12話 外伝『フローラの心臓1』花屋のフローラ
一旦完結した作品ですが、続きを書くことにしました。
外伝「フローラの心臓」は、ローズとジェフが初めて見に行った演劇の原作で、二人にとって、とても思い出深いお話です。
この原作を元にして書かれた脚本を使い、舞台俳優たちが舞台で熱演を繰り広げる様子を想像しながら読んでいただけたら幸いです。
それから、12話を最終話にしていたときに読んでくださった皆様、ごめんなさい。続きを書くにあたり、12話に書いたエピローグは削除させていただきました。
グローリー侯爵の領地から戻り、旅の疲れもとれた三日後、ローズとジェフは二人で町に買い物に出かけた。
ローズの好きな恋愛小説を買いに行くのが一番の目的だったので、二人はまず本屋に入った。
ずらりと本棚に並んでいる背表紙を見て、ローズは面白そうな題名はないかと、一つ一つの題名に目を通していく。
その中に、『フローラの心臓』を見つけた。
ジェフと初めて見に行ったお芝居の原作本である。
ローズは懐かしさでその本を手に取った。
お芝居を見て、ボロボロ泣いたっけ・・・。
その後に、とっても恐ろしい思いもしたけれど、ジェフが私の心を守ってくれた。
それに、領地に出かけたとき、私はフローラみたいになってしまった・・・。
思い起こせば、ローズにとって、ずいぶんと思い出の多い小説だ。
買おうかな・・・?
そう思っていたら、ジェフがひょいとその本を取り上げた。
「俺が買うよ。ローズは他にも良さそうな本を探せばいい。」
「あ、ありがとう。」
ローズは再度、背表紙に集中する。
ジェフが店主と何やら話しているようだが、ローズの耳には届かない。
最終的に、ローズは恋愛小説を二冊選んで買うことにした。
「ジェフは私の本のお金を払わなくても良いからね。」
ローズが店主に二冊分の代金を払って、買った本を手にすると、「これもどうぞ。」と、ジェフがその本の上に『フローラの心臓』を載せてくれた。
店主にお願いしたようで、本には可愛らしいピンクのリボンが掛けられている。
「俺たちの記念の本だから、ローズにプレゼントするよ。」
ジェフの眩しい笑顔が、プレゼントに付加価値を付ける。
「まあ、ありがとう!」
ローズは、ジェフの瞳の青色も好きだが、ピンク色は子どもの頃からずっと大好きな色である。
ピンクのリボンに触れながら、ジェフはそんなことまで考えてくれたのだと思うと、嬉しさと感動で胸がいっぱいになった。
「重いから、ここからは俺が持つよ。」
ジェフは三冊の本を店主がくれた紙カバンに入れて持つと、もう一方の腕をそっと差し出す。
ローズはその腕に手を回し、幸せいっぱいの思いで店を出たのだった。
買い物が終わって屋敷に戻り、ジェフと別れて一人になると、ローズは早速自分の部屋にこもり、フローラの心臓の表紙をめくった。
芝居を観たときの感動を思い出しながら、ワクワクしながら文字を追い始めた。
『フローラの心臓』
フローラは、十五歳の可愛い少女だ。
いつも栗色の長い髪を二つ括りのお下げにして、緑色の瞳をくるくると輝かせながら、毎日明るく花屋で働いている。
だが彼女の家は貧しく、彼女の働きがないと食べていけない。
母は病気でほとんど寝たきりで、育ち盛りの幼い弟が二人もいる。
家族を養うために、今日もフローラは一人で頑張って働いているのである。
フローラが花屋で仕事をしていると、毎日花を買いに来る青年がいた。
鍛冶屋のジルだ。
ジルはまだ十七歳の鍛冶見習いで、一人前になるのはまだまだ先だ。
少ない給金を握りしめ、二日ごとに花屋にやって来ては、一番安い花を一輪だけ買って帰る。
フローラはいつの間にか、赤茶色の髪と黒い瞳のこの青年が来るのを、心待ちにするようになっていた。
「フローラ、今日も花を一輪買いに来たよ。」
「まあ、ジル、いつもありがとう。」
「俺のところは、男ばかりの職場だろ。花を飾ると雰囲気が明るくなるんだ。フローラみたいに・・・。」
「まあ!」
フローラは恥ずかしくなったが、とても嬉しくて、ジルににっこりと微笑んだ。
ジルはフローラの笑顔が大好きで、嬉しくなってジルも微笑む。
その様子を少し離れた場所で見ている男がいた。
「ほう、なかなか可愛い娘じゃないか・・・。」
商人のドルトンだ。
大きな店を何件も抱えるドルトンは、商人の中でもかなり裕福な生活をしている。
艶のある黒髪と口ひげは、よく手入れをされていて、着ている上等な服を見ても、彼がお金持ちであることは誰にでもわかる。
「花屋の娘さん、私に一番高い花を百本売ってくれないか?」
「ひゃっ、百本ですか?」
目を丸くして驚くフローラであったが、すぐに中年女性の店主がやって来て、ぺこぺことドルトンの機嫌をとり始めた。
「お客様、どうもありがとうございます。すぐに用意させますね。フローラ、早くしなさい。」
「は、はい!」
フローラは慌てて一番高いバラを百本束ね始める。
もう、ジルと話す余裕などなく、一人残されたジルは、一番安い花を一本抱えて、すごすごと店を出るのだった。
ドルトンは、次の日も一番高い花を百本買いに来た。
フローラはバラの花を百本束ね、店主は大喜びで対応する。
三日目にドルトンが買いに来た際、ドルトンは店主に一つ話を持ち掛けた。
「フローラさんを食事に誘いたいのだが、今、仕事を抜けても良いだろうか。お詫びに、今日は一番高い花を二百本買うことにしよう。」
「えっ、二百本でございますか。もちろんようございますよ。フローラ、花を二百本束ねたら、ドルトン様と一緒に食事をしておいで。」
「え・・・、はい・・・。」
あまり気乗りしないフローラであったが、店主の命令となれば、従うしかない。
一番高いバラの花を二百本抱えて、フローラはドルトンの馬車に乗った。
連れて行かれた場所は、町でも最高級のレストランだ。
フローラは、食べたことも見たこともない料理に目を丸くするばかりである。
フローラが店を出てしばらくすると、いつものようにジルが花を買いに来た。
フローラはいなくて、対応したのは中年女性の店主である。
「あんたね、いつもフローラを目当てに来てるんだろうけどね。フローラは、今すっごいお金持ちのお客様がご執心なんだよ。今日も食事に誘われてね。」
その言葉に、ジルは心にグサリと釘を打たれたような気分になった。
「フローラが・・・、お金持ちと・・・?」
もしかして、あの商人か・・・。
二日前に見たが、確かにフローラを気に入っているようだった・・・
「そうだよ、あんたと違って一番高い花を百本も買ってくれるお金持ちなんだ。あんたがフローラの邪魔をしないか心配だよ。」
ジルはガクリと項垂れて、返す言葉もなかった。
「花を買う気がないんだったら、とっととお帰り。商売の邪魔だよ!」
一方、フローラは見た目の美しい料理を食べながら、ドルトンと、ぎこちない会話をしていた。
ドルトンは中年の店主とほぼ同じぐらいの歳に見えるのだが、どうして私のような小娘を食事に誘うのかわからない。
不安を抱えながら食べる料理は、味がよくわからない。
さっきからドルトンは料理の説明をしてくれるのだが、聞いたことのない食材ばかりで返事にも困る有様だ。
いったい何のために、私はここにいるのやら・・・。
ところがドルトンは、食事が終る頃に、本題を話し始める。
「フローラさん、あなたのお母さんは病気で寝込んでいるそうですね。弟も二人いて、あなたが家族みんなの面倒をみているとか・・・。私はあなたが気に入りました。あなたのお世話を私にさせてくれませんか?」
いきなりの申し出に、フローラは料理が喉に詰まりそうになる。
「あ、あの・・・、お世話と言うのは・・・?」
「もちろん、あなたのお母さんと弟も含めてです。そしてあなたの全ても・・・」
「す、す、すべて?」
驚くフローラを気にもかけず、ドルトンはニヤリと笑みを浮かべる。
「そうです。私の言う意味がわかりますか?」




