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愛しの侯爵様は、究極の尽くし型ロボットでした  作者: 矢間カオル


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60話 謁見の間

馬車が王宮に到着すると、王宮専属のメイドが恭しく礼をした後、「スザンヌ様、こちらでございます。」と案内してくれた。


スザンヌが王宮の廊下を歩くのは、舞踏会以来である。


前回はローズとジェフがいて心強かったが、今は一人で心細く、ドキドキしながらメイドの後を追う。


でも、その心細さに絶対に負けないと、自分に言い聞かせる。


もう諦めないと決心したのだ。


これから何があろうと、迷わないし絶対に諦めない!


案内された場所は、公式に使用される謁見の間であった。


長く赤い絨毯の先の一段高い場所に、国王ウイリアムと王妃エレノアが豪華な椅子に座ってこちらを見ている。


スザンヌはごくりとつばを飲み、姿勢を正して一礼すると、まっすぐに前を見て絨毯の上を一歩一歩と前に進む。


その姿は堂々としており、凛とした美しい姿勢で歩く姿は、まるで王族のような威厳を周りに感じさせていた。


ウイリアムは「ほう・・・」と誰にもわからぬような小さなため息を漏らした。


「ブランシェット王国の太陽であらせられる国王陛下、王妃陛下にご挨拶申し上げます。本日は私をこのような尊い場にお招きいただきましてありがとうございます。メイブリック男爵家の長女、スザンヌ・メイブリックでございます。」


スザンヌはドレスのスカートの両脇を摘まみ、完璧なカーテシーで挨拶をした。


剣術と乗馬を教えてくれた退役軍人が、貴族令嬢たるもの美しいカーテシーができて当然なのだと、妥協を許さず厳しく教えてくれた賜物である。


スザンヌのカーテシーを見て、エレノアも、誰にもわからぬように感心のため息を漏らした。


「急な呼び出しであったのによく来てくれた。今日はそなたの意志を確認したくて呼んだのだ。」


ウイリアムがよく通る声でスザンヌに問う。


「そなたは、王太子アーサーとの婚姻を望んでいるのか?」




その頃、アーサーは自室でドキドキしながら使いの者を待っていた。


一昨日、いつものように説得しようとウイリアムとエレノアがいる部屋を訪ねると、「まあ、座りなさい。」と言われた。


いつもとまったく違う雰囲気に、もしかしてと淡い期待を抱いたが、ぬか喜びにならぬよう、まずは話を聞いてから・・・とアーサーは思い直す。


ウイリアムは、少しもったいぶってゆっくりと用件を口にする。


「アーサー、私たちはスザンヌに会うことにする。懸念していた身分の差は、グローリー侯爵が正式にスザンヌの後ろ盾になると報告が来たので、そこは何とかなるだろう。だが、まだ許可したわけではない。彼女に会ってから王太子妃に相応しいかどうか判断しようと思う。」


グローリー侯爵がスザンヌの後ろ盾になってくれたことは初耳だったので驚いたが、アーサーは彼の持つ鋭く頼りになる青い瞳を思い出す。


侯爵が後ろ盾になってくれたのなら、百人力を、否、万人力を手に入れたような心地がする。


「父上だけでなく母上も、スザンヌに会ってくれるのですか?」


「ああ、そうだ。」


「彼女に会えば、王太子妃に相応しい女性であることがおわかりになると思います。」


「まあ、そう言うと思った。ただし、一つ条件がある。これは面接試験のようなものだから、お前はこちらが良いと言うまで彼女と会ってはならぬ。お前のことだから、浮かれて何を言うかわからんからな。」


最後、ウイリアムはハハッと笑って言葉を締めた。


アーサーはグローリー侯爵に心から感謝した。


あの日、グローリー侯爵に促されるようにして、父親への説得を頼んだ。


アーサーはその後、王宮に戻ると、休む間もなく王太后宮のデルアを訪ねた。


母親の説得には、デルアが最適だと思ったからである。


祖母であるデルアは、アーサーに対してとても優しく、アーサー自身もデルアのことが好きで尊敬もしていたのだが、母エレノアは、デルアに対して尊敬と恐れ、そして人知れず対抗心を燃やしているように感じていた。


デルアなら上手く母親を説得できるかもしれない・・・。


その思いで頼みに行ったのだ。


この決断ができたのも、ひとえにグローリー侯爵のお陰である。


そして本日、スザンヌが王宮に来るから、使いの者が呼びに来るまで部屋で待機するようにと言われた。


どうかスザンヌ、王太子妃の門を、無事に潜り抜けてくれ・・・。




アーサーとの婚姻を望んでいるのか? とウイリアムに重々しい口調で聞かれた。


そのために来たのだから、答えは決まっている。


意思確認を求められているのなら、ここは、堂々と答えるべきなのだろう。


「はい。恐れながら申し上げます。私は王太子殿下との婚姻を望んでおります。殿下のことを心から愛しているのです。」


スザンヌの物おじせず堂々と胸を張って宣言する様は、俗な言葉で表現すると、とてもカッコ良く見えた。


ウイリアムにもエレノアも、そばに控える侍従と侍女たち、護衛の騎士たちにも・・・。


人々の注目を集める王族には、見栄えのするカッコ良さが求められる。


スザンヌは、既にその条件をクリアしているのだと、ウイリアムもエレノアも思った。


次にエレノアが問いかける。


「王妃教育はとても厳しいのですけれど、あなたにはそれが耐えられるのかしら?」


もうここまできたら、ドンと来いである。


スザンヌは何を聞かれても、尻込みせずに答えられる自信が沸々と湧いてきた。


「王妃教育は、私の未来のために授けていただける貴重な教育でございます。どのように厳しくても、決して弱音を吐かず、習得に励みたいと存じます。」


「あなたが王妃になって、やりたいことは何かしら?」


「殿下を陰ながら支えるだけでなく、私自信も人々のためにできることをしたいと考えております。今、着手していることは、平民のための学校を作ることなのですが、それを引き続き行いたいと考えております。」


この後も、就職の面接試験のようなやり取りが行われたが、スザンヌの受け答えはどれも完璧で、非の打ちどころがないものであった。


ウイリアムはそばにいた侍従を呼び、小声でアーサーを呼ぶように伝えた。




「殿下、陛下がお呼びです。」


待ちに待った呼び出しが、やっとかかった。


アーサーは足早に謁見の間に向かう。


長い廊下を歩きながら頭に浮かぶのは、お茶をするときのスザンヌの優しい笑顔、初めて口づけしたときの真っ赤になって恥ずかしがる顔、別れを告げられたときの涙にぬれた顔・・・


今はどんな顔をしているのだろう。


国王と王妃を前にして、緊張して強張っていないだろうか・・・。


謁見の間に入ると、絨毯の先にはスザンヌの後ろ姿が、彼女の前にはウイリアムとエレノアが玉座に座っている。


アーサーはつかつかと前に進み、スザンヌの横についた。


「国王陛下、王妃陛下、ただいま参りました。」


「で、殿下?」


スザンヌは久しぶりに聞くアーサーの声に驚き、声がした方を見上げる。


そこには、久しぶりに目にする愛しい人の顔があった。


アーサーもふっと笑みを浮かべ、スザンヌを見る。


お互いが見つめ合い、一瞬、時を忘れてしまったが、ウイリアムのコホンとした咳払いで我に返り、二人とも前を向いた。


「アーサー、スザンヌ、二人の婚約を認めよう。」


ウイリアムが高らかに宣言した。


アーサーは勝利をつかみ取った勇者のような笑顔を見せた。


本当は「やったぞ!」と拳を振り上げ跳び上がって喜びを表現したかったが、それは我慢した。


「国王陛下、王妃陛下、ありがとうございます。」


アーサーもスザンヌも一緒になってウイリアムとエレノアに感謝の言葉を述べると、アーサーは感極まってスザンヌをぎゅっと抱きしめた。


「スザンヌ、本当に良かった!」


「えっ?で、殿下?」


驚くスザンヌは、身体を離そうともがいたが、アーサーの力強い腕を振りほどくことはできず、そのまましばらく抱きしめられていた。


そんな息子をウイリアムとエレノアは呆れたように見ているのだった。


ようやくアーサーがスザンヌを解放したとき、デルアが二人の前に現れた。


侍従が車いすを押しての入場である。


「あ、あなたは・・・」


スザンヌがデルアを見て驚いた。


最近、孤児院に見学に来た老婦人であったからである。


「ふふっ、この間は、身分を偽ってごめんなさいね。私はアーサーの祖母よ。本当の名前はデルアなの。」


「そうだったのですね・・・。」


スザンヌは、あのときから面接試験が始まっていたのだと理解した。


「あなたの作ったクッキーとても美味しかったわ。」


「あ、ありがとうございます。」


手作りのクッキーを、王太后というもっとも身分の高い貴婦人に食べさせたことが恥ずかしくなって、スザンヌはぽっと頬を染める。


「ふふっ、二人とも婚約おめでとう。アーサー、あなたの愛する人はお王太子妃に相応しい人だと思ったわ。スザンヌ、アーサーのこと、これからもよろしくお願いしますね。」


「は、はい。私の方こそ、よろしくお願い申し上げます。」


スザンヌは改めて完璧なカーテシーで挨拶をした。

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