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愛しの侯爵様は、究極の尽くし型ロボットでした  作者: 矢間カオル


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28話 新事業

馬車の中で、ジェフは簡単に説明してくれたが、要するに、メイブリック領で新しい事業を始めるので、ローズは寄付をする代わりに、その事業に出資をして欲しいということだった。


三人が孤児院に着き、院長ヘンリー・メイブリック男爵がジェフを見ると、目を丸くして驚いた。


「ジェ、ジェフ君? 昨日とは余りにも違い過ぎるのだが・・・」


使用人の服装から、一気に煌びやかな貴族の服装に変わっている。


院長が驚くのも当然である。


「驚かせてすみません。昨日は身分を隠して働いていました。私は、グローリー侯爵家の嫡男、ジェフリー・グローリーと申します。本日はビジネスの話をしに来ました。こちらは、グローリー家の顧問弁護士のチャールストン・ボルトです。」


「よろしくお願いします。」


チャールストンが、威厳のある低い声であいさつをする。


「あの・・・、クレマリー伯爵家のご令嬢は、何故一緒に?」


「彼女は私の婚約者なのですが、今回の新事業に出資をしてもらうことになったので、同席してもらいました。」


高位貴族の中でも侯爵位序列第一位のグローリー侯爵の子息が来たことだけでも驚きなのに、そこに婚約者である伯爵令嬢も加わり、ビジネスの話と言われて、院長は頭の中が大いに混乱する。


「そそ、そうですか・・・。こ、婚約者・・・しゅ、出資・・ビビジネスと言われましても、わわ私には、何のことやら・・・。」


だが、ジェフはいたって冷静だ。


「驚くのも無理はありません。今からゆっくりご説明いたします。」


ジェフの説明をまとめると、こういう話である。


メイブリック男爵領で自生しているゴルムルの樹液を使って、新事業を始めたい。


そのために必要な設備投資を含めた初期費用は、全てグローリー侯爵家が負担する。


メイブリック家にとっては、願ってもない話なのだが、あまりにも話が旨すぎて、院長には不安の方が先に立ってしまう。


「話は分かりますが、もし失敗したら、その負担はどうなるのですか?」


「その負担は全てこちらで負いますから、何の心配もありません。それから、これが新しい製品の製造方法です。」


ジェフは紙の束を院長に見せるが、院長が見ても、何のことやらさっぱりわからない。


「これで特許を申請しますが、申請者は院長の名前で登録します。もちろんそれに関わる費用もこちらで負担します。これで少しは安心しましたか?」


「ですが、それでは、グローリー家の利益はどうなるのですか?」


「ここからが、大切なビジネスの話になります。こちらの利益は、収益の十パーセントをいただきたい。それから、この事業は全てにおいて、グローリー侯爵家の主導で行う。これに賛同していただけますか?」


この話が本当ならば、院長は何もしなくても、収益の九十パーセントをもらえることになる。


「あの・・・本当にそれで良いのですか? いくら何でも・・・、それでは、あまりにも申し訳ないので、そちらの取り分をもっと多くしてください。」


ヘンリー・メイブリック男爵が誠実な人だと評判である理由が、こんなところからも伺える。


「わかりました。では、こちらの取り分は十五パーセントにしましょう。」


「いえ、それではまだ少ないかと・・・。」


結局、二十パーセントで話は落ち着いた。


「では、よろしければ、書類にサインをお願いします。」


ここからは、顧問弁護士と院長の話になり、院長は弁護士に説明を受けながら何枚もの書類にサインをした。


「これで契約は終わりましたので、できるだけ早く現地に行きたいと思います。院長も御同行願えるとありがたいのですが。」


ジェフが、院長も一緒に現地に行くことを願い出たが、孤児院を任されている院長としては、この場を離れたくないようだ。


「ああ、それなら妻と息子が領地にいますので、私から連絡しておきます。領地のことなら、私よりも妻の方が詳しいので、話はそちらの方が良いでしょう。」


「奥様が領地にいらっしゃるのですね。」


「はい。お恥ずかしいことなのですが・・・」


院長の話によると、三年前に孤児院を任された当初は、家族一緒に孤児院に隣接する屋敷に移り、領主代理は領地の屋敷の執事に任せていた。


だが、一年ほど前に、今の給料の倍はもらえる仕事を見つけたから、執事を辞めたいと言い出したのだ。


メイブリックの領地でとれる作物はたかが知れているし、彼を引き止めるほどの給料は出せそうもない。


だから、仕方なく、妻と息子を領地に送り出し、領主代理を務めてもらうことにしたのだった。


ずっとそばで話を聞いていたローズは、初めの方は、ジェフの力強い仕事ぶりに感心していたのだが、最後の院長の話になると、しんみりとしてしまった。


家族が離れ離れで過ごすだなんて・・・。


スザンヌには、きっと人には言えぬ苦労がいっぱいあったのだろう・・・。


院長と話し合った結果、ジェフがメイブリック領に出発する日は、四日後になった。


メイブリック領は、馬車で二日ほど、手紙なら早馬を飛ばせば一日で届く距離にある。


「では、奥様によろしくお伝えください。」と言葉を残して、ジェフたちは孤児院を後にした。




ローズの屋敷にもどると、いつものようにジェフはローズの私室に入った。


「ローズ、四日後の視察だけど、一緒に来てくれるよね。」


「えっ? でも・・・、私は出資はするけど、事業のことなんてよくわからないわ。行っても役に立たないのでは?」


とたんにジェフが、シュンと寂しそうな顔になる。


まるで捨てられた子犬みたい・・・。


「ああ、もう!そんな顔されたら、断れないじゃない。わかりました。お父様が許してくれたら、一緒に行きます。」


ローズは既に、ジェフと一緒にグローリー侯爵領に行ったことがある。


ローズの父が、反対する理由はない。


「ああ、一緒に行ってきなさい。未来の侯爵夫人の良い社会勉強になるだろう。」


迷うこともなく許可してくれた。


ジェフがローズの同行を求めるのには、理由がある。


尽くし型ロボットは、管理者の許可なく、遠くへ行くこともできないし、新たなミッションも管理者の許可なくしてはできない。


これは、尽くし型ロボットが第三者によって不正利用されることを防止するために、予めプログラミングされていることなのだ。


現在のミッションは、ローズの希望である「スザンヌがお金持ちになること」なので、それに関わることなら、ジェフは自由に動ける。


しかし、ローズがいない場所で、第三者が、新たなミッションを泣いて縋って懇願しても、ジェフはただ無情に無視するだけになってしまうのだ。


新たな許可を求めるためにも、ローズにそばにいてもらわなければならない。




四日後、ジェフとローズを乗せた馬車は、メイブリック領へと出発した。


ジェフは、初めて見る景色を新しい情報として、どんどんと入力していく。


一度目の旅行で慣れたローズは、窓の外の景色ばかりを見ているジェフを、まるで母親のような気持で見ることができた。


だが、途中で一泊したホテルでは、母親の気持ちなど、あっという間にどこかへ吹っ飛んだ。


密室で二人は恋人に戻り、ねっとりとした濃厚で甘い夜を過ごすことになったのである。




翌日、陽が少し傾いた頃、メイブリック領の領主の館に到着した。


到着するとすぐに、領主代理であるヘンリーの妻アンジェリカと、その息子コーディーが迎えてくれた。


アンジェリカは薄茶色の髪を一つにまとめた中年女性であるが、瞳はスザンヌと同じキラキラと輝く水色をしている。


ああ、やっぱり親子なんだなぁとローズは思う。


コーディーは、ヘンリーと同じピンクブロンドの髪と茶色の瞳で、顔立ちもよく似ており、ヘンリーを小さくしたような子どもだった。


歳はスザンヌよりも十歳も年下の八歳で、初めて見る客に恥ずかしそうに挨拶をした。


「あの・・・お父様とお姉様は元気にしていますか?」


挨拶の後に、離れて暮らす父と姉を心配し、寂しそうな顔を向けるコーディーに、ローズの胸が熱くなった。


「ええ。元気にしているわ。だから安心してね。」


一年前まで一緒に暮らしていた家族が、事情があるとはいえ、離ればなれになっている。


こんなに小さい子どもなのに、家族と一緒に暮らせないなんて・・・。


なんとかならないかしら・・・


ローズの胸の熱が、痛みに変わった。

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