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愛しの侯爵様は、究極の尽くし型ロボットでした  作者: 矢間カオル


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42話 生還

ドキドキと震える手で手紙を持った瞬間は、そこに書かれている言葉に期待していた。


きっと、ジェフを助ける何かがあるはず・・・。


そう思って手紙を読んだ・・・。


否、読もうとした。


だが、読めなかった。


書いている内容がさっぱりわからない。


電源って何?


この世界には、まだ電気がない。


手紙には電源以外にも、聞いたことも見たこともない言葉が際限なく羅列されていた。


インターネット環境? ワイファイ? ダウンロード、インストール、モニター、リセット、デバイス、デフォルト・・・


「何なのよ・・・これは・・・。何がトリセツよ・・・、 意味がわからなければ、取り扱うことなんてできないじゃない・・・」


ローズは期待していた反動もあり、大きな絶望感に打ちひしがれた。


涙が溢れ、悔しくて悲しくて、手紙を床に投げつけたくなる。


そばにいるマリアは、ローズの急変化する感情をハラハラしながら見守っていた。


「お、お嬢様・・・、お気を確かに・・・」


ローズが本当に手紙を床に投げつけようと思った瞬間、ふと最後の一文が目に止まった。


― 調子が悪いときや、フリーズした際は、再起動をお薦めいたします。― 


・・・さ・い・き・ど・う・・・?


再起動なら意味がわかる。


再び起きて動くってことよね。 


まさに今のジェフに合わせたような言葉だわ。


もしかしたら、この言葉がジェフを救うかもしれない・・・


ローズは藁にも縋る思いで再起動の方法を読んだ。


この方法は・・・。


でも、今はやるしかない。


しないで後悔するよりも、結果は変わらなくても、やって後悔する方が良い!


ローズは、マリアに強い口調ではっきりと言った。


「マリア、行くわよ。ジェフの元へ!」


「は、はい。」


マリアは、再度急変化したローズに驚くばかりであった。


慌てて屋敷を出て行こうとするローズに、使用人たちは馬車を用意すると言ったのだが、馬車の準備をする時間も惜しいからと、ローズは再び小走りで、ジェフの待つ大広間へと向かった。


マリアも遅れじと後を付いて行く。


日が暮れてしまった道を歩くのは危険だと、使用人兼護衛のスヴェンも後を追った。




大広間に到着すると、グローリー侯爵家の使用人たちが大広間に灯りを点けている最中だった。


「ローズ様、お戻りになられたのですね。急に出て行かれたので心配していたのですよ。」


泣いてばかりで見るのも辛かったローズが、急に出て行ったのだ。


グローリー侯爵家の使用人たちも、何事が起きたのかと心配していた。


「心配かけてごめんなさい。あの・・・、またジェフと二人にしてくれませんか?」


素直に自分の非を認めて謝罪するローズに、誰が反対などできるだろう。


「わかりました。どうぞお二人で、心行くまで最後のお別れをなさってくださいませ。」


使用人たちは、全ての灯りと点けると、一礼して出て行った。


次にローズはマリアに言う。


「私はジェフと二人きりになりたいの。だからドアの外で誰も入ってこないように見張っていてくれる?」


だが、マリアには、それはできないことだった。


「お嬢様、申し訳ございませんが、旦那様から、必ずお嬢様のおそばにいるようにと、仰せつかっております。」


「マリア、安心して。私は死にません。私が死んだらジェフが悲しむもの。だから、今は心配しないで二人きりにして欲しいの。」


旦那様の言いつけを守りたいという思いと、ローズの気持ちを優先したいという思いが、マリアの心の中で喧嘩する。


だが、ローズの目が、少し前とは大きく違っている。


今にもジェフの後を追ってしまいそうな目ではない。


何か力が湧いているような、そんな目をしている。


「わかりました。お嬢様、誰一人としてこの部屋には入れません。ですからお嬢様、お気の済むまでお二人でいてください。ですがお気が済みましたら、必ずお声をかけてくださいね。」


「ええ、約束するわ。」


一緒に来たスヴェンは、何か言いたそうにローズを見ていたのだが、「あなたも、マリアと一緒にお願いね。」と言われたので、結局マリアと一緒に入口の見張りをすることになった。


ローズは、他の出入り口には内側から鍵をかけた。


今からしようとする方法は、死者を冒涜する行為だ。


決して誰にも見られてはいけない。


トリセツにはこう書いてあった。


― 再起動の方法:背中を強く押し、三秒後に再起動と大きな声で言うこと。―


背中を強く押すって、どれくらい強く押すのか? 


押すことなら、ローズには思い当たることがある。


初めてジェフに会ったとき、ジェフを人間だとは思わずに庭にある段差だと思った。


そしてこともあろうに、ジェフの背中の上で・・・ジャンプした。


あのとき、自分がジャンプなんてしたから、ジェフが起き上がれなくなったのだと思った。


だから責任を感じて屋敷に連れて行き、介抱したのだ。


でも本当は、あのジャンプで、ジェフの体調が良くなったのかもしれない。


信じられないことだが、病気で身体が弱り、いつ死ぬかもわからないと言われていたジェフが元気になったのだから、そう考えても不思議ではない。


ローズは棺の中で横たわるジェフを、一生懸命に力を込めてひっくり返した。


たったこれだけのことなのに、汗がしたたり落ちる。


ジェフはうつ伏せになり、背中が上になった。


ローズはその背中の上に乗り、恐る恐る立ち上がる。


いくら何でも靴のままでは失礼だと思って、靴は脱いだ。


今からするのは、初めて会ったときの再現だ。


あのときローズは、星に手を伸ばしてジャンプした。


だったら今は、天井に手を伸ばそう。


ローズは天井に向かって両手を高く上げ、その場で勢いよくまっすぐに飛び上がる。


ドンとジェフの背中に着地すると、息を吸いながら三秒数える。


イチ・ニイ・サン、そして大きな声で叫んだ。


「再起動!」


ウイーンウイーンウイーン


「えっ?何の音?虫?」


微かな虫の羽音のような音が聞こえた。


だが、その音はすぐに消え、大広間はまた静寂に包まれた。


ゆっくりと棺から降りたローズは、ジェフを見たが、ジェフはピクリとも動かず、結局何も変わらない。


「うそ・・・、ダメだったの? 再び起きて動くんじゃなかったの? ジェ、ジェフ・・・」


ローズはどっと力が抜けて、もう立っていることができなかった。


椅子に座って棺に縋りつき、ただ泣くだけしかなかった。


「ウウッ・・・、ジェフ、ジェフ、お願いだから帰って来て。またあなたの声を聞かせて・・・」


「・・・」


ローズの頭を誰かが撫でたような気がした。


「えっ?」


顔を上げると・・・目の前にジェフがいた。


棺から上半身を起こし、ローズの頭を撫でている。


「ジェ、ジェ、ジェフ!!!」


「ローズ・・・、ただいま。俺の声、聞こえる?」


ジェフは今まで死んでいたことが嘘のように、にっこりと微笑んだ。


「ジェフーーー!」


ローズはジェフの首にしがみついた。


そしてジェフジェフと名前を何度も呼びながらワンワン泣き続ける。


「ローズ、こっちへおいで。その体勢だと苦しいだろう?」


確かに棺が邪魔だった。


ローズは言われるままに棺の中に入り、もう一度ジェフに抱きついた。


「ジェフ・・・、本当に良かった。生き返ってくれて本当に嬉しい!」


ローズはボロボロと涙を流しながら、生き返ってくれたことの喜びをジェフに伝える。


「ああ、俺も嬉しい・・・。ローズにまた会えたから・・・。」


ジェフの目からもポロリと涙が零れた。


「ふふっ、ジェフも泣いているのね。あなたの涙を見たのは二回目よ。」


「涙? そうか、嬉しいと涙が出るんだな。バグではないし、原因不明でもない。」


「ふふっ、ジェフったらまた訳のわからないこと言ってる。」


ローズは涙を指で拭いながら、いつものジェフが戻って来たと思った。


ジェフは、涙が出るほどの嬉しい感情を理解した。


「ローズ、俺のために泣いてくれてありがとう。」


ジェフはローズを力強く抱き、その唇にキスをする。


花に埋もれた白い棺の真ん中で、二人は熱い抱擁とキスを繰り返すのだった。


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