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愛しの侯爵様は、究極の尽くし型ロボットでした  作者: 矢間カオル


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11話 ローズの心臓

アロンは、グローリー侯爵、ジェフ、ローズの前に暖かいお茶を差し出した。


湯気と共に鼻に届く香りは少し甘い。


「使用人も妻もいないので、私が入れましたが、お口に合うと良いのですが・・・」


アロンは、にこやかな笑顔でお茶をすすめる。


「このお茶は?」


ジェフが尋ねた。


「南の国でとれるお茶で、少し甘いですが、とても疲れに効くのですよ。」


ジェフは目でお茶の成分を分析すると、お茶以外の不純物を発見した。


「お父さん、ローズ、飲まないで。」


今まさにカップに口を付けようとしていた二人は、ジェフの声にピタリと止まる。


ジェフはお茶を少し口に含み、舌で成分を分析する。


「このお茶には、毒が混ざっています。」


「な、何を言うのです。毒なんて入ってませんよ。ジェフリーも飲んだのに何も起こってないじゃないですか。」


アロンは怒りを露わにジェフを批難する。


「私は少量を口に含み分析しただけです。これぐらいなら死に至りませんが、カップ一杯飲めば致死量を超えますね。」


その言葉に、侯爵が激怒した。


「何じゃと、アロン、いったいお前は何をした。」


「いやいやいや、何もしていませんよ。」


アロンはしらを切ろうとするが、ジェフはアロンを逃さない。


「言い逃れをしても無駄です。このお茶は十分な証拠となるでしょう。今からあなたを警察に連れて行きます。」


「なんだと!」


アロンの目つきが一瞬で変わった。


「毒がダメなら、次はこれだ!」


アロンは隠し持っていたナイフを振り上げて、ジェフに襲い掛かった。


ジェフは瞬時に緊急事態モードにチェンジした。


―電撃ビーム発・・・―


「ジェフ!」


発射できなかった。


隣に座っていたローズが、動かないジェフを庇って目の前に立ちはだかったのだ。


アロンのナイフは、ジェフを庇ったローズの胸にぐさりと刺さった。


「ローズ!」


次にアロンは、グローリー侯爵に向かってナイフを振り上げた。


―電撃ビーム発射―


「ウウッ・・・」


電撃ビームはアロンの心臓を射抜き、ナイフが侯爵に届く前に、アロンは胸を押さえて倒れ、動かなくなった。


ローズはジェフの腕の中で、胸からドクドクと血を流している。


「ローズ、ローズ、今治療してあげるから。」


ジェフは救命モードにチェンジし、指から淡い光を出して傷口に当てた。


淡い光は消毒と止血をするのだが、傷は深く、すぐに血は止まらない。


「ローズ、もう少しの辛抱だ。それまで我慢して。」


「・・・ジェフ、わ、私、フローラみたいに・・・愛する人を・・守れた・よね。」


息も絶え絶えに、ローズが声にならない声でジェフに話しかける。


ローズと一緒に初めて見た演劇『フローラの心臓』、あの劇ではフローラは愛する人を庇って胸を刺されて死んだ。


「ローズ、死ぬんじゃない。絶対に死んではいけない。」


ジェフの目から涙があふれ、頬を伝い零れ落ちた。


ぽたぽたと零れ落ちる涙は止まらない。


「・・・ジェフ、・・泣いているのね。・・・あなたの涙、・・初めて・・見た・わ。」


「えっ、涙だって? そんなはずは・・・」


ジェフは否定しようとしたが、自分の目から涙が零れている事実に気づく。


俺が泣いている? なぜ?


ジェフは治療を続けながら、己のバグを解析し始めた。


今までのデータが次々に現れる。


―感動の涙・・・不安の涙・・・幸せの涙・・・悔しさの涙・・・悲しみの涙・・・愛している涙・・・解析完了・愛している涙!!!―


「ああ、わかった、俺の気持ちが・・・。この涙は愛しているから。ローズを愛しているから、涙が零れるんだ・・・。俺は、俺は、ローズを愛しているんだ!!」


「・・・ジェフ・・・嬉しい。やっと・・あなたの本当の気持ちを・・聞けたような・・気がする・・・。」


ローズはそれ以上話すことができなくなり、目を閉じた。


「ローズ、死ぬな、お願いだから死なないでくれ。俺はお前を愛している!」


ジェフは泣きながら、ぐったりと動かなくなったローズに治療を続けた。


時間はかかったが、ジェフの治療のお陰で流れ出る血は止まり、傷口が塞ぎ始めた。


ジェフの指から出る淡い光は、ナイフで刺された傷口を徐々に塞ぎ、最後は完全に塞がった。


幸いなことにナイフが刺さった場所は心臓から少し外れていた。


ローズはギリギリのところで一命をとりとめたのだった。


だが、ローズの傷口が塞がったとはいえ、あくまでも応急処置だ。


いつまた傷が開くとも限らない。


医者をすぐに呼び、ローズに必要な薬を用意させ、傷が開かぬように包帯を巻いてもらった。


アロンに関しては、死因を判定してもらったが、急な心臓麻痺と診断がくだされた。


アロンはここにいる三人、いや御者も含めると四人の殺害を計画していた。


犯行を隠すために家族と使用人を屋敷から追い出し、毒入りのお茶の現物まであるのだから証拠は十分で、さらに、アロンが手紙に書いていた織物業責任者の不正疑惑は、ジェフたちを呼ぶためのウソであることも判明した。


警察に訴えれば、殺人未遂の罪が確定するだろう。


だが侯爵は、何も知らない夫人や子どもたちを、罪人の妻と息子にしてしまうのは忍びないと思った。


罪は問わずに、ただ心臓麻痺で死んだとだけ伝えることにした。


どこに旅行に行ったのかわからず連絡がとれずじまいであったが、ちょうど葬儀の最中に皆が帰ってきた。


夫の父の変わり果てた姿に、妻も息子二人も声を上げて泣いていた。


息子たちは、こんなことならもっと優しくしてあげたら良かったと、アロンに話しかけながら泣いていた。


もし、真実を知ってしまったら、父のことを軽蔑していたかもしれない。


黙っていて正解だったと、侯爵は人知れず思うのだった。




ローズの傷口が完全に治るまで、一ケ月間領地に滞在することになった。


一ケ月の間、ジェフは、領地を視察し、現状把握と改善点をまとめあげ、アロンの妻と子どもたちに伝えた。


正しい賃金を渡すことと、病人に対するケアについても話した。


侯爵が、彼らに領地の管理を任せることにしたからだ。


本来なら、領主を殺害しようとしたアロンの家族は領地から追い出すべきなのだが、真実を知らせぬ今は、彼らに任せることが自然の流れであり、また、何も知らない家族を路頭に迷わせるようなことはしたくなかった。




一ケ月後、ローズが完全に回復したことを確認すると、三人は王都の屋敷に戻った。


それからは、またいつもの日常が戻り、ジェフは相変わらず午前中は仕事、仕事が終われば遅くなっても必ずローズに会いに行く。


誰から見ても変わらぬ日常であったが、ローズは、あの旅行を境に、ジェフが変わったように思う。


上手く言葉では言い表せないのだが、ジェフの感情が少し豊かになったように思うのである。


感情、それは物事に感じて起こる心持ち、気分であり、喜怒哀楽などの気持ちである。


学習能力の高いジェフは、あの日を境に愛するという感情を理解した。


実はそれまでにも、感情の片鱗はふとした拍子に現れていたのだが、ジェフの中でそれは原因不明のバグとして認識されていた。


しかし、一つの感情を理解してからは、原因不明のバグにも意味が備わっていることを理解し始めた。まだまだ、学習の成長過程であるが、少しずつ、ジェフの感情は進化しつつある。


ローズはジェフの変化を敏感に察知し、ジェフのローズに対する言葉は、本当の気持ちからくる言葉であると安心して思えるようになった。


もう一人変わったと言えば、領地から帰って来てから、グローリー侯爵がやたらと信心深くなった。


神殿に何度も祈りを捧げに行き、多額の寄付金も惜しまない。


侯爵は、腹心の執事だけに自分の胸のうちを明かした。


「フランボア、私は、もしかしたらジェフがジェフリーの生まれ変わりではないかと思っていたのだが、今回の旅行で確信を得たのじゃ。神様が、本当にジェフリーを生まれ変わらせてくれたのじゃ。私が毒を飲みそうになったとき、アロンが私を殺そうとしたとき、ジェフの不思議な力で助けられたのじゃ。それにの。ローズが死にかけたとき、ジェフの指から聖なる光が現れて、ローズの傷口を塞いだのじゃ。私ははっきり見たのじゃよ。神様の奇跡を。神様はきっとジェフリーのことを哀れに思い、この世に生まれ変わらせてくれたのじゃ。そして、あの子が生きている間にできなかったことを、今させてくれているのじゃろう。」


この後、侯爵は、庭の一画に神を称える石碑と、グローリー家の霊を弔う慰霊碑を建立し、自分が死んだら、必ず慰霊碑の隣に埋めてくれるように遺言を残した。




領地から戻って一ケ月が過ぎた頃、グローリー侯爵に、国王陛下から手紙が届いた。


おや、珍しいこともあるものだと侯爵が手紙を読めば・・・、


侯爵に会いたいから、是非とも王宮に足を運んで欲しいと書かれていた。


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