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愛しの侯爵様は、究極の尽くし型ロボットでした  作者: 矢間カオル


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46話 フランツの悪意

翌日の朝、クレマリー家の使用人がローズに手紙を持って来た。


封筒に書かれている差出人の名前は、アーサー。


アーサーのサインと文字を見たのは、彼から直接もらった舞踏会の招待状だけなのだが、確か、こんな感じのサインだったように思う。


王家の紋章の封蝋はなかったが、私的な手紙だから、そこは簡略化しているのかもしれない。


封を開けて手紙を見ると、文字は少し丸みを帯びた丁寧で美しい文字、アーサーの手紙で間違いないだろう。


手紙にはこう書いてあった。


『親愛なるローズへ

この度はジェフリーの生還おめでとう。

俺は、友として、ジェフリーを祝いたいと思う。

ついては、本日、友人だけのささやかなお茶会を開くことにした。

ぜひともジェフリーと一緒に来てくれたまえ。

ジェフリーにも同じ手紙を送っている。

我が友フランツに、馬車で迎えに行くように頼んだから、二人ともそれに乗ってくるといい。

では、会えることを楽しみにしている。 

アーサー・ブランシェット』


「ええっ? 本日?」


読み終わったローズは、いきなりの日程に驚いた。


お茶会を開いてお祝いしてくれるのは嬉しいことだと思うけれど、手紙をもらったばかりなのに、今日だなんて・・・


ローズは急いで支度を始めたのだが、まだ途中なのに、フランツが迎えに来てしまった。


仕方がないので、フランツを応接室で待たせて、支度を急いだ。




「遅くなってごめんなさい。」


支度が整ったローズは、応接室で待っているフランツにまず謝罪する。


舞踏会で何度か顔を見たことがあるが、話したのは今日が初めでである。


くるりと巻き癖のある茶髪をきれいにまとめ、茶色い目も涼やかで、服装のコーディネートも好ましく、いかにも好青年という印象である。


「初めまして、フランツ・オルトマンです。たいして待っていませんので、お気になさらず。」


フランツは、嫌な顔ひとつせずに、貴族らしい物腰でローズに優雅な挨拶をする。


さすが殿下のご友人に選ばれただけのことはあると、ローズは感心しながら、その挨拶を受けたのだが、


「こ、こちらこそ初めまして、ローズ・クレマリーです。」


ローズの挨拶の方が、よっぽどぎこちない。


「それでは行きましょうか。殿下が待っています。」


ローズはフランツにエスコートされて馬車に乗ったが、フランツは馬車に乗らずにドアを閉めようとする。


「あ、あの・・・、フランツは乗らないのですか?」


「婚約者がいる女性と、二人きりで馬車に乗るのは良くないと、殿下からいただいた手紙に書いてありました。ですから、今日は私が御者を務め、今からジェフリーを迎えに行きます。」


「えっ、そんな・・・、それだとなんだか申し訳なくて・・・。御者はこちらから出しましょうか?」


「いえ、気を遣っていただき、ありがとうございます。ですが、これも殿下のご配慮だと思います。」


二人のやり取りは玄関の前で行われたので、数人の使用人が見聞きしていたのだが、皆フランツの丁寧な言葉遣いや柔らかな笑みに、さすが殿下のご友人だと妙に納得していた。


結局、ローズは一人で馬車に乗った。


あら、良い香り・・・


ドアを閉めると、甘い香りが鼻をくすぐり、ローズは馬車に芳香剤を入れてるのだと思った。


ふわふわと漂うその香りは次第に馬車に充満し、ゴトゴトと規則正しく揺れる音がまるで子守唄のようで、ローズはいつしか深い眠りに誘われるのだった。


フランツが操縦する馬車は、王都の郊外にある丘陵地に向かった。


民家がないこの丘陵地に普段人が訪れることはなく、今はフランツの馬車の音だけがガタゴトと響いている。


さらに奥へと馬車を進ませると、フランツは洞窟の前で馬車を止めた。


メリッサに教えてもらったこの洞窟は、昔、もの好きな金持ちが、水晶が採れると噂を聞いて業者に金を払って掘らせたものである。


結局水晶は採れず、地盤が緩いことがわかったので、その貴族は掘削作業を止めてしまった。


今では長い洞窟が、そのまま捨て置かれている。


「ふふっ、これからどうなるのか、何も知らずによく眠っている。」


フランツはローズの手足を縛り、肩に担いで洞窟の中に入った。


奥は光が届かず暗いので、片手に灯りを携えている。


そして奥まで行くと、ローズが目を覚まさないようにそっと地面に寝かせ、急いで洞窟を出た。


「さあ、次はジェフリーだ・・・。」


ローズとジェフを、別々に馬車に乗せることにしたのには理由がある。


二人一緒だと会話が弾み、催眠香が効かなくなるかもしれない。


ジェフが一緒だと、万が一計画に気付かれたら、フランツにはとても太刀打ちできない。


何と言っても、ジェフは暴漢をやっつけたと新聞に載ったこともある男なのだ。


ジェフが午前中は仕事をして、午後からローズの元へ行くことは調査済みだ。


ジェフを誘うには、通り道でジェフを待ち伏せすれば良い。




フランツがグローリー侯爵邸の近くに到着してしばらく待っていると、ジェフがグローリー侯爵邸から出てきた。


ローズの屋敷に向かって一人で歩いている。


フランツは馬車を走らせ、ジェフに近づいた。


「やあ、ジェフリー、今からローズのところへ行くのかい? 今行っても、ローズはいないよ。」


御者台からジェフに話しかけてくる男をジェフは訝し気に見たのだが、男の顔にピンと来た。


暴走馬に、王の実の入ったニンジンを食べさせた茶髪の男・・・


すぐに見つけてやると思っていたが、こんなに早く、相手から現れてくれるとは・・・。


「あなたの名前は?」


「ああ、失敬。私の名前は、フランツ・オルトマン、オルトマン伯爵の息子だ。」


ジェフは、フランツの顔と貴族名鑑のデータを紐づける。


舞踏会では挨拶に来なかったのでできなかった紐づけを、今、やっとすることができた。


この男が、オルトマン伯爵の息子・・・、そしてローズを二度も・・・


フランツに対する怒りの感情が、沸々と湧き出てくる。


「何故、ローズがいないことを知っている?」


「殿下から、ジェフリーの生還を祝って友人だけのささやかなお茶会をしたいから、ローズとジェフリーを連れて来てほしいと頼まれたんだ。ジェフリーは午前中は仕事だろ? だから、ローズだけ先に送ったよ。」


「それを証明するものは?」


「嫌だなぁ。疑うのかい? まあ、それならこれを見てくれ。」


フランツは殿下から届いた手紙だと言って、ジェフに渡す。


手紙には、お茶会のことと地図が描かれている。


すこし丸みを帯びた丁寧で美しい文字・・・だが、偽物だ。


ジェフが保存しているデータと照らし合わせた結果、これはアーサーの文字に似せて別人が書いたものだとわかった。


「ローズはどこにいる?」


「さっきも言った通り、ローズは先に送ったよ。今日は郊外の花の美しい庭園でお茶会をするんだ。さあ、乗って乗って。」


ジェフは言われるままに馬車に乗る。


中に入ると、甘い香りが充満していた・・・。




フランツは馬車を走らせ洞窟まで急いだ。


到着してドアを開けると、ジェフはぐっすりと眠っている。


「ふふふ、ローズといい、こいつといい、催眠香の効き目はすごいな。」


フランツはジェフを縄で縛り、担いで洞窟の中に入って行く。


奥には、まだ目覚めずに横たわっているローズがいる。


ジェフをその隣に寝かせると、フランツは洞窟を出た。


そして爆薬に火を点けて投げ入れた。


ドッカ―ンと激しい音と共に土砂が崩れ、洞窟の入り口が塞がる。


おそらく地盤が弱いから、洞窟の中も埋まっているだろう。


次にフランツは、馬の尻をたたき無人の馬車を走らせる。


後は自分を刃物で切り付け傷だらけにして、人が通りそうな道で倒れるだけだ。


ポケットには、あの手紙を入れている。


手紙を読めば、俺のことを殿下の偽の手紙に騙された被害者だと、誰もが思うだろう・・・。


やった、完璧だ。


あの二人は攫われたと思われ、どこに連れて行かれたのかもわからないまま、この世から消えていなくなるのだ。


邪魔者のジェフリーさえいなくなれば、スザンヌなんてどうにでもできる。


フランツは、込み上げてくる笑いを押さえることができなかった。

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