53話 アーサーの願い
スザンヌはアーサーからのプロポーズを断り、それ以降、アーサーとは距離を置いている。
アーサーは、犯人を捕まえるから、そのときは考え直して欲しいとスザンヌに伝えているが、犯人逮捕の後処理で忙しく、ゆっくりと話をする時間がない。
お互いの心と時間がすれ違っているため、二人の間に進展がないのが現状である。
だけれど、アーサーもスザンヌもお互いに愛し合っているのだから、もうそろそろ手を取り合っても良いのではないかと、ローズは思う。
だが、スザンヌには、手を取り合う気持ちがないようだ。
「私ね。今回のことで身に染みたわ。身分違いの恋は人を不幸にするって・・・。」
「そ、そんなことないわ。」
ローズは慌てて反論するが、スザンヌには響かない。
「それにね。殿下には婚約者候補がいるわ。」
「えっ?でも、第二候補のリリアーナ嬢は他に好きな人がいるし、第三候補のカロリーヌ嬢は結婚に興味がなかったように見えたわ。」
「それでも同じことよ。貴族の結婚は当事者同士の思いよりも家門のつながりを大切にするし、国王陛下と王妃陛下も、きっと男爵令嬢との結婚なんて許すはずがないわ。」
スザンヌは完全に諦めている・・・
愛し合ってる二人なのに、結ばれないなんて、悲しい・・・。
ローズは、犯人が捕まり、メリッサが婚約者候補から外れたのだから、二人は仲直りするものだと思っていたのだが、そう簡単には行かないようだ。
「じゃ、じゃあ、婚約者候補の家門も、国王陛下も王妃陛下も認めてくれたら・・・、そのときは考えるってことで良いのかな?」
「えっ? ええ、まあ、そう・・・って、そんなの無理に決まってるじゃない。」
スザンヌは間髪入れずに、気持ちを切り替えるように話題を変える。
「さあ、もうこの話は終わり! これから作る学校のことを聞いて欲しいの。」
スザンヌは、しばらくの間、学校についての構想を話してから帰った。
ローズは考えた。
愛し合っている二人が結ばれる方法はないのかしら・・・。
もし、私が陛下のお友達だったら、息子の幸せを一番に考えなさいって説得するんだけど・・・。
そこでピンと来た。
陛下に、とっても近しい人がいるじゃない。
今すぐ会いに行こう!
ローズが向かったのは、グローリー侯爵家である。
先ぶれもなしに訪ねても、グローリー侯爵家の使用人たちは、ローズのことを未来の侯爵夫人として扱ってくれる。
「ローズ様、ジェフリー様はただいま書斎でお仕事中でございますが、どうされますか?」
「いえ、今日はお義父様に会いに来たのです。」
「それでは少々お待ちくださいませ。」
ジェフリーなら、待たされることなく書斎に案内してくれるのだが、さすがにグローリー侯爵となると、そうはいかない。
しばらく待っていると「侯爵様のお許しが出ましたので、応接室にご案内いたします。」と侯爵付きのメイドが案内してくれた。
「お義父様、突然の訪問にも関わらず、お許しくださいましてありがとうございます。」
「ローズや、そんなにかしこまらなくても良い。さあ、座りなさい。」
グローリー侯爵は優しい笑顔でローズを迎える。
「ところで何の用かな?」
「実はスザンヌと殿下のことで、ご相談に参りました。」
ローズは、スザンヌとアーサーが愛し合っているにも関わらず、一緒になれないことを今までの経緯と共にグローリー侯爵に話した。
少し長い話になったが、グローリー侯爵は、遮ることなく最後まで真剣に聞いてくれた。
手ごたえを感じたローズは、話し終わった後、期待に胸を膨らませる。
「つまり、ローズは、私に国王陛下を説得して欲しいと思っているのじゃな。」
「はい。そうです。お義父様なら、国王陛下を説得できると思うのです。」
ローズは嬉しそうに返事をしたが、すぐにその気持ちは沈むことになる。
「ふむ。ローズの友人を大切に思う気持ちはわかるが、これは殿下とスザンヌの問題なのじゃ。ローズが口を挟む問題ではないだろう?」
答えは、ローズが思っていたのとは違った・・・。
「・・・そ、そうですよね・・・。わ、私が口を挟むのは・・・。私・・・、出しゃばってしまいましたね。ごめんなさい。」
一気にシュンと意気消沈してしまったローズに、グローリー侯爵は優しい口調で語りかける。
「ローズの友人を思う気持ちは決して悪くはないのじゃよ。ただ、これは殿下自ら動かなければならないことなのじゃ。」
アーサーは、考えた。
第一候補のメリッサは罪を犯し、婚約者候補から外れた。
第二候補のリリア―ナは他に好きな人がいる。
第三候補のカロリーヌは結婚する気がない。
ならば、スザンヌを妻に迎えることができるんじゃないか?
今すぐスザンヌに再プロポーズをしたい衝動にかられたが、その前に父上と母上の許しを得てからの方が良いだろう。
スザンヌが承諾してくれても、国王と王妃が反対すれば元も子もない。
アーサーは二人の公務が終わり、私室でくつろいでいるときを見計らって会いに行った。
部屋には護衛も使用人もおらず、二人はゆったりとお茶を飲んでいる。
銀髪の国王と金髪の王妃が二人そろって仲良くしている様子は、至極豪華で、それでいて見ている者をほっこりとさせる。
この雰囲気なら、話すにはちょうど良いとアーサーは思う。
「父上、母上、今日はお願いがあって参りました。」
緊張した面持ちで話し始めたアーサーに、父であり国王であるウイリアムと、母であり王妃でもあるエレノアは、キョトンとした顔をした。
「アーサー、何をそんなに緊張しているのだ?」
「実は、婚約者候補について、お話をしに来ました。」
「ああ、そのことか。」
ウイリアムは内容がわかって納得する。
「メリッサが失脚したからね。第二候補のリリアーナと第三候補のカロリーヌから選ばなくてはならなくなった。どちらが良いか迷っているのかね?」
「いえ、そうではありません。リリアーナでもカロリーヌでもない別の女性と結婚したいと思っているのです。」
「ん!?」
ウイリアムは飲もうとしていたカップの手を止めた。
それまでにこやかな笑みを湛えていた紫色の瞳が、訝し気な様相に変わる。
「いったい何を言っているのだ? 候補を三人にして欲しいと願い出たのはお前だろう。ずいぶん長い時間をかけて話し合ったことではないか。」
「それはそうなのですが・・・。誠に勝手なお願いだとは重々承知しておりますが、別の女性との結婚を認めていただきたいのです。」
ウイリアムはカップをテーブルの上に置き、姿勢を正した。
「アーサー、その女性は誰なのだ? 皆が納得できる女性なのか?」
「おばあさまの孤児院の運営を任されているメイブリック男爵の令嬢で、スザンヌという名前です。身も心も美しく素晴らしい女性なのです。」
エレノアは、その名前にピンと来た。
ウイリアムとは違う藍色の瞳で、アーサーをじっと見据える。
「もしかして、その令嬢は前回の舞踏会で、あなたがダンスに誘った令嬢ではなくて?」
ウイリアムも思い出した。
「そうだ、その令嬢はシャロン侯爵に拉致された娘だ。邪魔だったから凶行に及んだそうだが、もしかして、お前は、その娘と付き合っていたのか?」
「いえ、付き合っていたとは言えない間柄ですが、父上と母上の許しを得れば、正式に交際を始めたいと思っています。」
アーサーは真剣な眼差しで、ウイリアムとエレノアを見つめた。
二人ともアーサーの真剣な思いを感じ取ってはいたが、ウイリアムがふうとため息をもらした。
「アーサー、よく聞きなさい。この国では、男爵令嬢が王妃になった前例がない。男爵位よりも高位の婚約者候補が二人もいるのだ。その者たちを納得させるだけの材料があるのか? 」




