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愛しの侯爵様は、究極の尽くし型ロボットでした  作者: 矢間カオル


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34話 不審者

メリッサは、舞踏会で一番にアーサーと踊ることは、当然のことだと思っていた。


だから、最高の笑みを浮かべて待っていたと言うのに、アーサーは無視して横を通り過ぎ、身分の低い令嬢をダンスに誘った。


メリッサは大恥をかかされたと思った。


自分は激しい屈辱感を抱いているのに、当の二人は幸せそうにダンスを踊っている。


どうして、この私が、こんな思いをしなければならないの? 


メリッサは、激しいい怒りと憎悪の思いを胸に、踊っているアーサーとスザンヌを睨みつけていた。


その後、すぐにアーサーはメリッサにダンスを申し込んで来たので、ギリギリ体面は保たれたが、それでも、屈辱的な思いが消えるわけではなかった。


アーサーに、何故、男爵令嬢と踊ったのかと聞くと、王太后がらみでしかたがなかったかのように言う。


やはりどんなに美しくても、男爵令嬢であることには変わりない。


最近、羽振りが良くなったと噂で聞いていたが、所詮、身分の差は覆せるものではないのだ。


だから、少し安心した。


踊り終わったメリッサは、アーサーがいつものように順番を守って、第二候補にダンスを申し込んでいるのを見ていた。


いつもなら、自分が一番なのだと、ちょっとした優越感に浸れるのだが、今日は自分が二番だったのだと思うと、いたたまれなくなった。


皆の視線も気になり、その場から離れたくなったメリッサは、テラスでしばらく時間をつぶそうと考えた。


だが、テラスに出ようとしたところで、ピタリと足を止める。


テラスには憎いスザンヌとローズがいた。


ローズがスザンヌを誘わなければ、こんなに惨めな思いをしなくても済んだのに・・・と思うと怒りが沸々と込み上げてくる。


顔を合わせたくないと思って、場を離れようとしたときに、信じられない言葉が聞こえてきた。


「私・・・、男爵令嬢だと思っていたのに、本当は隣国の王女様だとわかって、とっても嬉しかったの。」


えっ? 今なんて・・・? 隣国の王女様ですって?


「ああ、これで王子様と結婚できるんだって思うと、ほっとしたわ。」


結婚? どういうこと? スザンヌは男爵令嬢じゃなかったの? 


男爵令嬢ならライバルにもならないと思っていたメリッサは、その思いが根底から覆されたような気がした。


ガクガクと足が震え出し、立っているのも精一杯になってしまったが、倒れぬように壁に寄りかかり身を潜めて二人を覗く。


するとスザンヌの口から、聞きたくもない言葉が聞こえてきた。


「話したのはローズだけよ。アー・・・には言ってないの。」


アーサーですって? 


ローズは殿下と呼んでいるのに、スザンヌはアーサー? 


どういうこと? もしかしたら、二人は私の知らないところで会っていたの?

  

メリッサは、あまりの衝撃に真っ青になってしまった。


気分も機嫌もすこぶる悪い。


このまま舞踏会にいても、天使の笑顔なんて作れそうもない。


自分で自分の足を引っ張る前に、この場から立ち去らなければ・・・。


これ以上評判を落としたくないと思ったメリッサは、最後まで舞踏会にいることを断念し、途中で帰ったのだった。




「私は確かに聞いたのよ。スザンヌが隣国の王女だって。だから王族と結婚できるって・・・。」


「だ、だけど・・・、それが本当なら、もっと噂になっていてもいいんじゃないか?」


フランツはメリッサの言葉を、にわかには信じられなかった。


「何故だか知らないけど、このことは殿下にも秘密にしているらしいわ。知っているのはローズだけなのよ。」


「ローズだけ?」


「ええ。二人は手を取り合って、二人だけの秘密なんて言ってたわ。」


メリッサは忌々し気に言い放つ。


「フランツ、あなたを宰相にしてあげられるのは私だけよ。もし、スザンヌが王妃になんてなってしまったら・・・、おそらく宰相はジェフリーでしょうね。あなた、それでもいいの?」


「そ、そんな・・・。」


フランツは、メリッサの「あなたを宰相にしてあげる」という言葉を信じていたからこそ、下僕のような扱いにも我慢してきたのだ。


それなのに、もしそんなことになったら、今までの苦労が水の泡になってしまう。


青くなっているフランツに、メリッサは続ける。


「まだ公になっていないのなら、その前に、あの二人が消えてしまえば良いのよ。」


「消える?」


「そうよ。方法ならいくらであるでしょ。・・・ねえ、フランツ?」


メリッサは最後にニヤリと笑みを浮かべ、フランツに期待を込めた眼差しを送った。




舞踏会から三日後、アーサーが小麦粉や砂糖、乾物などの食料を馬車に積んで孤児院にやってきた。


「スザンヌ様、物資を届けに参りました。」


アーサーは晴れやかな顔でスザンヌに挨拶をする。


「で、殿・・・ア、アール、いつもご苦労様です。」


反対にスザンヌの挨拶は、少し強張った調子だ。


「おや、アール君、いつもより早いような気がするが、いつもご苦労様。」


スザンヌの父親、メイブリック男爵もやって来て挨拶するが、王太子だとは知らないのでのんきなものである。


護衛騎士と一緒に物資を運んだあと、アーサーはスザンヌに問う。


「今日は食料だけを届けましたが、他に入り用な物はないですか?」


「それなら、男の子用の服が必要だわ。みんなすぐに大きくなるし、よく動くからすぐにボロボロになるんですよ。次に来るときは、よろしくお願いしますね。」


「では、今すぐに買いに行きましょう。」


「えっ、今でなくても、次回でもいいのよ。」


「男の子はすぐに大きくなるし、ボロボロになるのも早いんでしょう? だったら早い方が良いです。さあ、行きましょう。」


スザンヌは、アーサーに半ば強引に買い物に連れ出されてしまった。


馬車に二人で乗り込み、向かい合って座るのだが、アーサーはとても機嫌が良い。


自分は三日間、ろくに眠れなかったのに・・・とスザンヌは少し恨めしく思う。


この三日間、スザンヌは何度も何度もプロポーズされた瞬間を思い出し、一人ベッドの上で悶絶していた。


あの答えで良かったのか? 


他にもっと良い答え方があったのではないだろうか? 


大好きなアールが、本当は王子様だった。


私が王子様と、結婚?


本当にそんなこと許されるのだろうか?


私が王妃になんて、なれるのだろうか? 


無理よ。やっぱりあまりにもかけ離れている・・・。


考えだしたら切りがない。


そしていつの間にか窓から光が差し込み、朝を迎えるのだ。


アーサーを恨めしい思いで見つめていると、アーサーも気が付いたようで王子スマイルで返してくる。


「スザンヌ、答えは焦らなくてもいい。時間はまだたっぷりある。だから、今は俺のことだけを考えてくれたら、それでいいから・・・。」


アーサーの余裕のある笑みが、少し悔しい。


スザンヌは、あのときの会話を思い出す。


身分違いだからと断ると、両親を必ず説得すると言われた。


あなたに相応しい婚約者がいるじゃないですか、と言ったら、候補であって、まだ正式な婚約者じゃないと言われた。


「メリッサが、王妃に相応しい令嬢だと思うか? スザンヌが一番それをよくわかっているだろう?」


メリッサが孤児院に来て、アーサーを出せと喚き散らし、挙句の果てに、ドレスが汚れたからと幼子を突き飛ばしたことは、今でも忘れてはいない。


メリッサには、王妃になんてなって欲しくない。


第二候補と、第三候補がいるじゃないですか?と問うと、第二候補は他に好きな男がいるし、第三候補は結婚にまったく興味がないからダメだと言われた。


自分は王妃に相応しくないと言えば、俺はずっと見てきた。スザンヌの行いこそ、王妃に相応しいと思っていると返してくる。


そして、なんとも物悲し気な目で見つめてくると、アーサーはこう言った。


「スザンヌ、俺の想いとは熱量に違いはあるだろうが、スザンヌも俺に対して好意を寄せてくれていると思っていたのは、俺の勘違いだったのだろうか・・・。」


スザンヌは、頬がカッと熱くなるのを感じた。


あなたのこと、好きじゃないと言えれば、どれほど楽だろう。


でも、アールに対する想いに嘘はつきたくなかった。


毎回物資を届けてくれるアールの顔を見ることを、話しをすることを、どれほど心待ちにしていたことだろう。


「・・・アール・・・、私も・・・アールのことが好きでした。でも、それは・・・、王子様と結婚することとは違います。・・・違うんです。」


スザンヌの目に、涙が溢れてくる。


こんなところで涙を流したくないと思っても、自然と涙が溢れて止まらない。


アーサーは、ゆっくりと近寄り、スザンヌの涙をハンカチで拭くと、そっと抱きよせた。


「スザンヌ、俺のことを好きだと言ってくれてありがとう。プロポーズの答えは今でなくていいんだ。父上には二十五歳までに婚約者を決めると約束している。だから時間はたっぷりある。焦らなくていいから、よく考えて欲しい。あなたの良い答えを俺はいつまでも待つよ。」


スザンヌは、馬車の中で向い合うアーサーの顔をもう一度よく見た。


余裕のある笑みを浮かべているけれど、本当は無理して笑っているのかもしれない・・・。


いくら待ってくれても、身分の差を埋めることはできない。


待つだけ無駄かもしれないのに・・・。


考え事をしている間に、馬車は服屋に到着し、スザンヌは子どもたちの衣服を購入した。


代金は王太后の予算からだと言って、アーサーが全額払ってくれた。


「スザンヌ、せっかく一緒に買い物に来たんだから、もう少し店を見て回ろうよ。」


子どものようにはしゃぐアーサーは、とても王太子には見えない。


すっかり気分は、アールなのだ。


「スザンヌ、この髪飾り、君に似合うよ。」


アーサーが手にしたのは、小さな白い花を散りばめた可愛い髪飾りだ。


宝石は使われていないが、熟練の職人が作ったのか、手の込んだ細工が見事な一品である。


「うん、可愛いわね。」


「じゃあ、これをスザンヌにプレゼントするよ。」


アーサーは店主に代金を払うと、「じっとしててね。」とスザンヌの髪に飾り付けてくれた。


そして「ああ、本当によく似合っている。」と嬉しそうに微笑む。


アーサーの行為が、素直に嬉しい。


まだアールがアールだと思っていた頃、こんな風に二人でデートができたらいいのに・・・と思いを巡らせていたことを思い出す。


アーサーがアールでいる時ぐらいは、難しいことを考えるのはよそう・・・とスザンヌは思うのだった。




それからしばらく経ったある日の午前中、ローズは孤児院に向かった。


ジェフは仕事があるので、後から合流することになっている。


スザンヌとすっかり仲良しになったローズは、ボランティアで子どもたちのお世話をしたいと申し出ると、スザンヌは是非にと喜んでくれた。


子どもたちと過ごした後は、スザンヌと一緒にクッキーも作る予定である。


あのほっぺが落ちそうなほど美味しいクッキーのことを思い出すだけで、はしたないけれど、よだれが出そうになる。


ローズが到着したとき、スザンヌが園庭で子どもたちの世話をしながら遊んでいる最中だったので、ローズもそこに合流する。


「オネエタンモ、イッチョニアチョボ!」と舌ったらずの言葉で話しかけてくる幼児がとても可愛らしい。


ローズは、幼児の手をとって、「何して遊ぶ?」と聞いてみる。


「オチュナアチョビ」と答えて、ローズの手をひっぱり、砂場に連れて行ってくれた。


ローズの周りに四人の子どもたちが寄って来て、五人で砂山を作っている最中だった。


なんだか園庭の様子がおかしい。


さっきまで子どもたちの声が響き渡っていたはずなのに、しんと静まり返っている。


どうしたのかと顔を上げると、スザンヌが慌てて走って来た。


「ローズ、早く建物の中に入って。」


「えっ? どうしたの?」


「変な人が、門から中を覗いているの。他の子どもたちは、もう中に入れたわ。後はあなたたちだけ。子どもたちと一緒に早く!」


門を見ると、不審者が門を乗り越えているところだった。


「大変、中に入って来たわ。」


スザンヌは、砂場にいた幼児の中で、足取りがおぼつかない幼児を二人抱き上げた。


「さあ、逃げるわよ。みんな走って!」


スザンヌが走り出すと、ローズと二人の子どもが後に続く。


「見つけたぞ!」


男の怒鳴り声が聞こえた。


「お姉ちゃん、怖いよー」


一緒に走っている幼児が、恐怖で泣き出した。


「大丈夫、お姉ちゃんの手を握って。」


ローズはその子の手を握って走ったが、男はローズたちに向かってものすごいスピードで走ってくる。


早く、早く逃げなくっちゃ!


ところが、慌てて走る子どもの足がもつれてしまった。


「あっ!」


子どもはズデンと転んでしまったのだ。


ローズが子どもを助け起こそうとする間に、男は追いつき、懐から刃物を取り出した。


「まずは、お前からだ!」


男は刃物を振りかざした。


「キャー!」


ローズは悲鳴を上げながらも、男から庇うように子どもを抱きしめた。


「ロ、ローズ!」


スザンヌは二人の子どもを抱えたまま、どうすることもできず、ただ、叫ぶしかなかった。


殺される!


ローズは、震える身体で子どもを強く抱いたまま、恐怖で目を瞑った・・・。

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