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愛しの侯爵様は、究極の尽くし型ロボットでした  作者: 矢間カオル


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10話 二日目の宿泊

ジェフに対する疑問はふくれあがり、ローズはその疑問を無視することができなくなってしまった。


ジェフは、今までずっと友達もいなくて誰とも付き合ったこともなくて、とっても寂しい思いをしていたはず。


だから、寂しさを埋めるために私のことを大切にしてくれて、私に合わせてくれているのかもしれない。


もしかしたら、私を傷つけないように、無理をしているのかも・・・。


疑問を確かめたくて、ローズは自分から愛していると言わないことに決めた。


言いたくなっても我慢する。


言いたいとさえ思わないようにする。


難しいけど、ジェフの本心を知りたいもの・・・。




馬車の中でも、外に出て休憩しているときも、ローズは愛してるだとか好きだとか、そんな言葉を使わないように、思わないように努めた。


そうすると、ジェフもまったく愛の言葉を言ってくれなくなった。


他の言葉はいつも通りにとても優しくて、一緒にいて心地よいのだけれど、愛の言葉は二人の間で交わされなくなってしまった。




その夜、昨日と同レベルの格式高いホテルに泊まった。


昨夜と同じで、一番良い部屋に夫妻として予約されている。


夕食後、昨日と同じようにお風呂に入ることになったのだが、今日は一緒に入ってもいいのでは・・・とローズは思う。


昨夜は、きっとジェフが自分の貧弱な裸を見られるのがイヤなのだろうと勝手に思い込んでいたのだが、実際は想像していたのとは違った。


筋骨隆々とまではいかなくても、モデルのように美しい骨格と、均整のとれた筋肉の付き方をしていた。


それに、既にお互いの裸を見せ合った仲だ。


だったら、誘ってもいいのかも・・・。


「ね、ねえ、ジェフ。今日は・・・その・・一緒にお風呂に入らない?」


ローズは恥ずかしさを我慢して、思い切って言ってみたのだが、ジェフは平然と答える。


「ローズが望むのなら一緒に入ろう。」


えっ? そんなに簡単に答えるの?


かくして二人は一緒に風呂に入ったのだが、ローズは昨夜のことがあったので、風呂の中でどんなことをされるのだろうと、ドキドキしながらワクワクしていた。


この美しい体で抱きしめられるのかしら・・・。


「ローズ、後ろを向いて。」


「は、はい。」


キャッ、何されるの?バックハグ?


「背中を流してあげるよ。」


そう言うと、ジェフはせっせとローズの背中をスポンジでこすり始めた。


まるでプロに頼んだようなこすり方で、とても気持ちが良い・・・身も心もほぐれるような気持ち良さなのだが・・・、それだけだった。


「終ったよ。」


「へっ?」


ホントに背中を流すだけだった。


風呂から出ると、ローズは気持ちを取り直して、大きなベッドにちょこんと座る。


昨夜は闘技場のように感じたベッドであったが、今夜は期待に胸を膨らませる夢舞台のようだ。


ローズの隣に座るジェフ。


昨日の情熱的な夜を思い出すと自然に顔が火照る。


今夜もあんな風に愛して欲しい・・・


ローズは熱く潤んだ瞳でジェフを見つめた。


「ローズ、愛しているよ。」


しまった!愛して欲しいって思ってしまったわ。


今日は考えないようにしていたのに・・・。


ローズが冷静に物事を考えられたのはここまでで、この後は激しい愛欲の渦に巻き込まれてしまった。


ジェフはローズの表情を感知し、瞬時に性行為モードにチェンジしたのだ。


しかも昨夜のローズの息遣い、心拍数、喘ぎ声、身体の反応など、全てのデータが入力されており、昨夜以上の甘美な刺激をローズに与えることができるのだ。


昨夜が快楽の沼にはまったと表現するのなら、今夜は甘美な快楽の嵐の中に投げ込まれたような感覚だった。


身体全身に痺れるような快感が駆け抜ける。


それが何度も何度も押し寄せてくる。


「ジェフ、ジェフ、私・・・もう・・・だめぇ・・・」


何度目かの頂点を迎えた後、ローズは意識を失って深い眠りについた。


その顔は、心も身体も満たされた幸せな寝顔であった。




翌朝、また馬車に乗って侯爵領に向かったが、ローズはジェフに疑問を抱くのは止めることにした。


二回の行為でわかったことだが、ジェフは己の欲求を満たすためだけの行為ではなかった。


あくまでも、ローズの満足を優先してくれる。


それは、行為だけのことではない。


今までも、ずっとそうだった。


いつもローズが優先されるのだ。


心だけじゃなく、身体にだってあんなに尽くしてくれるのだから、たとえそれが寂しさから来る気持ちだったとしても、別にそれでもいいじゃない。


私はジェフを心から愛していて、ジェフもそれに応えてくれている。


それで十分に幸せだわ。


ローズはそんなことを思いながら馬車に揺られていた。




「ここからが、私の領地じゃよ。」


林を抜けると、広大な農園風景が広がっていた。


領地の収入源は多岐にわたるが、小麦の生産が最も多い収入源である。


今通っている道は農村部であり、小麦の他に野菜や果樹も植えられている。


馬車の窓から、働いている農夫の姿が見えた。


「馬車を止めてください。農家の方と話をしてきます。」


ジェフは馬車から降りて農夫と話をしていたが、すぐ近くにあるその人の家の中に入っていった。


しばらくすると、馬車に戻って来て侯爵に報告をする。


「お父さん、農家の方の健康状態が良くないようだったので、話しを聞きに行ったのですが、どうやら賃金が正しく支払われていないようです。報告書の内容よりかなり低い賃金でした。他の農家の人にも話を聞く必要があるでしょう。それから、家の中に病人がいましたが、医者に診てもらう金がないそうです。」


「何じゃと。アロンは何をしておるのじゃ。それに百姓に金がない場合は医者や薬の代金を立て替えてやるようにと、いつも言っておるのじゃが。」


他の農家を訪ねても、ほぼ答えは同じだった。


報告書に書かれていた金額よりも、受け取った賃金ははるかに安い。


「お父さん、このままでは、農家の方の労働意欲、及び労働力の低下、並びに労働人口の減少が危ぶまれます。結果的に生産量が減少し収入減につながるでしょう。早急に改善しなければなりません。」


「ああ、その通りだ。アロンに話をしなければ。」




馬車はその日の夕方、アロンの屋敷に着いた。


「お兄さん、ジェフ、それから婚約者殿。ようこそおいでくださいました。さあ、どうぞ中にお入りください。」


アロンが出迎えてくれたが、夫人も息子たちもその場にはいなかった。


屋敷の中に入ると、ガランとしてずいぶん寂しく感じる。


アロンの家族だけでなく、使用人すら一人も見かけない。


「おや、お前の奥さんと子どもたちはどうした?」


「実はですね。以前から旅行を計画しておりまして、今は旅行中なのですよ。ホテルを予約しているので、変更ができなかったのです。」


「使用人たちが見えないが。」


「実は使用人たちにも日頃の疲れを癒してもらおうと、一緒に行かせたのです。」


「お前がそんなことをするとはな。」


グローリー侯爵が驚くのも無理はない。


アロンはどちらかと言うとケチ臭く、今まで、使用人を労うための予算を組んだことはなく、慰安旅行に行かせるなんてことは、一度も考えたことすらないのだから。


しかし、今回だけは特別だった。


アロンが立てた計画を実行するためには、屋敷の中に誰もいて欲しくなかったのだ。


妻はあまり物事を深く考えるタイプではないが、まっすぐで優しい性格だ。


もし、アロンの計画を知ったら必ず止めるだろう。


思春期真っ只中の息子たちはアロンに対して反抗的で、しかも思春期特有の正義感を振りかざすのでたちが悪い。


計画がばれたら反対するどころか、父親を警察に売るかもしれない。


使用人たちに知られると、噂が広がり命取りになるかもしれない。


そう考えて、アロンは強制的に家族と使用人たちを慰安旅行に送り出したのだ。


アロンが立てた計画とは、グローリー侯爵もジェフもローズも三人まとめて毒殺することだった。


三人を毒殺した後に、一緒に来た御者も同じように毒殺し、最後は馬車ごと谷底に落としてしまうという計画だ。


ここから馬車で一時間ほどの場所にある渓谷には、かなり古く所々傷んだ橋がある。


今は危険なので通行禁止の札を立てているのだが、この日のために修理はまだしていない。


毒殺した後、馬車に四人を乗せて橋まで運び、アロンが降りた後で馬を走らせて途中で橋を落とせば完全犯罪成立だ。


橋を落とす準備は昨日で終わっている。


後は三人と御者を殺すだけだった。


「お兄さんもジェフもローズさんも疲れたでしょう。どうぞ椅子に座ってゆっくりとくつろいでください。」


応接室に通された三人は、言われるままに椅子に座る。


しばらくすると、アロンがお茶と茶菓子を持ってきた。


ティーカップにお茶を注ぎ、三人にすすめる。


「さあ、どうぞ。温かいうちにお召し上がりください。」


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