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愛しの侯爵様は、究極の尽くし型ロボットでした  作者: 矢間カオル


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49話 管理人の仕事

「こいつの始末はどうする?」


「どうするって? 見逃したことが王にバレたら死罪よ。消した方が良いのでは?」


「今さら? 俺たちは見捨てられたのに?」


「王なんて気まぐれなんだから、いつどうなるかわからないわ。」


トリーが目を覚ましたその時に、男女の会話が聞こえてきた。


消した方が良いって・・・?


このままでは殺される・・・と思っても、動こうにも手足を縛られて床に寝かされているので、身動きがとれない。


いったいどこに寝かされているのかと思っていたら、見覚えのあるブリキの馬のおもちゃが見えた。


ここは、あの男の子の家だ。


と言うことは、話しているのはあの子の両親か・・・?


「ただいま!」


子どもの声が聞こえた。


あの男の子の声だ。


「ただいま。」


この声は妹。


「サミュエル、エヴァ、お前たち、早かったね。もっと遊ぶんじゃなかったの?」


あの子の名前はサミュエルって言うんだ・・・。


「だって、コニーのやつ、今日は勉強するって言うんだもん。邪魔しちゃ悪いから、帰ってきたんだよ。」


「そうか・・・。」


父親は、はぁ・・・と困ったようなため息を漏らす。


「あれ? このお姉ちゃん・・・、何でこんなところで縛られているの?」


サミュエルが、トリーのそばまで駆けてきた。


「お姉さん、何か悪いことでもしたの?」


サミュエルがトリーの顔を覗き込む。


「いや、悪いことはしてないと思うんだけど・・・」


すると今度は、サミュエルは父親の元に駆けて行く。


「お父さん、このお姉ちゃん、僕を助けてくれたんだよ。ほら、見てよ。僕がケガして泣いてたら、薬を塗って包帯を巻いてくれたんだよ。それにエヴァの帽子だって取ってくれたんだ。悪い人じゃないよ。」


サミュエルは膝を指し示しながら父親に訴える。


ふう・・・父親は再度大きなため息をついた。


「お嬢さんは、どうやら、息子の恩人らしいな。だが、何であんなところにいたんだ?」


父親がトリーに問いかけてきたので、トリーはまず縄をほどいてもらうことをお願いすることにした。


「あの・・・、決して怪しいものじゃありませんし、逃げることもしませんから、縄をほどいてくれませんか?」


縄がほどかれてやっと自由になったトリーはサミュエルの両親と向かい合い、真面目な顔でここに来た理由を話し始めた。


「実は・・・、私はブランシェット王国で考古学を勉強している者でして、私の先生がとても古い文献を見つけまして、今でもこの地図のままなのか調べてくるようにと、お命じになったのです。先生は高齢で、自分は行けないからって・・・。」


「その地図とは?」


トリーはポケットから地図を取り出して見せた。


「あの・・・、これは古い地図を書き写したものです。文献は先生が持っているので・・・。」


父親は驚いた顔でその地図を見た。


「まだこの地図が残っていたとは・・・。シュド王国では、数代前の国王が、この地のことが記された全ての地図を焼却したと言うのに・・・。」


「外国では、まだ古い写本が残っているようね。」


「ああ、そのようだ・・・。」


夫婦はトリーが出した地図を感心して見ていた。


「あの・・・、ところで私はいったいどうなるのでしょう?」


トリーがおずおずと聞いてみる。


「あなた、ブランシェットの人なのよね。絶対にシュド王国の人にここの話をしないって約束できるかしら?」


「もちろんです。ところで・・・、先ほどのお二人の会話を聞いてしまったのですが・・・、もしかして、何か事情があるのでしょうか・・・。」


「見捨てられたって話か?」


「あの・・・、そうです。なんか気になっちゃって・・・」


「はは・・・、つまらぬことを気にするのだな。だが、見捨てられたことは本当だ。聞きたいか?」


「は、はい。聞きたいです。ぜひとも・・・」


夫はどうやら、この国に不満を抱いているらしい。


どうせ俺たちは見捨てられたのだからと、その不満をトリーにぶつけるように、話し始めた。




今から五百年ほど前、南部の小国であったシュド王国が、南部の統一を果たした。


ここにしか生えていない王の実を使った作戦が功を奏したからである。


統一後、国王は最も信頼できる部下に、王の実の管理を任せた。


管理人の仕事内容は、王の実を盗みに来た者がいたら、即座に殺すこと。


いわば王の実の番人とでもいうべき使命である。


管理を任された部下は、この地に居を構え、生活を営むために土地を均し、畑を作った。


それ以来、五百年間、管理人の子孫は細々とこの地で暮らしてきたのである。


給金は年に二回、管理人が王宮に出向き、王から直接手渡されることになっている。


国王以外に王の実の名前を出すことは禁じられているので、謁見申請の際は「山の管理人」で申請し、名目上、王は山の管理料と称して給金を手渡すのだ。


しかし、給金は一家族が数軒暮らせる程度だったので、管理人の代表と、それに近しい家族だけが山に残り、それ以外は山を下りるということがずっと繰り返されてきた。


年に二回の謁見は、王の代が変わっても、五百年間続いていたのだが、二十年前、今の国王に代替わりしてから変わってしまった。


謁見を申し込もうとしても、山の管理人ごときが王に会いたいなどと不敬にもほどがあると門前払いをされるのである。


申請すらも、させてもらえない状態が続いた。


王の引継ぎが上手くできなかったのか、それとも故意なのかわからない。


王が会ってくれなければ給金はもらえない。


係の者に王の実の管理者だと訴えたくても、王の実の名前を出すことを禁じられている以上、そんなことは言えない。


ともかく王に合わせてくれと必死になって何度も頼んでも、平民ごときが何を言うと取り合ってもらえず、にっちもさっちもいかなくなってしまった。


一年ぐらいは給金をもらえなくても何とか持ちこたえたが、段々と生活が厳しくなってきた。


もともと少ない人数で管理していた村だったが、このままでは生きていけないと、皆山を下りて行った。


残ったのは、管理人の代表を務めていた兄弟家族の一軒だけ。


兄弟の親は、もうこれ以上は無理だと、死罪覚悟で山から下りようかと悩んでいたら、ちょうどそのとき、他国の商人がこの地を訪れた。


王の実を売って欲しいと言う。


しかも、商人が示した額は、かなりの高額だった。


シュド王国の者は、誰もその名前を覚えていないのに、何故王の実の名前を知っているのか尋ねたら、商人は、古い文献を読んで興味が湧いたと答えた。


王からの給金が途絶えて二年が経ち、金は底をついていた。


生きるためには、仕方のないことだった。


どうせ見捨てられたのだ。


王の実を商人に売ったところで、誰が王に告げ口すると言うのだろう。


王の実を商人に売ることを決めたが、条件を付けた。


絶対にここで買ったことは誰にも言わないことと、王の実の名前を出さないこと。


商人に王の実を売るようになって、生活は潤った。


盗人を捕まえて殺すことが本来の仕事であったのに、管理人である自分たちが盗んで売ることになろうとは、何とも皮肉な話である。


その後、兄弟の親は病気で死んだが、後を継いだ兄弟はそれぞれ結婚し、現在、村には二家族が暮らしている。


王の実を売るのだから、ここから出る必要はなく、今でも定期的に商人と取引をしているのである。




「ずいぶんご苦労されたのですね。」


話を聞き終えたトリーは労いの言葉を書けたが、それとは別に、疑問に思っていたことを口にする。


「あの・・・、管理人の仕事は、王の実を盗みに来た人を殺すことって言ってましたが、今までに、何人くらい殺したのですか?」


「俺が知る限りでは、ゼロだな。」


「ゼ、ゼロですか・・・。」


トリーはもっとすごい数字を想像していただけに、拍子抜けしてしまった。


「この国の者は王の実の存在を知らないし、この場所が書かれた地図も、今はもうないからな。誰も好き好んでこんな場所には来ない。そんなだから、王にも見捨てられたんだろう・・・。来たのは商人とお嬢さんくらいだ。」


「そうですか・・・。ところでその商人はどこの国の商人なんですか?」


「それは言えない。」


夫は迷わず即答する。


きっとこれは、お互いの約束ごとなのだろう。


「じゃあ、もし、商人が取引に来なくなったらどうするのですか?」


「ああ、そのことなのだが・・・、お嬢さんも見ただろう? 崖の上に少ししか生えていないのを。」


「はい。思ったより数が少ないなぁと・・・」


「昔はもっとたくさん生えていたそうなのだが、年々風化が進み、崖が崩れて生えている場所が小さくなっている。最近は特にひどくてな。売るほどの実が採れなくなってきた。王の実が消えてなくなるのも時間の問題だろう。それに、あの崖を上るのも命がけでな。商人に関係なく、そろそろ山を下りようと思っている。」


「もう王の実の管理はしないと言うことですか?」


「ははっ、王に見捨てられて二十年だ。山を下りたとて、死罪にはならないだろう。」


夫の自虐的な言葉に、トリーは何と答えて良いかわからなかった。


「だが、出ていく前に、王の実の管理人としての最後の仕事はしていくさ。」


夫は、不敵な笑みを浮かべてそう言った。

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