110話 外伝『転生極悪令嬢メリッサの場合10』結婚式
「フィオナ、今日も綺麗だ。愛してる。」
愛の言葉の後に、レオナルドはフィオナの唇にチュッとキスをする。
レオナルドはフィオナのことが愛おしくてたまらない。
そんなレオナルドのことを、フィオナも可愛いと思うのだ。
「フィオナ、新聞に兄上の婚約のことが大きく報じられているけど、読んだ?」
「ええ。読みましたわ。」
「それにしても、アデル嬢がノースロップの王女だったなんて、まったく想像もしていなかったよ。だから、僕は彼女に酷いことを言ってしまったんだ。」
「まあ、どのような?」
「うーん、兄上をそんな風に気安く呼ぶなとか、兄上はあなたが関わることなんてできない人だとか・・・、ともかく僕は彼女と兄上の結婚を認めたくなかったんだ。」
「それは、知らなかったのだから、仕方がないことだと思いますよ。」
「フィオナは本当に優しいね。まあ、そんなわけだから、男爵令嬢だと思っていたのに、本当は隣国の王女様だとわかって、とっても嬉しかったんだ。ああ、これで兄上と対等な身分で結婚できるんだって思うと、ほっとしたよ。今度会ったら謝ろうと思って・・・って・・・? フィオナ?」
レオナルドは、フィオナの表情が急変したのを見て驚いた。
天使のように優しい笑みを浮かべて話していたのに、レオナルドが話している最中に真っ青になったのだ。
「フィオナ? いったいどうしたの?」
「い、今・・・、何て?」
「えっ?今度会ったら謝ろうと・・・」
「違う、その前!」
「その前って・・・、隣国の王女様だとわかってとっても嬉しかった・・・」
「その後!」
「結婚できるんだって思うと、ほっとしたって言ったけど?」
フィオナは青くなって、ブツブツと何かつぶやいている。
だがその声は小さくて、レオナルドには何を言ってるのかよくわからない。
「い、今のセリフ・・・、ス、スザンヌの・・・。あの時、スザンヌは言ってたわ。男爵令嬢だと思っていたのに、本当は隣国の王女様だとわかって、とっても嬉しかったって。これで王子様と結婚できるんだって思うと、ほっとしたわって・・・。」
あのとき感じた微かな違和感・・・
まるで他人事を話しているような口ぶり・・・
そう、今のレオみたいに・・・
聞いた瞬間感情が高ぶって、冷静に考えられなくなったけれど・・・
よく考えてみたらおかしいわ。
あの時、一緒に話していたのはローズ。
オルソンのようなクズ男に弄ばれる愚かで夢見がちな女。
確かローズは恋愛小説が趣味だと、噂で聞いたことがある・・・。
もしも、もしも・・・、あの二人が話していたのが、『あなたの腕の中で』の感想だったら・・・?
冷静に考えれば、十分に考えられることよ。
そもそも、あのような極秘事項を、誰に聞かれるかもわからないテラスで話すこと自体がおかしかったのよ。
もしかして・・・、私・・・、大きな、とても大きな勘違いをしていた?
「フィオナ、いったいさっきからどうしたんだ? 具合でも悪いのか?」
青くなりガクガクと震えだしたフィオナにレオナルドは声をかけるのだが、フィオナにはまるで聞こえていないかのようだった。
どうしよう・・・私は、とんでもないことをしてしまった・・・?
しばらく呆然としていたフィオナであったが、しきりに声をかけてくるレオナルドの存在にようやく気が付いた。
「ああ、レオ、ごめんなさい。少し気分が悪くなって・・・一人になりたいの。帰ってくれる?」
レオナルドが渋々部屋を出てから、フィオナは再度頭の中を整理した。
メリッサはスザンヌが王女だと思い込んで、フランツと父親をけしかけてしまったわ。
だけど、もしも、スザンヌが王女ではなかったら?
ううん、違うわ。
王女でなくても、きっとメリッサは、同じことをしたはずよ。
アーサーが自分に振り向かないことを恨んで・・・。
メリッサは結局、どう転んでも、未来の王妃にはなれず、あの恐ろしい最後を迎えたのだわ。
欲に溺れた結果は変わらない・・・。
でも、今世は違う。
欲に溺れず、他人の幸せを願い続けてきたから今があるのよ。
メリッサが切望した王妃にはなれないけれど、王妃の次の地位になれるのよ。
でも・・・、もし、もしも・・・エドワードの身に何か起これば・・・
そのとき私は、王妃になる・・・。
メリッサが切望してやまなかった王妃に・・・。
ここまで考えて、フィオナはハッと我に返った。
神様、今考えたこと、欲に溺れていることにはなりませんよね。
ただ考えただけで、何もしていませんから・・・。
そうだわ。
さっきレオは、今度あったら謝りたいって言ってたわ。
そのとき私は、アデルの幸せを願いましょう。
アデルの幸せを願えば、私はもう一段上の幸せを掴むことができるかもしれないから・・・。
アデルとエドワードの結婚式の日になった。
結婚式、パレードと慌ただしく進み、残すところ、最後の披露宴だけである。
アデルはずっとノースロップ王国で王太子妃教育を受けていたのでフィオナと会うことはなく、本日、やっと話ができる機会を迎えた。
宴会用にめかし込んだレオナルドと、青いドレスで美しく着飾ったフィオナが二人でいると、とても見目麗しく、皆がお似合いの婚約者だと囁いている。
「フィオナ、宴会場ではゆっくり話すことができないから、控室にいる今がチャンスだと思う。」
「そうね。あなたはアデルに謝りたいって言ってたものね。」
「ああ、一緒に行ってくれるね。」
「もちろんよ。」
レオナルドは控室のドアをノックした。
「兄上、僕です。レオナルドです。」
「ああ、レオか。入っていいぞ。」
控室の中には、披露宴用の金色の刺繍が入った白いドレスに着替えたアデルと、水色のアクセントをあしらった白いスーツに着替えたエドワードがいた。
結婚式の純白のドレスも美しかったが、披露宴のドレスも豪華で王太子妃に相応しいものだと思う。
「兄上、義姉上、本日はおめでとうございます。今日は義姉上に祝福と謝罪をしに来たのです。」
言い終ると、レオナルドは真摯な瞳でアデルを見つめた。
「義姉上、あの時は本当に失礼なことを言ってしまい、申し訳ありませんでした。」
そして深く頭を下げた。
アデルは思い出す。
レオナルドに深く傷つけられたあの日を・・・。
レオナルドはアデルを誘惑しようとし、困っているところを助けに来たエドワードが見ている前で、アデルを激しい口調で侮辱したのだ。
アデルにはそれが真実だと思えた。
だからエドワードと別れることを本気で考えたのだ。
だが、レオナルドはその日のことを反省し、頭を下げてくれた。
これだけで、レオナルドの思いはアデルに十分に伝わった。
「レオナルド様、どうぞ頭をお上げください。私は怒っていませんから。謝罪は受け入れましたから、もうそのことは忘れてください。」
「ありがとうございます。」
頭を上げると、レオナルドはにっこり微笑み、隣にいるフィオナを紹介する。
「義姉上のお陰で、僕は愛するフィオナと婚約することができました。このお礼も伝えたかったのです。こちらが僕の婚約者であるフィオナ・ラードナー侯爵令嬢です。」
「ええ。存じ上げております。フィオナ様とは、一度病院でお会いしましたね。」
「まあ、覚えていてくださったのですね。」
「はい。」
フィオナは病院でアデルの世話になった際、手を握り涙を零しながらこう言った。
-私は、あなたの幸せを願っています- と・・・。
アデルの幸せを願うこと、それは神様との約束・・・。
だから私は幸せになれた。
神様、私はもっとアデルの幸せを願います。だから・・・。
「私の気持ちはあの時と少しも変わっておりませんわ。今もあなたの幸せを願っています。どうぞ末永くお幸せになってくださいませ。」
二人の会話をレオナルドは満足そうに聞いていた。
「フィオナは本当に心が清く優しい人なのです。僕は、そんなフィオナと婚約ができて心から喜びを噛み締めています。兄上、今の僕なら、愛する人と一緒になれることが、どんなに幸せなことなのかわかります。」
エドワードは可愛い弟に優しく微笑んだ。
「ああ、そうだな。お互いに愛する人と一緒に幸せになろう。」
「殿下、そろそろお時間です。」
ドアの外で護衛をしていたフレッドの声がした。
四人は人々が待つ披露宴会場に向かうのだった。
神様、私、ちゃーんとアデルの幸せを願いましたよ。だから・・・お・ね・が・い・しますね。ふふっ
「フィオナ、なんだかとっても嬉しそうだね。」
「ええ、私たちの未来を想像していたのですわ。」
「そうだね。僕たちも幸せになろうね。」
「ええ、もちろんですわ。」
レオナルドはフィオナの腰をぐいと引き寄せて、彼女の頬にチュッとキスをする。
フィオナは頬にキスをされながらも、不敵な笑みを浮かべて、王太子妃になったアデルをじっと見つめるのだった。
『外伝 転生極悪令嬢メリッサの場合』いかがだったでしょうか? 行動もセリフもほぼ同じですが、天使のような本来のフィオナと、最後には腹黒メリッサが顔を出し、ちょっと心配になってしまうメリッサフィオナ、二人の違いを楽しんでいただけたら幸いです。
生まれ変わって改心?したメリッサに、この先も幸あれと祈ります。
本編も外伝も読んでいただきまして、誠にありがとうございました。




