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愛しの侯爵様は、究極の尽くし型ロボットでした  作者: 矢間カオル


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57話 デルアの説得

帰りの馬車の中で、ふふっと思い出し笑いをするグローリー侯爵に、執事のフランボアが尋ねた。


「旦那様、何か嬉しいことでもありましたか?」


「ああ、そうだな。あったと言えばそうなるか・・・」


グローリー侯爵はアーサーとの会話を思い出していた。


「私の剣術の師匠がよく私に言ったものです。戦いを有利に進めたければ、利用できるものは全て利用しろと・・・」


アーサーは少し間を空けると、ハッと気が付いたような顔をして言った。


「侯爵、その言葉を信じても良いのなら、どうか私にあなたを利用させてください。」


「ほう、どのような?」


「私には愛する女性がいるのです。結婚を許して欲しくて毎日両親を説得しているのですが、身分が低いために反対されているのです。お願いです。どうか、侯爵から私の父を説得していただけないでしょうか。」


それは、王太子という身分を越えて、真剣な眼差しでグローリー侯爵に訴えてくる一人の人間としての願いであった。


グローリー侯爵はふむと少し考えた後、その青い目でじっとアーサーを見つめた。


「して、殿下はその対価となるものを、何かお持ちですか?」


「対価?・・・ですか?」


「人を利用するのですから、相手が利用されても良いと思えるだけの対価を用意しなければなりません。特に、国王陛下を説得するのです。それ相応の対価がなければ・・・。」


アーサーはしばらく考えた。


「それでは、私が王位を継いだとき、ジェフに宰相の地位を与えましょう。」


だが、グローリー侯爵は首を振る。


「いやいや、ジェフは宰相など望まないでしょう。」


「ううっ・・・」


アーサーは再度考えた。


そして腹をくくったかのように晴れやかな顔でこう言った。


「それでは、私ができることなら何でも一つ願いを叶えましょう。」


「本当にそれで良いのですか? 殿下が王位を継いでから、全財産を望むかもしれませんよ。」


「かまいません。私にとってスザンヌを失うことは、この世界を失うことと同義なのです。スザンヌに比べて私の財産など何の価値がありましょう。」


その言葉を語るアーサーの深い紫色の瞳には、嘘偽りの色は微塵も感じられなかった。


「わかりました。この老体に鞭打って、なんとか陛下を説得いたしましょう。」


「グローリー侯爵、ありがとうございます!」


必死に訴えてくる若者の情熱を、ひしひしと感じた一件だった。


馬車の中でアーサーとの会話を思い出していると、ふとアーサーとスザンヌのことを一生懸命に訴えているローズの姿が脳裏に浮かんだ。


―お義父様なら、国王陛下を説得できると思うのです―


「ふふっ、殿下は良い友人を持ったものだ・・・」


グローリー侯爵は、再度満足そうに微笑んだ。




王妃エレノアは頭を抱えていた。


連日、息子のアーサーがスザンヌの結婚を許して欲しいと説得に来る。


それだけでも頭が痛いのに、今日は王太后のデルアから呼び出しがかかった。


いつの世も、嫁と姑との間には、言葉に出せない緊張感が伴うようだ。


「お義母様、ただいま参りました。」


王太后宮にあるデルアの私室に入り、エレノアは次の言葉を緊張して待つ。


「まあ、お座りなさいな。」


デルアは足が不自由になってから、ずっと車いす生活をしているが、ピンと伸びた背筋や、紫色の瞳から出る人を射抜くような視線は昔から変わらない。


エレノアは、何故かいつも心の内を見透かされているような気がして、ドキリとしてしまうのだ。


エレノアは言われた通りにテーブルを挟んでデルアの向かいに座った。


「アーサーのことだけど・・・、あなたは反対しているのね。」


ああ、そのことね・・・、できれば口を挟んで欲しくないのだけれど・・・


「ええ、お母様、身分が違い過ぎますし、彼女は今まで社交界にもほとんど顔を出しておりません。何の後ろ盾もない彼女が王太子妃としてやっていくのは難しいかと・・・」


「そうね。あなたの言う通りだわ。」


あら、今日はやけに気が合うみたいだわ・・・


「メイブリック男爵の娘ですから、優しく気立ても良いのだとは思いますが、王妃になるには気立てが良いだけでは務まりませんもの。」


「ええ、本当にその通り。したたかさも兼ね備えていないとね。それはあなたが一番良く知っていることですものね。」


エレノアはなんだか少しカチンと来たが、顔に出さずに笑顔で我慢する。


「私、ついこの間、孤児院に視察に行ってスザンヌに会って来たのですよ。」


デルアの言葉にエレノアは衝撃を受けた。


実母である自分ですら一言もしゃべっていないのに、既に祖母であるデルアが会っていたとは・・・。


しかも足が不自由であるにも関わらず?


「それで、どう思われたのですか?」


「そうねぇ。気立てが良いだけの娘ではなかったわ。したたかさも兼ね備えていた・・・と言っていいのかしら・・・。」


「そ、そうですか・・・。」


「私ね、結構意地悪な質問もしてみたのよ。でも、嫌な顔一つせずに笑顔で答えたわ。今のあなたみたいに・・・」


エレノアはまたしてもカチンときたが、表情筋を駆使して笑顔を崩さない。


「あなた、以前に名を残せるような事業を始めたいって言ってたわよね。」


「え、ええ、まあそうですが。そのような些細なことを、お義母様は、覚えていらしたのですね。」


ずいぶん前に、会話の流れでつい口走ってしまったことだったので、まさかデルアが覚えているとは思わなかった。


「実はね。スザンヌは平民のための学校を作るつもりなのよ。」


「えっ? が、学校ですって?」


エレノアの表情筋が崩れ、驚いた顔を見せた。


エレノアは、デルアの孤児院に匹敵するような福祉事業を、自分も立ち上げたいと思っていた。


そして考えていたのが、平民のための学校である。


この国には、王立の貴族のための学校はあるが、授業料が非常に高い。


過去に高額の寄付金を払って入学を認められた平民もいるが、そんな者はごく稀で、一般の平民が学校で学ぶことは、ほぼ不可能であることが現状である。


平民のための学校の費用は国家予算の中では認められておらず、もし作るとしたら、私費を投じる必要があった。


エレノアは自分の名前で学校を作りたいと思ってはいるものの、学校を建てるためにかかる費用や、教師の人件費などを考えると、なかなか着手できないでいた。


「スザンヌはね、ゴム事業で得た収益を学校に当てるつもりのようよ。でも、予算はあるけど、事業に関しては素人なのでグローリー侯爵家に頼るようね。でね、思ったのだけれど、あなたには今まで築き上げてきた幅広い人脈があるわ。それに王室主催の事業だっていろいろ手掛けてきた。あなたがスザンヌの手助けをするのはどうかしら? 未来の嫁のために姑が優しく手ほどきする様子を皆にみてもらうのは、あなたのためにもなると思うのよ。」


エレノアは想像した。


学校建設やその準備のために、スザンヌに教えながら一緒に歩いている様子を・・・。


それに、関わるのはスザンヌだけではない。


学校作りには大勢の人々が関わってくる。


事業に疎い嫁を補いつつ、一緒に学校作りに奔走する王妃を見て、皆はどう思うのか? 


平民のために尽力する王妃を、女神のように思ってくれるかもしれない・・・。


懸念していた費用はメイブリック男爵家から捻出される。


私が投じる私費は、少額で済むはずだ。


これはなかなか旨い話なのではないかしら・・・? 


頭の中でいろいろ計算しているエレノアに、さらにデルアがグイッと押し込む。


「あの子の後ろ盾のことなんだけど、おそらくグローリー侯爵が後ろ盾になると思うわ。ゴム事業で深いつながりがあるのだから当然なことね。それから、私の孤児院のお世話もよくしてくれているから、私も後ろ盾になろうと思っているの。」


「まあ、お義母様、それなら私も学校繋がりで後ろ盾になれますわ。」


「そう、あなたまで後ろ盾になるんだったら、それは心強いわね。ふふっ」


・・・これで王妃は陥落したわ・・・。


デルアは、可愛い孫が喜ぶ顔を早く見たいと思った。




王妃が去った後、デルアは車いすにもたれながら、大人になったアーサーの顔を思い出していた。


子どもの頃から私に懐き、いつも優しく労わってくれるアーサーが大好きだった。


私が始めた福祉事業の孤児院で、運営を任せた伯爵が金を横領していることを知ったときは激しいショックを受けたけれど、アーサーが慰めてくれて、足の悪い私のために、視察を自ら買って出てくれた。


本当に優しい子だと心から思う。


だけど、アーサーはいつまでも子どもではなかった。


愛する人ができた。


結婚したいけど両親に反対されて困っている。


おばあ様、どうか母上を説得してくださいと言われたときは、何とかしてやりたいと思った。


今まで私に何かを頼みに来ることなんてなかったのに、どういう風の吹き回しか、珍しくあの子から頼みに来るなんて・・・


だからこそ、アーサーの恋を実らせてやりたいと思った。


あの子が愛する女性を知りたくなって、スザンヌに会いに行った。


美しく、優しく、だけど、したたかさも兼ね備えているスザンヌ・・・。


何よりも感心したのは、夢を追うだけでなく、自分の力量を把握したうえで着実に計画を進めること。


この力は、王妃にとっても必要不可欠なもの。


身分は低くても、スザンヌこそが王太子妃に相応しい。


「ねえ、アーサー、私はあなたのお役に立てたかしら・・・。」


デルアは大人になったアーサーの顔を思い出しながら、そっと呟いた。

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