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愛しの侯爵様は、究極の尽くし型ロボットでした  作者: 矢間カオル


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41話 白い封筒

ローズは泣き続けている間、自分に何が起こっているのかよくわからずにいた。


地面に足がついてなくて、まるでふわふわと宙に浮いているような気がしていた。


だが、ようやくぼうっとではあるが、考えることができるようになってきた。


誰かが来たような気がする。


喪服に着替えさせてくれたのは・・・、お母様? 


着替えたことすら、おぼろげな記憶しか残っていない。


「ローズ、ごめんなさい。」そんな言葉を聞いたような気がする。


「ローズ、すまなかった。」これは誰の声だったっけ? 


ふと顔を上げると、メイドのマリアが、泣きはらした目でこちらを見ている。


「・・・マリア、・・・そばにいてくれたのね。」


「お、お嬢様!」


マリアがローズのそばに付いてから、初めて聞く彼女の言葉だった。


「お気が戻られたのですね。」


その言葉の裏に、自分が今までどんな状態であったのか、なんとなくわかった。


「誰かが来てくれたような気がするんだけど・・・」


「はい。スザンヌ様と殿下がいらっしゃいましたが、たった今、お帰りになりました。」


「そう、来てくれたのに、挨拶もしなかったわ・・・。」


ローズはふらふらと立ち上がり、広間の出口へと足を運んだ。


なにやら、言い争っているような声が聞こえる。


ローズはそっとドアに耳を近づけた。


「殿下、お願いです。私のことは忘れてください。もう二度と私の前に現れないで。」


泣きながら訴えているのはスザンヌ? 


スザンヌ、どうして、そんなこと言うの?


「スザンヌ、あなたの気持ちはわかった。今はあなたの前から去ろう。だが、俺は必ず犯人を捕まえる。だから、そのときは考え直して欲しい。」


そうよ。スザンヌ、考え直して。


あなたは、幸せにならないといけないわ。


ローズがドアを開けると、そこには廊下にしゃがみこんで泣いているスザンヌがいた。


「スザンヌ・・・、ごめんなさい。立ち聞きするつもりはなかったのだけれど、聞こえてしまったの。」


ローズは、泣いたまま動かないスザンヌの、すぐそばまで歩み寄る。


「スザンヌ、お願いだから、別れるなんて思わないで。あなたには、幸せになって欲しいの。」


スザンヌは泣きはらした目を上げる。


「ロ、ローズ・・・、ううん、もう・・・いいの。」


スザンヌは首を小さく横に振る。


「ほんの一瞬でも、アールと結婚できるかもって思った・・・。でも、それが間違いだったのよ。」


再びスザンヌの瞳から大粒の涙が溢れ、ぽろぽろと零れ落ちる。


「間違いなんかじゃないわ。愛し合っている二人がどうして一緒になれないのよ。ジェフはあなたと殿下に幸せになってもらいたくて事業を立ち上げたのよ。だから、ジェフの思いを無駄にしないで・・・」


ローズはスザンヌの前にしゃがみ込み、スザンヌの手に自分の手を添える。


「スザンヌ・・・、お願いだから・・・」


「でも、でも・・・、私のせいで、ジェフリー様は・・・ジェフリー様は、死んでしまったのよ!」


スザンヌはぐっと手を強く握りしめた。


手の中の髪飾りも、一緒にぎゅっと握られる。


手から少しはみ出た髪飾りを見て、ローズはハッとした。


「スザンヌ、この髪飾り、大切なものじゃなかったの? そんなに強く握りしめたら、壊れてしまうわ。力を抜いて・・・。」


馬車の中で見たそれは、口には出さなかったが、きっとアーサーからもらったものだろうと思っていた。


宝石こそついていなかったが、手の込んだ白い小花の細工がとても美しく、スザンヌによく似合う髪飾りを選んだアーサーの愛も伝わってくる。


スザンヌが握る力を緩めたときに、ローズはそっと守るように髪飾りを手から取り出した。


「こんなに小さな花を散りばめた髪飾りなんだもの。もっと丁寧に取り扱わなくてはダメ・・・・・・えっ!?」


ローズは何か大切なものを思い出したような気がした。


ト・リ・ア・ツ・カ・イ・・・取り扱い説明書!


その瞬間、ローズは雷に打たれたような衝撃を受けた。


そう、そうよ、トリセツよ!!!


あのとき、ジェフは言ったわ。


「俺の調子が悪くなったときに読めばいいよ。」


ジェフから渡されたあの白い封筒は、読みもせずにまだ引き出しの中にしまったまま。


もしかしたら、ジェフを救うことができるかもしれない!


「ロ、ローズ・・・、どうしたの?」


スザンヌは、髪飾りを手にしたまま急に雰囲気が変わったローズに驚いた。


「スザンヌ、話は後で。この髪飾り、本当に大切にしてね。それから、ジェフが死んだのはスザンヌのせいじゃないから!」


ローズは髪飾りをスザンヌの手に持たせると、すくっと立ち上がる。


「私、すごく大切なことを思い出したの。私、行くわ!」


早口でまくし立てると、ローズは大広間の中にいるマリアの所まで走った。


「マリア、私、大切なことを思い出したの。今すぐ家に帰ります。」


ついさっきまでとは、まったく雰囲気が変わってしまったローズに、マリアも激しく動揺する。


「お、お嬢様、いったいどうされたのですか?」


「話している時間はないの。一刻も早く帰らなくては!」


明日になったら神官が来て葬儀が執り行われる。


そうなったら、ジェフは土の中に埋葬されてしまうのだ。


早く、早く動かなければ!


「わかりました。それでは馬車を呼んでまいります。」


「ああ、駄目よ。馬車を待つ時間がもったいないわ。近所だもの。歩いて帰るわ。マリア、一緒についてきて。」


「は、はい。わかりました。」


ローズは一刻も早く自分の部屋に行きたくて、あの白い封筒を開けたくて、急いで屋敷に向かった。


慌ただしく目の前を通り過ぎるローズを、スザンヌはぽかんと口を開けて見ていた。




あまりにも急いで帰ったので、ローズが自分の屋敷に到着したときには、息が切れてぜーぜーと呼吸が苦しくなっていたのだが、そんなことは気にしていられない。


屋敷の使用人たちも、いきなり戻ってきたローズを見て、いったい何事が起ったのだと驚いている。


お嬢様は、悲しみに暮れているのではなかったのか?


今日は一晩中、ジェフリー様のそばにいるのではなかったのか?


驚き目を見開いている使用人の前を急いで通り過ぎ、ローズは自分の部屋に入った。


マリアも遅れずにそれに続く。


ローズは部屋に入るなり、つかつかと机に歩み寄ると引き出しの中を探しだす。


確かこの引き出しに入れたはず・・・。


「あった!これよ!」


ジェフからもらった白い封筒が、封も切らずにそのまま引き出しの中に眠っていた。


「お嬢様、その封筒がどうかしたのですか?」


「実は私もまだわかってないの。だって、まだ読んでないんだもの。でも、きっと何かあるはず・・・。ジェフがくれたものだもの。」


ローズは引き出しの中に入れていたハサミを取り出し、震える手で封を切り、そして恐る恐る中の手紙を取り出す。


手紙には、まるで本に印刷されたような癖のない美しい文字が綴られている。


確かにこれは見慣れたジェフの文字。


ローズは手紙を読み始めたが、突如持つ手がワナワナと震えだした。


「お、お嬢様、いったい何が書かれているのですか?」


ローズは手紙から目を離さずに、まるで手紙の向こうにいる誰かに訴えかけるように叫んだ。


「何なのよ。これは! こんなの・・・・、こんなの、あんまりじゃない!」


ローズの目からボロボロと涙が零れ落ちた。


それは、絶望という名の涙だった。


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