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愛しの侯爵様は、究極の尽くし型ロボットでした  作者: 矢間カオル


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54話 リリアーナ

他の貴族を説得する材料があるのかとウイリアムに聞かれたが、スザンヌが何かしらの大きな功績を挙げたわけではなく、ただ、愛しているというだけでは説得する材料にはならないことはわかっている。


だが、これは伝えておかなければと、アーサーはウイリアムを説得すべく自分が得た情報を伝える。


「父上、第二候補のリリアーナ・プレス伯爵令嬢は、クロード・ステイン小伯爵と恋仲にあります。二人のためには私の存在が、かえって邪魔なのです。それから第三候補のカロリーヌ・ドルエン伯爵令嬢は結婚に興味がないようなのです。ですから、婚約者候補から外しても・・・」


「アーサー、貴族の婚姻は当事者だけの問題ではないのだ。何故それがわからぬ。」


ウイリアムが厳しい口調でアーサーの弁を諫めた。


「ですが・・・」


「仮に、リリアーナ嬢については穏便に婚約者候補から外せる可能性があるかもしれないが、カロリーヌ嬢については、ドルエン伯爵にどう話すつもりだ。娘が結婚する気がなくても、ドルエン伯爵はそれを望んでいない。」


婚約者候補になった三人の令嬢には、誰が選ばれても良いように、妃教育が施されている。


メリッサがいなくなった今、ドルエン伯爵はライバルが減ったと喜んでいることだろう。


「くっ・・・」


父に叱責され、アーサーは縋るような目でエレノアを見る。


「母上はどうお考えですか?」


優しい母なら・・・と淡い期待を持って見たのだが・・・。


「私は陛下と同じ考えよ。男爵令嬢では、王妃となってからも苦労するのが目に見えているわ。あなたと踊った男爵令嬢、とても美しい女性だった。誠実だからと孤児院の院長に抜擢されたメイブリック男爵の娘なのだから、きっと心根も優しく、気立ても良い娘なのでしょう。でもね、アーサー、王妃は美しくて気立てが良いだけでは務まらないの。」


「は、母上・・・」


淡い期待は見事に打ち砕かれた。


がっくりと肩を落とすアーサーに、エレノアは追い打ちをかける。


「私は、子どもの頃から王妃になるべくして育てられたの。だから、舞踏会でも何処でも皆が次期王妃として接してくれたし、私もそのつもりで皆に接していたわ。だから、王妃となっても困ることなくここまで来れたの。スザンヌは、今まで社交界に顔を出してこなかった。だから人脈もなければ強い後ろ盾もない。そんな彼女があなたの婚約者になったら、周りの者はきっとこう言うでしょう。身の程をわきまえぬ田舎娘だと。そんな誹謗中傷にスザンヌは耐えられるのかしら?」


「うっ・・・。」


ウイリアムが言うことも、エレノアが言うことも、実にもっともなことであった。


だが、はいそうですかと引き下がるつもりはない。


「ですが、父上、母上、私の気持ちは変わりません。どうか、再考していただけるようにお願いいたします。」


アーサーは深々と頭を下げた。


「アーサー、この話はこれで終わりにしよう。お前も頭を冷やすように・・・。」


これ以上は無理だと判断したアーサーは部屋から出て行ったが、一人になると頭を抱えた。


スザンヌには必ず両親を説得すると言ったのに、まったく歯が立たなかった。


息子の友人作りを心配するほどの優しい父親なら、きっと願いを聞いてくれると思っていたのだが、なんと甘い考えであったのか・・・。


アーサーはこれからのことを考えると頭が痛くなった。




アーサーが頭を抱えている頃、婚約者第二候補のリリアーナの父親、プレス伯爵も頭を抱えていた。


メリッサが失脚してから、娘の様子がおかしくなった。


毎日泣いてばかりいるのだ。


食事もとれなくなり、見る見る内に痩せ細ってしまった。


自慢だった艶のある茶色の髪はくすみ、大きな茶色の丸い目も、幼さが残る可愛らしい顔も、今はやつれて見る影もない。


理由を聞いてもただ泣くばかりで、プレス伯爵はどうしてよいかわからない。


このままでは、大事な娘が死んでしまう・・・。


「リリアーナや、何がそんなに悲しいのだ? どうして何も食べないのだ? お前の言うことは何でも聞くから、どうか本当のことを教えておくれ・・・。」


リリアーナは、その言葉を聞き、息も絶え絶えにやっと父親に話し始めた。


「お・・・、お父様・・・、本当に何でも・・・、言うことを・・・聞いてくれるのですね。」


「ああ、もちろんだとも。お前の命に代わるものはないのだ。」


「そ、それでは・・・、どうか・・・、殿下との婚約を・・・辞退してくださいませ。」


「リリアーナ、何故、そのようなことを? 殿下の婚約者候補になれたことを喜んでいたのではなかったのか?」


「お、お父様・・・、それは十二歳の頃の話でございます。じ、実は・・・、今は、お慕いしている男性がいるのです。」


「何と、そのような男性がおったのか・・・。」


「私・・・、その方と一緒になれないのなら・・・もう・・・生きる希望がございません。」


リリアーナの瞳から、大粒の涙がはらはらと零れ落ちた。


「わかった。陛下には私から辞退の話をしておこう。お前の命が一番大切なのだ。だから、もう安心しなさい。」


「ああ、お父様、ありがとうございます・・・」


そこへ、花束を持ったクロード・ステイン小伯爵が現れた。


「突然の訪問失礼いたします。リリアーナ嬢が病気になったときき、お見舞いにきました。」


「クロード様!」


今の今まで死にそうだったリリアーナに、急に生気が溢れた。


「ああ、リリアーナ、こんなにやつれて・・・」


「クロード様・・・」


寝たきりだったリリアーナは半身を起こし、クロードに手を伸ばす。


「リリアーナ・・・」


クロードはその手をとり、リリアーナをひしと抱きしめた。


「リリアーナ、愛している。」


「クロード様、私もお慕いしております。」


クロードはプレス伯爵に向き直ると、真摯な態度で願い出た。


「プレス伯爵、どうか、リリアーナ嬢との結婚をお許しください。」




アーサーは、今日も頭を抱えている。


あれから三日間、毎日両親を説得したが、前例がないと言って取りつく島がない。


一つ前進したことは、プレス伯爵からリリアーナの婚約者候補辞退の報告があったことである。


しかし、カロリーヌの候補はそのままであるので、アーサーの悩みが解消されたわけではなかった。


―俺を信じて欲しい。必ず両親を説得する―


この口でスザンヌに誓ったのだ。


絶対になんとかしてみせる。


しかし、このままでは、らちがあかない。


こういう時こそ、ジェフに相談すると良いのではないか?


優秀な頭脳で、何か良い方法を考え出してくれるかもしれない・・・。


そう思ってアーサーは、グローリー侯爵邸に足を運んだ。


アーサーはグローリー侯爵邸に着いてジェフに面会を求めたが、案内された応接室に出てきたのはジェフではなく、グローリー侯爵であった。


白髪がいかにも老人といった風情であるが、ジェフと同じ鋭く青い目が、全てを見透かしたようにアーサーを見つめている。


「殿下、お久しぶりでございます。ただいまジェフは外出中なのです。よろしかったら、私がお話を聞きましょうか?」


グローリー侯爵は老齢であるが、その佇まいには威厳と風格を感じさせる力強さがある。


ふと、グローリー侯爵に心酔している父、ウイリアムの顔が脳裏に浮かんだ。


「あ、いえ、ジェフが留守なのでしたら、また改めて来ます。ですから、どうかお気になさらず・・・。」


「そうですか・・・。それでは一つ、この老人から、ささやかな助言をすると致しましょう。私の剣術の師匠がよく私に言ったものです。戦を有利に進めたければ、利用できるものは全て利用しろと・・・」


アーサーは、何故グローリー侯爵がそのようなことを言うのかわからなかった。


だが、侯爵の余裕のある笑みを見て、ハッと気が付いた。

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