に領地の収入増につながることがわかったので、誰も文句を言わなくなったのである。


アーサーは、歴代稀に見る賢王と称えられ、国民からもっとも愛される王となったのである。




ジェフが主導権を握っていたメイブリック男爵領のゴム事業は、スザンヌの弟のコーディーが成人になった年に、領主になったことをきっかけに、その権利を引き渡した。


しかしその頃には、ジェフはグローリー侯爵領の中に、ゴム加工工場を建設しており、メイブリックゴム工場から仕入れたゴムを加工して、タイヤ、パッキン、ラバーカップ、吸盤などの生活用品を数多く売り出すことに成功している。


それらのゴム製品は、一般庶民に爆発的に売れて、グローリー侯爵家に多大なる利益をもたらしていた。




アーサーとスザンヌが結婚する少し前、トリーはシュド王国に出向き、王の実の管理人に会いに行った。


管理人の息子のサミュエルにも会ってみたい。


あの子は今も元気にしているだろうか・・・。


期待に胸を膨らませ、ジェフに再度地図を書いてもらって、記憶を頼りに山を登り、やっとのことであの村に着いた。


いきなり現れる平地はそのままだが、整備されていた畑は雑草だらけになっていて、家は既に壊されて瓦礫の山になっていた。


もうここには、誰も住んでいないのだ。


トリーは崖を上って王の実が生えていた場所にも行ってみた。


だが、そこは土が削り取られ岩肌が露出していて、草木一本すら生えていなかった。


管理人は言った。


―出ていく前に、王の実の管理人としての最後の仕事はしていくさ―


王の実をこの世から全て消し去ること、それが管理人の最後の仕事だったのだろう。


彼らはやっと、王の実から解放されたのだ。


今はどこで何をしているのかわからないが、きっと新たな人生を楽しんでいるに違いない・・・と、何も生えていない岩肌を見ながらトリーは思うのだった。




アーサーとスザンヌが結婚して二ケ月後、北側の隣国ノウザンレッド王国の第二王子が結婚式を挙げるので、ブランシェット王国の代表としてアーサーとスザンヌが祝いに行くことになった。


滅多に会うことがない従弟と久しぶりに話をしてみれば、結婚のお相手となる女性はシュド王国の王女で、側妃の娘だと言う。


側妃は王妃の嫉妬を恐れ、王女を守るために極秘でノウザンレッド王国にある祖母の実家である侯爵家に娘を預けていたのだ。


王女はそこで成長し、アカデミーで知り合った第二王子と愛し合うようになり、結婚するに至ったのである。


側妃の王女がスザンヌだと思っていたシャロン侯爵とメリッサが、この真実を知ったら、いったい何をどう思ったのであろうか・・・。


だが、二人とも、もうこの世にはいない。


シャロン侯爵は処刑され、スザンヌが王女だと信じて疑わなかったメリッサは、その真実を知ることなく病でこの世を去った。


温室の花のように手厚く育てられたメリッサには、牢獄の過酷な環境は厳しすぎた。処刑の日を待つまでもなく、病を患い、暗く湿った牢獄の中で、苦しみながら最後を迎えたのである。




ローズとジェフの結婚から、早いもので五十年が過ぎた。


ローズの栗色だった髪は真っ白になり、張りのあった肌には幾筋ものしわが刻まれている。


ローズは今、ベッドの上で、手足を動かすことができずに天井を見ている。


半年前から病に伏せ、数日前から手足が動かなくなった。


命が尽きるのも時間の問題なのだろう。


ローズは、幸せだった結婚生活を振り返る。


国王夫妻も王太子も列席してくれた華やかで盛大な結婚式。


世界で一番幸せだと思った。


ジェフは一緒に暮らすようになってからも、いつも変わらずローズに優しかった。


宰相にならないかと、アーサーから誘いがあったが、ローズのそばにいたいからと、その誘いを断った。


アーサーは、それなら相談役になって欲しいと頼み込み、ジェフは時々だけど、王宮に通うようになった。


その仕事も、五年前に右足の調子が悪くなってからは辞めたけれど・・・。


いつもそばにいて、絶えず愛してくれた穏やかな日々。


ローズにとってジェフと過ごす日々は、その一日一日が、かけがえのない宝物だった。




グローリー侯爵が病に倒れたのは、結婚十年後の冬だった。


ローズが病床の侯爵を看病しているときに、アーサーが見舞いに訪れた。


「私はまだ対価を払っておりません。どうか、願いを仰ってください。」


すると、侯爵は目を細めて言った。


「殿下は既に対価を払っていらっしゃるのです。ジェフリーの友人になってくれたではないですか。それが私の願いでした。」


そう話す侯爵の顔は、とても幸せそうだった。


侯爵は、冬が終わり春の気配が感じられる頃に、帰らぬ人となった。


彼の遺体は遺言通りに庭に建てられた慰霊碑の隣に埋葬し、墓石を建てた。


執事のフランボアは、侯爵が亡くなったのを機に引退し、毎年命日には花を供えにやって来た。


いつも二つの供花を用意し、一つは侯爵の墓石に、一つは慰霊碑に供えた。


だが、フランボアの訪れも、五年後には途絶えてしまった。


きっと彼のことだから、天国で侯爵と懐かしい昔話に花を咲かせているのだろう。




ジェフとの夫婦仲はとても良く、もしかしたら子どもを授かるかもしれないと期待したが、結局ジェフの言う通り、子どもはできなかった。


ローズが三十五歳のときに、兄夫婦に五番目の子どもが生まれることになったので、その子を養子にもらうことを約束した。


生まれた子どもは男女の双子だったので、ローズは一度に二人の赤ちゃんの母親になった。


それからは子育てでとても忙しくなったが、ジェフも子どもを可愛がり、家族四人でとても幸せに暮らしたと思う。


本当にジェフに出会えて良かった。


でも、もうすぐお別れだと思うと悲しい。


ローズは、ふうとため息をついた。


「ローズ、今朝の気分はどうだい?」


最愛の夫、ジェフの声がした。


ジェフは、 栗色髪の十歳と八歳の孫に、車イスを押されて部屋に入ってきた。


五十年間一度もメンテナンスを施していないジェフの膝は、金属疲労で故障し、二年前には両足が動かなくなっていた。


今は車イスが頼りの生活をしている。


流れるように美しかった金髪は、色があせて真っ白になり、艶と張りのあった人口皮膚は劣化して少し弛みができている。


キラキラ輝いていた青い瞳だけは若い頃のままで、その瞳を見ていると、懐かしい若かりし日の姿が思い出される。


「おばあ様、何かして欲しいことはありますか?」


「お兄様、ずるい。おばあ様、私に頼んでね。」


可愛い孫が、緑色の瞳を輝かせてローズに話しかける。


「ふふっ、あなたたちは、おじい様に似たのね。」


「へへっ。」


孫は二人とも嬉しそうに照れ笑いをした。


「ローズ、何を考えていたのかな。」


ジェフが、動かなくなったローズの手を握り話しかける。


やせ細り、しわだらけになっている彼女の手を、ジェフは愛おしそうに撫でた。


「あのね、昔のことを思い出していたの。ジェフに会えて良かったって・・・。」


「俺もローズに会えて幸せだったよ。」


「ジェフ、ねえ、覚えてる? ジェフが、自分のことを人形だって言ったこと。」


「ああ、覚えているよ。そのときローズは、人形なんかじゃないって、泣いてくれたんだ。」


「ふふっ、そうだったわね。あのとき、あなたは、別の言い方をしていたわ。確か・・・そう、ロボットって言ったのよ。」


「ああ、言ったよ。俺はロボットだからね。」


「まあ、まだそんなこと言ってる・・・。あなたは本当に私に尽くしてくれたわ。それがとても嬉しかった。あなたの言い方で言うなら・・・そう、あなたのこと、きっと、尽くし型ロボットって、言うんでしょうね。それも、究極の・・・ふふっ」


「うん、そうだ。俺は尽くし型ロボットだよ。」


「うふふ、今までありがとう。私の究極の尽くし型ロボットさん。でもね、私、あなたのこと・・・人形、ううん、ロボットだなんて一度も思ったこと・・・なかったわ。」


「ローズありがとう。愛しているよ。」


「・・・私も・・・愛して・い・・る・・・わ・・・。」


ジェフはローズの手を引き寄せて、しわの刻まれた手の甲にそっとキスをする。


ローズは目を細め柔らかに微笑んだ後、静かに目を閉じた。


手を握るジェフの目から涙が溢れ、乾いた肌にツーと流れ、ぽたりと落ちた。


ローズの目は閉じたまま、開くことは二度となかった・・・。




ローズは侯爵の隣に葬られ、ジェフは、毎日毎日一人で車いすを動かして、花を手向けに墓に参り、墓石に話しかけていた。


「ローズ、何かして欲しいことはないかい?」


「ローズ、俺はお前に喜んでもらえることが最大の喜びなんだ。」


ある日、ジェフはいつものように車イスで出掛けたが、外に出たままなかなか戻ってこなかった。


心配した息子と孫がジェフを探すと、墓の前で動かなくなっている彼を見つけた。


もう既に、心臓は動いていなかった。


ジェフはローズの隣に葬られ、その幸せな生涯を閉じたのである。

最終話まで読んでくださいましてありがとうございました。

人工知能の開発がもっともっと進むと、ロボットはどこまで人間に近づけるのだろう?

その思いがどんどん膨らんで、できたお話でした。

ローズとジェフのイチャイチャが書けて楽しかったです。

皆様にも楽しんでいただけたら幸いです。


次話から外伝ローズとスザンヌの愛読書『あなたの腕の中で』が始まります。副題はー身分違いの恋なので諦めようと思うのですが、王子様が離してくれませんー です。よろしければ、こちらの方も読んでみてください。ネタバレなく読みたい人のために本外伝は独立しての投稿もしています。なお、この後に続く『外伝転生極悪令嬢メリッサの場合』のパラレルストーリーになっていますので両方とも読んでいただければ幸いです。


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