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愛しの侯爵様は、究極の尽くし型ロボットでした  作者: 矢間カオル


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106話 外伝『転生極悪令嬢メリッサの場合6』病院にて

レオナルドが自分をお茶に誘うとは思っていなかったフィオナは、その笑顔に心臓が飛び出しそうになった。


気が合うかも・・・なんて考えたことが、顔に出たの?


メリッサだったら、喜んでお受けしたわ。


王族が私を誘うのは当然よ!なんて・・・


でも、私はメリッサじゃない、フィオナなのよ。


欲に溺れないと決めたのよ。


欲に繋がりそうなことは、私からお断りしなくては・・・


「ごめんなさい。せっかくお誘いいただいたのですが、私、個人的なお誘いはお断りしておりますの。」


レオナルドは一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに平静を取り戻し「そうですか? お心を煩わせてしまって申し訳ございません。」と丁重に謝罪した。




この一件があってから、フィオナはレオナルドの顔を見るたびに、少しソワソワしてしまうのだが、自分から話しかけることはしなかったし、レオナルドから話しかけられることもなかった。


お茶ぐらいなら、ご一緒しても良かったかも・・・


これがフィオナの本音であったのだが、今さらそれを言い出す気にはなれず、欲に溺れないためには、これで良かったのだと自分に言い聞かせていた。




それからも、何も変わりなく図書館での時間は過ぎて行った。


読書に疲れたら、目の保養にレオナルドをこっそり盗み見る。


それがフィオナの日常であった。


時折り、レオナルドをお茶に誘う令嬢の姿を見かけたが、「ごめんね。今僕は読書中なんだ。」と、あの魅惑的な笑顔でバッサリと切っていた。


しつこく誘ってくる令嬢には、別の言葉をかけているようだったが、皆、青くなって逃げるように去って行った。


そんな令嬢たちを見ていると、フィオナからお茶を誘わなくて良かったと思う。


欲を出してバッサリと切られたら、それが不幸の始まりのような気がする・・・。




フィオナのアカデミーの二年間はあっという間に過ぎ、とうとう卒業を迎える時が来た。


この二年間は、とても平和に過ごした。


欲に溺れることもなく、領民の幸せを願って日々勉強に勤しんだ。


最後に良い思い出もできた。


卒業式の前日に、最後の図書館だと思って行ってみたら、そこにレオナルドが待っていた。


「図書館の友であるあなたに、この花束を捧げます。卒業おめでとう。」


そう言って花束をくれたのだ。


「まあ、ありがとう。」


たったこれだけの会話であったが、フィオナの心には、花の香りとともに温かい風が吹き込んだようであった。


お茶の誘いを断ってから、レオナルドと交わした会話は「今日は良いお天気ですね。」「ええ、気持ちの良い天気ですね。」当たり障りのない短い会話だけ。


そんな彼が、最後に花束を自分のために用意してくれたことが、とても嬉しかった。




アカデミーを卒業してから、フィオナは勉強したことを活かしたくて、ラードナー侯爵領の経済活性化に着手した。


日々、ラードナー侯爵には、領地からいろいろな報告書が送られてくる。


それを見せてもらって、改善点があれば進言することにしていた。


領民の幸せに繋がることを願って・・・。




フィオナは十八歳になった。


アデルも何月生まれかは知らないが、十八歳を迎える年になったのだ。


この一年で、きっと運命が動くはず。


だが、『あなたの腕の中で』の結末を知らないフィオナは、いったい運命がどう動くのかわからない。


王家から婚約破棄の報告はまだ受けていない。


エドワードが、アデルと出会ったのかどうかもわからない。


今まで欲に溺れることもなく、領民の幸せを願って生きて来た。


エドワードとも関わらないようにしてきたのだ。


きっと、最悪の事態は回避できるはず・・・。


だったら、そっとアデルを見に行くぐらいなら、問題ないのではないだろうか・・・?


そんな思いが、フィオナの心に宿った。


「ねえ、ルリア、私、お買い物に行きたいのだけれど・・・」


専属侍女のルリアは、不思議そうな顔をした。


「お嬢様、お買い物なら商人をこのお屋敷に呼べば良いではありませんか。」


うーん、それじゃあ、アデルに会えない・・・


「あのね、私は経済学を学んだでしょ。実際に商品が流通する現場を見てみたいのよ。」


「はあ、私には難しいことはよくわかりませんが、お嬢様がそうおっしゃるのなら、旦那様に私からお話いたします。」


「ルリア、ありがとう。それから、行くときは馬車じゃなくて、歩いて行きたいの。人々の買い物する様子も見たいし、それに王都の商店街は歩いて行ける距離だもの。」


高位貴族は、ほんの少しの距離でも馬車を使うことが多い。


だが、それでは、病院の前を素通りしてしまう。


だからフィオナは、あえて徒歩を選んだ。


「まあ、さようでございますか。それでは、私と一緒に歩いて行きましょう。」


ルリアは、たいていの我儘を聞いてくれる。


それがとても嬉しいのだが、嘘をついてしまっていることに、ちょっぴり心が痛んだ。




翌日、フィオナはルリアと二人で買い物に出かけた。


地図で調べたので、病院の位置は把握している。


病院の近くを通る際、頭痛がすると言って、病院の中に入るつもりである。


そうすれば、自然な形でアデルに会えるだろう。


アデルと少し話をしたら、それで満足して帰ろう。


フィオナが病院のそばまで来たときに、病院から老婆と若い女医が出てきた。


女医は老婆を見送るために出てきたようで、手を振り見送っていたのだが・・・


フィオナは女医のピンクゴールドの髪と水色の瞳を見た瞬間、激しい動悸に襲われた。


ドクンドクンと心臓が強く脈打ち、身体全身が熱くなった。


ス、スザンヌ・・・スザンヌが、どうしてここに? 


ガクガクと身体が震え出した。


あ、熱い、寒い、く、苦しい・・・、息ができない・・・ 


フィオナは立っていることができなくなり、胸を押さえてしゃがみ込んでしまった。


「キャー、お嬢様!」


ルリアの叫び声が耳に響いた。


「お、お嬢様、だ、だ、大丈夫ですか?」


ルリアはどうして良いのかわからずオロオロしている。


そこへ女医が走って来た。


「私は医者です。どうぞ、病院の中にお入りください。」


ああ、あなたはスザンヌ・・・じゃない・・・、アデル・・・なのね・・・


「ど、どうも・・・すみません。」


やっとのことで、それだけ言うと、フィオナの意識は途切れた・・・。




気が付くと、フィオナは暗くじめじめした牢獄の中にいた。


臭い便壺と薄い毛布一枚しかない、あの最悪な環境の牢獄・・・。


身体はガクガクと震えているのに、全身が燃えるように熱い。


息ができず、苦しくてたまらない。


私はどうしてここにいるの? 


私は侯爵令嬢のフィオナに生まれ変わったんじゃなかったの? 


今までの幸せは夢だったの? 


これが現実なの? 


欲に溺れず、他人の幸せを願ってきたのに、それでは足りなかったの? 


神様、私はこんな場所で惨めに死にたくない。


お願いです。元に戻して! 


フィオナの願いも虚しく、何も変わらず苦しさだけがフィオナを襲う。


く、苦しい・・・、息が・・・息が、できない・・・


ああ神様、これからも欲に溺れないと誓います。


領民の幸せを願うだけでは足りないのなら、エドワードの幸せも願います。


アデルの幸せだって願います。


だからだから・・・どうか、私をもとに戻して・・・


フィオナはそのまま意識を失った・・・。


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