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愛しの侯爵様は、究極の尽くし型ロボットでした  作者: 矢間カオル


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37話 馬の品評会

ジェフが示す男を見ると、男はランランと目を輝かせてルーレットにチップを賭けている。


ギャンブルが好きな男なら、よくあることだと思うのだが・・・。


「あなたは見ていないからわからないと思いますが、あの男の目つきが、犯人のものと同じなのです。」


「何だって?」


「そしてもう一つ。彼の目の前に置かれているチップは、全て借金によるものです。先ほどから何度も借用証書にサインをしているところを見ました。このまま借金を続ければ、彼は全てを失うでしょう。」


「つまりお前が言いたいのは、あいつは薬によって正常な判断ができなくなっていると言うことか?」


「はい。ただ、ギャンブルも中毒になると、同じような症状が出ます。だから、外見だけでは、正確な見極めは難しいのです。」


二人が話している間に、他の人たちも休憩にやって来た。


このまま、話しを続けるのはまずい。


「カードゲームのコツをあなたに教えていただきたい。今から酒でも酌み交わしませんか?」


アーサーが、とぼけた調子でジェフを誘う。


「そうですね。では、お付き合いいたしましょう。」


二人は店を出てアーサーの馬車に乗り、王宮へと向かった。




王宮の中に入ると、アーサーは応接室ではなく、ジェフをアーサーの私室に自ら案内した。


「それで、ジェフがあの場所を選んだ理由は何なんだ?」


「過去十年分の新聞を調べた結果です。」


「お、おまっ、十年分の新聞を読んだのか? たった一日で?」


驚いて目を丸くするアーサーであったが、ジェフはさもそれが当然のような顔で続ける。


「屋敷の図書室には過去の新聞を保管しているので、とりあえず十年分読みました。」


「とりあえずって・・・」


ジェフの説明によると、過去十年分の新聞を調べてみると、ギャンブルによって破産や夜逃げをするに至った人間が、特にゴールドクラウンの会員に多いことがわかった。


他の賭博場と比べても、その差は歴然なのだ。


貴族の中には、借金で領地を手放しかけた者もいたらしい。


「ギャンブルに夢中になり、身を持ち崩す例はいくらでもあると思うのですが、ゴールドクラウンに集中していることが気になったので、一度自分の目で確かめようと思って行ったのです。殿下は、どのような理由で?」


「ああ、俺は部下の友人があの賭博場で破産に追い込まれたと聞いたので、部下と一緒に行ってみたのだ。」


ドアをノックする音が聞こえた。


部下のジョンとケイレブが戻って来た。


「どうだった?」


アーサーの問いに、ケイレブが答える。


「ルーレットに興じる男を、一緒にゲームをしながらしばらく観察していましたが、負けてもまったく悔しがらないと言うか・・・、根拠のない自信に満ち溢れてていると言うか・・・、ともかく、私の友人と同じ状態でした。」


「そうか。ジョンはどうだった?」


「私は、その男と同じ酒を飲んでみましたが、ごく普通の酒でした。他にもいろんな酒を飲んでみましたが、どれもごく普通の酒で、何もわからずでした。」


ジョンはアーサーよりも一つ年上なのだが、酒にはめっぽう強く滅多なことでは酔わないので、この任務を任せたのだが、新たな情報を得ることはできなかった。


「私も酒を注文しましたが、薬物反応はありませんでした。」とジェフも言う。


つまり、店側は初めての客には慎重になっていると言うことか・・・。


「もう少し調べた方が良さそうだな。引き続き、皆もゴールドクラウンと、オーナーのオルトマン伯爵の身辺を探ってくれ。」


三人はこくりと頷いた。




ローズは孤児院の事件から、一歩も屋敷の外に出ない日々が続いた。


毎日午後にジェフが来てくれることだけが、外との関りになっている。


さすがに一週間も経つと、恐怖心も落ち着き、外に出たくなってきた。


アーサーが寄こしてくれた護衛騎士は、任務のためにローズの部屋の前で護衛を続けてくれているのだが、それもなんだか申し訳なく思う。


一週間、何も起きずに平和な毎日だったのだから、そろそろ護衛騎士を外してくれても良いのではないだろうか・・・。


結局、ローズは感謝の手紙をアーサーに送り、護衛はこちらで用意するから、王宮の護衛騎士を外してもらうように頼んだ。


ローズが外に出たくなった理由は、ただ単に退屈していたからではない。


もうすぐ楽しみにしている馬の品評会が行われるからでもある。


年に一回開かれる品評会は、王都の郊外にある広い牧草地で行われ、馬商人が買い付けた選りすぐりの馬を皆に見てもらうことを目的としている。


もちろん気に入った馬は、交渉次第で買うことができる。


美しい馬を見ることも楽しいのだが、それだけでなく、男性にも女性も、幼い子どもたちにまで、楽しめるように配慮されているのだ。


ローズは子どもの頃から両親と一緒に出掛けては、ポニーに乗せてもらったり、子馬にニンジンを食べさせたりと、楽しい思い出がいっぱいである。


大きくなってからは、おとなしい馬に乗せてもらって、軽い乗馬を楽しむようになった。


今年も参加して、子馬にニンジンを食べさせたいし、馬にも乗せてもらいたい。


ジェフに相談すると、一緒に行こうと言ってくれた。


両親も、ジェフが一緒ならと許してくれた。


「ねえ、ジェフ。馬と触れ合うって、心の癒しになると思うの。スザンヌも怖い思いをしたんだもの。馬を見て気分が晴れたらいいなって思うのよ。スザンヌも品評会に誘おうと思うんだけど、いいかしら?」


「そうだね。あんなことがあったあとだから、警備もきっと厳しくなると思う。一緒に行っても大丈夫だと思うよ。」


ローズとジェフは孤児院に行き、スザンヌを馬の品評会に誘った。


「まあ、馬の品評会? 子どもの頃に一度行ったことがあるけど、それ以来行ったことがないわ。ローズと一緒に行くなら楽しそう。私もそろそろ外に出た方が良いとおもってたから、ちょうどいいわ。」


孤児院にもアーサーが寄こしてくれた護衛騎士がいたので、スザンヌはその騎士に馬の品評会に行っても良いか尋ねた。


初めは渋い顔をしていた騎士であったが、翌日になると、道中は自分が護衛するし、会場では、多くの護衛騎士がつくから大丈夫と答えてくれた。




品評会当日、ジェフが迎えに来てくれた馬車にローズとスザンヌが乗り込んだ。


これから始まるイベントが楽しみで、二人は少し興奮気味になって和気あいあいとはしゃぎだす。


「スザンヌ、その髪飾り、とっても可愛いわ。よく似合ってるわよ。」


「えっ? そ、そう?」


とたんにスザンヌの顔がぽっと赤くなった。


あれ? もしかして・・・と思ったが、スザンヌが恥ずかしそうにしていたので、ローズは聞かないことにした。


会場に着き馬車から降り立つと、どこまでも続く青空が広い牧草地に映えて、見ているだけで気持ちが良い。


そよそよと吹く風も心地よく、まさに品評会に相応しい日だと思う。


既に会場に来ていた人たちは、品評会用に繋がれている美しい馬の周りに群がり、馬商人との質疑応答を楽しんでいる。


すこし離れた場所では、手綱を引かれたポニーが、子どもを乗せてゆっくり歩いている。


別の場所では、子どもたちが子馬のエサやりに夢中だ。


ローズたち三人は、品評会用の馬をしばらく見た後、試乗コーナーへと向かった。


品評会用の馬以外にも多くの馬を用意しており、気に入った馬はその場で買うことができるので、大人たちはいろいろ乗り比べて楽しんでいる。


商人も一頭でも多く売りたいと思って、試乗には力を入れている。


そういうわけで、ドレス姿の女性も試乗ができるように、横乗り用の鞍も用意してくれているのが嬉しい。


「私はこの子にするわ。目がとっても可愛いもの。」


ローズが茶色の馬を指名した。


「うふふ、じゃあ私はこの子にするわ。白い馬なんて・・・、ちょっとロマンチックよね。」


スザンヌは嬉しそうに白馬の背を撫でた。


この場に連れてこられた馬たちは、どれも人馴れしていて、人に触られてもまったく動じることはなく、安心して撫でることができるのだ。


「手綱を引きましょうか?」


係の者が聞いてきた。


女性が乗る場合は、手綱を引いてもらってゆっくりと歩くことが多い。


「結構よ。私は一人でも大丈夫。」


スザンヌはにっこり笑って断った。


「まあ、スザンヌは乗馬が得意なの?」


「ええ。剣を習ってたってことは話したでしょ。その師匠に乗馬も教えていただいたの。今日はドレスで横乗りだからそんなに速くは走れないけど、乗馬服だったら、すっごく早いんだから。」


そう語るスザンヌは、少し得意げだ。


「わあ、すごい!私はいつものんびり歩きよ。」


ローズは、いつも係の者に手綱を引いてもらってゆっくりと牧場を歩いていた。


だが、今回はジェフがいる。


「ローズの手綱は俺が引くよ。」


「ふふっ、お願いね。」


期待通りのジェフの言葉が嬉しくて、ローズはにっこり微笑んだ。


「じゃあ、私はひとっ走りして来るわ。」


スザンヌは慣れた手つきで馬に乗ると、颯爽と走り出した。


ドレスのすそが風に乗り、ひらひらと舞う。


体幹がしっかりしているスザンヌは、乗馬の姿も美しい。


だんだん小さくなっていくスザンヌを見て、ローズは、やっぱりスザンヌはすごい女性だわと思うのだった。

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