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愛しの侯爵様は、究極の尽くし型ロボットでした  作者: 矢間カオル


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29話 領主代理

「お連れの方も、先ほど到着したのですよ。」


アンジェリカがお連れの方と言ったのは、グローリー侯爵領で働いている大工たちだ。


グローリー侯爵領からメイブリック男爵領へは、馬車だと一日あれば到着する。


その距離なら大丈夫と見込んで、ジェフは予め設計図や材料などを書いた手紙を送り、この地に呼んでおいたのだ。


「では、早速ゴルムルの群生地を見に行きましょう。」


アンジェリカの案内で、一行はゴルムルの群生地へと足を運んだ。


実際に見ると、思っていたよりも数倍の規模だった。


ゴルムルの木が生えている場所は、他の植物が育たず、見渡す限りどこまでも、ゴルムルの林が続いている。


「これだけの量があれば、十年で、国の予算以上の収益を上げられそうだ。」


ジェフが頭の中で計算した数値を、国のデータと比較する。


ジェフは工場の場所に、ゴルムルの林に近い平地を選んだ。


「棟梁、この場所で行けそうですか?」


「はい。大丈夫です。坊ちゃんのためなら、わしらは、死に物狂いで働きますって。」


力強い答えが返って来る。


グローリー侯爵領に一ケ月滞在していた間、ジェフは領主と関係のある全ての職場を訪問した。


その中でも、特に大工たちの態度が悪く、かなり領主に不満を持っているようだった。


理由を聞けば、前領主代理のアロンは、大工たちの仕事が終わった後に、ここが悪い、あそこがなってないと難癖をつけ、初めに提示した代金から大幅に値を下げられたのだと言う。


新しい領主になっても、どうせ同じだろうと諦めていたのだが、ジェフはその不届きな行いを謝罪し、アロンが引き下げた額を全額支払ったのだ。


大工たちが、ジェフに大いに感謝したことは言うまでもない。


彼らは、建築に必要な材料はグローリー侯爵領から調達してきたので、今からでもすぐに工事に入れると言う。


ジェフはメイブリック領の大工たちにも協力を仰ぎ、地元の大工たちや、商店にも仕事が行き渡るように配慮した上で、棟梁を責任者に指名した。


一通り打合せが終ると、ジェフとローズはアンジェリカと共に領主の館に戻った。


大工たちは工事現場に天幕を張り、工事中はそこで生活をすることになる。




夕食は、アンジェリカ母子とテーブルを共にした。金銭的に苦しいと聞いていたが、侯爵子息とその婚約者をもてなすために、精一杯の食事を用意してくれたようである。


ローズはアンジェリカの心遣いに感謝した。


その席で、ジェフは新事業のあらましを伝えたのだが、夫から、グローリー侯爵家の主導で行われる事業だから心配は要らないと連絡を受けていたので、アンジェリカは安心して話を聞くことができた。


事業の話が終ると、ローズはずっと気になっていたことを口にする。


「一年前から家族が離れ離れになって暮らしているそうですが、今後、一緒に暮らす見込みはないのですか?」


すると、寂しそうにアンジェリカが答える。


「この子がまだ小さいので、家族そろって暮らしたいのですが、領主代理が見つからないので難しいですね。領主代理となれば、誰にでもできる仕事ではありませんし・・・」


領主代理となると、経理にも長け、責任感もあり、人を制する力なども必要になる。


何より、信頼できる人でなければ、安心して任せることができない。


誰か相応しい人はいないかと、ローズの回りの人に思いを巡らせば、適任者はいても、皆、既に、重要な仕事を任されている。


「確かに新しく人材を見つけるのは、難しいですね。」


ローズは、小さくため息をついた。


―ローズは、領主代理の適任者を求めている―


「ローズは、領主代理の適任者が、必要なんだね?」


「うん。それが叶えば、家族が一緒に暮らせるようになるもの。もしかして、適任者が、いるの?」


「メイブリック家の皆が、一緒に暮らせることがローズの望み?」


「うん、そうよ。」


―領主代理の適任者検索中・・・―


ジェフは、膨大な量の個人データの中から、責任感、経理、統率力、忠誠心、転職可能のふるいをかけて適任者を選出する。


―検索完了:シモン―


「適任者がいるよ。」


「えっ、本当に?」


ローズの顔が期待に満ちて、パアッと明るくなる。


「彼に、明日手紙を出そう。」


「まあ、そんな方がいらっしゃるのですか?」


アンジェリカもコーディーも、驚きと期待に満ちた顔をジェフに向ける。


「まだ聞いてみないとわかりませんが、おそらく大丈夫だと思います。」


この国は、国営の郵便制度が整っていて、各領地の主要都市には、必ず郵便局が設置されている。


高額な料金を払えば、速達も可能だ。




わずか二日後に、その人物は現れた。


「お坊っちゃま、私に連絡をくださいましてありがとうございます。お坊っちゃまの恩に報いるために、急いでやって参りました。」


この男の名前はシモン。


グローリー侯爵領で、織物業の事業責任者を務めている男である。


平民のシモンは、読み書き計算を独学で学び、その優秀さと、人柄を見込まれ、事業責任者にまで出世した。


だが、以前にシモンは、前領主代理のアロンに、不正疑惑をでっち上げられたことがある。


アロンは、シモンの不正疑惑をエサに、ジェフとグローリー侯爵を誘き出し、殺害しようとしたのだが、反対にジェフの電撃ビームで心臓を射抜かれ、帰らぬ人となった。


アロンは、不正疑惑を真実にするために、偽の不正帳簿を捏造していた。


ジェフとマチスを殺害した後に、シモンの不正を公にして領地から追い出すつもりでいたのだ。


織物業の事業責任者であるシモンは、労働者の給料のことで、よくアロンと衝突していた。


アロンが正式な領主ならさっさとクビにできたのだが、それをするにはグローリー侯爵の許可が必要で、正論をかざすシモンを侯爵がクビにするとは思えない。


ゆえに、アロンにとって、シモンは邪魔者でしかなかったのである。


アロンの死後、偽の不正帳簿が見つかり、シモンに疑いがかかったのだが、ジェフは何年にもわたるデータを保存している。


瞬時に帳簿と照らし合わせ、不正帳簿は捏造されたものであることが判明した。


ジェフのお陰でシモンは名誉が守られ、そのまま職場に留まることができたのだ。


「急いで来てくれてありがとう。早速だが、ここの領主代理を引き受けてくれるだろうか?」


仕事の内容は、予め手紙で詳しく知らせてあるから、後は確認だけが必要だった。


「もちろんです。私でできることなら、何だってさせもらいます。息子も成長し、私の後を安心して任せられるようになりましたので、心置きなくこちらの仕事に励むことができます。」


シモンの言葉に、アンジェリカもコーディーも喜びを隠せない。


「ありがとうございます。本当に助かります。」


母子は抱き合って喜んだ。


その姿を見て、ローズは心がとても温かくなった。


そして自分の望みを叶えてくれるジェフに感謝し、そんなジェフが自分の婚約者であることを誇らしく思うのだった。




翌日から、ジェフはシモンにゴルムルの樹液から製品を作る指導を始めた。


シモンは、領主代理でもあるが、新事業の責任者も兼ねてもらうことになっている。


ゴルムルの名前では呼びにくいので、新製品はゴムと名づけた。


まだこの世界には、機械で大量生産をする技術が生まれていないので、全て手作業で行うことになる。


シモンは、すぐに製造方法を覚え、メイブリック領内にゴム工場の求人募集を行い、領主代理の仕事はアンジェリカから教わり・・・と、とても忙しくなったが、持ち前の責任感を発揮し、愚痴一つこぼさず、着実に仕事をこなしていった。


ジェフとローズは一週間ほど滞在し、工場建設の目処が立ったところで、後はシモンに任せて王都に帰った。


その後、アンジェリカはシモンの妻も呼び寄せ、夫婦で領主代理の仕事ができるように詳しく教え、一ケ月後には王都にいる夫の元に戻ることができた。


これで、やっと、皆の希望が叶ったのである。


さて、新事業のゴムの製造販売はどうなったかと言うと・・・、売れに売れた。


作っても作ってもすぐに売り切れてしまい、入荷を待ち焦がれる人が、何度も店頭に顔を出すほどである。


販売は、グローリー侯爵領の小麦や農作物加工品、織物などの流通経路を使い全国展開。


特に輪ゴムの需要が高く、それまで伸びないヒモしかなかった世界に突如現れた新製品に、人々は大いに関心を持ち、その便利さに驚嘆した。


安価なことも庶民にとっては有難く、瞬く間に広がったことは至極当然のことであった。


また、馬車の車輪にゴムを付けることで振動が激減、貴族たちは、こぞってゴム付きの車輪を買い求めた。


この事業の成功を、マチス・グローリー侯爵は、感心して見守っていた。


ジェフは王太子に呼ばれた日、帰って来るなり、唐突に事業を始めたいから許可して欲しいと言い出した。


ジェフが提示した初期費用を含めた必要経費はかなりの高額で、もしその事業が失敗すれば、大きな損失となる。


だが、ジェフのお陰で領地収入が大幅に増加したこともあったので、グローリー侯爵は許可することにした。


たとえ大きな損失を被ったとしても、グローリー侯爵家の全収入を考えれば、それは十分に補える額であることも許可する要因である。


「ところで、どうして、新事業を始める気になったのじゃ?」


ジェフは毎日、膨大な量の仕事をこなしている。


ジェフが超人的な早さで仕事をこなすから、午前中で終わっているのだが、おそらく相当疲れているはずだ。


それに、今のままでも十分な収入があるのに、今更、危ない橋を渡る必要もないだろうに・・・、そう思ってジェフに問う。


「ローズの喜ぶ顔が見たいからです。」


なんと、欲のない子じゃ・・・。


グローリー侯爵は、迷わずに答えるジェフの言葉に、感動すら覚えた。


「そうか・・・。ジェフは愛するローズのために、もっともっと頑張りたいと思うのじゃな・・・。よし、わかった。いくらでも金を使って良いぞ。顧問弁護士も呼んでおいてやろう。」


グローリー侯爵は、口を出さずにジェフを見守っていたが、事業は成功し、またしても、収入が増えた。


初めにかかった必要経費は、すぐに回収できる勢いである。


「惚れた女性がそばにいるだけで、ジェフはますます成長していくのだな・・・。」




グローリー侯爵家は収益の二十パーセントの収入を得るが、収益の八十パーセントはメイブリック男爵の銀行口座に振り込まれる。


だから、あっという間にメイブリック男爵家は金持ちになった。


この調子で収益が上がれば、メイブリック男爵家は押しも押されもしない大金持ちになるだろう。


「良かったわ。スザンヌが家族と暮らせるようになって。それにお金持ちにも・・・。ジェフ、本当にありがとう。さあ、お次は・・・、ジェフ、今度も協力してね。」


ローズはにっこり微笑んだ。


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