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愛しの侯爵様は、究極の尽くし型ロボットでした  作者: 矢間カオル


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27話 スザンヌの思い

躊躇いがちに袖を引くスザンヌは、今まで、何でもはっきりと口にしていたスザンヌらしくない。


「もちろん、良いですけど・・・?」


ローズは疑問に思いながらも承諾する。


スザンヌはローズの袖を引っ張り、「こちらへ」と促した。


寄付金のことだから、使用人には聞かれたくないのかもしれない・・・


ローズはスザンヌに引っ張られるままに移動する。


馬車から離れ、誰にも聞かれない場所まで移動すると、スザンヌは「ごめんなさい」と頭を下げた。


「寄付金のことではないんです。どうしてもローズに聞きたくなって・・・。」


スザンヌの顔が、少し熱を帯びたように赤くなっている。


いったい何を聞きたいのか・・・?


「ローズとアールって・・・、どういう関係なんですか?」


「へっ?」


ローズは思わず間抜けな声を出してしまった。


まさかそんなことを聞かれるとは思っていなかった。


「アールが女性を連れてきたのは、今日が初めてなんです。それに・・・、さっきの二人の会話、とても親し気に思えて・・・」


さっきの会話と言われて、ローズは何のことかと思い出す。


そう言えば、うっかり役割を忘れていたような・・・。


でも、先に忘れたのは、殿下だったわよね。


「あの、スザンヌ、私たちは別に親しいわけではありません。」


「本当ですか? でも、ローズって・・・、別に隠さなくても良いのですよ。」


もしかして・・・これは? 


スザンヌも殿下のことを?


なんだかローズまでドキドキしてきた。


「あの・・・、つかぬことをうかがいますが、もしかして、スザンヌはアールのことを?」


「えっ? いえ、そんなわけでは・・・、アールは平民で、私たちは身分が・・・ので・・・・」


最後はごにょごにょと小さくなってよく聞こえない。


でも、スザンヌが不安に思っているってことはわかる。


ここは、はっきり言って安心させてあげなければ!


「スザンヌ、安心してください。私が好きなのはジェフなんです。アールではありません。」


「えっ、そうなんですか?」


スザンヌの顔が、ぱあっと明るくなった。


「じゃあ、ローズも身分違いのこ・・・、あっ、今のは聞かなかったことにしてください。それから、私と話した内容を、どうかアールに言わないでください。お願いします。」


スザンヌの顔が、今度は少し泣きそうになる。


恋する乙女の心は複雑だ。


ローズは、両手でがっしりとスザンヌの手を掴んだ。


「もちろんですわ。お約束します。私は絶対にアールには言いません。」


ローズは、アールは本当は王太子アーサーなのだと言いたかったけれど、ぐっと我慢した。


これはローズが打ち明けることではない。


アーサーが自らローズに打ち明けるべきことなのだ。


ああ、それにしても・・・


まぎれもなく目の前に、身分違いの恋に悩む乙女がいる。


いずれは、スザンヌも本当のことを知って、「あなたの腕の中で」のヒロインのように、身分違いの恋に身を焦がす日が来るのだろうか・・・。


ローズは、二人の恋を応援したくなった。


小説と同じように、愛し合う二人は結ばれるべきなのだわ!




アーサーと別れた後、ジェフとローズは、クレマリー家のローズの私室に入った。


ジェフが、何か聞きたいことがあるらしい。


馬車の中で、アーサーは「さっきのスザンヌ・・・、何の話だった?」と聞いてきたけれど、本当のことは言えない。


「寄付金のことで、言い忘れたことがあったらしくて・・・」と言葉を濁してごまかした。


―ローズの表情解析:ローズは嘘をついている―


ジェフには、ごまかしたことはバレバレだったのだが・・・。


「ローズ、馬車の中で、時々、思い出したように笑っていたけど、何か良いことあった?」


早速ジェフがローズに聞いてきた。


そんなに顔に出てたの?


「あのね、ジェフ、殿下を見てて、何か感じなかった?」


ジェフは孤児院内で録画した動画を、アーサーに絞って再生する。


―アーサーの表情解析中・・・完了:アーサーはスザンヌに強い好意を持っている。―


「殿下は、スザンヌのことが好きみたいだね。それもかなり強く思っている。」


「やっぱり? ジェフもそう思ったのね。スザンヌと殿下がお互いに想い合ってるって思うと、なんだか嬉しくなっちゃって・・・。」


「相思相愛?」


「ふふっ、そうなの。でもね、スザンヌも殿下を好きなんだけど・・・、あっ、これは絶対に殿下に言ったらダメよ。スザンヌはアールのこと、平民だと思っていて、身分違いだから結ばれないと思っているみたい・・・。」


「貴族と平民の結婚は難しいからね。」


「でも、アールは本当は貴族なんだって知ったら、スザンヌの悩みは解消するわ。相手が王子様だから、別の悩みは増えるかもしれないけど・・・、男爵令嬢と王子様の身分違いの恋、なんてロマンチック!」


夢見るように話すローズであるが、ジェフは、いとも簡単にその夢を打ち砕く。


「王族の結婚は、当人だけで決められることじゃないからね。王族の歴史を見ると、男爵令嬢が王妃になった例が一度もないんだ。だから、難しいと思う。」


「えっ、そうなの?」


ローズのテンションが一気に下がる。


「でも、ずいぶん昔に、一人だけ男爵令嬢が王妃様になったことがあったと思うけど・・・。」


「おそらく、ルイーズ男爵令嬢のことだろうが、事実は少し違うんだ。」


ジェフは歴史書で読んだ正確な知識を持っている。


ローズの間違った知識を正確なものにするために、わかりやすく伝えることにした。


男爵家に生まれたルイーズは、他の誰よりも機知に富み、賢い女性であった。


当時、この国は隣国との間に大きな問題を抱え、一発触発の戦争の危機すらあったのだが、ルイーズの手腕で問題を解決し、戦争を回避できた。


国王はたいそう喜び、その褒賞として、彼女個人に伯爵位を与えた。


つまり男爵家の娘ではあるが、身分は伯爵になったのだ。


国王は彼女の能力を高く買い、国のためにと、王太子との縁談を取りまとめた。


いわば、国王自ら進めた政略結婚だったのである。


ところが、この話はシンデレラストーリーとして語り継がれ、演劇や小説の中で脚色を重ねられた結果、世紀のラブロマンスとして国民に認知されるに至ったのである。


「そうだったのね。私も小説が真実だと思い込んでいたわ。今は、外交問題なんてないから手柄を立てることもできないし・・・、ねえ、ジェフ、何か良い方法はないかしら。」


シュンとした顔で、ローズはジェフに問う。


「いきなり爵位を上げることは無理でも、せめてお金持ちになって、社交会に顔を出せるようになるだけでも違ってくると思うんだけど・・・」


「それが、ローズが望むこと?」


「えっ?う、うん、そうよ。」


「つまり、スザンヌがお金持ちになって、社交界にもっと顔を出せるようにして欲しいってことでいいかな?」


「ジェフ・・・そんなことできるの?」


そんなことできるの? と聞きながらも、ジェフならできるような気がするから不思議だ。


「計算では九十五パーセントの確立でできるよ。」


「きゅ、九十五パーセント? 本当に? じゃあ、ジェフ、お願いします!」


ローズはさっきまでのシュンとした顔は吹き飛び、希望にあふれた目でジェフを見た。


ローズと別れて屋敷に戻ったジェフは、一息つくこともなく、グローリー侯爵と話をするために、彼の書斎に足を運んだ。




王宮に戻ったアーサーは、自分の部屋でくつろいでいた。


ドアをノックする音がする。


約束通りやって来たのは、アーサーの部下、トリーだ。


「殿下、あの二人、結果はどうでしたか?」


「それが・・・ジェフのヤツ、俺が思ってたのとは、違った・・・。」


アーサーの顔に、悔しさが滲み出ている。


「そうでしたか・・・、それは残念でしたね。良い友人になれるかと思っ・・・」


「アイツ、俺でも運ぶのが大変な重い小麦袋を、いとも簡単に運んだんだ!」


「へっ?」


「それも二個まとめてだ!信じられるか?俺でも二個は無理だったのに・・・」


「ああ、そういうことですか・・・。」


トリーは呆れた視線をアーサーに送る。


アーサーは、病気で寝込んでいたジェフだからと、力仕事はさほど期待していなかった。


軽い荷物を運んでくれればそれで良いと思っていたのだが、実際は、自分よりも力があることを知り、ある意味ショックを受けていた。


「それで、人柄はどうだったのですか?」


肝心なのはそこでしょう?


「ジェフは、何を考えているのかよくわからないが、無駄口はたたかず真面目に仕事をする。だが、不思議なことに、あれだけ美しいスザンヌを見ても、ニコリともしなかった。だけど、ローズにだけは、笑顔で接するんだ。まあ、スザンヌに色目は使わず、婚約者を大切にしているんだから、いいやつなんじゃないかな?」


「・・・・」


トリ―は何と返事をして良いのか言葉に悩み、結局無視して次の問いに進めた。


「では、ローズは?」


「ローズは、思っていたよりも、優しくて良い令嬢だった。スザンヌとも仲良くなっていたし・・・。」


「はあ・・・、殿下にとって、一番良い人がスザンヌだってことが、よくわかりました!」


トリーは、再度呆れた視線をアーサーに送った。




翌日の午後、いつも通りにジェフはローズに会いに来たが、いつもなら徒歩で来るところを、この日に限って馬車で来た。


しかも、一目見て貴族だとわかるような上質の生地に宝飾をあしらった服装をしている。


昨日とは雲泥の差だ。


「ローズ、一緒にスザンヌの孤児院に行こう。」


誘われてローズが馬車に乗ると、もう一人、中年の男性が乗っていた。


男は、グローリー侯爵家の顧問弁護士だと名乗った。


ローズはこれから何が起こるのかもわからぬまま、三人で孤児院に向かった。

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