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愛しの侯爵様は、究極の尽くし型ロボットでした  作者: 矢間カオル


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36話 賭博場

「大変です。犯人が獄中にて、毒を飲まされたようです。」


アーサーはその報告を聞き、慌てて留置所に行ってみたが、男は既にこと切れていて、遺体置き場のベッドに寝かされていた。


死因は毒殺。


何者かが、男の食事に毒を盛ったらしい。


警察署内で起きた事件だったので、署長がすぐに調理人や食事を運ぶ者を調べたが、怪しい者は見つからず、その間の警察署へ出入りした人間も現在調査中であるが、まだ犯人の特定はできていない。


「まさか殺されるとは思っていなかったので、油断していました。」


署長が平謝りに謝罪したが、犯人という手掛かりを失った今、犯行の理由は自力で探るしかなくなった。


男を殺した奴は、おそらく薬物の出所がばれることを恐れたのだろう。


まずはそこからか・・・。


アーサーが一人思案していると、ジェフが遺体置き場に入って来た。


アーサーが報告を受けた際、すぐにジェフにも知らせるようにと伝えたからである。


アーサーは署長に部屋から出るように頼み、ジェフと二人きりになった。


「唯一の手掛かりが死んでしまった。ジェフ、お前ならこれからどうする?」


頼りにならない警察よりも、ジェフの協力を得る方がよっぽど心強い。


「私は薬物に関する文献を調べていたのですが、犯人の症状が王の実と呼ばれる薬物の症状に似ているのです。」


「王の実?」


ジェフは王の実について、アーサーに説明する。


王の実と呼ばれるそれは、南に隣接しているシュド王国の限られた崖の上だけに自生している植物からとれる種子で、その種子を食べると、王のような気分になれるのでその名前がついている。


つまりその種子には覚醒作用があり、気分が高揚し、何でもできるような気持になるという特徴があるのだ。


しかし中毒性が高く、常用すると次第に判断能力が低下し、幻覚や幻聴に襲われるようになるのだが、何でもできるような英雄気分は続く。


したがって、あの男のように、世界を救うのは自分しかいないと思い込ませ、罪悪感なしに人殺しをさせることも可能なのだ。


だが、シュド王国でもその危険性を考慮し、収穫も販売も禁止されていると言う。


「殿下、シュド王国から密輸入したのは誰なのか、それを調べることが必要かと思います。」




王宮に戻ったアーサーは、急ぎトリーを私室に呼んだ。


しばらくすると、騎士服姿のトリーが、一括りにした茶色い髪を振り乱しながら、慌てて走って来た。


「ハア、ハア、で、殿下、いったい何用でしょうか。」


全速力で走って来たのか、トリーの息が上がっている。


「トリー、お前、前に休暇が欲しいって言ってたよな。」


「は、はい。訓練だけでなく、日ごろ殿下にこき使われ・・・、いえ、ご拝命をいただき、誠に忙しく・・・」


「よし、それなら、これから南の隣国シュド王国に行って、観光でも楽しんで来るんだな。」


「えっ? それはもしかして公費で?」


トリーの顔がぱあっと明るくなる。


「そうだ。ついでに調べて欲しいことがある。」


「・・・殿下、それはおそらく、ついでではないですよね。そちらがメインですよね。はぁ・・・」


トリーの気分が一気に下降した。


アーサーから本来の目的を詳しく聞いた後、トリーは「それでは明日の早朝に、行ってまいります。」と半ばあきらめたように出て行った。




次にアーサーは、いつも一緒に孤児院に物資を運んでいる護衛担当の二人を呼んだ。


茶髪で茶色い瞳のジョン・ウエーバーはアーサーよりも一つ年上で、黒髪、黒い瞳のケイレブ・パターソンは二つ年上である。


どちらも騎士の家系の子爵家の令息であり、剣の腕は確かな若者である。


二人とも、筋骨隆々で見た目もたくましく、日ごろの鍛錬の成果がよくあらわれている。


「そなたたちは、王の実というものを知っているか?」


二人はお互いに顔を見合わせるが、二人とも首を横に振る。


「殿下、そのような実は存じ上げませんが・・・。」


「それなら、王や英雄の気分になって、何でもできるような気分になるとかいう噂を聞いたことはないか?」


ジョンはそのような噂は聞いたことがないと言ったが、ケイレブはしばらく何かを思い出すように首を傾げた。


「殿下、その話とは違うのかもしれませんが、少し思い当たる話があるのです。」


ケイレブは二年前に友人に起きた不幸を話し出した。


その友人は二年前にギャンブルに興味を持ち、賭博場にケイレブを誘った。


ケイレブは賭博場に何度か足を運んだことがあったので、程よい遊びと思ってその誘いに乗り、二人で賭博場に出かけた。


友人の賭け方は、素人らしくつつましやかな賭け方で、その日は二人とも勝ったり負けたりを繰り返し、ほんの少しだけ利益を上げて帰った。


だが、しばらくすると、友人はギャンブルにのめり込み、借金地獄に苦しむようになる。


ケイレブは必死になって止めるのだが、友人は絶対に勝てると言ってきかない。


何を根拠にそのようなことを言うのだ?と聞いても、俺は何でもできるんだ、俺に不可能なことはないと言い張り、賭博場に出かけては借金を繰り返した。


借金の返済期限が迫っても、返せる金もなく、結局は家族の財産、そして家までも借金のカタにとられてしまった。


住む家がなくなり、両親と彼の妹は、地方の親戚を頼って王都から出て行くことにした。


その際も賭博場に行こうとする友人を、家族は泣く泣く馬車に縛り付け、夜中に逃げるように出て行ったと言う。


「友人が正気に戻ってからは、たまに手紙のやり取りをしているのですが、今は、親戚の下働きのようなことをして暮らしているそうで、何故、あんなにギャンブルにのめり込んだのか自分でもわからないと書いてありました。」


ずっと黙って聞いていたアーサーは、ケイレブに問う。


「その友人は、性格的にはどうだったのだ?」


「彼は平民で、家族と一緒に商店を営んでおりました。とても真面目で、どちらかと言うと倹約家だったように思います。だから、借金をしてまでも賭け事をするとは信じられませんでした。」


「そうか・・・。その賭博場の名前は?」


「ゴールドクラウンです。」


「ゴールドクラウン? 確かフランツの父親が経営している賭博場だったな。国の許可も得ている公正な賭博場のはずなのだが・・・。ケイレブ、ジョン、一度その賭博場に行ってみよう!」




メリッサは、今日もすこぶる機嫌が悪い。


メリッサに呼ばれたフランツは、彼女の前で下を向き、小さくなっている。


「何故、あの二人は生きているのよ。しかも、ほんの少しのケガも負わせられないなんて、あなた、やる気はあるの?」


「いや・・・、だから・・・、俺も失敗するとは思っていなかったんだ。いざと言う時のために囲っていた切り札だったのに・・・。」


「その切り札が証拠となって、警察に連れて行かれたのよ。これがどういうことかわかってるの?」


フランツはますます小さくなり、声もかすれてくる。


「あいつは、ことが終わったら処分するはずだったんだ。それなのに、ジェフのヤツがあいつを・・・」


「ふん、言い訳ばかりね。まあ、最終処分はこちらでしておいたから、感謝しなさい。いい? 次は失敗しないで。わかったわね。」




翌日、アーサーとジョン、ケイレブは金持ちの商人の息子に身分を変え、変装してゴールドクラウンを訪れた。。


国が許可している公正な賭博場だけあって、身分確認が必須の会員制の賭博場である。


そのために三人は、偽造した身分証を使って会員登録をした。


これができるのも、王族の特権である。


賭博場の中は、着飾った貴婦人や紳士たちもいれば、顔を隠して仮面をつけている者もいる。


皆楽しそうに酒を飲みながら、会話やギャンブルに興じている。


賭博場の中には多数のテーブルが置かれていて、ブラックジャック、バカラ、ダウト、ポーカー、ルーレットなど、テーブルごとに違うゲームを楽しめるようになっている。


不穏な雰囲気はなく、娯楽を求めるのにちょうど良い大人の社交場と言ったところか。


アーサーは、後姿に見覚えがある仮面を付けた青年を見つけた。


ダウトに興じているそのテーブルで、その青年は次々に参加者の嘘を見破り、皆のチップをまき上げている。


あのサラサラの輝く金髪は・・・、どう見てもジェフだ。


「私もこのテーブルで遊びたいのだが、よろしいですか?」


アーサーが声をかけると、ちょうど負けが続き、抜けたいと思っていた紳士が席を譲ってくれた。


ふふふ、こんなところでジェフと勝負ができるとは・・・。


ダウトは相手の嘘を見破るゲーム、俺の鍛えた表情筋を見破ることができるかな?


ゲームを始めてわかったことがある。


ジェフは一切表情を変えない。


な、なんだ、あいつは? 


表情が一ミリも変わらないではないか・・・。


ローズの前では、豊かな表情を見せるのに・・・


「ダウト!」


ジェフがアーサーの出したカードに宣言した。


「ウッ・・・」


ジェフの表情筋に驚愕している間に、うっかり素を見せてしまったアーサーは、手の内をあっさり見破られてしまった。


「ムムム・・・」


アーサーは、ジェフの嘘を見破ることができないことを悟った。


それならばと、アーサーは見破られぬようにすまし顔で通している貴婦人に、にっこりと微笑みかけた。


眩しい笑顔に胸を射抜かれた貴婦人は、あたふたと素をさらけ出してしまう。


結局、このゲームでは、アーサーとジェフ以外の参加者が二人の餌食になるのであった。


何本かの勝負が終わった後、アーサーとジェフは、店の一番隅の休憩用のテーブルに場を移した。


周りには誰もいないので、小声で話せば大丈夫だろう。


「ジェフ、どうしてこんなところにいるんだ?」


「ここにあなたがいると言うことは、おそらく同じ理由でしょう。」


動じることもなく、殿下と言わずにあなたと言うところは、さすがジェフだと感心する。


「で、何かわかったのか?」


「あのルーレットに興じている男を見てください。」


アーサーは言われた通りに男に視線を移した。

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