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愛しの侯爵様は、究極の尽くし型ロボットでした  作者: 矢間カオル


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15話 外伝『フローラの心臓4』仲直り

朝早い道は、まだ人通りが少なく、澄んだ空気が清々しい。


だが、ジルの心は逸るばかりで朝の爽やかさなど、気にとめる余裕がない。


ただただフローラに早く会いたいと、そればかり念じながら足早に歩いている。


フローラも早く謝りたいとそればかり考えて、すれ違う人が挨拶をしても、気が付かずに足早に素通りしてしまう。


まさか、道の真ん中で会えるとは思ってもいなかった。


「フローラ!」


「ジル!」


二人はお互いに気が付くと、慌てて駆け寄る。


「フローラ、ごめん!」


「ジル、ごめんなさい!」


二人の声が重なった。


「えっ?」


「まあ!」


驚く声も重なってしまう。


二人に、やっと笑顔が戻った。


お互いの話の中で、ジルは偶然レストランで二人を見てしまったが、途中で逃げ帰ったために、フローラが断った場面を見てなかったことがわかり、フローラが握られた手を振りほどこうとしても、がっしりと握られてしまって振りほどくことができなかったこともわかった。


「あのね。妻と別れるって言葉、浮気をする人の決まり文句なんですって。それにね。私、手を握られてわかったの。ぞっとしてしまって・・・、私にはこの人は無理!って思ったわ。」


「じゃあ、フローラはあいつのものにならない?」


「当たり前でしょ。私はジルを一番愛しているの。」


「良かった・・・。本当に誤解してごめん。フローラ、愛しているよ。」


「私も・・・」


二人は道の真ん中であったが、しかと抱き合い、唇を重ねた。


少しずつ増えてきた道行く人は、そんな二人を見て見ないフリをして通り過ぎるのであった。


「ねえ、フローラ、俺たち婚約しないか?」


「えっ?婚約?私はまだ十五歳であなたは十七歳よ。早すぎない?」


まさか、いきなり婚約の話が飛び出すとは思っていなかったフローラは、目を丸くする。


「貴族たちは子どもの頃から婚約者を決めているっていうよ。また、ドルトンみたいなのが現れないか、俺、心配なんだ。」


ジルは、ちょっと切羽詰まったような、本当に心配しているような顔をしている。


「わ、わかったわ。でも、どうするの?」


「俺は毎日仕事の前に、神殿で祈りを捧げてるんだ。今日の仕事が、皆無事で終われますようにって。最近は、フローラと幸せになりますようにって祈りも増えた。その神殿で、神様に結婚を誓おう!」


貴族のように、正式に文書で婚約を決めるわけではない。


ただの口約束なのだが、神殿で結婚を誓うという行為が、フローラにはとてもロマンチックなことに思えた。


ジルと結婚を誓うことが夢のようなことに思えて、十五歳の乙女心をくすぐる。


「ええ、いいわ。ジル、神殿で結婚を誓いましょう。」




その日、二人は仕事が終るとジルの家の近くの神殿に出向いた。


夕方の神殿の中には誰もおらず、静まりかえっている。


二人は神殿の正面に置かれている白い女神の彫像に花を一輪供え、その前に跪いた。


女神は慈愛の微笑みを浮かべ、全ての人を受け入れるように両手を広げている。


今、女神は、ジルとフローラの二人を受け入れようと、手を差し伸べているように見えた。


「神様、私ジルは、仕事が一人前になったらフローラと結婚します。どうかそれまで見守っていてください。」


「神様、私フローラは、ジルが一人前になったらジルと結婚します。どうかそれまで見守っていてください。」


二人は立ち上がり、向かい合って微笑み合った後、そっと唇を重ねた。




ここは、ドルトンが経営する雑貨店の一つ。


店をいくつも持っているドルトンは、実際の経営は雇った店主に任せているが、放任していては金をちょろまかしかねないと、毎日訪問しては睨みを利かせている。


今日も店主にあれやこれやと指示をしていると、ガラの悪そうな男が店に入って来た。


だらしのない崩れた着こなしに、頬に傷があるところを見ると、真っ当な生き方をしているようには見えない。


「旦那。報告に来たぜ。」


ドルトンは、その男に嫌なものを見るような視線を向ける。


「ここではなんだ。裏で話そう。」


店の裏口のドアを開け、ドルトンと男は路地裏に出た。


路地裏は一般の客が通る道ではなく、店の者がたまに通る程度で、人に聞かれたくない話をするには、ちょうど良い。


「命令通り、殺って来たぜ。」


頬に傷のある男が、自慢気に報告をする。


「誰にもばれないように、殺ったんだろうな。」


「もちろんさ。事故に見せかけてやったさ。」


ドルトンは懐から重そうなきんちゃく袋を取り出して、男に渡した。


「毎度ありー」


男は袋の中を覗いてから、満足そうに懐にしまった。


「もう一人、頼みたいヤツがいる。」


「へえ、いま羽振りの良いミッシェル商会のオーナーですかい?」


「いや、ただの鍛冶屋の男だ。」


その言葉に男はピンときた。


「ああ、最近ご執心の女のこれかい?」


男は親指を立ててニヤリと笑う。


「まったく、あれだけ言えば、たいていの女はコロリと騙されるはずなんだが・・・どうも、その男が邪魔なようだ。」


「まったく旦那も物好きだねぇ。」


「欲しいものは必ず手に入れる、それが俺のやり方だ。」


「へいへい。わかりましたよ。ったく、手に入れたってすぐに飽きるくせに・・・」




頬に傷のある男がドルトンの店に来る少し前、フローラは店主に花を届けるように仕事を頼まれた。


ドルトンと食事をしたレストランではなかったのでほっとしたが、ドルトンが経営する雑貨店の並びにあるレストランだ。


どうかドルトン様に会いませんように・・・と祈る気持ちで花束を届けに行った。


「フローラ、この花束はサプライズだとかで、絶対に届けるところを見られたらダメなんだそうだ。だから、必ず裏口から届けるんだよ。」


店主に念押しされていたので、フローラは店が近づくと表通りを通らずに裏路地に回った。


裏路地を歩いていると、バタンと音がして、ドアからドルトンが出てくるのが見えた。


フローラは、慌てて大きなゴミ箱の後ろに身を隠す。


ドルトンが店に入るまで動けないわ。


早く店に入ってくれないかな・・・。


ドルトンの後からもう一人、きちんとした身なりのドルトンとは違い、一緒にいるのが不似合いな服装の男が裏口から出てきた。


男はずいぶんと軽い口調でドルトンと話をしているのだが、その内容にフローラは一瞬叫び声を上げそうになったが、ぐっと我慢して飲み込んだ。


今、声を上げて見つかったら、私も事故に見せかけて殺される!


だが、衝撃的な言葉はそれだけではなかった。


ウソッ、ジルが・・ジルが殺される!


私は騙されていたの?  


あのとき感じた胡散臭さは本当だったんだ・・・。


フローラは、一瞬でも迷ってしまったあの時の自分を殴りたいと思った。


そして一刻も早く、ジルにこのことを伝えなければと焦る。


ドルトンと男の話が終わり、店の中に消えていくと、フローラは急いで花束を届けに行った。


まだ仕事中のジルが、殺されることはない。


花束を届け終わったら、すぐにジルに知らせに行かなければ・・・


ところが、レストランの裏口から店主に花束を渡すと、店主が花の色が違うと言い出した。


「今日のお客さんは、プロポーズをするのに必要だからって、花束を注文したんですよ。お相手の好きなピンクのバラの花束でってお願いしたのに、なんで黄色なんですか。こっちも信用第一なんですからね。もう時間がない。急いでピンクの花束を作り直してきてください。」


ローズは花束を渡したら、その足でジルの職場に行くつもりだったのに、それができなくなってしまった。


急いで店に戻って花束を届ければ、ぎりぎり間に合うかもしれない。


急がなければ・・・


走って店に戻って店主に花束の間違いを告げると、あっさりと間違いを認めた。


「おやまあ、黄色のバラは、明日の別のレストランの注文だったわ。今日はピンクのバラで間違いないよ。」


「時間がないそうです。急いでください。」


フローラは焦る気持ちで店主にお願いし、店主は急いで花束を作ってくれるのだが、待っている時間がとても長く感じられる。


「はいよ。できたよ。早く届けておくれ」


フローラは花束を抱えて足早に移動し、レストランに花束を届け終わると、その足でジルの職場である鍛冶屋に向かう。


もうすぐ仕事が終わる時間だけど、今ならまだ間に合う・・・。


ところが、鍛冶屋に着くと、もう仕事が終わっていて、ジルの先輩が金髪美人の彼女とおしゃべりをしている最中だった。


「ジルはいませんか?」


「ああ、今日は仕事が少し早く終わってね。ジルはもう帰ったよ。」


礼を言うとフローラは慌てて走り出す。


ジルが家に帰る際は、いつも近道だからと公園を横切る。


大きな公園は、表通りから中は見えず、助けを呼んでも外の人の耳には届かない。


この時間になると、公園で遊んでいる子どもたちはほとんどいないはずで、もし殺るのなら、絶好の場所だ。


フローラは不安を抱えて走り続けた。

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