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愛しの侯爵様は、究極の尽くし型ロボットでした  作者: 矢間カオル


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40話 犠牲

ジェフの遺体はグローリー侯爵邸に運ばれ、ジェフの私室のベッドに寝かされた。


ベッドの上で横たわるジェフは、眠っているようにしか見えない。


「ジェフ、ジェフ、あなたは眠っているだけよね。もうすぐ目が覚めるわよね。ジェフ、お願いだから目を開けて!」


ロ―ズは涙を流しながらジェフに話しかけるが、ジェフはピクリとも動かない。


「ううっ・・・、ローズ、辛いことじゃが、ジェフの死は受け止めねばならぬのじゃ。ううっ・・・」


グローリー侯爵がローズにジェフの死を諭すが、その目は涙で溢れている。


二人は泣きながらジェフのそばにいたが、しばらくすると葬儀屋が白い棺を運んで来た。


そして二人がかりで、丁寧にジェフを棺に納めようとする。


「だ、だめよ。そんな箱に入れてしまったら、ジェフが本当に死んでしまう。ジェフは眠っているだけなのよ。お願いだから・・・このままにして・・・」


ローズは涙をボロボロ零しながらジェフに縋りつくのだが、グローリー侯爵がローズの腕を掴んでジェフから引き離した。


「ローズや、辛いだろうが、どうか我慢しておくれ。」


「ああ・・・、ジェフ・・・」


ジェフを納めた棺は、侯爵邸の大広間に安置された。


明日の葬儀の場所は、神殿ではなく侯爵邸の大広間ですることになっている。


グローリー侯爵がそれを望んだからである。


明日になれば、神官がやって来て葬儀を執り行う。


大広間は、ローズとジェフの婚約式を挙げた場所である。


幸せの式を挙げた思い出の場所で、明日は悲しみの式が執り行われるのだ。


「ううっ・・・、ジェフ・・・」


棺に縋り泣き続けるローズに、グローリー侯爵も涙を流しながら寄り添う。


「ううっ・・・、ごめんなさい。私がもっと早く気がついていれば・・・、私が馬を見たいなんて言わなければ・・・、お義父様、本当にごめんなさい。・・・ごめんなさい。ジェフ・・・」


「ローズや、自分をそんなに責めるでない。ジェフは愛する人を自分の身体で守ったのじゃ。それなのに、ローズが自分を責めてしまうと、ジェフが悲しむ。」


「ううっ・・・お義父様・・・」


ローズの涙はますます溢れて、ぽたぽたと床を濡らす。


「ローズ、こんなにもジェフのために泣いてくれるのじゃな。この子のために、思う存分泣いておくれ。私は今度こそ息子のために立派な葬儀をしてやりたいのじゃ。」


今度こそ? ローズはその言葉が頭に引っかかったのだが、それは一瞬のことで、すぐに悲しみの心に支配されてそれ以上考えることはできなかった。


グローリー侯爵は、しばらくローズと共に涙を流していたが、用事があると言って腰を上げた。


「ローズや、私は失礼するが、どうかローズは、最後まで息子のそばにいてやっておくれ・・・。」


グローリー侯爵は大広間を出ると、庭の一画に作った慰霊碑の前に場を移した。


誰もいないその場所で、グローリー侯爵の目から、また涙が溢れだす。


「ジェフリーや、せっかく生まれ変わってくれたのに、もう逝ってしまうのじゃな。一度目は葬儀ができなかった。それがとても心残りじゃった。だが、今度こそ、お前のために立派な葬儀をしてやるから、どうかここで見ていておくれ。」


泣きながら慰霊碑に話しかけるグローリー侯爵の後ろに、執事のフランボアが近づいた。


「旦那様、ここにいらしたのですね。ずっと外にいてはお身体にさわります。中に入られませんか?」


「ああ、そうじゃな。・・・フランボア、私はジェフはジェフリーの生まれ変わりだと思っていたのだが、こんなに早く逝ってしまうなんて・・・、違っていたのだろうか・・・」


「旦那様、旦那様はジェフリー様にご友人を作ってやりたかった、恋人を作ってやりたかったと仰っていたではありませんか。きっと神様がジェフリー様を生まれ変わらせて、旦那様の願いを叶えてくださったのだと思います。」


「ああ、そうじゃな。ジェフにはローズという愛する恋人ができて、殿下という友人もできた。私はそれが、とてもとても嬉しかった。ジェフリーは・・・、私のために生まれ変わってくれたのかもしれんの。本当に親思いの優しい子じゃったから・・・。」


フランボアは涙を流しながら、グローリー侯爵の言葉を聞いていた。




大広間では、ローズはただただ泣き濡れていた。


棺の中で花に埋もれて横たわるジェフの顔を見ては泣き、髪をなでては泣き、手を握っては泣いた。


侯爵家の使用人たちは、ローズのその姿があまりにも可哀そうで見ていることができず、大広間に入らずにすすり泣いていた。


ローズの両親も訃報を聞いてすぐに駆けつけたが、慰めの言葉をかけても、ただひたすら泣き続ける我が子を見ているのがとても苦しい。


せめて喪服に着替えさせようと、持って来た喪服に着替えさせることだけで精一杯だった。


親であっても、どうすることもできない今は、ローズをそっとしておく方が良いのだろうと、屋敷に戻ることにした。


ただ、万が一にもローズが後を追うようなことが無いようにと、専属メイドのマリアをそばに付けておくことは忘れなかった。


皆のそれぞれの思いから、静まり返った大広間には、ローズとメイドのマリア二人だけのすすり泣く音が小さく響いていた。




しばらくすると、スザンヌがローズを心配して大広間に入ってきた。


いったん家に帰り、喪服に着替えてきたのだが、華やかさのない黒の衣装であっても、スザンヌの美しさは変わらず、かえってシンプルな喪服が、美しさを一層際立たせている。


「ローズ・・・」


スザンヌが声をかけても、ローズはただただ泣き続け、スザンヌが来たことにも気づかない。


「申し訳ございません。お嬢様はずっと泣き続けていて、今は悲しみの中にお入りになっているのです。」


マリアが涙ぐんでスザンヌに伝える。


「そうですか・・・。」


目の前のローズの小さな背中が、泣きながら震えている。


いつも明るかったローズが、今は見る影もない・・・。


これは、私への罰なのだ。


分不相応なことはわかっていたのに、一瞬でも王太子妃になることを夢見てしまった。


ほんのわずかでも、アーサーとの結婚を望んでしまった私への罰・・・。


その罰に、あなたを巻き込んでしまった・・・。


「ローズ、・・・ごめんなさい。」


スザンヌの瞳からはらはらと涙が零れ落ちた。


「明日、ジェフリー様を見送りに、また来ます。」


涙を指で拭いながらマリアに伝え、大広間を出ようとすると、アーサーが護衛のジョンとケイレブを連れて入って来た。


「スザンヌ・・・」


スザンヌに気が付いたアーサーは、いつものような笑顔はなく、苦しい表情を彼女に向ける。


スザンヌも辛い気持ちで、黙って一礼するだけであった。


「ローズ・・・」


棺の中のジェフを見ながら泣き続けているローズに、アーサーは声をかけたが、ローズは涙で濡れてぐしょぐしょのハンカチを握りしめ、溢れ出る涙を押さえているだけで返事をしない。


「ローズ、すまなかった。警備の者は不審者ばかりに注意を払い、馬の暴走に気付くのが遅れてしまった。もっと警備を増やすべきだったのに・・・。本当にすまないことをした・・・。」


アーサーの言葉もローズには聞こえないのか、振り向くこともせず、ジェフの髪を撫でながら泣いている。


アーサーが助けを求めるようにスザンヌを見ると、彼女は悲しそうに首を振った。


「殿下、お話があります。今、よろしいでしょうか。」


「あ、ああ。」


二人は大広間を出て廊下で立ち止まり、アーサーは護衛の二人に外で待つように言う。


「殿下、この場を借りて、お返事をしたいと思います。」


「いや、今でなくてもいい、急がないのだから・・・。」


スザンヌの雰囲気から察して、嫌な予感しかしない。


今、この話を聞くのはきっとまずい。


アーサーはスザンヌを止めたかったのだが、スザンヌは思いつめたような顔をしてそのまま言葉を続ける。


「殿下のプロポーズ、お断りいたします。これが私の答えです。」


ああ、聞きたくなかった言葉を、聞いてしまった・・・。


「ス、スザンヌ、もう一度、考え直してくれないか。まだ答えを出すには早すぎる。」


「いえ、これが私の出した答えです。殿下、私が殿下と仲良くすれば、禍が起こるのです。一度目は私とローズが狙われ、ローズが刺されそうになりました。今回は馬に襲われ、ジェフが死んだのですよ。私だけが狙われるのならまだ良いのです。ですが、犯人は、きっと私と殿下が仲良くすれば、私の大切な人を犠牲にするつもりなのです。私はこれ以上、私のために誰にも傷ついて欲しくない・・・。」


スザンヌの瞳から涙がぽろぽろと零れ落ちた。


「スザンヌ、犯人は必ず捕まえるから、そんなことは言わないでくれ。」


「いえ、捕まるまでに何人が犠牲になるのでしょうか。私はそれが怖いのです。殿下、これをお返しします。」


スザンヌは手に握ったものを、アーサーの目の前に突き出した。


それはアーサーが贈った髪飾り。


白い小花が散りばめられた髪飾りは、アーサーからもらった初めてのプレゼントだった。


「いや、それは受け取らない。お願いだ。それだけでも持っていてくれ。」


スザンヌは止まらぬ涙を拭うこともせず、最後の言葉を口にした。


「殿下、お願いです。私のことは忘れてください。もう二度と私の前に現れないで。」


スザンヌの瞳から零れ落ちる涙は頬を伝い、ぽたぽたと床を濡らす。


泣きながら別れの言葉を口にするスザンヌを、どうして忘れることができるだろう・・・。


「スザンヌ、あなたの気持ちはわかった。今はあなたの前から去ろう。だが、俺は必ず犯人を捕まえる。だから、そのときは考え直して欲しい。」


アーサーは苦しみに歪んだ顔でこの場を後にした。


スザンヌは、アーサーが視界から消えるまでその場に立ち尽くしていたが、見えなくなると崩れるようにしゃがみ込んだ。


「ううっ・・・」


誰もいない廊下に、スザンヌの嗚咽だけが小さく響いた・・・。


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