108話 外伝『あなたの腕の中で8』フィオナの望み
「えっ?」
レオナルドは、フィオナの的確な指摘に、驚きの声を上げてしまった。
レオナルドがここへ来た目的は、エドワードは婚約破棄を望んでいるが、フィオナ自身はどう思っているのか確認することだったのである。
アデルと出会ったエドワードはアデルと恋に落ち、フィオナとの婚約を解消してアデルと結婚すると言い出した。
しかしレオナルドは、エドワードに相応しい結婚相手はフィオナだと思っている。
だから、フィオナの気持ちを確認しに来たのだ。
「申し上げにくいことなのですが、あなたの言う通りなのです。兄上に変わって僕が謝罪いたします。」
レオナルドは深々と頭を下げた。
その姿を、フィオナは黙って見ていた。
「あなたが正直に話してくれたので、私も正直にお話ししましょう。」
フィオナは真剣な眼差しでレオナルドを見つめた。
「婚姻を望んでいるのかという問いに関しては、私たちは政略結婚なのですから、お互いの意志など関係ございません。ただ、殿下が望まないのであれば、私はそれに従うつもりでした。」
エドワードの恋を邪魔して、欲深い悪女と思われては困るのよ。
「つまり、兄上の気持ちを尊重すると・・・?」
「そうです。私は殿下の幸せを願っているのです。」
神様と約束したのよ。エドワードの幸せも願うって・・・。
「兄上の幸せ? あなたは兄上と一緒に幸せになりたいとは思わなかったのですか?」
思わないわ。だって、二十歳になればアデルが現れるって知ってたもの・・・。
「私たちの婚約は本人の意志など関係なく結ばれたもの。いつかは、殿下に本当に愛する人が現れるのではないかと思っておりました。そのときは潔く身を引こうと考えていたのです。」
「そ、そんな・・・、あなたの気持ちはそれで良いのですか? 長い間、王太子妃になることを思い描いていたのではないのですか?」
王太子妃? 何故そんなことをあなたは思っていたの?
ああ、そうだわ。図書館で読んでいた本を、あなたは知っていた。
だから・・・。
「おそらく、私が読んでいた本からそうお考えになったのだと思いますが、私には、実は夢がございます。」
「夢?」
「私が愛する領地の民の幸せを願うこと。図書館で読んでいた本は、国のためではなく領地をよくするために読んでいた本だったのです。」
「領地・・・?」
「ええ。我が侯爵家の領地は、自然も、そこに暮らす人々も、とても素晴らしく、私にとってかけがえのないものなのです。ですが、数年ごとに災害に見舞われるのです。」
フィオナは自身が七歳の年に体験した怖ろしい災害について語った。
その光景が忘れられず、今でも時々悪夢にうなされることがあることも・・・。
フィオナはさらに話を続ける。
「領地が災害に見舞われるたびに立て直すのですが、もっと効率よくできないか? 民のためにできることは何なのか? と、ずっと考えておりました。領地は兄が継ぎますが、私も領民のために兄を補佐したいと思っているのです。」
だから私は一生懸命勉強したわ。その成果も少しずつ現れている・・・。
「あなたはその知識を国のために使いたいとは思わないのですか? 王妃になれば女性の最高の地位に就けるのですよ。」
王妃の地位? メリッサはそれを切望し、結局、欲に溺れて身を滅ぼしたのよ。
私が王妃の地位を望めば、アデルを蹴落とすことになる。
そしてそれは、おそらく、私の不幸を招くことになる・・・。
「私は最高の地位など望んでおりません。私が望んでいるのは、王妃の身分に縛られることなく、私の心の赴くままに人々の幸せを願うことであり、それに尽力すること。それこそが私の幸せにつながると信じています。」
「ああ、あなたはなんと・・・、なんと欲のない人なのだ・・・。」
その言葉を聞いて、フィオナは喜びで胸が躍った。
欲のない人、それは欲に溺れることとは正反対の言葉だ。
レオナルドは私を欲のない人だと言ってくれた・・・。
う、嬉しい・・・。
もしかしたら、レオナルドとなら幸せになれるかもしれない・・・。
一人、頭の中でぐるぐると思いを巡らせていると、レオナルドがさらに真剣なまなざしをフィオナに向けて来た。
「フィオナ嬢、あなたは兄上があなたとの婚姻を望まないのであれば、それに従うと仰いました。そうなれば、あなたは自由の身だ。だったら、私があなたに結婚を申し込んでも問題ないということですね。」
「えっ? そ、それはどういう・・・?」
レオナルドはフィオナの前に跪き、彼女の手をとって、熱い眼差しで見つめた。
「フィオナ嬢、どうか私と結婚してください。図書館でお会いしたときから、ずっとずっと、あなたをお慕いしておりました。」
フィオナは驚いた顔で、手を握られたまま呆然としてしまった。
私とレオナルドが・・・、け、け、結婚?




