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愛しの侯爵様は、究極の尽くし型ロボットでした  作者: 矢間カオル


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21話 王室舞踏会

王太子アーサーとの面談が終わった後、ローズは目が回るほど忙しく過ごした。


アーサーからの依頼は、三日後の王室主催の舞踏会に参加すること。


これまで、ローズは、舞踏会に参加したことは何度もあったが、元カレのオルソンが王室主催の舞踏会を嫌っていたため、彼が好む堅苦しくない舞踏会にばかり参加していた。


だが、王室主催となれば、ドレス選びにも今まで以上に気を配らねばならず、今回はジェフと一緒に参加するから、お互いの服装も合わせなくてはならない。


今から注文しても間に合わないので、二人一緒に既製品のドレスとスーツを選び、ドレスに合うアクセサリーと靴も急いで用意しなければならなかった。




あっという間に舞踏会の日になった。


ジェフは黒を基調としたデザインで、緑の刺繍と宝飾を施し、胸元にはエメラルドのブローチをあしらった上品なスーツ姿、ローズは上質の緑色のシルクサテンのドレスを選んだ。


落ち着きのある緑色のドレスは、上品さと華やかさを合わせ持つデザインで、王室主催の舞踏会に参加しても、おそらく見劣りしないだろう。


ローズは緊張した面持ちで、ジェフと一緒に舞踏会会場に入場する。


会場に入ったとたん、場内にざわめきが起こった。


皆がこちらをチラチラと見ている。


ざわめきの理由はすぐにわかった。


ローズとジェフの目の前に、取り巻きの三人の令嬢を従えた見目麗しい令嬢が現れ、理由を教えてくれたのだ。


「ジェフリー・グローリー小侯爵様ですね。今日はグローリー侯爵家のご子息が、初めて舞踏会に参加されるとお聞きして、皆様、そわそわして待っておられたのですわ。」


待っていたところに現れたジェフのあまりの美しさに、皆驚いたのだろう。


ローズは、この美しい令嬢のことをよく覚えていた。


名前はメリッサ・シャロン、侯爵令嬢だ。


同い年のメリッサとは、ローズがデビュタントのときに、初めて顔を合わせたのだが、当時から、群を抜いたその美貌は皆の注目を集めていた。


艶のある漆黒の髪、透き通るような白い肌にさくらんぼのような唇。


にっこり笑うその茶色い瞳は、愛くるしさが際立って、見る者を虜にする。


本日彼女が着ている赤いドレスは、さえない令嬢が着ると色負けしてしまう恐れがあるが、メリッサは、見事に着こなし、気品と優雅さを漂わせている。


さらに父親は侯爵で、ローズよりもその地位ははるかに高い。


ローズはメリッサのことを本当に美しいと思い、ぼーっと見てしまったのだが、うっかり挨拶をすることを忘れていることに気が付いた。


声をかけるのは身分が高い方からであるが、挨拶は低い方からするのがマナーである。


「お久しぶりでございます。私はクレマリー伯爵家の長女ロー・・・」


「ジェフリー様、まだ私、名乗っておりませんでしたわね。」


ローズの挨拶がまだ途中であるにも関わらず、メリッサが話し始めた。


えっ? 私、遮られた?


「失礼いたしました。私、シャノン侯爵家の長女、メリッサ・シャノンと申します。」


メリッサは、ローズには一切目もくれず、ジェフだけを見て、零れるような笑顔を見せた。


もしも遮られなかったら、ローズは、その笑顔にも感動していたであろうが、今は、少し気分が悪い。


そして、自分の名前を名乗るタイミングを失ってしまった。


ジェフはじっとメリッサを見ている。


―メリッサ・シャノン紐付け完了、ヴァーノン・シャノン侯爵の長女。侯爵位序列二位、父はシャノン商会の会長―


ジェフは、貴族名鑑に書かれている全ての貴族の名前を入力済みであるが、まだ名前と顔が一致していない。


挨拶を受ける度に、顔と全身の画像と名前を紐付けしているのだ。


「私はジェフリー・グローリーと申します。それから・・・」


ジェフはローズの腰に手を回し、グイッと自分に引き寄せた。


「こちらの令嬢は、私の婚約者、ローズ・クレマリー伯爵令嬢です。」


このとき、メリッサは初めてローズを見たが、その瞳はどこか冷たい。


「あら、そちらはジェフリー様の婚約者でしたのね。気が付きませんでしたわ。」


いやいやいや、気が付かないはずがないでしょ?と、ローズは心の中で思ったが、メリッサの態度で何が言いたいのかわかる。


どうして、あなたなんかがジェフの婚約者なの? 不釣り合いだわ!


メリッサはきっとそう思っている・・・。


メリッサと取り巻きがこの場を離れると、周りでちらちらと見ていた輩がジェフの周りに集まってきた。


皆、グローリー侯爵の息子に、挨拶をしたくてうずうずしていたようだ。


我先にと挨拶をし始め、ジェフとローズも一緒に、彼らに挨拶を返していた。


お陰でジェフは、挨拶をする全ての貴族の情報を入力することができた。


周りに集まってくる貴族たちを見て、ローズは、元カレオルソンが王室主催の舞踏会を嫌っていた理由が分かったような気がした。


ジェフの周りに、これだけたくさんの人が集まってくるのは、ジェフが高位貴族だからだ。


身分の低い者から挨拶をするのがマナーであるのだから、高位貴族が多く参加する王室主催の舞踏会では、オルソン程度では鼻にもかけてもらえない。


挨拶はいつもオルソンからになってしまう。


プライドの高いオルソンが、それを良しとするはずがない。


それにしても・・・と思う。


どうしてあんなに肝が小さい男のことを、男らしいなどと思ってしまったのだろうか・・・


そんなことを考えながら皆と挨拶を交わしていると、会場がにわかに活気づき、ざわめきが波のように広がった。


国王ウイリアムと王妃エレノア、王太子アーサーが、入場したのだ。


ウイリアムは、アーサーと同じ銀髪と紫の瞳で始終にこやかな顔をしているが、高貴な威厳は通り過ぎるだけでも伝わってくる。


エレノアは結い上げた金髪に藍色の瞳が麗しく、王妃に選ばれるのはもっともだと思わせる貫禄と美しさを湛えている。


三人が一緒に歩いていると、そこだけが光り輝いているように見えた。


会場にいる皆が国王に向かって臣下の礼をとる。


楽団が音楽を奏でる中、王族三人は会場の中央を通り、一段高い場所に設けられた専用の椅子に座った。


国王ウイリアムの開会宣言が終わると、ダンスパートナーが決まっている令嬢令息たちは、会場に設けられたダンスエリアに手を繋いで歩いていく。


アーサーの前には、天使のような笑みを浮かべたメリッサが、声を掛けられるのを待っている。


アーサーには婚約者候補が三人いるが、その中で最も有力視されているのは侯爵位序列二位のメリッサ・シャノンなのである。


他の二人に比べるとメリッサの方が序列が高く、王室主催の舞踏会では、アーサーが最初に踊るのはメリッサとほぼ決まっている。


アーサーはメリッサの手をとり、ダンスエリアへと進んだ。


アーサーが中央に出ると、ダンス曲が流れだし、皆一斉に音楽に合わせて踊りだす。


アーサーとメリッサのペアは、流れるような美しい動きで、他の誰よりも優雅なダンスを披露している。


さて、ローズとジェフはどうしているかと言うと、皆のダンスを、壁際からただ見ているだけであった。


アーサーに招待された舞踏会はわずか三日後、心の準備も衣装の準備もできていなかったローズは、あまりに急すぎて、ジェフにダンスを教える余裕がなかったのだ。


生半可なダンスでは、かえってジェフに恥をかかせてしまうと思ったローズは、今回はただ参加するだけにして、アーサーの依頼をこなそうと考えていた。


ダンスの一曲目が終わった。


会場には、アーサーとメリッサを称える拍手が湧き上がる。


メリッサは満足そうな笑みを浮かべ、アーサーとダンスの終わりの挨拶を交わした。


次の曲との間に、壁際に去る者もいれば、新しくダンスパートナーを見つけるべく、別の令嬢にダンスを申し込む令息たちもいる。


アーサーは、二人目の婚約者候補、リリアーナ・プレス伯爵令嬢に次のダンスを申し込んでいた。


リリアーナは艶のある茶色い髪と丸い大きな茶色の目が印象的な、どこか幼さが残る可愛らしい令嬢である。


お互いに手を取り合ってダンスエリアに進んでいくが、何処となく機械的な感じがする。


「ローズ、俺と踊ってくれませんか?」


ジェフが他の令息たちのように、腰をかがめて手を差し出し、ローズに ダンスを申し込んだ。


「えっ?で、でも、ジェフはダンス、踊れないんじゃないの?」


今日のダンスを諦めていたローズは、驚いてジェフを見る。


「大丈夫。もう覚えたよ。」


「ほんとに?」


尽くし型ロボットのジェフは、管理者が望めば、どんなダンスでもできるように予めプログラミングされている。


社交ダンス、ディスコダンス、フォークダンス、地方の特別なダンスに至るまで、そのジャンルは幅広い。


だが、プログラミングされたのは、ジェフが作られた世界のダンスなのである。


今いるこの世界のダンスに合わせて微調整するには、しばらく他人のダンスを見て情報収集する必要があった。


「本当だよ。さあ、踊ろう。」


ジェフはローズの手をとり、ダンスエリアの中央へと進む。


すぐそばには、アーサーが第二候補のリリアーナと一緒に、曲が始まるのを待っている。


音楽が始まると、ジェフは流れるような美しい動きでローズをリードし始めた。


見て覚えただけだと思っていたのに、ジェフの 熟練者のような動きに、ローズは目を丸くする。


「ジェフ、どうしてこんなにダンスが上手なの?」


「ローズが上手だから、一緒に踊っている俺も上手く踊れるんだと思うよ。」


実は、ジェフは一曲目のダンスで、アーサーの動きを完全コピーした。


ステップ、間の取り方、指先の動きに至るまで・・・。


だから、アーサーと寸分なく同じように踊れるのである。


ローズは元々ダンスが大好きで、憧れのオルソンと一緒に踊りたいと夢見ていた頃、晴れ舞台を思い描いて何度も何度も練習した。


その甲斐あって、ダンスは得意中の得意なのだ。


だから二人のダンスは、近くで踊るアーサーペアの優雅さに、全く引けを取らない美しさなのである。


アーサーがリリアーナをくるりと回すと、ジェフもローズをくるりと回す。


アーサーが華麗なステップを踏むと、ジェフも華麗なステップを踏む。


「すごいわ!ジェフ、本当にすごい!私こんなの初めてよ!ああ、ダンスって楽しい!」


「ローズが楽しんでくれて、俺も嬉しいよ。」


ジェフはにっこりとローズに微笑みかける。


二組のダンスを見ている周りの人々からは、ほう・・・と憧れと称賛のため息が漏れていた。


だが、一人、じっと冷たい目でにらんでいる令嬢がいた。


婚約者候補第一位のメリッサ・シャノンである。

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